ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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クリスマスパーティー

 次の日の朝になった。

 ダリアは楽しみなことがあったので、いつになく早く目覚め、身支度を整えていた。

 今日の午前中は、前から楽しみにしていた白孔雀を見に行く約束をしているのだ。

 

「ねえ、トゥリリ、私、孔雀なんて初めて見るんだけど――――他の動物と同じようにおしゃべりできると思う?」

 

『うーん、どうだろう?できるにはできると思うけど、所詮鳥だからなぁ。あんまり頭はよくないと思うよぉ。』

 

 トゥリリはマルフォイ邸の謎の存在(目に見えない召使らしき存在)に用意してもらったミルクを舐めながら、鳥に対してだいぶ失礼なことを言っていた。

 

 

 

 朝食が終わると、ダリアはドラコとノットを引っ張るようにして庭へ向かった。

 

 マルフォイ邸の庭は、ベルベットのような芝生に石畳の小道、薔薇の花の生垣がある完璧に整えられた庭園だった。おそらく定期的手入れがされているのだろう、荒れたところの全くない様は、見事と言う他なかった。

 

「孔雀たちは――――――こっちだな。」

 

「餌が無くても近づいて来てくれる?」

 

「襲われたくなければ、手ぶらで行くのが賢明な判断だな。まあ、人馴れしているから、逃げはしないと思う。」

 

 3人で石畳の小道をどんどん進んでいくと、少し開けた場所に出た。

 そこではたくさんの孔雀たちが木陰で羽を休めたり、噴水で水を飲んだりしてくつろいでいた。

 何羽かが3人に気付いたらしく、ちらちらとこちらを見ていた。

 

『ドラコとセオだ。何しに来たんだろう?』

 

『また勉強を抜け出してクディッチしに来たんじゃない?』

 

『あの女の子は初めて見る子だ。』

 

「――――ねえ、こっちにきてくれる?お願い、羽を撫でさせてほしいの。」

 

 ダリアは我慢できずに孔雀たちに声をかけた。

 一羽の白い孔雀が、もったいぶったようにこちらへやってきて、ダリアの足元へ蹲った。

 いかにも「接待してます。」という様子だったが、ダリアは大喜びで孔雀の羽に手を伸ばした。

 

 思う存分孔雀のふわふわの羽を堪能し、これでマルフォイ邸に来た目的のほとんどを果たしたダリアは、ホクホクしていた。

 

 

 

 昼頃になると、宣言通りパンジーたちがマルフォイ邸を訪ねてきた。

 

「久しぶりね、ダリア。元気だった?」

 

「久しぶりって、特急で別れてからまだ数日じゃない。まあ、いいけど。」

 

「そんなことよりさ、ドレスの髪飾りどれにするか決めた?」

 

 ダリアがダフネ達と話している間、パンジーは思惑通りドラコに矢継ぎ早に話しかけていた。あまりの勢いにドラコは終始圧倒されていた。

 

 そのまま全員で庭園の東屋で景色を楽しみながら、軽い昼食を取った。

 この後パーティーがあるのだ。あまり食べすぎてしまうと、ドレスを着るとき地獄を見ることになるだろうとの配慮だったが、その量は育ち盛りの子ども達にとって(特に男子二人にとって)は辛いものだった。

 女性陣と違い、コルセットでウエストを締め付ける必要のない二人は、空腹を埋めるために厨房で何かつまめるものを用意してもらいに行ってしまった。

 

 

「ずるくないかあいつら。コルセットしないからって。」

 

「あーあ、ドラコ行っちゃった。」

 

「悲しんでる暇はないわよ、私たちはパーティーの準備をしなくっちゃ。」

 

 名残惜しそうにドラコの去って行った方を見るパンジーに、ダフネがピシャリと言った。

 これから戦場に赴くのかというような気合いの入りようだった。――――事実、彼女たち貴族の令嬢にとってパーティーの準備は戦の前準備のようなものなのだが。

 

