「先に言っておくけど、今回のことに関しては、私は全く悪くないからね。」
翌朝マダム・ポンフリーに退院の許可を貰い(案の定入院の頻度の多さにぶちぶち言われた)、スリザリン寮に帰ってきたダリアは、ドアを開けるなり友人たちに向かってそう告げた。
開口一番にそう告げたダリアに、ダフネ達は大きくため息をついた。
「あのねぇ――――――流石にそれくらいは分かってるわよ。ディメンターが入って来ることなんて予想つかないもの。」
「本当にそう思ってる?しょっちゅうバタバタ倒れやがってとか思ってない?」
「思ってない思ってない。」
「ほんとに?いい加減心配するのにも飽きてきてない?」
「飽きるようなものじゃないでしょ。」
「えぇ~。ほんとにぃ?ちょっと慣れてきた感じはあるでしょ?」
「しつこい!!」
「そんなに強く言わなくてもいいじゃない。」
ちょっと安心したダリアは、口を尖らせながらソファに座った。
「ちょっとした冗談なのに。――――――いたいいたい!!」
無神経なダリアに、割と本気で心配していた3人はイラっとした。背中や肩をバシバシはたかれたダリアは悲鳴を上げた。
ミリセントは言わずもがな、比較的非力なダフネとパンジーの小突きも、割と力が入っていて痛かった。
「まったく、すぐに調子に乗るんだから。」
「―――――――でも、ダリアが良く倒れるのは本当よね。最近は特に多い気がするわ。大丈夫なの?何か病気とかじゃ――――。」
ダフネの妹、アステリアは体が弱い。何世代も前に一族に掛けられた血の呪いが、隔世遺伝としてアステリアに現れたらしいのだが、そのためアステリアは幼い頃から頻繁に重い病に苦しめられていた。
時には生死の境を彷徨ったこともあり、その経験はダフネのトラウマにもなっている。
その時のアステリアの姿と、頻繁に倒れるダリアの姿が重なり、最近のダフネは気が気でなかった。
グリーングラス家と昔から交流があったパンジーとミリセントは、その事を察していた。
「確かに、冗談じゃなく体調には気を付けた方がいいわよ。ただでさえあんた、最近よくトイレに行ってるし。お腹の中を痛めてるんじゃないの?」
「私もそう思う。だってダリア、最近は授業が終わるごとにトイレに行ってるじゃない。妙に疲れた顔で帰ってくるし――――――手遅れになる前に、一度検査してもらった方がいいと思うわ。何かあってからじゃ遅いのよ。」
ダリアは思わず口を閉じた。逆転時計を使う際の言い訳が「ちょっとトイレ」だけというのは流石にまずいのではないかと、最近気づいてきたところだったのだ。
そう思いつつも毎時間言い訳を考えるのも面倒だったダリアは、「トイレ問題」を放置していた。そのツケが回ってきたらしい。
ようやく自分が便秘女子扱いされていること自覚し始めていたダリアはとても焦った。諦めたとはいえ「薄幸の美少女キャンペーン」どころの話ではない。早急にイメージ回復を図る必要があった。
「ううん。全然、全く、本当にそういうのじゃないから。元気元気超元気。マダム・ポンフリーお墨付きの健康優良児!なんていうか、体質的なものっていうか――――――ホラ、ポッターも最近バタバタ気絶してるんでしょ?珍しい事でもないんだから心配ないって!」
「ポッターを引き合いに出されてもねぇ。」
今年に入ってダリアが医務室に厄介になるときには、何故かポッターも同じように入院していることが多いのだ。今回の入院でも、悲壮な顔をしているポッターがベッドで寝ていた。
どうやら昨日の試合で箒から落ちたのはポッターらしい。20メートルも落下したポッターは、今週いっぱいは入院する必要がある、とマダム・ポンフリーがフンフン息巻いて言っていた。
ポッターもダリアと同じように、ディメンターと対面した時には必ず医務室の世話になっている。彼の生い立ちを考えると、死に近しい経験をした人間は共通して、ディメンターに対して過剰に反応してしまうのかもしれない。
