ジャベリンは思いました。 ずいぶんとやかましいな、と。
いつからこの泊地はこんなに物騒になってしまったのでしょうか。
別に騒がしいことは嫌いではないんです。むしろ静かなほうが落ち着かない気質で、率先して場を盛り上げようとすることもあります。
確かにこれは和気藹々とした喧騒なのかもしれません。誰もその表情に憂いを帯びていません。きっと平和を謳歌しているのでしょう。
でも金属音や硝煙の匂いがするのは絶対におかしいです。
『斬る、今、ここで』
『あのねぇ、貴女私に勝てないでしょ。貴女の弱点は自慢の速攻でも一撃で仕留め切れない圧倒的な防御力。貴女は一撃で私の装甲を破れない。二の太刀を繰り出すよりも私が食い破る方が早いから』
『全て承知の上。──だが、為さねば、為さねばならぬ』
『何故絹豆腐を入れた、言え!』
『今の我は一介の監視者に過ぎぬ故、その問いに答えを持たない。ただひたすら煮込むまで』
『ボクが助太刀いたします!』
『はいはい命は大切にしようなー。って言っても聞かないんだろうけどさ』
『ね、ネギで僕の刀を受け流した!? クリーブランド、お前……!!』
ずばり今の状況のことなんですけど。知ってますよ、こういうの世間ではカオスっていうんですよね。とはいっても、今更流れ弾に巻き込まれるような未熟な私ではないです。他の方も涼しい顔をしていますから、弾や瓦礫の軌道を見なくとも風を切る音だけで避けるくらいは容易いのでしょう。
この泊地ではすぐに適応するか、淘汰されるかのどちらかしかありませんからね。まだ淘汰された方は見たことがありませんけども。うーん、修羅ばっかりですね!
しかしいくら私たちに実害がないとはいっても、指揮官への心労を考慮すれ私も思うところがあります。
まあ、口で言ってなんとかなるんだったら誰も苦労なんてしないんですけどね。
『そこまでよ!』
『一航戦の二人!? 目が覚めたのか!』
『おでん食べてるインディちゃん尊い』
『げっ、思ったより早い。浅かったかな、やっぱり甘くはないか』
『ここであったが百年目、必殺加賀ミサイル!』
『その技はやめましょう姉さま! どんな技か知りませんが名前を聞く限り全てのデメリットを私が負担している気がします!』
『案ずるな。鍋は我が死守する』
『鍋より私を案じろォ!!』
そもそもこの種の騒がしさが顕著になったのは、やっぱり一航戦のお二人が加入してからでしょうか。あの二人は指揮官への愛情表現の方法が歪んでいる特殊なので、自然と周囲に喧騒を生んでしまうきらいがあるんですよね。
『断じて認められん、認めてなるものか! 今からでも木綿豆腐を投入してやる!』
『木綿テロリストが出たぞ! 撃て!撃てぇ!』
『ウォォォ(木綿テロリストなので砲弾が効かない)』
『おっと、摩耶は危ないからここで私とチャンバラしてようなー』
『くそっ、おちょくりやがって……何でネギなのに斬れないんだ!?』
『心配ないわ加賀、あなたの攻撃力はこの赤城が保証してあげる。加賀こそが起死回生の一手となるのよ』
『そういうことなら私に任せろ! LuckyEで倍率ドンだ!』
『よ、よせ! 私にミサイルとしての素養はない! やめ、ヤメロォ! 私の側に近寄るなぁーっ!!』
そしてそこへエンタープライズさんの相乗効果、あるいは化学反応とでも称すればいいのでしょうか。それが加わることによってその空間は漏れなく大変なことになるのがいつも流れです。
エンタープライズさんも戦闘においてはとても頼りになる人なのに、日常となるとどうしてこう、著しく残念になってしまんでしょうか……。
『私が奴の動きを止めますわ! グレイゴーストは加賀でとどめを!』
『わかった!』
『わからない! 私には二人の言っていることがわからない!』
『つまりあなたはこう言いたいわけですね。──インディちゃん最高に可愛い……と!』
そしてどうやら加賀さんが貧乏くじをひいたようですね。加賀さんには同情しますけど、私は静観を貫きます。助けに入った方がよいのでは──などとは微塵も思いません。だってそんなことしたら場の流れで本当に
