当時ダリアが住んでいた城には、時たま優れた才能を持った子供たちが上等な教育を受けるためだったり、はたまた行儀見習いのためだったり、様々な理由で移り住んでくることがあった。
ダリアが家出する一年ほど前、そんな風にいつもと同じような理由で「チャント姉弟」が引っ越してきたのが、全てのことの始まりだった。
親を水難事故で亡くして身寄りがないという兄弟は、なんとダリアの後見人の遠い親戚でもあったらしい。金髪に青い目の、自信に満ち溢れた表情を常に浮かべている姉のグウェンドリンと、いつも姉の陰に隠れているような内気な弟のエリック(何故かグウェンドリンは弟のことをキャットと呼んでいた)。
この姉のグウェンドリンというのが、後にも先にも類を見ないほどの、とんでもなく強烈な魔女だったのだ。
グウェンドリンは「何かしら才能はあるが曰く付き」のチャント家の人間らしく、当時のダリアが引くほどの自己中心的な考え方の持ち主だった。
彼女は自分の力を人々に見せつけるため、実の弟である少年の魔力をごっそり自分のために利用して、城中にとんでもなく悪趣味な嫌がらせを連日行ったのだ。
ありとあらゆる嫌がらせをしても尚、自分の力が認められないと悟るや否や、今度は弟の「命の一つ」を勝手に消費し、更にとんでもないことをしてのけてしまった。
グウェンドリンは本来命を複数持つ大魔法使いにしかできない「世界の移動」を無理やりやってのけ、自分に都合がいい世界へ逃げ出し、その世界に自分を封印してしまったのだ。――――――残していく弟や、他の世界の「自分」にかける迷惑など全く顧みることもなく。
一般に、一つの系列世界には少しずつ異なる歴史を持つ関連世界が9つあり、それぞれの関連世界には自分と同じ人間が必ず存在するとされている。
当然同一人物が同じ世界に存在することはできず、彼女の無理やりの移動により、それぞれの世界で暮らしていた「グウェンドリンの同一人物」がこれまで存在していた世界を押し出され、全く別の世界に入れ替わってしまったのだ。
ちなみに複数の命を持つ大魔法使いに何故「他の自分を押し出さない世界の移動」が可能なのかと言うと、彼らは他の関連世界に同一人物が存在しないからだ。
何らかの理由で他の関連世界に生まれることが出来なかった命と魔力が一人の人間に集まったことで、常識はずれの魔力と命を持った大魔法使いが生まれるのだ。
ダリアも彼らと似たような体の造りをしていたため、他の世界の自分を押し出すことなく世界を移動することが可能だった。
しかし全ての世界に「自分」が居るグウェンドリンが世界移動をしてしまった結果、同一人物達の入れ替わりが起きてしまったのだ。
様々な世界で突然の入れ替わりが行われた中、魔法が隠されている「世界B」からダリアの暮らしていた「世界A」に無理やり連れられてきてしまったのが、ジャネット・チャントだった。
「―――――――ダメだわ。どう考えても納得いかない。なんで私がこんなに責められなきゃいけないの?」
クィディッチ競技場での一件の後、ダリアは我に返ったパンジーたちにまで先ほどのやり方がまずかったことを指摘され、すっかりふてくされていた。
彼女たち曰く、あのジャネット・チャントを名乗る少女は編入生という立場だったため、最初はスリザリン生などに「出来損ない」だとかののしられ、激しくいじめられていたという。
それ故今では庇護しなければならない存在として周知されてしまっているらしく、彼女への暴言暴力は、他より厳しい目で見られるようになってしまったらしい。
聞けば彼女がホグワーツに編入してきたのは、ちょうどダリアが入学してきた年の前年だったという。
ダリアは全く他寮の人間に興味が無かったので、彼女の噂を知る機会は全く無かった。
しかし、彼女が編入してきた年を考えると、ますます辻褄があってしまう。
ジャネットがグウェンドリンと入れ替わり――――そしてこの世界Bにロミーリア(仮)が押し込まれた時期は、ダリアが家出する一年前の秋だった。
