石になったミセス・ノリスを最初に発見したポッター達と次に発見したダリア達は、揃って教員たちに呼び出され、発見した時の状況を詳しく説明させられた。
どうやらポッター達はハロウィンパーティーへは参加せず、「絶命日パーティー」なる催しに参加していたようだ。
話から推測するに、絶命日パーティーとはゴーストが自らの死んだ日を祝うという、限りなく悪趣味な記念日らしかった。
ダリアはそんなものに進んで参加しようというポッター達の気が知れなかった。
しかも、パーティーが行われた場所と犯行現場は全く違う場所にあるという。何故かポッターはそのことについて触れられるとしどろもどろになり、スネイプ教授にそこを意地悪くつつかれていた。
確かに何か隠している様子ではある。
一方ダリアとロミーリアも、スリザリンとハッフルパフという珍しい組み合わせ故、あの場に居た事を不審に思われていた。
なぜパーティーに参加せず、遠く離れた教室に二人で居たのかを説明しようにも、関連世界のことなど説明できるはずもない。
ダリアがどう釈明したものか悩んでいると、意外にもロミーリアがサッと助け舟を出した。
「私たち、実は秘密の友達なんです。周りの友達が誤解していて中々二人で会えないから、こうして誰にも見つからない所でこっそり会うことにしたんです。さっきはお腹が空いてきたから、何か食べるものを探しに大広間に向かっていて。」
「――――その途中で、ポッター達の悲鳴が聞こえたんです。」
ダリアはロミーリアの機転に感心していた。いくら温厚な性格をしていてもグウェンドリンの同一人物なだけあって、そこそこワルだった。
無事尋問から解放されたダリアは地下まで来るとロミーリアと別れ、それぞれの寮へ帰って行った。
ダリアがスリザリンの談話室へ入ると、寮内は軽いお祭り状態になっていた。
ミセス・ノリスを石にした現場の壁にあった文章を見て、それぞれがどう解釈したかを言い合っているようだ。
ダリアはそれを聞き流しながら、作戦の結果をダフネ達に報告しようとしたが、彼女たちも談話室のソファの一角で、ドラコやノット達と意見を交換している最中だった。
「ダリア!やっと帰ってきたか!待ってたんだぞ、話を聞かせてくれ!」
ダリアが寮に帰ってくるのを待ちわびていたらしいドラコが、目を輝かせて手招きした。
あの文章を目にしてからどうにも興奮が治まらないようで、発見者の一人であるダリアに話を聞きたくてしょうがなかったらしい。
ダリアは早く作戦の成功を報告したかったが、マグル生まれに強い嫌悪感を持つドラコにロミーリアのことを言えば面倒なことになると思い、仕方なくミセス・ノリスを見つけた時の事を説明した。
「じゃあ、あの廊下の近くで何かの鳴き声が聞こえたっていうの?」
ダフネが自分の肩を抱きしめ、身を震わせながら確認した。
パンジーとミリセントも、同じように不安げな顔でダリアの話を聞いていた。彼女たちはドラコと違い、まっとうに今回の事件に恐怖を覚えているらしい。
ダリアはドラコが実家から送ってもらったという高級なお菓子をパクパクつまみながら頷いた。結局パーティーの食事にありつくことが出来なかったので、とてもお腹が減っていたのだ。
「うん。何の鳴き声かは分からなかったけどね。どこから聞こえるのか探してたら、あんな風になったミセス・ノリスを見つけたの。」
本当は「言葉」が聞こえたのだが、何かの魔法生物だろうと目星をつけたダリアは、「鳴き声が聞こえた(んじゃないかな?)」と適当に予想したことを友人たちに伝えた。
ドラコはその言葉を聞いて、更に元気になったようだった。
「やっぱり――――父上が学期前におっしゃっていたのはこのことだったんだ!」
「ドラコ、お前、何か知っているのか?」
意味深なことを言うドラコに、ノットが眉を顰めて訪ねた。
ルシウス氏が過激な純血主義者で、親マグル派のダンブルドアと折り合いが悪く、いつかどうにかして校長の座から引きずり降ろそうと画策していたことを知っていたからだ。