「――――って、そういえば、試合って結局どうなったの?セドリックがスニッチを捕ったから、ハッフルパフの勝ちになったのよね?」
ポッターの入院で、ダリアは一番大事なことを思い出した。ポッターが落ちたタイミングによっては、セドリックのプレーが無効となり、試合がやり直しになっている可能性も無くは無かった。
「ああ、結局ダリアは途中で気を失ったから、試合の結果を知らないのよね。安心しなさい、ハッフルパフがちゃんと勝ったから。」
「やったー!!!!」
ダリアは飛び上がって喜んだ。クィディッチの試合結果でこれほど気分が高揚するのは始めてだ。ダリアは歓喜の気持ちを抑えきれず、興奮したまま談話室のドアに飛びついた。
「ちょっとダリア、どこ行くの!?話は終わってないわよ!」
「ごめん、ちょっと大広間行ってくるね!!」
「――――――モンターナ!!廊下を走るんじゃない!!!スリザリン5点減点!」
偶然居合わせたスネイプが、ゴムまりの如く飛び出すダリアを目撃して鋭く叱責を浴びせたが、ダリアは全く気付かずにそのまま走り去ってしまった。
ダリアは一つのことに集中すると、周りが見えなくなってしまうことが多々あった。
大広間に駆け込んだダリアは、一目散にハッフルパフのテーブルへやって来た。昨日の勝利に、ハッフルパフ生達からどことなく浮足立った雰囲気を感じる。ダリアは長机の合間をかき分け、セドリックの姿を探したが、どうしても見つけることができない。
試合で疲れ果てて、まだ寝ているのだろうか。
ダリアがキョロキョロしていると、明るい金髪の見知ったハッフルパフ生の姿を見つけた。朝食を食べ終え、寮へ帰ろうとしている。
ダリアは急いで駆け寄ると、その華奢な背中に飛びついた。
「ロミーリア!」
「きゃあっ!?―――――――だ、ダリア?」
突然背後から飛び掛かられたロミーリアは、目を白黒させて振り返った。ダリアは彼女の腰のあたりにしがみついたまま、美しいブルーの瞳を見上げた。
「ねえ、セドリック知らない?まだ起きてないの?」
「ああ、セドリックは―――――――」
ロミーリアはセドリックと同じ5年生だ。何か知っているかもしれないと思い聞いてみたのだが、幸いなことに心当たりがあるらしい。
しかし、ロミーリアは何故か言い淀んだ。不自然に言葉を途切れさせた後、長いまつ毛を伏せて思案している。
しばらくの沈黙の後、ロミーリアは眉を困った様に下げたまま顔を上げた。
「そうね――――――ダリアくらい無茶苦茶な子と話した方が、気が晴れるかも。」
「??―――――え?何?どうして私悪口言われたの?」
「ついてきて、セドリックは今、ハッフルパフ・チームのロッカールームに居るわ。」
「????」
ダリアはわけが分からないまま、ロミーリアに手を引かれてクィディッチ競技場の方へ向かった。
クィディッチ選手のロッカールームは、競技場のすぐ近くに設置されている。当然ダリアは初めて訪れる場所だ。
城にあったクリケット選手の控室のようなものを想像していたため、もっと煩雑に散らかっているものだとばかり思っていたのだが、(少なくともハッフルパフ・チームのロッカールームは)意外と小綺麗に整頓されている様子だった。
そのロッカールームの中央に設置された長椅子の端に、セドリックが俯き加減に腰かけていた。ダリア達が入ってきた物音にも気付かない様子で、明らかに落ち込んでいる。
「―――――――え?なんで?」
ダリアは面食らって、ポロっと口にしてしまった。
グリフィンドールのキャプテンが落ち込むのならまだ理解できるが、勝利したハッフルパフのキャプテンであるセドリックが項垂れている理由が全く分からない。