新学期開始後に入れ替わったため、次の年の夏季休暇中に魔力を察知したホグワーツから手紙が届いたに違いない。
考えてみればロミーリアに魔力が存在するのは当たり前だ。他の系列を含む全ての世界では魔力が世界中に満ちていることが当たり前で、むしろ魔力が隠されたこの世界Bの方が少数派と言える。
つまり、魔力がないジャネットの方が異常だっただけで、その他の世界のグウェンドリンの同一人物は元々魔力を持っていた可能性が高い。
やはり「魔力に目覚めた」わけでは無く、「魔力が元々備わっていた人物に入れ替わった」が正解なのだろう。考えれば考えるほど、彼女はロミーリアに違いない。
ダリアにしてみれば、当たり前の事実を指摘しただけなのに、こう責め立てられるのはなんだか納得いかなかった。どれもこれもあの女が突然泣き出したのがいけない。
確かにちょっとばかりきつい口調で問い詰めたような気がしなくもないけれど。
イライラするダリアに、事の経緯を聞いていたトゥリリが呆れたように言った。
『ダリアは馬鹿だなぁ。ちょっとはあの子の立場を思い出してみればいいのに。御大がどうしてジャネット達をもとの世界に戻すのをやめたか、覚えてないの?』
「そりゃあ――――――あ―――――そういえば。」
ダリアはグウェンドリンの事件がすっかり終わった後、後見人がジャネットと真剣そうな顔で話し合っている場面に何度か出くわしたことを思い出した。
後見人が全ての世界のグウェンドリンの同一人物を見てきた結果、ジャネット以外の全員が、入れ変わった後の世界で幸福に暮らしていたらしい。
彼女たちは皆、元の世界ではそれぞれ不幸な境遇に居たようだった。
確かロミーリアは元の世界では孤児で、ひどく惨めな生活を送っていたという。
「逆に、元の世界に戻されやしないか、ヒヤヒヤしてたって言ってたかも。」
『でしょ?やぁっと思い出した。だからダリアに本当の名前をいい当てられて焦ったんだよぉ。だってロミーリアって名前は、この世界じゃ誰も知るはずの無い名前だもん。』
「―――――――ふぅん、なるほどね。」
トゥリリの推察にダリアは感心してため息をついた。この猫は時たま妙に鋭いところがある。流石は第10系列世界の猫の子孫だ。
確かに言われてみれば、トゥリリの考えは正しい様な気がする。
おそらくダリアが彼女の正体を見破ることが出来たので、彼女に起きた不可思議な現象について知っている人物だと思ったのだろう。元の世界に戻されてしまうと考えたのかもしれなかった。
しかしダリアはロミーリアを元の世界に戻そうだなんてこれっぽちも考えていなかった(というかそんな面倒なことにかかわりたくなかった)し、それに、彼女の境遇にはちょっとした共感を覚えていた。
「ちょっとあの子に会ってみようかな。同じく異世界に隠れ住む者同士、誰にもできない相談ができるかもしれないし―――――――私があの子を元の世界に戻すだなんていう誤解を解いて、安心させてあげなきゃね!」
ダリアはそう思い立って、すぐにロミーリアに接触を図ろうとしたが、そう簡単にはいかなかった。
ダリアの接近を察知すると、彼女の友人たちが揃ってバリケードを作り、近づけようとしないのだ。
ロミーリアはすぐに怯えたように逃げ出すし、声をかけるきっかけすら掴めない。
しまいには、ダリアがロミーリアに目を付けた事を察知したセドリックが、彼女の周辺で目を光らせるようになってしまったのだ。
ダリアが半径10メートル以内に近づくと、さり気なくロミーリアを伴って遠ざけるセドリックに、ダリアのイライラが急激に募って行く。
それが何度も繰り返され、ついにダリアの癇癪が大爆発を起こした。
「気に入らない気に入らない!!なんだって私がこんな目に合わなきゃいけないの!!私はただあの子と話そうとしてるだけなのにっっ!!まるで人食い山姥にでも出くわしたみたいに泣き喚いて、まさかあの人達、私があの子の全身の皮を剥いでバックに加工するとでも思ってるんじゃないの!?」
