ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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学期末試験

 次の日、ドラコが談話室で置き去りの詳しい経緯を語ってくれた。

 

「―――――死んだユニコーンを見つける?殺した犯人が近くに居るかもしれないというのに?―――――――ありえない。学校側は何を考えているんだ。」

 

 ドラコの話を聞いたノットが、低い声で吐き捨てた。

 幼馴染の命の危機に、彼なりに思う所があるらしい。ノットがこんなに感情的になるのを見るのは、クディッチの時以来だとダリアは思った。

 

 ノット以外の友人たちも、概ね同じ意見のようだった。今回の事件に対する不満を次々と口にしている。

 特にドラコに気があるパンジーの怒りはすさまじく、朝のうちに実家に事のあらましを説明した手紙を書いて、正式に抗議してもらうと息巻いていた。

 

 ダリアも今回のことは、明らかに学校側の落ち度だと感じていた。

 

 ユニコーンの血には、飲めば呪いと引き換えに、その者の命を永らえさせるという効果があるという。その血を目的に彼らを殺す犯人が、危険でないはずがないというのは、誰にでもわかることだ。

 犯人と遭遇の可能性があるにも関わらず、未熟な一年生たちを危険な犯行現場に駆り出し、あまつさえその場所に忘れて帰るなど、判断ミスどころの話ではない。

 

「今回はダリアが見つけてくれたから無事だったけど、気付かなかったらドラコは朝まであの恐ろしい森で過ごすことになっていたのよ!?あの森番、お気に入りのグリフィンドールの連中だけ連れて帰って、ドラコを忘れて帰るなんてひどすぎるわ!」

 

「――――――私だって、パンジーに言われなければ、調べようともしていなかったわ。今回は結果的に無事だったけど、運が良くなければ今ごろ大惨事になってたと思う。」

 

 しかもその後、学校側からは何のフォローもドラコにないらしい。これにはルシウス氏もカンカンになったようで、パーキンソン家と共にダンブルドアに激しい抗議を送るつもりのようだ。

 

 

 しかし後で、ノットがこっそり教えてくれた。

 

「多分この抗議は、聞き流されると思う。ダンブルドアは昔からグリフィンドール贔屓で、スリザリンとは馬が合わないんだ。おそらく今回のことも、面倒なクレームが来たとしか思われない可能性が高いよ。」

 

「うそ、もしかしたら死んでたかもしれないことなのに?」

 

「――――――昔からそういう寮なんだ、スリザリンっていうのは。他の寮の結束を高めるための体のいい生贄扱いだ。闇の勢力が強かった時代なんて、スリザリンってだけで犯罪者予備軍扱いだったこともあるらしい。そう思っている奴らは今でも少なくない。」

 

「――――――――」

 

 それはひどい差別があったものだ、とダリアは思った。一般的にスリザリンには「純血主義」と呼ばれる差別的な考えを持つ人間が多いとされており、それが忌避される理由となる場合が多い。

 実際にダリアの友人たちにはその考えを持つ者が多いが、その誰もが実際にマグルを積極的に排除しようと考えているわけではない。

 むしろマグルと関わることで、純粋な魔法族が少なくなってしまうことを憂いている者の方が多いのだ。

 ダフネやノットはどちらかというとそちらのタイプであり、マグル生まれどころか、他寮の生徒とすら積極的に関わろうとすることは無い。

 

 純血主義にも様々な人間が居り、更にスリザリン内にはごく少数だがマグル生まれの生徒も在籍している。それらを全て一緒くたにして「スリザリンの連中」とくくられるのは、なんとなく納得がいかない。

 

「だからスリザリン内の結束は他寮よりもずっと固い。何しろ周りは全て敵だからな。寮内で固まるしかないとも言えるが―――まあ、一番気の毒なのはうちのマグル生まれの生徒達だよ。他の寮からは敵視され、寮内でも針のむしろだからな。逃げ場が無い。」

 