しかし、ノットの予想とは裏腹に、ドラコは残念そうに頭を振った。
「いや、父上は僕に事態を静観しろとおっしゃっただけで、他には何の説明もしてくださらなかった。でも、今回のことではっきりしたよ。今年は継承者の敵――――つまり、穢れた血の連中にとって、嬉しくない年になるだろうってことがね!」
ドラコはそれ以上もったいぶって何も語ろうとはしなかった。おそらく本当に父親からそれ以上詳しい話を聞いていなかったのだろうとダリアは思う。
スリザリン生達も他の寮生同様、何がミセス・ノリスをあんな風に変えてしまったのか、少なからず不安に思っているようだった。
しかし数日後、スリザリンの寮内の雰囲気は幾分か楽天的なものになっていた。
「ホグワーツの歴史」を読み解いた生徒達から、「秘密の部屋」や「継承者」はスリザリンに害を与えるものではないらしいということが説明されたからだ。
この話はすぐにホグワーツ全体に広がり、スリザリン生は襲われるという心配をしなくて良くなった代わりに、学校中からの敵意をまた集めるはめになってしまった。
それにより、ダリアはまたも余計な疑いを向けられることになってしまっていた。
ダリアがミセス・ノリスの発見者の一人であったことから、セドリックはこの事件の犯人がダリアでないかと疑い出してしまったのだ。
一緒に発見したのが、何故か以前トラブルのあったロミーリアで、しかもその彼女がダリアの無実を証明したとあれば、セドリックに同じようなことをした前科のあるダリアがロミーリアを呪文で操り、アリバイの証言をさせたと勘ぐるのも無理のない事だった。
「ごめんなさい、私がセドリックに、ダリアに脅されてたんじゃないかって聞かれて、勢いよく否定したのも逆にまずかったみたいなの――――」
「―――――あんたのせいじゃないわ。大体私の自業自得だから。」
おかげでセドリックのロミーリア見守り(ダリアの監視)は更に厳しくなり、二人は中々会って話す機会を作ることが出来なくなってしまっていた。
おかげで今のように、ダリアが人避けや防音、目くらましの魔法を駆使して安全な空間を作る必要があった。
ダリアとロミーリアはそこで、誰にも言えない元の世界のことを話したり、勉強を教えあったりしていた。
ロミーリアは頭自体は悪くないのだが、ずっと貧しい孤児院育ちで、学校にも満足に通えるような経済状況になかったため要領があまり良くなく、主にダリアがロミーリアの勉強を見てやる側に回ることが多かった。
「――――――じゃあ、ダリアの世界ではイタリアは統一されずに、小さい国が集まったまま今まで続いているの?」
「うん。私が生まれたカプローナっていう国もその一つで、こっちの世界じゃ存在してないことになってるの。強い魔力に満ちた国だったから、この世界じゃどこかに押し込められてしまったのかもしれないわ。」
「世界が違えば、色々なことが変わってくるのねぇ。」
ロミーリアはダリアの故郷の話を聞くと、混乱したように頭を振った。
世界が違うと歴史も全く変わってくるので、色々な歴史を知る分、たった今覚えた魔法史の年号もあやふやになっていくような気がした。
「ダリアは頭いいのね。いろんな世界のことを知っているのに、魔法史の成績もすごくいいんでしょ?」
「まあ、私はもともと勉強するのが嫌いじゃないし。」
「レイブンクロー生みたいね。」
ロミーリアがクスクス笑いながら言った。
ダリアは自分でもそう思ったが、組み分け帽子はレイブンクローではなくスリザリンがふさわしいと考えた。
ダリアには友人が必要だと判断したのだろう。沢山の友人が出来た今、ダリアは帽子の判断に感謝していた。
確かにスリザリン以外の寮に入ってしまったら、威張り散らしたダリアは今でもずっと浮いたままだったと思うからだ。
スリザリン生は確かに性格に問題のある生徒が多いが、身内には甘い生徒が多いのも確かだった。
スリザリンといえば、と二人の話題はミセス・ノリスのことに移って行った。