ダリアはスリザリンの談話室の片隅で泣き喚いた。周囲ではスリザリンの同級生たちが荒れ狂う彼女を遠巻きにしている。
ふてくされるをやめて元気になったのはいいが、今度は元気になりすぎだ。何か余計なことを言ってこちらに火の粉が飛んできてはたまらない。
「いーわよ冷たい人達ね!どーせダリアのいつもの癇癪だとでも思ってるんでしょ!放っておくのが一番いいに決まってるわ!――――そうよその通りよっ!どうせ私はセドリックの言う通り、手当たり次第にムカついた人に呪いを吹っ掛ける危険人物なんだわっ!」
「てゆーかセドリックもセドリックよ!私の話をカケラも聞こうとせずにあの女の哀れっぽいかわい子ぶった泣き方にすっかりほだされちゃって!――――――――ていうかどー考えても私の方が可愛くない!?」
ダリアはもうセドリックにムカついているのかロミーリアにムカついているのか自分でもわけが分からなくなっていた。
自分でも意味不明の暴言を吐くダリアの平坦な胸部を見て、偶然通りかかったザビニが無謀にも声をかけた。
「まあ性格は論外として、可愛さならともかく大人っぽさならチャントの圧勝だろうな・・・」
「―――――」
ダリアは無言で杖を取り出した。
声を出すこともなく笑い続けるザビニを床に転がし、幾分か落ち着いたダリアは友人たちを見渡した。
「―――――ということで、邪魔を入れずにチャントに接触することができる、何かナイスなアイデアは無いかしら。」
相変わらずの傍若無人っぷりに、友人たちは揃って脱力した。
「そもそもどうしてあんな女に構うのよ。」
とはいえ事の経緯に同情していたパンジーがまず声をかけた。
「確かにちょっと美人だからって男子生徒にちやほやされて気に入らないけど。絡んで行って旨味のある女じゃないわよ。成績がいいわけでもないし、あんたがこだわる理由が分からないんだけど。」
「それは分かってるけど。」ダリアはしかめっ面をした。「もうひっこみがつかないっていうか、ここまで来て引き下がるのは腹が立つというか。――――とにかくもうどうにかしてチャントと話すまで、私の暴走は止まらないの!」
「でもどうすんのさ。真正面から行ったら絶対誰かに止められるでしょ?無理やり押し通すのは、これ以上心証を悪くしたくないならやめといた方がいいだろうし。」
「でもそれしかないでしょ。私たちで取り巻きを足止めするから、その間にダリアが突っ切るの。」
ミリセントとパンジーがダリアと「ああでもないこうでもない」と話し合っているのを、ダフネがため息をついて遮った。
「あなた達、本当に力技しか頭にないのね。どうして誰も、手紙を出すっていう方法を思いつかないのかしら。」
「「「――――――ああ!」」」
ダフネの作戦はシンプルなものだった。
まず適当な差出人の名前で、呼び出しの手紙を書く。
そして人目につかない場所で話をする。
「えっ、それだけなの?なんかもっとこう、緻密な策略とかないの?」
「文句言える立場じゃないでしょ!それにあの包囲網をかいくぐってチャントにメッセージを届けるなんて、こんな方法しかもうないわよ。あなた思っている以上に警戒されてるんだから。」
ダフネの言葉にぐうの音もでなかったので、ダリアは大人しくその作戦に乗ることにした。
しかしダリアは最初の「手紙を書く」という段階で躓いていた。
「『お前の秘密を知っている。ばらされたくなければ、一人で深夜、この場所へ来い。』――――――一応聞いておくけど、穏便に話し合いたいのよね?」
「もちろんよ。でも当たり障りのない文章だったら、来てくれないかもしれないでしょ?だからちょこっと脅してみたの。」
「やりなおし。こんな果たし状みたいなの貰ってノコノコ出てくる人間居るわけないでしょ!」
何故か喧嘩腰になる手紙の文章をダフネに添削してもらいながら書き直し、ようやく合格を貰うことができたダリアは、封筒の端に「ロミーリア・チャント」とだけ記名した。
これで本人にだけは、誰からの手紙か分かるだろう。きっと人目につかない場所で読もうとするはずだ。
