一部のスリザリン生にとっては色々と思う所がある授業ではあったが、それでも「闇の魔術に対する防衛術」は、ホグワーツで一番人気の授業になった。
(ドラコ以外の)スリザリン生にとってもそれは例外でなく、入学して初めての実践的な授業内容を、毎回心待ちにしていた。
「―――――というか、今までがひどすぎたんだ。」
数占いの教室で教授を待つ間、ノットがだるそうに頬杖をつきながらぼやいた。
「ロックハートは言わずもがな、その前の年だって教科書を読むだけのクィレルだぞ?去年O.W.L試験だった先輩たちはめちゃくちゃ苦労したって話だ。皆が期待したってしょうがないだろ―――――――いい加減機嫌直せよ、ドラコ。」
「―――――――。」
度重なるノットの宥めにも、ドラコの意思は固く、ほだされることはなかった。「気に入らない。」というような顔をして、むっつりと黙り込んでいる。
ボガートのレッスンを受けてから、ドラコはずっとこの調子だ。
自分のボガートが「例のあの人」に変身したことが受け入れられないドラコは、ルーピンが学校中で人気者になってしまったことがたいそう気に入らないらしい。
聞く耳を持たない様子に、ノットがついに匙を投げた。
「だめだこりゃ。パーキンソンには『お手上げだ』って謝っといてくれ。」
「ええー、そんなぁ。ドラコまだ機嫌悪いままなの?」
ダリアはがっかりして言った。
ここ最近のドラコの不機嫌は凄まじく、ルーピンの姿を見るたびに空気がギスギスしてしまうのだ。
ダリアのぼやきを聞いて、ドラコがキッと視線を鋭くした。
「当たり前だろう!あんな、あの方をあんな風にしてしまうだなんて――――父上に何と言えばいいのか―――――」
頭を抱えるドラコに、ダリアは「別に言わなきゃいいのに。」とボソッと呟いた。
「好きにさせてやれよ。こいつ、腕が使えなくてイライラがだいぶたまってるんだ。そこにボガートだろ?どうしようもないよ。」
「――――まあ、そうなんだけどさぁ。」
腕のことを引き合いに出されると、ダリアは黙るしかない。不満げな顔をするダリアに、ノットが喉の奥でくつくつと笑った。
完全に面白がっている様子に、ダリアはノットの脇腹を強く抓ることで抗議をした。
「いてっ―――――お前、最近段々力が強くなってるぞ。ディゴリーとの特訓の成果が出てきたんじゃないか?」
「知らないわよ・・・・」
ダリアはふてくされたように口を尖らせた。
防衛術の授業で倒れた次の日、ついにセドリックがスリザリンの談話室を訪れた。
頻繁に医務室の世話になったり、倒れたりする場面を目撃されたせいで、ホグワーツにいる間もダリアの体力増強計画を進めることを決断したのだ。
ダリアが逃走しないよう、ディゴリー夫妻からの「しっかりセドリックの言うことを聞いて、元気になってね。」との手紙を引っ提げてという用意周到さだった。トゥリリ曰く「ダリアの影響を受けてスリザリン的打算を身に着けつつある」らしい。
というわけでダリアはここ最近、セドリックのクディッチの練習が無い日は、湖の周りをヘロヘロ走るという習慣ができてしまっていた。薄幸の美少女キャンペーンは諦めざるを得なかった。
ところで人気を上げていく「闇の魔術に対する防衛術」とは反対に、どんどん人気を落としてしまった科目があった。「魔法生物飼育学」だ。
ヒッポグリフの件でハグリッドはすっかり自信を失ってしまったらしい。授業は毎回、延々とレタス喰い虫に刻んだレタスを与え続けるだけのものになってしまった。
虫が嫌いなダフネなどは、毎回ザビニに全て役目を押し付けて隅で小さくなって一時間を過ごす羽目になっていた。
「―――――っていうか、毎回同じって授業としてどうなの?カリキュラムどうなってるの?もしかして残り一年このまま芋虫に餌を上げ続けるだけなの?」
『その可能性は十分あるねぇ。』
「――――ありえないでしょ!それなら毎回キメラやシー・サーペントのお世話をした方がマシよ!つまらなすぎるわ―――――」
―――――どうしてダンブルドアはハグリッドを重用し続けるのかしら!
