ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

14 / 89
クリスマス休暇

「ダリア、よかったらなんだけど、クリスマスパーティーに参加しない?」

 

「クリスマスパーティー?」

 

 クリスマス休暇が近づいてきた12月の半ば、ダリアが談話室の暖炉の前を陣取ってレポートを書いていると、ダフネが声をかけてきた。

 パンジーやミリセントも、口々に「いいわね。」「一緒に行きましょうよ。」と誘っている。レポートが煮詰まり、気分転換に楽しい話をしたいらしい。

 

「あのね、クリスマスの日に、ドラコの家で大きなクリスマスパーティーが開かれるの。私たちはいつも両親が招待されてるからついて一緒に行けると思うんだけど、そういえばダリアはパーティーのこと知らないんじゃないのかしらって思い出して。」

 

「あら、思い出してくださって、よかったですわ。」

 

 ダリアは皮肉気にツンと言った。内心誘われて嬉しかったが、それを素直に表に出すような性格でないことはお互い知っていたので、ダフネ達も苦笑しただけだった。

 

「まったくまたそんなこと言って!いいから一緒に行きましょうよ、ドラコの家のパーティーはほんとに素晴らしいんだから!」

 

 パンジーは鼻高々に、マルフォイ家のパーティーの素晴らしさを語り始めた。

 各界の著名人が山ほどやってくるだとか、料理がとてもおいしいだとか、宝石で飾り付けられた巨大なクリスマスツリーがあるだとか、庭には白い孔雀が居るだとか。

 

「孔雀は気になるわ。」ダリアは興味を惹かれて呟いた。

「しかも白いんでしょ。私、見たことない。」

 

「君が気になるのはそこなのか。」

 

 話を聞いていたドラコが呆れたように言った。

 以前は挨拶する程度の関係だったドラコとダリアだが、ハロウィーンの頃からそれなりに話をする間柄になっていた――――ダリアは彼らの学年で一番と言っていいほどの優秀な生徒として一目置かれるようになってきていたし、なりよりハッとするほどの美少女だったからだ。

 ドラコは入学当初から秘かに、ダリア・モンターナの事を「可愛らしい女の子」と憎からず思っていたのだった。少々風変わりな所もあると徐々に気づいてきてはいたのだが。

 

「来るのなら庭を案内してやるよ。父上にも話を通しておくが、どうする?」

 

「そう?うーん、どうしようかしら―――――――」

 

 ダリアは正直な所行きたかった。ディゴリー家には帰らなければならないだろうが(ディゴリー夫妻から「ダリアの顔を見るのが待ち遠しい」という手紙が来ていた)、ずっと家に居てセドリックの安息を妨げるのも気が引ける。というかずっと疑惑のまなざしを受けると思うと今からうんざりする。

 

「おじさんとおばさんに聞いてみる。クリスマスは家に帰ってきなさいって言われてるから。」

 

「そうか、君実家はイタリアなんだっけ。居候生活も気疲れするだろうし、何だったら数日泊まっていくといい。屋敷にはゲストルームもあるし、セオも泊まる予定なんだ。」

 

 ダリアはドラコの善意の申し出に、パンジーをチラリと見た。彼女がドラコを好いているのは誰の目にも明らかだったからだ。

 彼女が機嫌を損ねるようなら、これから先の寮生活が面倒なものになりかねない。

 

 パンジーは案の定、ショックを受けたような顔をしていたが、ダリアを訪ねるという名目でマルフォイ邸を訪ねる作戦に思い至ったらしい。

 いい笑顔で宿泊を勧め始めたので、ダリアはマルフォイ邸への宿泊も含めて、ディゴリー夫妻に手紙を書くことにした。

 

 

 ディゴリー夫妻は当初難色を示していた。マルフォイ家といえば、例のあの人が台頭していた時代、一番の信望者と言われていた家だからだ。

 しかし最終的には、パーティー前後の二日間だけということを条件に、許可を出した。

 闇の帝王が消えて10年余りの年月が経っていたことと、ダリアのスリザリン内での立場のことを考慮した結果らしい。

 どこからか聞きつけたセドリックの必死の説得も功をなしたようだ。やはり、赤の他人であるダリアを家で野放しにする状況は避けたいらしい。

 

 

 ホグワーツの湖がカチコチに凍ったころ、ようやくクリスマス休暇が訪れた。生徒たちは大きな荷物を抱え、我先にとホグワーツ特急へと乗り込んでいく。

 ダリアも大きなトランクとトゥリリを抱えて、ダフネ達と一緒のコンパートメントへ乗り込んだ。

 

 女の子たちは、パーティーに来ていくドレスの事で盛り上がり、ずっとペチャクチャとおしゃべりをしていた。

 おしゃれは大好きなダリアも、この話題にはそれなりに乗り気でいつになく饒舌になり、時間は飛ぶように過ぎていった。

 トゥリリはコンパートメントに入ると同時に、ダリアの膝の上で寝息を立て始めた。

 

「じゃあ私は目の色に合わせて、緑色のドレスにするわ。ジュエリーはどうしようかしら。」

 

「エメラルドとゴールドのブローチとかいいんじゃない?髪には生花を飾ってみるとか。」

 

「素敵!そうだ、ねぇ、みんなでおそろいの髪飾りにしましょうよ。花だったら親に買ってもらわなくても自分たちで揃えられるでしょ?」

 

「いいねぇ。ドレスに合わせやすい花っていったら、なんだろ?無難に薔薇とか?」

 