ダリアはダフネ達に礼を言うと、さっそく梟小屋へ行き、手紙を出したのだった。
果たして約束の日、ハロウィンの宴で盛り上がっている大広間を抜け出したダリアは、待ち合わせ場所に指定した使われていない教室で、空腹に耐えながら仁王立ちをして待っていた。
しかし隣でトゥリリが『ぼくだったらちょっと部屋を覗いて、こんな人が居るのに気付いたら、何も言わずに立ち去ると思うなぁ。』とぼやいたので、ダリアは無言で組んでいた腕を解いた。
ここまで来て逃げられても困る。
やがて約束の時間になり、教室の扉が静かに開き、いかにも緊張した表情のハッフルパフ生―――――ジャネット・チャントを名乗る少女が現れた。
ダリアが口を開く前に、彼女がまず先に口を開いた。
「お願い!私を連れ戻さないで!私、この世界で暮らすためだったら何でもするわ。もう二度と元の世界には戻りたくないの!あんな惨めな生活に戻るくらいなら、死んだ方がマシよ!」
「じゃあ、やっぱりあんたはロミーリアなのね。」
部屋に防音魔法と施錠魔法をかけながら、ダリアは自分の予想が当たっていたことを喜んだ。一気にまくし立てたジャネット―――否、ロミーリアは、青い顔で小さく頷いた。
今にも「元の世界に戻されてしまうのではないか」と不安げな表情をしているロミーリアに、ダリアは思わず笑いかけた。
ジャネットもそうだったが、グウェンドリンとは似ても似つかない殊勝な表情をしている。
同一人物でも住んでいる世界によって、性格が全く変わってくるのは確かなようだ。こっちの方があのグウェンドリンよりは好感が持てる気がした。
「そんな心配しなくていいわよ。きっとあなた、すごい思い違いしてるから――――――私はどっちかと言うと、あなたと同じ側なのよ。―――――つまり、元の世界に戻るのを恐れている側ってこと。」
ダリアの言葉に目をぱちくりさせたロミーリアは、半信半疑の表情でダリアを伺っている。
おそらく、今の言葉が真実なのかと言うことを吟味しているのだろう。
しばらく考えた後、ロミーリアは恐る恐る口を開いた。
「あなた、いったい何者なの?私に何が起こったかを知ってるの?」
ダリアはその後、ロミーリアの問いに逐一答えてやった。
関連世界のこと、グウェンドリンのこと、彼女の自分勝手な企みの事。
実際に世界を移動したロミーリアは、関連世界のことをあっさり受け入れることが出来たようだった。自分の同一人物が起こした騒動を聞いて、信じられないように慄いていた。
グウェンドリンのことを嫌っていたダリアが、どれだけ彼女があくどいことをしたかというのを、過剰に脚色してロミーリアに伝えたからというのもある。
「まさか、そんなことが起きていたなんて。」
ロミーリアは青い顔のまま呟いた。この世界に来てから、自分と同じ存在が複数いることには察しがついていたようだったが、その中の一人がこの現象の原因だったとは考えても居なかったらしい。
ロミーリアの警戒心もだいぶ下がってきたようで、今では大人しくダリアの話に耳を傾けていた。
ダリアの方も、この世界に来てからトゥリリ以外に初めて自分の秘密を話せたことが嬉しかったせいかもしれない。ロミーリアは意外と聞き上手でもあったので、気分の良くなったダリアは、自分の家出のことについても話してしまった。
「私が逃げているのはね、関連世界全てにかかわることができる大魔法使いからなの。あの人は自分が異世界に移動できるだけじゃなくって、他の人を異世界に送ることだってできるのよ。前、ジャネットに元の世界に戻そうかって言っているのを聞いたことがあるもの。」
あの大魔法使いがジャネット達を元の世界に戻す気はもう無いということは伏せたまま、ダリアは後見人のことをロミーリアに伝えた。元の世界に戻される心配がないということが分かると、ロミーリアはダリアに共感をしてくれないと思ったからだ。
思惑通り、ロミーリアは息を飲んで不安そうにダリアの腕を掴んだ。
「そんな!本当のジャネットが戻ってきちゃったら、私は元の世界に押し戻されちゃうんでしょ!?絶対に嫌!」