「あの人達こそ、学校側でどうにかしてあげなきゃいけない人達よね―――――どうして現状で放置されているのかがやっとわかった。他寮の人間にとっては、例えマグル生まれでも、スリザリンってだけで敵の仲間なのね。」

 

 組み分けの時に感じた疑問に、ようやく答えが見つかった気がした。

 

 その後、宣言通りパーキンソン家とマルフォイ家は学校側に正式に抗議を行ったが、今回は何事もなく当事者が無事であったため、形式的な謝罪文が送られてきたのみだったという。

 

 

 

 6月になり、ついに学年末試験の時期がやってきた。

 スリザリンの談話室では毎日遅くまで明りが消えず、最後の追い込みをしている生徒達で溢れかえっていた。

 クラッブ、ゴイル、パンジーなどがその筆頭である。

 あまり勉強が得意でない2人は、意外と面倒見の良いドラコにつきっきりで勉強を見てもらっていた。ちなみにパンジーはそれに追従しているだけで、勉強が苦手なわけではない。

 

 勿論普段から予習復習を欠かさないダリアは、ダフネ達と軽くノートを確認した後、試験直前でもいつもと同じ時間にベッドに入り、たっぷり睡眠時間を確保するつもりだった。

 

『なーんか、すっかりダリアも学生生活楽しんじゃってるなぁ。もっと寂しい孤独な生活になるんじゃないかって心配してたんだけど。』

 

「余計なお世話よ!」

 

 トゥリリに文句を言いつつも、ダリアは内心同意していた。

 ダリアは自分の性格が万人受けするものでない(むしろ敵を作りやすい方である)と自認していたので、ここまでたくさんの友人ができるとは考えていなかった。

 

 それどころか、誰かを「友人」と自信をもって言うことができるのは、これが初めてかもしれない。

 元の世界では後継者になるための勉強ばかりに明け暮れていたので、同年代の誰かと関わる機会などほとんどなかったからだ。

 

 ――――――キャット達が城へやってきた時、本当は嬉しかった。ロジャーとジュリアは年上だったし、それまであまり会わせてもらえなかったから。でもグウェンドリンはあんな性格だったし、同い年だったキャットは――――――――

 

 そこまで考えて、ダリアは頭を振った。嫌なことまで思い出してしまいそうだった。最近は考える頻度も減ってきていたのに。

 

「もう、トゥリリが変なこと言うから、嫌なことまで思い出しちゃったじゃない!明日から期末試験なのに、眠れなくなったらどうするのよ!」

 

『――――えぇぇ、そんなに変なこと、言ったかなぁ・・・』

 

 理不尽な言いがかりに、トゥリリは納得できない、とでも言いたげに小さく鳴いた。

 

 

 

 試験当日は、うだるような暑さだった。筆記試験が行われた大教室に、全ての寮の一年生150名程度が押し込められ、それがまたじめじめとした蒸し暑さに拍車をかけていた。

 

 ダリアは汗だくになりながらも、危なげなく解答欄を埋めていき、時間内に余裕をもって終わらせることができたため、更に注釈なども付け加えていった。

 スリザリンの先輩に、試験の点数が100点満点以上になることがあると聞いていたからだ。

 授業を聞いていた中で思いついた魔法理論をつらつらと書き連ねていると、あっという間に時間が過ぎていった。理論的なことを考えるのは性に合っている。

 

 続く実技試験も、ダリアは完璧にこなしていった。

 それぞれの試験で出された指示を完璧にクリアした上で、ちょっとしたアレンジを加えて工夫を見せることで、試験官の教授たちは感心したようにニッコリしてくれた。

 

 

 

 最後の魔法史の試験が終わると、普段他寮の生徒たちの前ではクールぶっているスリザリン生達も、思わず歓喜の声を上げた。

 

「ううん、実技試験、少し失敗しちゃったかも―――私のパイナップル、タップダンスじゃなくて、ワルツを踊ってしまったのよ。」

 

「私の嗅ぎたばこ入れ、形は完璧だったんだけど、鼠色のままだったんだよね―――減点されると思う?」

 