「今日はいつにもまして物騒ですねぇ」
世間話がてら、ラザニアを食すホーネットさんに声を掛けます。ホーネットさんはエンタープライズさんと同じヨークタウン級の三番艦です。黒一色のカウガールのような衣装はホーネットさん独自のものですね。
各所に走る黄色いラインと金髪のツインテールが、コントラストとしてよく映えていてかっこいいなぁと前々から思っていたり。
「いいことじゃん? ホントはめちゃくちゃレアだかんね、あんなにはしゃぐ姉さん」
「えー……?」
ちょっと想像の範疇を超える眉唾な話に、思わず素で声を出してしまいました。でもむしろ凛々しいエンタープライズさんの方がレアなのでは? いつだって活き活きしてて絶好調って感じですよあの人。
「あ、こんにゃろ疑ってやがんなー?」
「そりゃ疑いますよ。だってエンタープライズさんといえば筆頭問題児じゃないですか」
「うん。まあ。うん……。否定できないからそこ突かれると痛いんだけどさ」
初手で疑ってかかった私に対してからかうような声を上げたホーネットさんでしたが、勢いがとたんに削がれてしまいました。姉妹艦であっても、全速前進ではっちゃけるエンタープライズさんを擁護することはできないようです。
「姉さんはね、もっと自分一人で抱え込むタイプなのさ。他の誰かならいざ知らず、姉さんは強いからさ、大丈夫なんだよ、それでも。でも大丈夫だからっていってもさ。それって辛くないわけないじゃん?」
一転して真剣な語り口となったホーネットさんの言葉には、万感の思いが詰まっていました。私から見えるエンタープライズさんは指揮官が好きすぎるあまり残念なことになっているお姉さんですが、ホーネットさんにとっては全く違うように映っているのでしょうか。
「その姉さんが、自分から共に責任を背負ってくれって自分から言い出したんだ。ちょっと今でも信じられないくらい。姉さんにとって指揮官はそれくらい大きな存在で、この泊地はその姉さんが何を気負うことも無く、自然体で振舞える場所なんだ」
「自然体……」
ちらり、とエンタープライズさんの方を見る。
両手を広げながらじりじりと加賀さんに接近していますね。まるで嫌われてるのにペットに触ろうとして余計嫌われる人みたいです。
あ、加賀さんが捕まりました。
『ウワァーーッ!』
『なんか飛んできたぞ!?』
『しびれろー』
『ハッ!? しまっ……ぬわーーーーっ!』
『いいぞエルドリッジ! 者ども囲め囲め! 今のうちに捕縛だ!』
加賀爆弾は目を見張る破壊力でした。九本の大きな尻尾が場をしっちゃかめっちゃかに荒らしまわっています。必殺の言葉に偽り無しですね。余波で気を取られた木綿テロリストの方も捕縛されたようです。
「うん、まあ。言いたいことは分かるよ。身内として傍から見てても姉さんの奇行を庇うことはできない」
「せめてホーネットさんだけでもしてあげてください……」
「嘘ほど残酷なものはないんだよジャベリン。私はこの間姉さんから『一緒の墓に入るときに持ち込む物リスト』一緒に考えてくれと相談されてしまったんだ」
「ひえ」
エンタープライズさんの愛の形が特殊すぎる。率直にそう思いました。まだ将来を誓いあったわけでもないというのに、いろいろとステップを飛ばしすぎではないしょうか。いじらしいの一言で収まりきらないところまできています。本人が大真面目なあたりホンモノです。
「流石の私もちょっとどうかと思った」
「むしろちょっとで済むくらい慣れてるんですか……」
「慣れざるを得なかったんだ。私は」
どこか遠くを見つめるホーネットさんの顔には、日々の苦労が滲む諦観がありました。いったいなんて声を掛ければいいんでしょう。
蜂の巣をつつくような真似ですが、もう少しそのリストについて聞いてみましょうか。
「ち、ちなみにどんなものが候補に挙がっていました?」
「ん? そうだねぇ。……指揮官とおそろいのマグカップとか」