ダリアは深夜禁じられた森を探索しながら、トゥリリに向かってブツブツと愚痴をこぼしていた。
最近ハグリッドは酒浸りなので見回りも無く、以前よりも気軽に探索ができるようになっていたのだ。ダリアはベッドにダミーを置くと魔法で姿を透明にして、こっそりと寝室を抜け出していた。
「――――よし、ここらへんでいいかしら。」
森の中ほどまで来ると、ダリアは足を止めた。周りに人避けの結界を張ると、ごそごそと胸元に下げていたペンダントを取り出してブンブン上下に振った。
「出てきなさい!えーと―――――――――あ、そうそう。トム!」
「ぐっ――――――――おい、どうしてそう野蛮な方法で呼び出すんだ!?」
「あら、ご機嫌斜め。ごめんね。」
ダリアはケロリと謝った。全く反省はしていない様子だった。
乱暴な方法で目覚めさせられたリドルはいきり立ったが、あたりが室内ではないことに気が付き、戸惑った表情を浮かべた。
「ここは――――――まさか、ホグワーツ?禁じられた森か?」
「そうよ。なんだ、あなたも来たことあるんだ。一応は優等生で通ってたって聞いたから、校則違反なんかしたことないと思ってたわ。」
「――――僕はスリザリンだぞ。規則の抜け道なんて山ほど知っている。」
「まあ、それもそうか。スリザリン生はやや規則を無視する傾向があり、と。」
『ダリアもだけどね。』
ダリアは偉そうに腕を組むと、近くの木の太い根に腰を下ろした。
リドルは相変わらず、最大限の警戒姿勢を見せている。ダリアはその様子を笑って、リドルを魔法で無理やり地面に座らせた。
「まあ座りなさいよ。今日はあなたに頼みたいお仕事があって呼び出したのよ。きっとあなたにとっても興味深いお話だと思うわ。」
「仕事?―――――――いったい何のことだ?」
「あなたには、ちょっとしたお使いを頼みたいと思ってるんだよね。」
『――――――――ちょっと世界は超えなきゃいけないけどね。』
ダリアが思いついたリドルの活用方法。それは、世界Aとの伝言役としてリドルを使うことだった。
2年生の終わり、キャットと接触したダリアは、後見人がこの世界Bを訪れる際に事前に連絡を貰うという約束を取り付けていた。
しかし、これがまた難しいことだった。いくらキャットとダリアの二人が大魔法使いだからといって、半人前が二人揃っただけである。あの最強の大魔法使いの目をかいくぐって連絡を取り合うことは簡単ではない。
そこでダリアが思いついたのが、分霊箱としての機能を失い、魂でも命でもなく「ただの記憶」になってしまったリドルを、伝書鳩のように利用するということだった。
今やリドルは、ダリアの匙加減一つで存続が決まる儚い存在だ。ほんの少し隠蔽の魔法を使えば、ちょっとやそっとじゃ見つからない伝言役になってくれるだろう。
それに、肉体が無い方が世界間の移動は容易である。
ダリアは一通りの関連世界についての説明をリドルに施した。
元々かなり頭がいいのだろう。リドルはダリアのする突拍子もない話を、頭を抱えながらもすぐに理解した。
リドルはこめかみをもみながら、一つ一つ確認していった。
「――――平行世界がいくつか存在する、という理論は、どうにか納得しよう。理屈は矛盾していないし、そうでもないとお前が使う魔法体系の存在に説明がつかない。」
「そうね。こちらとあちらでは、魔法の位置づけがだいぶ違うから。きっと全然違う発展を辿ってきたはずよ。」
「――――だが、魔力の法則などは変わらないはずだ。お前の理論で言うと、人を一人異世界に送るには、それこそ人間一人の命を燃やし尽くすほどの魔力が必要になってくるぞ。そんな魔力をどこから捻出するつもりだ?一人では不可能だろう。」
