かっこいいエンプラさんが好きなあなたは引き返すべきだ
かわいいエンプラさんが好きなあなたもちょっと立ち止まって考えてからの方がいいかもしれない
クリーブランド率いる9-1偵察部隊の帰還から数日。部隊の無双により海域の制圧こそ成功したが、当初の予定通りこれ以上の進出は控え、地力の底上げへと方針を切り替えた。
確かに最高戦力を投入し続ければ眼前の敵は沈むだろう。だがそれに何の意味がある? 現時点でさえ、気丈で滅多に弱音を吐かないあのクリーブランドをして『流石にしんどい』と言わしめるほど敵の練度は高い。あのなんでもできるマンことクリーブランドが『しんどい』と言ったのだ、その意味は重い。全ての分野で高水準を誇るクリーブランドがしんどいなら、それはつまりほとんどの艦船が『しんどい』ということになる。彼女の水準を超えられるのは一部の特化型、その分野のエキスパートなどに限られる。今回は選りすぐりのメンバーを編成したからなんとかなったものの、楽観できる状況ではないということだ。
かねてより不足していた艤装強化パーツの収集と並行してロイヤル陣営の育成を行うなどして、次の侵攻への準備を粛々と進めていた。
ふと思う。彼女たちは僕の指示を聞き、命を賭して槍衾へと身を投じてくれている。だというのに、僕は彼女たちのことを知らなすぎるのではないか。結局のところ僕は安全な場所でふんぞり返って命令を飛ばしているだけの木偶に過ぎない。彼女たちがこれを聞いたら、きっとそれは違うと声を揃えて否定してくれるだろう。だが、僕自身が納得していなければ意味が無いのだ。いくら僕が女性が苦手なんだと言っても、それは僕の我がままな私情に過ぎない。
だからせめて、僕は僕なりに彼女たちを知ろうと、僕の方から歩み寄るべきだと思う。そうだ、目の上のたんこぶだった9-1海域も制圧、敵の練度が知れない9-海域という不安の種はひとまず潰えた。時間にもゆとりがあり、和やかな雰囲気ができつつある今こそ親睦を深める場を設けるべきだ。
「──よし、面接をしよう」
そういうことになった。
☆エンタープライズの場合。
今回、面接の会場には寮舎の一階を利用することにした。レンガ造りの壁に、床に敷き詰められた赤褐色のフローリング。奥のカウンターではバーテンダーの衣装に身を包んだアークロイヤルが優雅に佇み、背後の棚には棚には多種多様な銘柄のワインが所狭しと並んでいた。隣には別のワインセラーと樽蔵も見える。部屋の片隅には赤いソファの備え付けられたビリヤード台や、スロット台さえある。ただ異様なのが、鉄格子の仕切りの向こうに見える、巨大な樽の五右衛門風呂と同じく横倒しになった大樽を噴水とした小ぶりなプール。薄暗い空間を暖炉の火が仄かに赤く照らすこの空間は、さながら格式高い上品なバーのようであり、同時にゴロツキの集うアジトでもあった。
そんな怪しげな雰囲気の漂う場所で、僕はラウンドテーブルの席に着いていた。向かいに座るのはエンタープライズ。彼女は開口一番、はにかみながら言った。
「指揮官、あなたが私たちのことに興味を持ってこのような場を設けてくれたことを大変嬉しく思う」
「遅すぎるくらいだ。さてエンタープライズ。君は今の配属になにか不満はあ「ないぞ」
早い。返事が早い。僕の問いかけに被せるように、エンタープライズが前のめりで答えた。
「そ、そうか。いや、何よりだ。では次は……今、何か欲しいものはあるか?」
「欲しいもの、か。それはもちろんあなたの名字が──い、いや何でもない! ──そうだ、住所を教えてほしい」
「住所って、僕のか? 僕はここで寝泊まりしているが……」
「無論、この戦いが終わった後に帰る、あなたの実家の住所だ」
「ふむ、何に使うんだ?」
手紙か何かを送るために知りたいのだろうか。まあこれくらいなら別に教えても構わないが、一応用途くらいは聞いておこう。