横に座っていたダニーが入り口近くにこっそり立っていた二人に気付き、片手を上げた。そのままセドリックを刺激しないよう、静かにその場を離れて近づいてくる。
「ようチビちゃん、よく来たな。ハッフルパフ・チームのアジトへようこそ。」
「もうダニー、ふざけないで。―――――セドリックの様子はどう?」
「どうもこうも、相も変わらず沈んだまま。朝一番に寮を抜け出してからずっとこの調子だぜ。―――――まあ確かに、談話室や大広間じゃ落ち着かないとは思うけどな。」
ダニーとロミーリアが抑えた声で話している内容から察するに、セドリックはだいぶ長い間ロッカールームでこうなっていたらしい。不特定多数の人間に話しかけられることなく、一人で静かに過ごしたかったのだろうか。
しかし、なぜこうなっているのか理由が分からない。
「ねぇ、どうしてセドリックはあんなになっちゃったの?試合に勝ったんでしょ?嬉しくないの?」
ダリアの純粋な疑問に、ダニーの目が泳いだ。
「あー、まあ、勝ち方の問題っていうかなんというか。――――――最後、ポッターがディメンターのせいで箒から落ちただろ?」
「うん。」
スリザリンの談話室でも、そのことが話題になっていた。ドラコ達がさも嬉し気に吹聴し、大盛り上がりを見せていた。ライバルの失敗が嬉しくてしょうがないらしい。
それがどう関係があるのか。ロミーリアが沈鬱な表情でダニーの言葉に続けた。
「それがフェアじゃなかったって、ずっと気にしてるみたいなの。」
「フェアじゃないって―――――誰も試合のやり直しを要求しなかったんでしょ?それってつまり、フェアだったってことなんじゃないの?」
「いや、セドが試合のやり直しを要求した。」
「はぁー?」
ダリアは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。ダリアにとってみれば、どんな形であれ勝ちは勝ちである。何が不満でせっかくの勝ちを取り消そうとするのか。
「そして、要求は却下されて、ハッフルパフの勝利が決まった。」
「いいことじゃない・・・・・何が不満なのよ・・・・・。」
あまりの展開に、ダリアは途方に暮れてしまった。
ハッフルパフの勝利を祝おうというのが当初の目的だったが、肝心のセドリックがこの調子では果たせそうにもない。
「俺もチームの奴らもずっとそう言ってるんだがな―――――あいつ、ああ見えて意外と頑固だし、かなり負けず嫌いなんだよなぁ。」
「ええっ――――――そ、そうなの?」
セドリックは基本的に温厚かつ穏やかな性質の少年である。彼が競争心をむき出しにしているところなど、全く想像がつかない。
ダリアの驚いた様子に、ダニーは笑った。
「そうか?結構わかりやすいと思うけどなぁ、頑固なところとかは特に。―――――要するにセドリックは、自分の意思を曲げるのが苦手なんだよ。幸いセドリックの持ってる意思が倫理的に正しいからか、今までやり玉にあげられたことはないけどな。」
「――――――まあ確かに、めちゃくちゃ思い込み激しいところはあるよね。――――しかも一回思い込んだら、中々曲げなかったし――――――。」
「だろ?」
ダニーの話を聞いて、ダリアは去年、ヴォルデモートの配下なのではないかと疑われたことを思い出した。状況だけ見ればダリアを疑うしかなかったとはいえ、あの時もセドリックは自分の倫理観に基づいた意思を決して曲げることが無かった。
「そんでもって、頑固だってことはつまり、相手によって自分の意思を曲げたくないっていう負けん気にも通じるわけだ。―――――俺が思うに今回のコレも、フェアな条件下での試合に勝ってこそ、真実に価値ある勝利だ、とでも思ってるからなんじゃないか?」
「なる、ほど―――――――。」
ダリアはセドリックの性格について、少しばかり思い違いをしていたということに初めて気が付いた。
