・コミューンに到着
・子供たちと遊んだ、蹴られた、踏まれた。
・自分の素性を割と素直に明かしたが、相手にとって突拍子も無い内容だった。
【悲報】スウェーデンのことわざと中国の故事、異世界ではスラング扱い。
という冗談めいたやり取りはあったがそれはさておき。
俺の存在に対して二人の理解がなかなか及んでくれないので、噛み砕いたり言い回しを変えたりして何回も説明する破目になった。言語の問題もあるのでこういうときの意思疎通はなかなか容易ではない、今のところ日常会話より難しい内容はまだちょっと不安があるのだ。
俗に言う言語チートみたいなのがあれば楽ではあるのだが、そういう能力は世界そのものに裏打ちされてるような感じらしく、同一世界群での隣の世界とかで有効でも、【
それでも夕飯の前にはなんとか理解してもらえ、その話を前提にして改めてコミューンの客人として歓迎してもらえた。
さて、それで招かれたコミューンではじめての食事だが……
「サプリじゃねーか!」
必須栄養素、カロリー、ミネラル、食物繊維など一日に必要な栄養素がこーんな小さなカプセル三つで全部取れちゃいます♪
朝昼晩に一粒ずつ、丸呑みしましょう。苦手なヒトもがんばって。
なお直径五センチある。これ薬が苦手って言ってた莫迦監査だと大きすぎて飲み込めんぞ。
「丸呑みするわけではありませんよ。口に入れて噛んで、中の液体を飲むんです。皮はそのまま噛んで、歯と顎を鍛えます」
中の液体が栄養で表面はガムらしい。思ったよりも機能性食品してて感心しちゃう。
いや工夫があればいいってもんじゃねーから! 液体もガムもクソ不味い。なんだこれ!?
どおりで『一番美味い料理を頼む』って言ったとき担当の子供が変な顔したわけだよ。
当番って料理当番じゃなくて配給当番ってだけだったんだな。
「こんな食事情で健やかな精神が育つのか?」
「おっしゃるっことはわかりますが、なにぶん今のご時勢ですから」
「まともな食料が確保できないってわけか」
「そういうことです」
「じゃあ、まずは食事情の改革だな」
「え?」
このコミューンにおける俺の最初の仕事が決まった。
「見学するのは構わないけど近づいたり触ったりするなよおまえらー」
リビングに巨大な鍋と釜、あと調理台(魔導上下水付)を設置して調理開始。釜には事前に研いだ米が水に浸けてあり、いつでも火をつけて炊ける状態だがまだ放置。鍋に水を張ってファイヤー。にんじんを三十人前ほどカットして鍋にぽいぽいぽい。時間差でじゃがいもとさいころ牛肉もぽいぽいぽいぽい。単純に量が多くてメンドいなこれ。
ぐつぐつ。にゃーにゃー。いや待て猫は煮るな。煮るのは牛だ。モーモー。
『生きた牛を煮るわけじゃないのだからくだらないこと考えないでください、僕達には丸聞こえなんですよ』
『冗句にすらならない詰まらぬ語彙を聞かされるのは拷問に近いな』
『かゆ……うま……』
フルミィ! こらおまえ、この程度でゾンビ化するんじゃあない! だいたいコレ
『んなこたわかってんだよ』
つか三人そろって酷評だな! いいじゃんかちょっと考えるくらい。
『ところで何カレーです?』
王子様!
『……あー。ここガキ多いもんな』
『(キーマとかそっちの種類を聞きたかったんだけど)まぁ彼らしいといえば彼らしいチョイスですかね』
『これで意外と面倒見がよかったりするからな』
まぁ俺としてはカレーらしい味わいに乏しいんであんまり好きじゃないんだけどな。
『なら何故それを選んだし』
布教によさそうだし?
『布教したかったら現地の材料で作れる料理にすべきでは?』
『材料のスパイス、現地の素材で揃うんでしょうか?』
…………考えてなかった。
『オイコラ』
そもそもプラントから出てくる食料とやらがアレだからなー。どう見ても合成食品。機能性食品としては優秀なのかもしれないけどさ、食材にはなりえないよね。
逆に言えばカレー粉は合成できる可能性がありそうなんだが。
『そもそも下手すると食材になる動植物が絶滅してたりしませんか?』
そこまで汚染酷くないと思いたいが……もしそんなことがあったあら、どう頑張っても現地人の努力だけじゃ危機解消無理じゃね?
『魔王の降臨が必須か……世知辛いな』
だから魔王言うなし。どうあっても汚染除去とかに力貸すしかなかったとしても、世界征服する気はさらさら無いからね。やるならヴァーサにやらせる。
『魔王の秘書ポジですね』
『それ余計にタチ悪くね?』
そんなこと言いながらちゃちゃっと料理を進める。鍋に王子様のルゥを投下し、タイミングを見計らって釜もファイヤー。普通より風味が弱いと言ったが美味そうなニオイがしだす。しかしみんな興味本位に見ているだけで、誰も味見をねだってこない。このくらいの年齢だと食べ盛りだろうから、料理の邪魔って言いたくなるくらい欲しがってくるのが普通だろうに。どうした?
