ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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プロローグ

「でていってやる、でていってやる、こんなとこ絶対にでていってやるんだから・・・」

 

 ダリアは怒り狂っていた。

 細い足をドスドス鳴らし、肩までの黒髪を振り乱して歩く小さな女の子に、すれ違った城の住民たちはギョッとしたような目を向け、慌てて近くの部屋へ逃げ込んだ。

 彼らは、このイタリアからやってきたかわいらしい女の子が大変な癇癪持ちで、虫の居所が悪いときに周囲に(無意識的に使う魔法で)大変な被害をもたらすことをよく知っていた。

 

 ダリア・モンターナは非常に強い魔力を持った女の子である。

 イタリアの由緒正しい呪文作りの家に生まれ、「ちょっとした個性」があったため将来を期待され、幼い頃このイギリスの立派なお城にやってきた。

 ダリアは実家では誰よりも魔法の才能に優れ、それ故にちやほやされて育った高慢ちきな女の子であったため、お城でもきっと自分が一番に違いないと自信満々だったが、そううまくはいかなかった。

 

 ダリアが今まで使ってきた呪文と、お城で教えられる呪文は何から何まで全く違っていたのだ。

 たちまちダリアは落ちこぼれの女の子になってしまった。

 

 これは、今まで何でもかんでも一番であることを自慢に思っていたダリアにとっては大変ショックな出来事だった。

 この由々しき事態に、生来努力家であったダリアは寝る間も惜しんで奮闘した。

 努力の甲斐あり、「お城流の」魔法の使い方にも慣れてきた頃、またもやダリアの自尊心を粉々に砕く出来事が起こった。

 

 ダリアと同じように将来を期待された、とある姉弟が城へやってきたのだ。

 実のところ、今までにも同じように「将来を期待された」子供たちが何人か居て、同じように城で魔法の勉強をしていたが、誰もダリアを脅かすような存在ではなかった。

 今回の姉弟も、姉の方は中々ダリアに似て強烈な性格で、幾度となく彼女たち二人は小競り合いをしていたが、その子も最終的にやっぱりダリアの敵ではなかった。

 

 ダリアの「一番」を脅かす敵は、ぱっとしない弟の方だったのだ。

 

 突如現れて「一番」の地位をかっさらっていった男の子に、ダリアはそれはもう子犬のようにかみついていった。

 最初は戸惑っていた男の子に次第に面倒くさそうにあしらわれるようになっても、後見人から幾度となくたしなめられても、ダリアは男の子にかみつくのをやめることはなかった。

 

 ――――だってずるい。私はずっと何年も、ずっと頑張ってきてやっと一番だったのに。なんで突然現れたあんたなんかに「一番」を譲らなきゃいけないの!

 

 彼がずっと年上の、真面目な青年だったらダリアも渋々ながら納得したのかもしれない。

 しかし彼はダリアと同じ年で、ダリアより背が低く、そしてなによりあまり真面目とは言えなかった。

 

 魔法の理論の勉強を全くしないくせに、「なんとなく」という感覚でなんでもこなせてしまう(ように見える)男の子に追いつこうと、ダリアは死に物狂いで努力したが、どんなに頑張っても追いつくことはできず、

 

 

 

 やがてダリアは家出を決意したのだった。

 

「着替えも入れた、お金に換えられそうなものも入れた、作っておいた呪文も入れて、あとは――――――トゥリリ!」

 

 中身を拡張したトランクに必要と思われるものを手あたり次第に詰め込み、最後にダリアは飼い猫の名前を呼んだ。

 

「時は来たわ・・・我々はついに例の計画を実行します!」

 

『ほんとにやるの?』

 

 黒いペルシャ猫のトゥリリは、「またか」というようにあきれた顔でダリアの肩に飛び乗った。

 実際、ダリアが家出を宣言したことは今までに何度もあり、そしてそのたびに計画は様々な要因で頓挫している。

 

「今回は本気よ。それにずっと準備してきたんだから。いくらあの人達でも、今回の家出先はそうそう見つけられないわよ。」

 

 家出失敗の一番の原因は、後見人でもあり、この城の主でもある大魔法使いに連れ戻されることだった。

 何しろこの世界で彼の影響力は広大かつ強大だ。どんなに遠くに行っても、すぐに見つかってしまう。

 

 だからダリアは考えたのだ。―――――この世界で逃げることが難しいなら、別の世界に逃げてしまえばいいのだと。

 

『ほんとにうまくいくのかなぁ。』

 

「いくの!ずっと準備してきたんだから――――あんまり意地悪言うと、トゥリリのことも置いていっちゃうんだから!」

 

『もう、心配して言ってるのに聞きやしないんだから。』

 

 トゥリリは諦めたようにため息をついた。

 

 その後、彼女たちは足がつかないよういくつかの中継地点を経て、静かにこの世界から姿を消した。

 

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