最初、セドリックは「ポッターに悪い」から落ち込んでいるものだとばかり思っていた。
しかし実際、彼の落胆の中には「相手に自分の実力で勝つことができずに悔しい」と思う気持ちが少なからず含まれていたらしい。
それを念頭に置いて思い返してみれば、セドリックの自分にも他人にも厳しいストイックさは、「できる限りお互いの条件を揃えた上で、実力で相手に勝りたい」という気持ちの表れなのかもしれない。
「じゃあ、どうすればいいの。グリフィンドールに申し訳ないって落ち込んでるだけなら、どうとでも言い包められると思うんだけど。自分の気持ちに折り合いがつかないって理由で沈んでるんじゃ、どうしようもないじゃない・・・・・・。」
「いや、んなことはないさ。前にもこうなった時があるんだが、その時はダチで集まってバカ騒ぎしてやればいつの間にかもとに戻ってたからな。今回も何か気を紛らわせてやれば――――――――ハッッ!!!」
話している途中で、ダニーは何かとんでもないことに気付いてしまったかのような声を上げた。突然の大声に、ダリアはびびって10センチほど後ずさった。
「な―――――なによ!突然大きい声出して、びっくりしちゃったじゃない!」
「いやなに、ものすごい名案を思い付いてしまった。まあ聞いてくれよ兄弟。」
「は?」
妙に馴れ馴れしいダニーに、ダリアは思わず眉を顰めた。そんなダリアには露ほども気付かず、ダニーはダリアの首根っこを引っ張って部屋の隅へ引きずって行く。
「ちょっと何するのよやめてよ。」
「まあおちついて聞けって。チビ、ジャネットと仲いいんだよな?」
「―――――まあ、それなりにいいと思うけど。」
何故か声を潜めるダニーにつられ、ダリアも自然と蚊の鳴くような声のボリュームになってしまう。
ダニーはダリアの返答に満足気ににんまりと笑い、横目にロミーリアをちらちら見ながら、とっておきの重大な秘密を打ち明けるように、ダリアの耳元でコソコソと囁いた。
「お前、今度ホグズミード行きの許可が出る週末に、ジャネットを誘ってホグズミードに行ってくれないか?」
あまりに脈絡がなかったため、ダリアは目が点になった。
「それは、別に、いいんだけど。――――――なんで?」
「そして、俺は、セドリックを連れていく。そこでバカ騒ぎをするのだ。」
「――――――――。」
ダリアは一瞬で察した。こいつは親友をダシにしてロミーリアをデートに誘い出す気だ。
ダニーが繰り返しロミーリアにアプローチをかけていることは、ダリアも知っている。ロミーリアが満更でも無さ気な雰囲気を醸し出しているということも。
しかしロミーリアが中々煮え切らないため、ダニーはクリスマスに仕掛けることにしたに違いない。ダリアのじっとりとした目線に気が付き、ダニーは慌てて弁解をした。
「いや、別にやましい気持ちが100パーセントなわけじゃない。セドに元気になってほしいのは本当だし、セドにそれなりに近くて、セドにキャーキャー言わない女といえば、親戚のお前くらいだろ?お前とジャネットなら、セドリックと一緒でも楽しく騒げると思ったんだよ。」
「――――――それで?」
「場が十分に温まり、セドリックも元気になったら、俺とジャネットは離脱して二人きりのクリスマスデートに繰り出すのだ。」
「欲望に忠実過ぎると思う。ほとんど下心じゃない―――――残される私たちの気まずさも考えて欲しいんだけど。」
あまりにあっけらかんと企みを吐いたダニーにダリアはすっかり呆れてしまった。話には聞いていたが、予想以上の積極性を見せるダニーに、ダリアは少し引いた。
しかし、ロミーリアが「ジャネット」に負い目を感じて逃げ腰になっているのは確かだ。何かきっかけが無ければ、このままズルズルと曖昧な関係が続いてしまうだろう。
ロミーリアの決断のために、一役買うのも手かもしれない。