「学校中で、怪物を操る犯人はスリザリンの生徒に違いないって噂が流れているけど、ダリアは本当にそうだと思う?」
「うーん、どうだろ。スリザリンって1000年以上前の人なんでしょ?子孫なんて辿ってみれば、それこそどの寮にも居ると思うんだけど。――――まあ、直系に近い子孫って言ったら、スリザリンの貴族たちって可能性が高いのかな?」
そういう意味では、ダリアの友人の一人であるドラコなど格別に怪しいのだが、先日の様子を見るにルシウス氏が裏で糸を引いているのは間違いないが、ドラコ自身は何も知らないと見ていいだろう。
「またこれから同じような事件が続くのかしら――――――」
壁に描かれたメッセージを思い出す。あれが始まりの合図なのだとしたら、犯人が見つかっていない以上、これからも同様の事件は繰り返されるだろう、とダリアは思った。
どことなく学校を覆う重い空気をよそに、ミセス・ノリス以降の被害者は続かなかった。
今日は学校中が待ちに待ったクィディッチの試合日だ。
この日のために繰り返し練習してきたドラコの初陣でもあるので、スリザリンの同級生達の興奮度合いはいつもの比では無かった。
ダリアも今回ばかりは「まぁ応援だけでもしに行こうかな」と思えたので、素直にダフネ達に付いてクィディッチ競技場へ向かった。
毎度のことだが、クィディッチの観戦席は宿敵グリフィンドールの応援の色に染まっていた。
いつもの反スリザリン感情もあるのだろうが、今回ばかりは、スリザリンチームが使用する箒にも原因があった。
ドラコの父親ルシウス氏が、なんとスリザリンチーム全員に最新型の競技用箒を寄付したのだ。いくら何でも親馬鹿すぎると思う。
そのせいでドラコは、「金でシーカーの座を買った」と陰口を叩かれるまでになっていた。
――――実際ドラコのシーカー選出にはそういう意図が少しは存在したとダリアは思っている。
それでもドラコは幼い頃から箒に乗っていただけあって、同学年のスリザリン生の中では一番飛行術が得意だったのも事実だ。
スリザリンチームとしてもドラコをただの箒の付録にしておく気はさらさらなかったらしく、この数か月ドラコをみっちり鍛え上げてきた。
抜け目のないマーカス・フリントは、ドラコの「お飾りのシーカー」としての前評判を逆手に取り、敵の油断を誘う作戦を考えていたのだ。
スリザリンの2年生たちはドラコの応援のため、早くに観戦席の良い区画を陣取り、かたずを飲んで試合開始を待っていた。
「ドラコは勝てると思う?」
「わからない。ポッターに比べて経験が足りないのは事実だからな。でも、その差を埋めるための練習は十分やってきたはずだ。」
パンジーとノットが不安げにドラコについて話し合っている。ドラコに片思いしているパンジーは勿論、幼馴染であるノットも、ドラコの初試合に緊張している様子だった。
ダフネとミリセントは応援用のメガホンと最新式のオペラグラスの準備で忙しくしていた。
ダリアも競技場を覗き込み、ニンバス2001を握りしめ、相手を見下しすぎて逆の見上げているドラコを心配そうに見た。―――――調子に乗って油断しさえしなければ、それなりに活躍できるとは思うけど、あの様子じゃあまり期待できないかもしれない。
やがて審判のマダム・フーチの笛の合図で、試合が始まった。
最新式の箒の効果か、スリザリンチームは持ち前のパワーに加えて敏捷性にも磨きがかかったようだった。グリフィンドールチームの選手の猛追を簡単に振り払い、次々とゴールを決めていく。
スリザリンの応援席が歓声で埋まる中、またしてもダリアはポッター――というよりはブラッジャーが不審な動きをしているのに気が付いた。
全員がゴール近くの攻防に夢中になっている中、ボールの動きが速すぎて目で追えないダリアは大体シーカーが居る上空を見ているので、彼らに何かが起こるとすぐに気づくのだ。
「なんかあのブラッジャー変じゃない?」
「あ?――――――ポッターの近くを飛んでるやつか。」
クィディッチに一番詳しそうなノットに聞くと、すぐに異変を察知したらしい。ビーダーが打ち返してもすぐに方向転換してポッターを振り落とそうとする黒い球を見て、眉を顰めた。