「あざとい……っ!!」
「ああ、うん。ジャベリンのお墨付きがもらえてよかったよ。おそろいって言っても指揮官が使っているものと同じものを勝手に用意してるんだけどさ」
「うわぁ急に乙女チックなことを!」
愛が深すぎるあまり危険な香りを醸し出すエンタープライズさんですが、やはり根っこの部分では一人の女の子ということですね。恐るべき逸材です。エンタープライズさんの恋愛観がもっとまともだったら指揮官も危ないところだったに違いありません。
「私は先に指揮官が掛けてくれた言葉リスト作った方がいいって言ったんだけど」
「え」
「あっちがっ」
「ホーネットさん」
「違うから! 別にそういうんじゃなくてただうっかりその」
「いいんです、ジャベリンはすべてを察しました」
「あ、そ、そう……?」
「あなたはエンタープライズさんの妹で間違いありません」
「待って! 何で今それを確信したの!?」
「血は、争えないんですね……」
このいたたまれない雰囲気は容易に真似できるものではありません。ホーネットさんからは確かにエンタープライズさんの系譜を感じます。
「説明を! 納得のいく説明を要求するわ!」
「大丈夫ですよホーネットさん、半分は冗談ですから」
「え? 残りの半分は?」
「あ、グリッドレイさん。食堂にいるのは珍しいですね」
グリッドレイさんはこの泊地がまだまだ小さい頃からのお友達です。あ、別に絶妙なめんどくささを発揮するホーネットさんから逃げるダシに使ったわけではありませんよ?
「お、ジャベリンじゃん。いやあちょうど良いね、実は相談があってさ」
「グリッドレイさんが相談? 何かお悩み事でしょうか」
「ねぇジャベリン! 残りの半分は!?」
ホーネットさんの慟哭は聞こえないフリしつつ、グリッドレイさんの話を掘り下げます。こういう手合いは可能な限り相手にせずに話の流れを変えるのが大切です。ジャベリンも伊達に初期艦を務めていません、この泊地での無難な過ごし方はしっかり身に着けています。
しかしグリッドレイさんが悩み事とは、本当に珍しいですね。いつもはご意見番としてよく相談を持ち掛けれている姿の方がなじみ深いです。一体何事なんでしょうか。
「だいたいそんな感じ。まあ、悩み事ってほど大層なものじゃないんだけどさ」
「話をすり替えようたってそうはいかないわよ! 根も葉もないような誤解は絶対に解かな──」
「実は秘蔵の指揮官ブロマイドをなくしちゃってさ」
「詳しく」
「そういうところですよホーネットさん」
いくら私が話のすり替えを狙っていたとはいえ、恐るべき切り替えの早さです。なんというかもう、思考の優先度が決して揺るがないレベルで明確に決まっているんでしょうね。
たぶん指揮官>>>>>姉妹の事>>>>それ以外みたいな感じだと予想します。あれ、この思考回路って完全に一航戦の赤い方とおんなじでは……?
い、いやまさか。さすがにそこまでホーネットさんは振り切っていないと思います。ほら、今もグリッドレイさんに苦言を呈そうとしていますから。これは私の杞憂に過ぎないんです。
「ま、まったく、ダメじゃないグリッドレイ。盗撮される指揮官が可愛そ──」
「一枚五百円ね」
「30ダースください。可愛そうだと思わないの?」
「ホーネットさん、普通に注文してますけど」
「……いや、これは違くて」
ホーネットさん、そんな遺伝子レベルで刻み込まれているかのような反射神経で注文した後では、どんな言い訳も無意味だと思うのです。
「うん、流石に360枚も在庫ないから」
「そんな!? 今日から一年間毎日日替わりで指揮官の写真を枕の下に入れて毎晩の夢見を素敵なものにする私の計画はどうなっちゃうのよ!?」
「用途はまだしも一年間日替わりは貪欲すぎますよ!?」
しかも明らかに無意識下で注文している様子だったのに、いつも間にそんな具体的な用途を考えたんですか!? ひょっとしてそれも無意識ですか? そしてどうしてそんなに欲深いのに使い道が斜め上方向にいじらしいんですか?