 友人たちは試験の結果が心配でしょうがないようで、お互い不安を吐露しあっていた。

 そんな中、正直ダリアは「まぁ学年一位は私に違いないわよね。」と確信していたので、空気を読んで口を挟まなかった。

 

 

 その日の夕食は、どこの寮のテーブルも賑やかなものだった。

 ダリアの座っているスリザリンのテーブルの貴族たちも、試験の終わった解放感からか、テーブルマナーなどそっちのけで談笑しながら食事を楽しんでいた。

 普段は行儀が悪いとすっ飛んでくる監督生達ですら、彼らを咎めることはない。彼らの家からのプレッシャーは相当なものだったのだろう。

 

「ああ、試験が終わってやっと一息つける!もう参考書と一緒にベッドに入る日々が当分来ないと思うと、嬉しくてたまらない!」

 

「普段からきちんと勉強の習慣をつけてれば、そんな不摂生な生活しなくて済むんじゃないのか、パーキンソン。」

 

 大げさに身振りも加えて喜ぶパンジーに、近くに座っていたブレーズ・ザビニが茶々を入れた。

 それを聞きつけたダリアとダフネが、すぐさまザビニの耳を引っ張り、席を立たせて引っ張っていく。

 

「いってぇ!な、なんだよお前らいきなり!」

 

「バカね!パンジーはああやってドラコに慰めてもらおうとアピールしているのよ!余計な口を挟まないで!」

 

「そういうの察せないわけ?ほんと、男の子って幼稚なんだから。いいからあんたは邪魔しないでこっちで食べてなさいよ。」

 

 ホグワーツでもピカ一の美少女二人に挟まれどぎまぎするザビニを、二人は容赦なく離れた席へ追いやっていく。

 

 ダリアも女の子なので、他人の色恋沙汰で大騒ぎするのが大好きだった。ダフネもそれは同じようで、二人で嬉々としてパンジーの応援を楽しんでいた。

 ちなみにミリセントは他3人より達観していたので、生暖かい目で見ていることが多かった。

 

 ダリアとダフネが「静かに怒鳴る」という器用な方法でザビニを責め立てていると、大広間に入ってきたスネイプがこちらへ向かってくるのが見えた。

 この状況を見咎められると、明らかに詰め寄っている自分たちの方の分が悪いと思った女の子二人は、何食わぬ顔でザビニを解放し席に着こうとしたが、スネイプによってそれは阻まれた。

 

「ふむ――――――なにやらザビニと取り込み中だったように見えたが。違ったかね?」

 

「いいえ、スネイプ先生。大したことじゃないんです。ただ、後で今日の試験の答え合わせをしようと約束をしていただけなんです。」

 

 スネイプの問いに、ダフネが「誰かにひどい事をいうなんて、天地がひっくり返ってもできません」とでも言いたげな純真な少女の顔をして答えた。

 横でダリアも、「この先生はどうしてそんなことを聞いてくるのかしら?」というような顔で小首をかしげている。

 

 二人の無言の圧を受けたザビニも、「―――――その通りです、先生。」と重々しく答えざるを得なかった。

 

 その様子に、スネイプはしっかり刻み込まれた眉間の皺を更に深くしてため息をついたが、これ以上追求しても何も出てこないであろうことは分かっていたので、話題を変えた。

 

「まぁいい――――――モンターナ、夕食後、私の研究室に来なさい。大事な話がある。」

 

 予想外だったダリアは、演技でなく目を見開いた。

 スネイプが去って行った後、ダフネが不安げにダリアに声をかけた。

 

「スネイプ先生、一体なんのお話なのかしら――――まさかザビニを脅していた程度のことで呼び出しなんてないと思うし―――――試験のことで何かあったのかしら?あなたって意外と爪が甘いところがあるし・・・」

 

「え、まさかぁ。私、試験なら学年一位の自信しかないわよ……」

 

「――――――お前、そういう所だぞモンターナ。」

 

 近くで聞いていたザビニが、げんなりしたようにぼやいた。

 


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