 4人でカタログを見ながら装飾品の話をしていると、コンパートメントの扉が控えめにノックされた。スリザリン生の誰かかと思えば、なんとセドリックだった。

 久しぶりに顔を見せたセドリックにダリアは驚き、急いでドアを開けた。

 

「どうしたの?珍しいじゃない。」

 

「―――もうすぐキングスクロスに着くからね。ホームで待ち合わせて改札に行こう。父さん達は改札で待ってるらしいから。」

 

 いよいよ帰宅が近づいてきたので、待ち合わせの伝言のためダリアを探していたようだ。

 できるだけ自然に見えるような笑顔を張り付けているが、どことなくぎこちない。

 誠実なセドリックは、取り繕うことがあまり得意ではなかった。

 

 セドリックが去ったあと、突然の来訪者に静まり返っていた車内が途端に色めきだった。

 

「ちょっとダリア!何よ今のは、セドリック・ディゴリーじゃない!」

 

「な、なによ大きい声で。セドリックってそんなに有名なの?」

 

 パンジーのあまりの剣幕に、ダリアはたじたじで逆に質問した。彼女がドラコ以外の男子生徒の事でこう興奮するところは見たことが無かった。

 

 確かにセドリックはハンサムで、どの寮の生徒にも分け隔て無く優しく、紳士的で、その上頭もよく将来主席は彼に違いないと噂されている。その上クディッチでもシーカーを務めていて、いずれはキャプテンも任されるだろうと言われているほどの超人だが。

 

 ――――とここまで考えて、セドリックが十分、彼女たちの驚愕にたる存在だと思い至った。

 

「当たり前でしょ、あのセドリック・ディゴリーよ!ハッフルパフのプリンスの!その彼が待ち合わせって、どういう関係なのよ!?」

 

「あー・・・―――――ほら、私親戚の家に居候してるって言ったでしょ。それ、彼の家なのよ。つまり、いとこ同士(っていう設定)なの。」

 

 ダリアの説明に、パンジーはようやく落ち着いた。(意外と面食いだな、とダリアは思った。)

 パンジーほどでないにしろ驚いていたミリセントは、セドリックを脳内に思い浮かべながら、ダリアをまじまじと見ていた。

 

 外見はまあ、どちらも驚くほど整っているから、似ていなくもないかもしれない。だが性格は――――――ミリセントはダリアがこれまでおこした癇癪の数々を思い出した。

 

「しかしまぁ、あの紳士のディゴリーとダリアだろ?性格は驚くほど似てないね。」

 

「ちょっと、今のが嫌みってことは分かるわよ!悪かったわね性格が悪くて、でも直るなんて期待しないことね―――!」

 

 すぐに怒って吠えだしたダリアをみて、ミリセントは「そういうところがなぁ。」と苦笑した。

 

「それにしても、なんだか彼、よそよそしかったわね。今まであなた達が一緒に居るところなんて見たことないし――――もしかして、仲があまりよくない?」

 

 ダフネの鋭い指摘に、ダリアは思わず浮きかけていた腰を落とした。

 なかなかの洞察力だ。

 

「まぁ、この6月に初めて会ったばかりだもの。なんとなく慣れないのよね、知らない人と過ごすって。距離を測りかねるっていうか。」

 

 ダリアがいけしゃあしゃあと言ってのけた出まかせに、3人はあっさり納得した。

 間もなく特急はキングスクロス駅にたどり着き、ダリアは眠りこけていたトゥリリを叩き起こして、部屋を出た。

 

「じゃあ、またクリスマスパーティーでね。」

 

「いーい?あんたに会うって言ってドラコの家に行くんだから、絶対居なさいよね!」

 

「それじゃ、またドレスの事は手紙で連絡するよ。」

 

 3人がそれぞれの親の元へ向かうと、ダリアもセドリックを探し始めたが、セドリックの方は既にダリアを見つけていたらしい。

 ダリアが友人と別れるのを見計らって、近づいてきた。

 

「―――――行こうか。」

 

「うん。」

 

 なんとなく気まずく、2人とも無言のまま改札へ向かう。

 チラリとセドリックの顔を見上げると、真っすぐ前を見据えて颯爽と歩いている。

 

 先ほど出まかせでした言い訳だが、「距離を測りかねる」というのはある意味真実だ。少なくとも最近のダリアは、セドリックへの距離を測りかねていた。おそらくはセドリックも。

 

 自己中心的なダリアだが、元から人の気持ちを考えない性分だったわけではない。

 元の世界で満たされない生活を送っていたせいで擦れていた性格が、ホグワーツで満たされた生活を送るうち、忘れていた少女らしい思いやりの気持ちを取り戻しつつあった。

 

 それ故、口には決して出さないが、突然家族の中に異物が混ざり込んだ―――しかも家族は記憶を操作されている中で自分一人が正気で居る―――状態で過ごさなければならないセドリックに、少々負い目を感じ始めてきていた。

 

 こちらへ来た当初のダリアなら、セドリックの複雑な心境などお構いなしに、デリカシー無く絡んでいっただろうが、現在は無理やり話しかけることを躊躇してしまうほどだ。

 

 だからと言って時間と労力を考えれば、ディゴリー家から出ていこうという気にはなれないので、できる限りセドリックの気苦労にならないように配慮しよう、と今回のマルフォイ邸への訪問を思いついたのだ。

 

 ダリアはセドリックの横顔を盗み見ながら、小さくため息をつき、改札でこちらへ手を振るディゴリー夫妻へ手を振り返した。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。