「なあ、頼むよ~。きっとセドも、俺に協力するためって理由があれば、ホグズミードに出てきてくれると思うしさ。セドも元気になる。俺とジャネットも幸せになる。いい事尽くしだろ?」
「うう―――――――。」
ダニーの必死の説得に、ダリアはついに陥落した。
最初は、もう二度と誰にも負けたくない、という幼い決意だった気がする。
セドリックは自分の負けん気の強さを自覚していた。
その事を自覚したのは、近所に住むウィーズリーの双子と初めて遊んだ時のことだった。
3人とも幼い頃からクィディッチが大好きで、よく家にあったおもちゃの箒をこっそり持ち出しては、近所の広場でクィディッチの真似事をして遊んでいた。同じ村に住んでいた3人は、ある日偶然にも箒を持ったまま鉢合わせた。
3人は当然の流れとして、クィディッチの試合の真似事を始める。そこでセドリックは双子のコンビネーションになすすべもなく、コテンパンに負かされてしまったのだ。
一人っ子であるセドリックは、それまで勝負事など経験したことが無く、そのため初めての敗北は彼に鮮烈な悔しさを焼き付けた。その経験からか、実はウィーズリーの双子には、今でも苦手意識を持っている。
正々堂々と、あくまでフェアに条件を揃えた上で気持ちよく相手に勝ち、自分の実力を証明したい。
自分が生徒達がほめそやすような聖人君子ではないということを、セドリック自身が一番よく知っていた。
今回のクィディッチの件を思い出す。
ドラコの怪我の調子を鑑みてスリザリンと試合順を交代したことは、今でも後悔していない。チームに何人か難色を示したメンバーも居たが、ハッフルパフは基本的にフェアプレーを重んじる寮風なので、最終的には納得してくれた。
準備期間一週間の試合についても、不満はなかった。グリフィンドール側もハッフルパフ相手に作戦を変える必要があったし、ハッフルパフチームは普段から堅実に練習を重ねていたため、試合に向けての調整は無茶なことでは無かった。
当日の天気は大荒れだったが、条件が悪いのはお互い様だ。実際の所、セドリックはスニッチを手にするまでは本当にゲームを楽しんでいた。
問題はセドリックがスニッチを手にした後だった。極限までスニッチに集中していたセドリックは、小さな金色のボールを手中に収めてから初めて、競技場がディメンターに埋め尽くされていることに気が付いた。
同じシーカーであるハリーが、ディメンターのせいで箒から落ちたということを知ったセドリックは、当たり前のように試合のやり直しを要求した。
しかし審判は要望を却下し、セドリックの思いとは裏腹に、ハッフルパフの勝利が確定してしまったのだ。
下馬評を覆した勝利にハッフルパフ全体が沸いていた。寮で持て囃されても、セドリックの鬱屈とした気持ちは晴れることがない。
セドリックは試合翌日の朝こっそりと寮を抜け出して、一人クィディッチ選手のロッカールームに閉じこもって落ち込んでいた。
「―――――リック。おい、セドリック!聞いてんのかよ?」
「―――――ダニー?来てたのか―――――。」
肩を揺さぶられ、セドリックはようやくダニーがロッカールームへ来ていたことに気が付いた。完全に自分の世界に閉じこもっていたため、全く気が付いていなかった。
ダニーはセドリックの聖人君子でない部分を知っている数少ない友人の一人だ。今回もセドリックの様子がおかしい事を察して、様子を見に来てくれたのだろう。
「ごめん、わざわざこんなところまで付き合わせて。」
「今更だろ、気にすんな。―――――そこで、だ。セド。こういうどうしようも無い時はパーっと遊ぶに限るぜ!例えばホグズミードとか、ホグズミードとか、ホグズミードとかだ!!今度のホグズミードに行ける週末に、遊びに行こうぜ!!」