「あ、その辺は大丈夫。元々私、一人でこっちの世界に来れるくらいの魔力は持ってるからあなたを送るくらい簡単にできるし。――――――そもそもあなた『人』じゃないから、この世界から押し出す魔力もずっと少なくて済むはずよ。」
「―――――なるほど、理論上は可能なわけか。理解したくないけど、理解したよ。だが、この計画には穴がある。違うかい?」
リドルが挑発的に言う言葉に、ダリアは首を傾げた。心当たりはない。完璧な計画のはずだ。
「この計画の穴は―――僕が協力する理由がないということだ。」
「――――――はぁー?何よそれ!?」
生存権を全て握られた状態でのこのリドルのふてぶてしさに、ダリアは思わず叫んでしまった。リドルは開き直ったかのように腕を組んで余裕の表情をしている。
「だってそうだろう?君の言う理論の通りなら、世界間の移動には繊細な配慮が必要なはずだ。だから君は僕に、世界を移動する方法を教えた。つまり、僕の側からも何かしら働きかけが必要だということだ。――――あえて僕が危険を冒してまで、そんな事をする理由は無い。」
「むぅ―――――――――。」
リドルの発言は、ある程度的を射ていた。
ダリアは「狭間の世界」を経由するルートでリドルを世界Aへ送ろうと考えていたが、狭間の世界は非常に不安定な場所だ。逐一魔法で強制的に操るのではなく、自分の意思で動かなければならない場面も出てくるかもしれない。
「それはそうかもしれないけど―――――あなた、自分の立場分かってるの?私がちょっとこの紙切れを破っちゃうだけで、消えちゃうのよ?」
「僕は分霊箱としての機能を失った。このまま意味も無く存在し続けるくらいなら消えた方がマシだ。」
リドルはきっぱりと宣言した。プライドが高いリドルからすれば、年下の少女に生殺与奪権を握られたこの状態は耐え難い状況だった。
ダリアはそれを聞いてしばらく考えていたが、少ししてわざとらしくため息をついた。
「うーん、ちょっと見込み違いだったかなぁ。あなたはもっとスリザリンらしいと思ってたけど、そんな思い切った決断をするなんて、随分グリフィンドール気質なところもあるのね。」
「なに?」
見え透いた挑発だったが、リドルにとっては聞き逃せない言葉だった。スリザリンの末裔を名乗る彼にとって、今の言葉は琴線に触れるワードだ。
にわかに気色ばんだリドルに、ダリアはわざとらしい口調のまま続けた。
「スリザリンは目的のためなら手段を択ばない―――――確かに、今のあなたは分霊箱としての機能を失った、ただの記憶の名残よ。そのまま消えるのもまぁ一つの選択肢だとは思うけれど。――――――その状態を打破するための手段を探そうとも思わないわけ?」
「―――――!!つまり、君は僕を復活させる手段があると、そう言っているのか?」
リドルの表情が一気に変わった。きっと頭の中ではリスクとリターンの計算がせわしなくされているのだろう。
蛇のように狡猾に生き延びるために。それでこそスリザリンだ。
ダリアはにやりと笑ってリドルに告げた。
「最初に言っておくけれど、あなたをヴォルデモートの分霊箱として復活させることは難しいよ。でも、『あなた』に肉体と魂と命を与えて、一人で生きていけるようにすることは不可能じゃないわ。――――というか現時点で、私はあなたにそれに似たような事をしてあげることができると思う。物に命を与える魔法ってよくやってたし。」
「――――――。」
「そもそも、分霊箱として復活する方法も、世界Aを探しているうちに見つかる可能性だってあるわ。魔法の体系が全く違うんだから、思いもよらない方法が存在するかもしれないしね。まあ、あなたがあちらとこちらを行き来するのが嫌だっていうのなら、出来っこないんだけど。」
「――――――――契約をしよう、ダリア・モンターナ。」
リドルが唐突に、初めてダリアの名前を呼んだ。
ダリアは相手が自分の差し出した餌に食いついた事を察知し、楽し気に笑った。