 この世界では貴族でも何でもないダリアはのんびり準備をしようと考えていたが、3人に引きずられるようにして準備に巻き込まれてしまった。

 

 館に戻り、ダリアの使っている部屋に集まった4人は、さっそくドレスに着替え始めた。お互いに下着姿になり、コルセットを思い切り締めていく。

 コルセットと言っても中世の拷問のような締め付けをするものではない。

 子供用の軽いもので、華奢な体格のダリアとダフネはそう苦しまずに着ることができたが、しっかりした骨格のパンジーとミリセントは、少々てこずっていた。

 

「苦しい、お昼なんか食べなきゃよかった。」

 

「今更後悔してもどうにもならないじゃん・・・。」

 

「胃の中身を出す魔法かける?吐けば楽になるかもよ。」

 

「くだらないこと言ってないで、次行くわよ!あとダリア、間違ってもここで吐かせるのはやめて頂戴。」

 

 4人の中で一番美意識の高いダフネが、グロッキーになるパンジーとミリセント、怪しげな呪文を唱えようとするダリアを冷たく切り捨てた。

 コルセットを付けた後にも、まだドレスの着付けにメイク、ヘアセットが残っているのだ。時間の余裕は無い。

 

 全ての準備が終わったのは、パーティーの開始直前だった。

 ドタバタとした準備で疲れ切っていた女の子達も、鏡に映った自分たちの姿を見て、途端に元気になった。

 

 パンジーはお気に入りのピンクのフリルをたくさん使った少女趣味のドレスを、ミリセントはすっきりしたシンプルなイエローのドレス、ダフネは瞳の色に合わせて鮮やかなグリーンのドレスを着ている。

 ダリアも瞳の色に合わせて、深い群青のドレスを選んだ。元の世界から持ってきたものを手直ししたドレスだ。

 

 綺麗に飾り立てられた自分を見て、少女たちはいよいよ気分が盛り上がってきた。

 すっかり身支度を済ませて大ホールで待っていたノットも、着飾った4人を見て感心したように目を丸くした。ドラコは主催者側なので、今ごろ両親と挨拶回りをしているのだろう。

 

「へえ、自分たちで準備した割にはなかなかよくできてるんじゃないのか?」

 

「何よ偉そうに。何様目線なわけ?」

 

「―――――しゃべらなけりゃ完璧なのになぁ。髪飾りは4人で揃えたのか?」

 

「そうよ、ミリセントが用意してくれたの。本物の花よ。」

 

 ヒールで足を踏みつけようとしてくるダリアをかわしながら、ノットが彼女たちの髪に飾られた花に気付いた。どの色のドレスにも合わせやすい、白い生花だ。

 それぞれ複雑に編み込まれた髪の中に埋め込まれるように飾られている。

 ノットは自分の横でちょこちょこ動くダリアの頭を見ながら、器用なことだと感心した。

 

 

 パンジーが自慢していた通り、マルフォイ家のパーティーは素晴らしいものだった。

 次々と料理が現れる魔法のテーブルに、触れると温かい魔法の雪、本物のオーケストラによる生演奏など、魔法界一の貴族にふさわしい豪華さだ。

 

 中でも中央に聳え立つクリスマスツリーの素晴らしさといえば、ダリアは元の世界でも見たことが無いほどだった。色とりどりのオーナメントは時間と共に色を変え、サンタクロースの人形が楽しそうに枝から枝へ飛び移っている。頂上の星飾りは、時折星屑を飛び散らせ、あたりをキラキラと輝かせていた。

 

 招かれている客も大物ばかりで、魔法省の高官だという立派な魔法使いが何人も居た。

 大人達はコネ作りに忙しいようだが、子供たちは素晴らしいパーティーに夢中になっていた。

 