「確かにあの動きはおかしいな。ブラッジャーの役割は出来るだけたくさんの選手を箒から振り落とすことだ。あんな風に一人の選手を狙うことはあり得ない。」
「誰かが細工をしたのかな?」
異変に気付いたグリフィンドールチームがタイムを要求し、試合は一時中断した。グリフィンドールチームのメンバーが集まって、何やら話し合っている。
「―――――いや、無理だろう。クィディッチのボールは教員によって厳格に保管されているはずだ。誰かが細工をする隙なんてないと思う。」
「じゃあ、誰かが今呪いをかけてるってことよね。」
一年前の試合を思い出し、ダリアはブラッジャーを探ったが、どうにも魔力を辿ることが難しい。そもそもブラッジャーが速すぎて目で追うのが難しい。
魔法がかけられていることは分かるのだが、普段使っている魔法や呪文とは仕組みが違うのか、途中でかき消えてしまうのだ。
ふとダリアは、この不思議な魔力をマルフォイ邸で感じたことを思い出した。
―――うーん、ドラコは余裕綽々だから、こんな小細工必要ないって思うだろうし、やるとしたら、ルシウス氏?でもいくら親馬鹿だからって、学校のスポーツ競技にまでこんな小細工かける?
ダリアは考えたが、結論が出る前にグリフィンドールチームは試合の再開を決めたようだ。
ポッターは骨を砕かれてでも、試合に勝ちに行くつもりらしい。
そこまで勝負ごとにこだわりを持ったことが無いダリアは、「いや中止すべきでしょ。」と思った。
結局原因も分からないままブラッジャーはポッターを狙い続け、ついに彼の腕の骨を砕いた。
しかしポッターは折れた腕をぶら下げたまま飛び続け、なんとドラコの真上にあったスニッチを取ってしまったのだ。
文句のつけようのない完全な勝利に、会場は悲鳴と大歓声に包まれた。
「まぁ、今回は経験の差が出たんじゃない?次はこうはいかないはずだって。」
「これで試合の雰囲気にも慣れただろうし、今度はきっと試合に勝てるわよ。」
一方スリザリンの応援席では、泣き出してしまったパンジーを慰めようと、ミリセントとダフネが一生懸命前向きな言葉をパンジーにかけていた。
ノットは試合に負けたことは悔しかったようだが、半ばこの結果を予想していたらしい。無事にドラコの初試合が終わったことに安心しているようだった。
ダリアはやっぱりブラッジャーの暴走の原因が気になったので、じっと競技場でボールケースに押し込まれてる黒いボールを見ていた。
魔力を探ってみると、今はもう何の干渉も感じられなかった。やはり試合を見ていた何者かが、ボールを操っていたようだ。
今探っても原因はもう分からないだろう。
明らかに狙われていたポッターは、競技場のぬかるみの中に横たわっている。骨が折れて気絶しているらしい。
教員が救護に向かうのを遠目に見ながら、ダリアは今年の事件も何かしらポッターがらみだということを理解した。
試合に負けたドラコは、スリザリンチームにこってり絞られてしばらくシュンとしていたが、とあるニュースを聞いて一気に元気になった。
「ロックハートがポッターの骨を抜いただと?―――――なんてことだ、僕は今、初めてあいつがホグワーツの教員になってよかったと思ったぞ!」
「そうかな――――間違えて生徒の骨を抜くとか、普通に考えてまずくない?なんで辞めさせないの?」
相手がドラコなら、親から苦情の手紙が山のように届いていただろう。
ともかくポッターは今日一日医務室で過ごし、骨が生える地獄の苦しみに耐えなければならないという。
機嫌がすっかり良くなったドラコをねぎらいつつ、スリザリン生はそれぞれ自分の寝室へ帰って行った。
次の日の朝、またしても衝撃的なニュースがホグワーツを駆け巡った。
ミセス・ノリスに引き続き、新たな犠牲者が見つかったのだ。
犠牲者の名はコリン・クリービー。ハリー・ポッターの大ファンで、常にカメラ片手にポッターの周りをウロチョロしていた、マグル生まれの生徒だった。