「何かしら?」
「―――――――期間を定めてくれ。終わりのない隷属は気力を削ぎ落とし、仕事の精度を著しく下げる。明確な期限が定められたなら、僕はその間、君の手足となって働こう。」
生き延びるために。
「うふふ―――――――いいわよ。じゃあ、そうねぇ。私が卒業するまでの間はどう?それくらいになれば、きっとあの人から身を隠す手段も思いついてると思うし。約束するわ。卒業するまで私のために働いてくれたら、あなたを復活させて、自由にしてあげる。」
「それを証明する方法は何かあるかい?」
「特にないけど。そこはあなたが頑張って私に媚を売って、復活させてあげたい!って思わせるようにすればいいんじゃないの?」
「ふん、上等じゃないか。」
『――――――うーん、これって中々よくない組み合わせじゃないかなぁ。』
二人はお互いに笑いあって、危うい契約を成立させた。
その様子を一匹心配そうに見ていたトゥリリが、不安げにぼやいていた。
「どうしたのダリア。最近なんだか機嫌がいいんじゃないの?」
「あ、うん。最近ちょっと体のいいパシリ、ううん、うーんと、使い魔みたいなのを手に入れたの。だからじゃないかしら?」
「――――大丈夫なの?それ。」
図書室の一角で、ロミーリアが不安げに囁いた。
昨年知り合ったロミーリア―――ジャネット・チャントと名乗っている――――とは、現在も交友が続いていた。こうして週に一回程度のペースで、一緒に勉強をしているのだ。
リドルは意外と真っ当に、伝言役としての役割を果たしていた。
あちらの世界の存在は、リドルにとって相当なカルチャーショックだったらしい。魔法が隠されていない世界を知ったリドルは、あちらの魔法体系を知るのに夢中になっている。
キャットは最初リドルと対面した時、その来歴を聞いて「本当に大丈夫なの?」と何度も念を押してきたが、最終的には折れてくれた。頻繁に世界を行き来するようになったリドルから、毎回質問攻めをされてまいっているそうだ。魔法理論が苦手なキャットにとっては、人に説明することはいい勉強だと思うのだが。
天文学のレポートを終わらせたロミーリアが、大きく伸びをした。
「ああ、やっと終わった!これでようやく、何の気兼ねも無くホグズミードに行くことができるわね。」
「あ、そっか。今週末からホグズミードに行けるんだっけ。」
今週末のハロウィーンは、3年生が初めてホグズミード行きを許可される日でもあった。
ダリアもいつもの女子4人組で、ホグズミードで店を回る計画を立てているところだった。
「ロミーリアもハッフルパフの人たちと行くの?どこかおすすめの場所ってある?」
「あ、え、うん。そうね。行くわよ。行くけど―――――」
ロミーリアはかすかに言いよどんだ。
「―――――友達とじゃないの。私、デートに行くのよ。」
「デート!?!?」
ダリアは思わず大声で叫んで勢いよく立ち上がってしまった。マダム・ピンスにじろりと睨まれ、慌てて座ったが、興奮は抑えきれなかった。
小声のまま身を乗り出し、ロミーリアに詰め寄った。
「で、デートに行くって!?ほんとに、すごい、すごいわ!一体誰と――――――ま、まさか、その、クィディッチチームのメンバーだったり、しないわよね?」
「えっと―――――そうよ、ダニーとなんだけど。知ってたの?」
「あ、なんだそっち(ダニー)か。」
ダリアの食いつきにロミーリアは若干引いていた。
相手がセドリックの親友、ダニエル・マクニッシュだと知ったダリアは、いきさつについても根掘り葉掘り聞いてきた。
「で、どういう経緯でそうなったの?どっちが誘ったの?」
「ダニーからだけど・・・・」
「きゃーっ!やるぅ!それでそれで?二人はいつから恋人同士なの?」
目をキラキラ輝かせているダリアに、ロミーリアは一瞬怯んだ。言いよどんだ末、ロミーリアは渋々吐いた。