「うん? 使うも何も、それを知らなかったら指揮官に会えないじゃないか。今さらあなたの側から離れるなんて無理だからな私は。これは脅しだがあなたと引き離された私が何をしだすかは自分でも分からんぞ」
エンタープライズはいきなり自分を爆弾とした訳の分からない脅迫のような何かを始め出した。だがここで軽率な発言をしては墓穴を掘るだろう。僕は冷や汗混じりにちらり、とカウンターのアークロイヤルに視線を寄越す。淀みない手つきでグラスを磨いていたアークロイヤルは静かにアイコンタクトを返した。
『やめておけ』
「いやすまないエンタープライズ。永らく実家に帰っていないものでな、度忘れしてしまった。またの機会にな」
「む、そうか指揮官はそれほど長く帰っていないのか……。このエンタープライズ、指揮官の為にも戦いの終結に向けより一層尽力しよう」
よし、なんとか煙に巻けたか。最初は二人きりで面接に及ぼうかと思っていたのだが、何かとてつもなく恐ろしい予感がしたのでアークロイヤルに急遽に立会人を務めるよう依頼した。彼女は駆逐艦を見ると欲情せずにはいられない度し難い変態だが、逆にいえば駆逐艦を与えない限りクールで物怖じしない勇士。今回彼女に声をかけたのもアークロイヤルであれば常に客観的な視点で僕を支えてくれると判断したからだ。何かあったら止めてくれると信頼している。
「あまり無理はしないように。次の質問だ。好きな装備、欲しい装備はあるだろうか」
「取り立ててこれといったものはないが……。ただ『誓いの指輪』があればもっと指揮官の役に立てると私は思う」
「誓いの指輪」
「取り立ててこれといったものはないが……。ただ『誓いの指輪』があればもっと指揮官の役に立てると私は思う」
「どうして二回言った」
「いや別に」
エンタープライズは前髪を指先でくるくると弄りつつ、ちらちらと僕の様子を窺っていた。
「あげないからな」
「じゃあ私以外の誰かに渡すのか? いや私はそれでも構わないぞ別に一番でないと許せないなんて狭量な女ではないからな愛人いや居候いや召使でもなんでもいいただあなたの側に居れたら私はそれだけでいいんだ例えあなたが赤城や加賀と結婚したとしても私は別に何も思うところはないし私が望むことそれは私があなたの姿を見ることができてあなたも私のことを目にしてくれるただそれだけでいいんだああでもできれば毎日のお弁当くらいは私に任せてもらえると嬉しい実はあなたの為に料理を練習していてなまだまだお世辞にもおいしいといえる出来ではないんだがそれでも終戦までにはあなたが毎日の昼食が楽しみになるほどまで上達して見せるさ指揮官は何か苦手な食べ物はあるだろうか好き嫌いが良くないというのは確かにそうかもしれないがせっかくあなたの口に入るものを作るというのだからあなたの不興を買うような料理は作りたくないし喜ばせたいじゃあないかそれにゆくゆくはあなたの苦手な食べ物ですらすんなりと食べられるほどの腕前になってやるさ期待してくれてもいいんだぞああなんなら昼食だけといわず三食いやもっと二時間おきにいや流石に二時間おきはやりすぎか三時間おきぐらいが妥当かもしれないな何事にも適当な塩梅というものがある私自身どうにもそういったきらいがあるというのはよく姉妹にダメ出しされているからなそれでも私としてはおはようからおやすみまであなたの全部を私にゆだねてもらっても全然問題ないというか一向にかまわないしむしろ望むところなんだがきっとそれはあなたの未来の伴侶が許さないだろうから私は私がそう思っているとあなたが知っているだけで満足だしそれ以上は高望みのしすぎだとはわかっているがそれでも少しそんな未来を夢見るだけで私はなんだか胸が暖かくなって満たされるんだ私は指揮官の為なら何でもするそう何でもだ例え心を差し出せと言われても私は差し出すだろうそれで指揮官が幸せになれるというなら私は手段を選ばない」