 ダリアもこんなに楽しいパーティーは久しぶりだったので、皮肉や嫌みを言うこともなく純粋に楽しんでいた。

 

 むしろはしゃぎすぎたのか、クリスマスソングを歌う聖歌隊に飛び入り参加してしまう場面もあった。これには一緒にパーティーを回っていたダフネ達も顔を青くしたが、ダリアの歌声が予想以上に素晴らしく、大人たちに大好評だったので、結果的にお咎めなしだった。

 

 

「まったく、ひやひやさせやがって。突然聖歌隊の中に突っ込んでいったときはついにおかしくなったと思ったぞ。」

 

「ほんとにね。普段そんなことする性格じゃないでしょ。どうかしちゃったのかと思ったわ。」

 

 大人たちに盛大な拍手をもらい、マルフォイ夫妻からも褒められ、ニコニコしながら帰ってきたダリアは、ノットとダフネから小言を聞きながらも、いつになく上機嫌な様子でジュースを飲んでいた。

 

「でも叱られずに済んでよかったわね。私、ダリアがあんなに歌が上手いなんて知らなかったわ。うっとりするような歌声だったもの。みんな聞きほれてたわ!」

 

「フニャフニャ。」

 

「――――――――さすがにおかしすぎないか?こいつ。」

 

 ダリアの言動に疑問を持ったミリセントが、グラスを奪い取ってにおいをかいだ。(「なにすんのよーかえしてよー!」とダリアはわめいていた)

 

「うわ、これ酒じゃん!誰だよこいつに酒渡したの!!」

 

「しらなーい!でもおいしーい!もっとちょーらーい!」

 

「おい、落ち着けってモンターナ。くそ、こいついつも少しおかしいから全然気付かなかった。こら引っ掻くなってネコかお前は!」

 

「ううううううう~~~」

 

「ど、どうしましょ、どこかで休ませなきゃ。」

 

 ダリアは猫のように抱えられながら、クリスマスパーティーの会場を後にしたのだった。

 

 

 

 ダリアが目を覚ましたのは、すっかり夜になってからだった。

 がんがんする頭に疑問を覚えながら、目をうっすら開くと、明るい金髪の女性が心配そうにダリアをのぞき込んでいるのが見えた。

 

「――――――ママ?」

 

 思わず呟くと、女性は安心したように微笑んで、ダリアの髪を撫でた。

 

「よかった、気付いたのね。ここがどこだか分かるかしら?」

 

「え、あ――――――――ミセス・マルフォイ?あれ?」

 

 女性はマルフォイ夫人だった。ベッドに寝ていたダリアはあわてて起き上がろうとしたが、頭に鋭い痛みが走り、蹲った。いつの間にかドレスからネグリジェに着替えている。

 

「う、ううん、頭が―――何が―――」

 

「ああ、ダリア、無理しないで、かわいそうに―――ごめんなさいね、給仕があなたに間違ってアルコール入りの飲み物を渡してしまったようなの。それであなたは倒れてしまったのだけど――――覚えていない?」

 

 ナルシッサはダリアを優しく寝かせ、事の経緯を説明した。

 説明受けたダリアは、なんとなく楽しい気分になっていたことを思い出した。調子に乗って聖歌隊に乱入した記憶もなんとなくある。

 今更ながらとんでもなく大胆なことをしたと思い、恥ずかしくなってしまった。

 

「ご、ごめんなさい、勝手にあんなことしてしまって。」

 

「あら、いいのよ。とっても素晴らしい歌声だったから、お客様たちもサプライズと思ったみたい。ルシウスも喜んでいたわ、来年はソロで歌ってもらうのはどうだろうか、ですって。」

 

 ナルシッサは楽しそうにコロコロ笑った。ひとまず悪い印象は持っていないようで安心した。久々に肝の冷える体験だった。

 

 ダリアはナルシッサに酔いに効く薬を飲ませてもらい、その日は大人しく眠りについた。

 

 


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