ダニーはわざとらしく芝居がかった様子でセドリックの肩を叩いた。
彼がセドリックの気分を盛り上げようとそうしてくれているのは分かったが、生憎だがホグズミードで騒ぐ気分にはまだなれなかった。
「ダニー。気持ちは嬉しいんだけど、ちょっと僕はまだ―――――。」
「―――――頼むよセド、ジャネットとのデートのためなんだ、付き合ってくれ!!」
先ほどとは打って変わり、小声で囁くダニーの視線を追って、初めて入り口近くにジャネットと、それから何故かダリアが居ることに気が付いた。ジャネットは心配そうな顔で、ダリアはムッツリと腕を組んで、こちらの様子を伺っている。
「デートって――――――なんのことだよ。」
「お前を慰めるっていう口実で、お前の従妹ちゃんとジャネットをホグズミードに連れ出すんだよ!そして場が温まってきたら、俺とジャネットはクリスマスのホグズミードに消えるのだ。――――――どうよ、完璧な作戦だろ?」
「――――――。」
セドリックはダニーの下心を察した。
ジャネットの友人の一人として、ダニーを寮監のスプラウト教授に突き出すべきか一瞬迷ったが、セドリックは二人が最近いい雰囲気で、あともう一押しをダニーが欲しがっているということを知っていた。
ここ最近のダニーの奮闘ぶりを見ていたセドリックには、協力してやりたい気持ちもあった。
「―――――それにさ、本当にお前の気分転換にもなるんじゃないかって思ってるんだぜ?話に聞く限り、お前の従妹ちゃんって相当ハチャメチャな奴なんだろ?あれくらい無茶苦茶なのが居た方が、お前の気も紛れるんじゃないか?」
「一体どんな話を聞いたんだ?」
可愛らしいとか、成績優秀だとかいうプラスの噂以外にも、「大声で猫と喧嘩して、最終的に負けて泣いていた」とか「本を読みながら壁にぶつかって気絶しているところを見た」とか、本当かどうか分からないキテレツな噂もよく流れるダリアである。
ダニーがどんな噂を聞いてダリアを「ハチャメチャ」と判断したのか、セドリックは不安になった。間違ってはいないが、どんなとんでもない噂が流れているのか心配になってしまう。
―――――しかし、気が紛れそうだというのも、あながち間違っていないかもしれない。傍若無人なダリアに振り回された方が、今の鬱屈とした気持ちも晴れるのではないだろうか。
セドリックはダリアの方を見た。
「―――――ダリア、ダニーはこう言ってるんだけど、都合はいいのかい?友達とホグズミードに行く予定はないのか?」
「別に、この前行ってからは特に約束してないし・・・・。」
「―――――じゃあ、4人でホグズミードに行くかい?」
「―――――――ン。」
ダリアは腕を胸の辺りで組んだまま、難しい顔でコックリと頷いた。どことなく不本意だという表情だが、ホグズミード行き自体は乗り気のようだ。
頷いたダリアをみて、ダニーがガッツポーズをした。
「よっし、これで決まりだな!じゃあ休暇前にパーっと遊んで嫌なこと忘れてやろうぜ!―――――――まあその前に、レイブンクロー戦があるのを忘れちゃいけないけどな。」
ハッフルパフは11月の末にレイブンクローとの対戦を控えていた。ハッフルパフはレイブンクローとは相性が悪く、元々勝率の低いゲームではある。
それでも今年、クィディッチのキャプテンがセドリックに変わったことで、いい勝負ができるのではないかと期待されていたのだが、セドリックがこの調子では、難しいかもしれない。
セドリックが更に落ち込まなければいいのだが。そう遠くない試合の雲行きはあまり良くなかった。
呪いの子で判明したセドリックの未来の可能性について、賛否両論あると思うんですが、私は結構好きです。
本編では終始圧倒的善玉として描かれていたはずのセドリックが、どういう経緯をたどってあんなことになってしまったのか、詳しく考えると色々と捗ります。