「アスカさん、これは?」
おっと
「見てのとおり、カレーだ。もうすぐできるぞ?」
「カレー?」
「知らんの?」
「昔あった伝説の食べ物。パーフェクトサプリが開発されてからは他の料理とともに姿を消した」
「あー、サプリ以外の食事そのものが廃れちゃいましたからねぇ。そっか料理か。懐かしい」
うわ、あのガムだかシロップだかが既存の料理を全部駆逐しちゃったのか。こりゃ子供達は料理という存在自体を知らないっぽいな。
『まぁこんなご時勢じゃ仕方ないんでしょうけど』
そうなんだろうけど、明確に文化が破壊されてるのを目の当たりにすると泣けるね。
「ヴァーサ、メアリ、それいつの話だ? もしかしてガキ共は食事の作法も知らなかったりするか?」
「サプリの登場は十年と五ヶ月前。それから二年くらいで、供給の問題で食べ物がサプリだけになった」
「そうすると年長の子は覚えてるかもしれない程度か」
「年長の子って見た目はあなたと変わらないんですが、その心配はなんというかシュールですね」
「おまえ、いでやんと同じようなこと言いやがるな」
「いでやん?」
「俺の仲間。そのうち会わす機会があるかもしれん」
『あれ、交代ですか?』
『声だけ聞かせるって手もあるな』
まぁどっちも予定は無いんだけども、解封できるようになったら可能性はあるかもね。
――報:自己封印の最適化が完了しました。
タイムリーだなぁ。交代しろって言ってる?
『僕は料理そんなに得意じゃないんで、このまま完成させてもらったほうがいいと思いますよ』
そんな難しいもんでもないんだけどなぁ。てか俺の料理の腕って日本の一般家庭の主婦未満よ?
『日本の主婦というと、日常ある材料がいつの間にか劇物に変わっているという恐ろしいポイズンクッキングの使い手が何名か』
何でそんな極端な事例を思い浮かべるかなあ! つか俺達の知り合いにはそんなの居ないはずなんだが……いないよね?
将来そういうのに出会いそうな気がしなくもない……食い物を粗末にする行為は嫌いなんだがねぇ。調教するかい?
そんなこんなでいるとカレーの出来上がり。ご飯も美味しく炊けました。
全員分をてきぱき一人で盛り付け……誰か手伝ってもらいたかったのだが、ヴァーサですら通常の食事にはもう馴染みがなく、どうすればいいのかわからないふうだったので、とても任せるわけにはいかない。唯一メアリだけは戦力になってくれたので負担は半分。
そんな状態なので食い方がわかるやつもいない、なので先に食い方をレクチュア。こらそこのクソガキ、間違っても手掴みとかすんなよ、まだ熱いから
「これを、口に……?」
「にいちゃん、コレ食えんのか?」
「すごいにおうー」
好き勝手言いやがるなガキ共め。
この世にカレー以上に万人を惹きつける食事はそうそうないんだぞ!(注:個人の感想です)
俺は全力でドスを利かせた声で、
『オマエ声が高いから意識しないと迫力ないもんな』
『そのあたりは下手するとフルミのほうが向くくらいだな』
っておまえら、よりにもよって此処でチャチャ入れるか?
気を取り直して、一言。
「御託はいい、食え。話はそれからだ」
結論から言うと、少々混乱はあったがカレーは好評すぎておかわりが不足し、おかわり争奪戦が起きた。食事会は大成功といえるが、大人のヴァーサまで争奪戦に参加していたのは大人気ないな。なおメアリは食わない、彼女に主に必要なのは食事ではなく充電である。
俺? 俺は不参加っつーか審判だ。もっとちゃんとした辛味あるほうが好みなんでな俺は。
◇大きすぎて飲み込めん
直径五センチもあったら殆どの人が飲み込めないか、飲み込むのに苦労すると思われる。
刀剣を口で呑み込んでは取り出す大道芸人みたいな人もいるので、人類には不可能とまでは言い切れないが。
◇【
勇者等にしか使えない魔法(ラ○ディン系とかド○オーラみたいな)や魔王にしか使えないスキル(闇の衣みたいな)さえ使えたり、世界樹に代わってマナを生み出すこともできたり、巫女に代わって神託を受けたり(神様に語り掛けに行くことは出来るが、神様が応えを返してくれるかどうかは別)とやりたい放題が可能。
または、より確実に効果を及ぼすために現地の魔法を模倣するといった用途もある。特に回復に関しては、神業術で直接やるよりも現地人の身体構造等に沿った効能が期待できるため模倣の意義が大きい(一方で種族に対応する現地の回復魔法が無い場合は即席の神業術で直接治療するしかない場合もある)。
模倣をするには模倣対象のスキルに対する
同等行為を神業術で行う場合と比べて、各世界の構造・法則に則った手段での力の行使となるため世界の反発が弱めだったり燃費がよかったりという利点がある一方で、殆どの模倣したスキルは世界を渡ると使い物にならない欠点もある。
◇王子様
アレルギーに配慮し、辛さも控えめの、一歳から食べれるカレーのルゥ。
味に関する言及は個人の感想であり、実際どうなのかは人による。なお筆者は食べたこと無いので味を知らない。
※この作品はフィクションであり、登場する食品は現実の商品とは一切関係ありません。
※2018/06/08 誤字修正