「――――実は、もう随分と前に、ダニーに付き合ってくれって告白されてるの。」
「えっ、そうなの?―――――ってことは、二人はもう恋人同士ってことなのよね?」
「ううん。返事はしてないの。」
「?―――??―――――なんで?」
ダリアはわけが分からなくなってしまった。ダリアの恋愛観では、男女の関係はデート→返事→恋人という順序で、順々に発展していくものだった。ダリアが元の世界で愛用していたキャロル・オニールの夢枕でも、全て似たような形式で話が進んでいく。
そんな幼い恋愛観の持ち主であるダリアにとって、ロミーリアの言うことはあまり理解できないことだった。
ロミーリアはダリアの疑問に、言葉を探しながら答えてくれた。
「なんて言えばいいのか―――――――そうね、後ろめたいっていうのかしら。」
「後ろめたい?どうして?何も悪い事じゃないでしょ。浮気してるわけじゃないんだから。」
「それは、そうなんだけど。――――――私は、本物のジャネットじゃないから。ジャネットが受け取るはずだった幸せを私が受け取っていいのかという思いもあるし、ダニーに嘘をついているっていう負い目もあって。」
「負い目――――。」
ダリアは複雑な気持ちで繰り返した。「負い目」は、ダリアもディゴリー家の面々に対して、感じたことがあるものだった。
ダリアもロミーリアも、この世界には本来存在しない異物だ。無理やり世界にねじ込まれているに過ぎない。ダリアは決してディゴリー家の本当の家族にはなれないし、ロミーリアはダリア以外に本当の名前を呼ばれることは無い。
「でもそれって――――――悲しいわ。ダニーはジャネットじゃなくて、ロミーリアの事を好きになったんでしょ?本当の名前を言えないのは確かだけど、だましてるわけじゃないじゃない――――あとついでに、ジャネットは年上の男性が好みだから、もしダニーがジャネットをデートに誘ってたら、確実に振られてたわ。」
「ええ。それは分かってるんだけど―――――」
それでもロミーリアは煮え切らない調子だった。自分で自分に納得がいかないらしい。
結局その場は、デートの結果を報告すると約束をして、解散になった。
手を振って去って行くロミーリアを見送っていると、鞄の中からトゥリリが顔を出した。
『さすがハッフルパフ生。誠実だからこその悩みがあるんだね。』
「うん。そうね――――――」
ぼんやりとした返事を返しながら、ダリアも自分の「負い目」について少し考えてしまった。
あっという間にハロウィンがやって来た。
ダリア達4人はスネイプにホグズミード行きの許可証を提出すると、きゃいきゃい騒ぎながらホグズミードへ向かった。
ホグワーツの門を守るディメンターを意識から排除してやり過ごすと、後はもう楽しむだけだ。事前に立てていた計画通り、まずはグラドラグス魔法ファッション店を訪れた。
店では魔法のかけられた服飾品が所狭しと陳列されていた。夏休みには本場のパリでしこたま買い物をしたはずの4人だったが、それとこれとは話が別だ。秋冬もののストールやカーディガンなどをあれやこれやと漁っていた。
大量に服を買い込んだ4人は、拡張呪文を掛けた鞄に戦利品をぎゅうぎゅう詰めこむと、マダム・パディフットのお店で一息ついた。
店内はカップルのたまり場となっていたが、ピンクのフリルで埋め尽くされた装飾は女生徒からの人気が高い。意外と友人同士で訪れているホグワーツ生も多かった。
「いっぱい買ったわね!新しい髪飾り、ドラコ気付いてくれると思う?」
「多分ね。あいつそういう所マメだし、すぐ気づきそうよね。」
「きっとマルフォイ夫人にきちんと仕込まれてるのよ。」
「そういう所はいいところよね。」
ダフネを筆頭に、先ほどの戦利品を広げて確認していると、ダリアは店内にロミーリアとダニーが居るのを見つけた。