「ホーネットってエンタープライズによく似てるよね。うん、妹って感じする」
「ジャベリンだけでなくグリッドレイまで、一体どうして突然その話を……?」
「自覚ないんですね」
「ぜ、ぜんぜんわからん」
……ところでエンタープライズさんも自らの業の深さを頑なに認めようとしませんでしたね。ホーネットさんの様子を鑑みるに、認めようとしないのは自身の異常性に気が付いていないという線がいよいよ濃厚になってきました。
「ともかく今日卸せるのは七枚だけだから、一週間の日替わりで我慢してよね」
「まったく、グリッドレイにも困ったものね。本当に度し難いんだから」
「ホーネットさん、写真を懐にしまいながらでは説得力がありません……」
「♪~」
「なんですかそのへたくそな口笛は」
どうしてそんな古典的な方法で誤魔化しきれると思ったんでしょう。もうホーネットさんは後戻りできないとこまで来てますからね。
「で、本題なんだけど。さっき言った通り大事な写真をなくしちゃってさ、それを探すの手伝ってもらいたいんだよねぇ」
「あ、はい。それはもちろん構いませんよ」
先ほどのホーネットさんの食い入りが良すぎてインパクトが薄れていましたが、グリッドレイさんが大切な写真をなくしてしまったというのは一大事です。特別手伝わない理由もありませんしね。
「私ももちろん協力するよ。でも、何か場所の目星とかはついてないの?」
「それは確かに。ノーヒントで探すのは流石のジャベリンも厳しいです」
「大丈夫大丈夫、失くした場所の心当たりはあるよ。ほら、いつも定例会議で使ってるあそこ」
「む、なんて迂闊な。定例会議で失くしたともなれば手元には帰って来るはずがありませんね」
普通の指揮官の写真であってもかなり厳しいというのに、ましてや指揮官の秘蔵ブロマイドともなれば絶望的です。
「前回の定例会議の議事録読んだけど、出席者いつもより多くなかった? 犯人洗い出すのも一苦労ね」
「だから二人に声を掛けたのよ。今回は写真が写真だから、持ち主は全力で秘匿するだろうし」
「そういえばどんな写真かまだ聞いてませんでした」
「ええ、私たちには指揮官秘蔵ブロマイドの全貌を知る権利があるわ」
グリッドレイさんをして秘蔵と言わしめるほどです。さぞかしよく撮れた奇跡の一枚なのでしょう。ホーネットさんに至ってはもはや興味と興奮を隠す気が微塵もありません。
「ズバリ指揮官の生着替え写真」
「OK
「ホーネットさんこれ殺しの依頼じゃありませんから!」
ホーネットさんの殺る気が天井知らずです、もはや海上にいるときと遜色のない気迫ですね。写真の内容を知って正常な判断が出来ずにいるようです。
「むっ、そこにいるのはホーネットか! 丁度いい、少し手伝ってくれ!」
と、ここで背後からエンタープライズさんが近寄って声を掛けてきました。騒動も必殺加賀爆弾の影響で食堂が少し落ち着き、周りを見る余裕ができた私たちに気づいたのでしょうか。
「あ、姉さん。ちょっとまって今大事な話を──」
「ちなみにあの会議で最後に残ってたのはエンタープライズなんだけど」
「シャァァァァア!」
「あぶなぁっ!? 急にどうした!?」
す、すごい!
躊躇いなく手元にあった先割れスプーンを背後のエンタープライズさんめがけ、予備動作を限界まで隠した最小限の動作で突きを繰り出すと同時に、左の後ろ手で掴んだお皿でエンタープライズさんの死角となる足元からすくあげるような斬り上げです! こちらの狙いは首筋!
即座に武器を用意する判断力もさながら、避けにくく確実な損傷が期待できる肝臓と同時に首を狩らんと必殺の一撃を狙う容赦のなさ! 殺意の高さが窺い知れますね!
ですが対するエンタープライズさんはこれを無傷で凌ぎました!
突き出された先割れスプーンを咄嗟に左のひじとひざで上下から挟み込んでプレスし、首筋を刈り取らんとする丸ノコギリ(皿)は右の掌底で粉砕しました! 不死身の亡霊グレイゴーストの名を冠するに相応しい一幕です! 指揮官に強引に迫っては距離を置かれて傷心しているだけの変なお姉さんではないということですね!