────。
彼女は僕の想像を上回っていた。
僕には彼女の言っていることのほとんどが理解不能だった。恐ろしいのは彼女の瞳がきらきらといつもの三割増しで輝いていることだろうか。まるで、両親に初めて抱いた夢を語る子供のようである。
「君の言っている事はよくわからないが、とりあえずあの指輪を誰かに渡す予定は無いぞ」
「む、そうなのか?」
「ああ。いやなんだ、たとえ形式上のものだとしても女性に指輪を贈るというのはどうしても抵抗があってだな、だいたい上司と部下という関係でありながら懇ろというのもな」
「ふむ。まあ指揮官がそういうのであれば無理強いするつもりはないが。うん、それが聞けただけでも収穫だ」
「あー、次の質問だ。秘書艦業務について君は好意的か?」
この質問は単純な僕の興味から出たものだ。秘書艦を務める時、艦のみんなは何を考えているのか。元より戦う為に生み出された彼女たちとって秘書艦の業務は退屈なものなのかもしれないと、そう思って出た質問だった。
「それはもちろん。あなたの役に立っていると直接的に実感できて私は好きだぞ。というか恐らく、貴方の配下に否定的な艦はいないんじゃないか?」
「だと嬉しいんだが」
好意的な返答をもらえて少し安心した。が、こう言ってはなんだがエンタープライズはかなり特殊なケースだ。予定にない質問だったが、同じものを他の艦にもしてみようと思った。
「あとは……そうだな、エンタープライズの思う君の長所と短所はなんだ?」
「高い攻撃力による瞬間突破力には誰にも負けないと自負しているぞ。短所は……やはり先ほども言った通り、熱中すると周りが見えなくなってやりすぎてしまうところかな」
「確かに」
「指揮官もそう思うのか?」
「思う」
「そ、そうか。いやわかった。私もどうにか改善できないか努めてみよう」
口元に手を当てつつ首をひねって考えていたエンタープライズの答えは、存外に常識的なものだった。しかし彼女に自覚があってよかった。いや自覚があってなおその有様なのかとは思ったが彼女に改善の意志があるのは助かる。ただついさっき強力な奴を見せつけられたばかりの身としては改善できるとは到底思えないぞエンタープライズ……。
「面接は以上だ。時間をとらせたな」
「わかった。心地いい時間だったよ」
エンタープライズはすっと立ち上がって足音もなく優雅にバーを去っていく。実はまだまだ質問があったのだが、これ以上は僕が持たないので早めに切り上げさせてもらった。エンタープライズをトップバッターにしたのは間違いだったかもしれない……。
今日はこの後さらに赤城──はともかくとして、加賀が待ち受けているのが不穏すぎる。今回の面接を企画したのは些か早計だったかもしれない。いやこれに立ち向かわなければこの面接の意義がない。むしろ最大の難関を超えた以上これからは下り坂続きのはず……。何とか頑張ろう。
「閣下、これを」
いつのまにか傍らに佇んでいたアークロイヤルが、僕に小瓶をひとつ差し出した。ラベルにはこう書いてある。
『胃痛薬』
アークロイヤルよ、これはつまりそういうことなのか……?
私はルルイエ鯖の住人です(突然の暴露)
うちの寮の描写できてわしほっこりしたよ
今回の話エンプラさんに加えて赤城さんと加賀さんまでいれる予定だったですけどエンプラさん濃すぎて爆発しちゃう。なのでぶつ切り気味でちょっち短めでした。
誰か私が書くとみんな残念系ヤンデレ属性になる呪いなんとかして(白目)
実はこの短編ですね、試験的に先に会話だけ書いてあとから色々つけ足すという禁断の手法で描いているんですよ。おかげさまでどれくらい描写いれるとかどこに挟み込むかとかでてんわやんわですよ。ただおかげさまでテンポは良い気がする。
ところでこのテーマだけで新しく短編作れそう。作らないよ?