「でしょ?私もあの人に見つかりたくないのは一緒よ。本っ当に力の強い大魔法使いだから、名前を呼ぶだけでこっちの居場所に気付いちゃう可能性があるの。だから私用心して、頭の中で考える時だってあの人の名前を呼ばないようにしてるんだから!」
ダリアが身を震わせて大げさに言ったのが面白かったようで、ロミーリアは不安を一瞬忘れて思わず笑った。
やがて笑いが治まったロミーリアがポツリと呟いた。
「―――――なんだか話せてすっきりしたわ。今までずっと、私が本物のジャネットじゃないってバレないかヒヤヒヤしながら生活してたの。こんなこと誰にも話せなかった。」
そしてロミーリアは、自分がグウェンドリンと同じくらい性格が悪いかもしれないということをポツポツ語った。
今まで自分が居たひどい環境に自分以外の誰かが居るというのを知っていながら、この世界に留まりたいと願っていたからだ。
ダリアはそんなことを考える時点で、グウェンドリンの百倍は性格がいいと思った。
ちなみにロミーリアの後釜に座ったジェニファーはたくましい性格をしており、彼女もまた新しい世界での生活を気に入っているということは伝えなかった。
「―――――また、こうして話してもいいかしら。今までひどい態度を取っておいて虫のいい話かもしれないけど、こんなこと話せる人は他に居なくって。」
「いいわよ。でも、そのためにはあんたの周りのハッフルパフ生達にうまいこと言ってもらわなきゃ。あの人たち、きっと私があんたの目玉をくり貫いて指輪にするとでも思っているのよ。」
ダリアの文句を聞いてまた笑ったロミーリアを見て、「やっぱりちょっとはいい性格してるんじゃない?」とダリアは思った。
空腹に耐えられなくなってきたダリア達は、大広間に戻ろうと教室を出た。
パーティーは終わっているかもしれないが、残り物にはありつける可能性がある。
二人して足早に廊下をかけていくと、ふとダリアは何者かの声を聴いた気がした。
「――――?今何か言った?」
「え?私は別に何も言ってないけれど・・・」
ロミーリアは本当に何も聞こえなかったようで、きょとんとしている。
しかしダリアが耳を澄ませると、確かに何者かの声がどこからか響いてくるのが聞こえる。
「うーん、結構大きい音だから、聞こえないはずないんだけど。―――――もしかしたら、何かの動物の声なのかも。」
「動物と話せるの?」
「だいたいの大魔法使いは全ての生き物と意思疎通することが出来るんですって。」
ダリアは気になったので、声のする方へ行ってみようとした。幸いここからだと大広間へ向かう道なりだったので、迷うことなく向かうことができた。
「なんて言ってるの?」
ロミーリアが興味を引かれたように聞いたが、ダリアは声が近づくにつれて眉を顰めていった。
怪しい声が話す内容が、どうやら不穏なものだということが分かってきたからだ。
念のためダリアは自分とロミーリアに防護魔法をかけた。
「やっぱり近づくのはやめた方がいいかもしれない。多分この声、あまり良いものじゃない気がする。」
ダリアはそう言って、違う道を探そうとした。声はいよいよ殺気だって辺りを這いまわっていた。
しかし今更道を変えようにも、遅かったとダリアは悟った。
向かう廊下の先に、異常な光景が広がっているのが見えたからだ。
パイプでも破裂したのだろうか。廊下の一部が水浸しになっている。
その水たまりの中心で、グリフィンドールらしき生徒が3人ほど(後から気づいたが、ハリ・ポッターとその友人たちだった)、何か恐ろしいものを見つけて立ちすくんでいた。
「なに、あの壁の文字・・・」
ロミーリアが痛いほどの力でダリアの腕を握り、恐る恐る壁の文字を読み上げた。
秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ
突然の声に飛び上がったポッター達の隙間から見えたものは、目を見開いたまま硬直した猫、ミセス・ノリスのなれの果てだった。