「う、腕を上げたなホーネット……。今回ばかりはヒヤりとしたぞ」
「完全に入ったと思ったのに!」
「ふんっ」
「ぐええ」
完璧に不意を突いたはずの暗殺術が防がれ咄嗟にその場を飛び退こうとしたホーネットさんでしたが、エンタープライズさんが浮かせていた左足でホーネットさんの足を踏んでその場に縫い付け、すかさずスプーンを握っていた手首をひねり上げて無力化してしまいました。鮮やかなお手並みです。
「で、ジャベリン。ホーネットはどうしたんだ」
「あ、はい。グリッドレイさんの秘蔵の──」
「把握した」
「どうやって!?」
あまりにも理解力が高すぎます! 私まだ一言喋り終わってすらいませんけど!?
「大方その写真を私が持っているとホーネットが早とちりして襲い掛かってきたとかだろう?」
「あ、合ってます」
「写真はもっていないが、見かけはした。どこにあるかも見当はつくぞ」
「えっほんと!?」
「ああ。ほら、そこの木綿テロリストも説明を手伝え」
「くっ、殺せ!」
「サン・ルイさん。何してはるんですか……」
ミノムシのようにロープで簀巻きにされて横たわっているサン・ルイさん。木綿テロリストの正体はサン・ルイさんだったようです。本当に何してるんですかね……。
「私はただ木綿豆腐の入った麻婆豆腐が食べたかっただけなのに」
「信じて送り出した新進気鋭の新人がテロリストになっていた件」
まだこの建造から日も浅いというのにこの適応力、これが計画艦の実力という訳ですか。底知れない才気を感じずにはいられません。ジャベリンだって正直まだついていけないのに。
「サン・ルイは私と同じく先の会議で最後まで残っていてな」
「じゃあ私の写真も見かけてるってわけね」
「いかにも。遠目にしか確認できなかったが、あれはいいものだった」
しみじみと呟くサン・ルイさん。目を閉じて記憶の中の映像を思い返す姿はとても静謐で神秘的です。首から下がロープでぐるぐる巻きにされていなければ。
「え、二人は指揮官の写真を前に冷静でいられたの?」
「怪訝な顔をして何を聞くかと思えば」
手首を解放されたホーネットさんの率直な疑問。エンタープライズさんは何を今更といわんばかりにかぶりを振っています。
「ですよね、お二人はいかなる時も冷静な判断力を欠かない──」
「いやもちろんサン・ルイとは瞬く間に争奪戦に発展したのだが」
「だよね、姉さんが指揮官の写真を見つけて放置するわけないよね」
「知ってた」
そっかー争奪戦に発展するのがもちろんなのかー……。
やっぱりエンタープライズさんは格が違うようです。グリットレイさんは流石に手慣れていますね。ホーネットさんは何を安堵しているのでしょうか。姉がばっちり同類であったことへの安心とかですかね。
「争奪戦においてはエンジンブーストによって私の方が優勢だったのだが、途中で何者かが煙幕を焚いた」
簀巻きを若干内側に曲げて、悔しさの滲む声色でサン・ルイさんが言いました。多分本当もっとこう、こぶしを握り締めて見つめるジェスチャーとかがしたかったんでしょうね。できてないけど。
「煙幕……」
「うちで煙幕撒けるのは一人しかいないよね」
「ベルファストさんですね。でも、今は別の姿なのでは?」
「あの抜け目のないメイドのことだ、元に戻るどころか二つの姿を自在に操れても不思議ではない」
「いくらなんでもそこまでは」
「あのメイドならできても驚かないよ」
「いや普通に驚くけど……」
グリッドレイさんは手慣れてこそいるものの、しっかり常識的で安心できます。もしこの場にいるのがジャベリンだけだったら逆に自分の常識を疑ってしまいそうですからね。
「ともあれ写真の持ち主はベルファストで決まりかな」
「よし話はまとまったな! 実は現在ベルファストと指揮官が二人きりという危険な状況なんだ。先行したティルピッツが妨害しているとはいえ、どれだけ持つか──」
バリーン!
『話は聞かせてもらった! 指揮官は爆発するにゃ!』
「「「な、なんだってー!」」」
「もう帰りたい……」