ダニーは店内の雰囲気に落ち着かない様子だが、二人とも楽し気に会話を弾ませている。ダリアは頬をピンクに染めたロミーリアを見て少し安心した。図書室での会話から、楽しめているか不安だったのだが、杞憂だったらしい。
しばらくペチャクチャとおしゃべりしていた4人だったが、ふとした瞬間に、パンジーが「そういえば。」と声を潜めた。
「ちょっとダリアに聞きたいことがあるんだけど。―――――――闇の魔術に対する防衛術で、ダリアのボガートが男の人に変身したでしょう?あれはいったい誰なの?」
頬を赤く染めて興奮するパンジーに、3人は脱力した。
「ちょっと――――――パンジーったら、気が多すぎない?」
「ロックハートに続いて、今度はボガートなの?ドラコはどうしたドラコは。」
「ち、違うわよ!本命はドラコ、それは変わってないわ!で、でもとっても素敵な人だったから、せめて名前だけでもと思って――――」
ダフネとミリセントの呆れたような視線に、パンジーは必死で反論している。
しかし、ダリアは「やっぱりこうなるわよね。」と訳知り顔だった。後見人が驚くほどハンサムで、少女たちが一瞬で心を奪われるというパターンは見慣れた光景だったからだ。
「私の後見人よ。名前はクリストファー。ちなみに、既婚者で子供も二人居るから。」
「ええっ!そうなの?」
「そうなの。」
がっかりした表情のパンジーに、ダリアは神妙に頷いて見せた。しかも子供は二人ともダリアより年上だ。
「怒ると死ぬほど怖いのよ。城中の窓ガラスを割る悪戯をした時にくらった拳骨は今でも忘れられないわ―――――」
「いや、あんた何してるのよ。そんなの誰でも怒るわよ。」
ミリセントはダリアがかつてしでかしたとんでもないいたずらに、真顔で突っ込んだ。
その後マダム・パディフットの店を出た4人は、ハニーデュークスでお菓子をたっぷり買ったり、三本の箒でバタービールを飲んだりしてホグズミードを味わいつくすと、ホクホク顔でホグワーツに戻ってきた。
ハロウィーンの宴で山ほどかぼちゃパイを食べ、寮に戻って寝室で鞄から買ったものを取り出してクローゼットに収納していると、スリザリン生全員が談話室に集まるよう、魔法で拡大された声で指示が出た。
「今の、スネイプ先生の声かしら?」
「多分ね。何かあるのかしら。」
「ハロウィーンのお菓子をくれるとか。」
「ないない。ありえないでしょ。―――――ありえないわよね?」
当然ながら、ありえなかった。
スネイプは幾分か焦った表情で、スリザリンの監督生に全員を大広間に連れてくるよう指示を出し、慌ただしく談話室を出て行った。
指示を受けた監督生も、戸惑いながら下級生を引率して大広間へ向かう。
「こんな時間からどうしたのかしら。」
「パーティーの続きとか―――――?」
「だから、ありえないってば!」
戸惑いながら向かった大広間には、4寮の生徒が全員集まっていた。そこで告げられたニュースは、驚くべきものだった。
夏の初めにアズカバンを脱獄した凶悪犯、シリウス・ブラック。その凶悪犯が、ホグワーツの城の中に侵入したというのだ。
ディメンターに守られているから、ホグワーツは安全である。生徒達はずっとそう言われ、恐ろしいディメンターと同じ場所で過ごすことを受け入れてきた。
しかし、実際シリウス・ブラックは校舎内に侵入してしまった。
結局今夜はブラック捜索のため、生徒達は全員大広間で眠ることになった。
しかし、今日はハロウィーンだ。生徒達が大広間に集まっていることなど、卒業生であるシリウス・ブラックは知り尽くしていたはずだ。にもかかわらず、ブラックはどうしてわざわざグリフィンドールの談話室へ入ろうとしたのか。
生徒達が寝袋に包まれて眠りにつく中、ダリアはブラックの目的について思いを巡らせていた。