「やぁっと帰ってきたわね、ダリア!!さぁ、話を聞かせてもらうわよ!」
スリザリンの談話室では、ダリアがノコノコと帰ってくるのを、パンジーが手ぐすね引いて待ち構えていた。手をわきわきさせて厭らしい笑みを浮かべるパンジーに、ダリアはたじたじになった。
「話って―――――な、なによ急に。」
「急にじゃないでしょ!あんたが大広間に何をしに行ったかなんてお見通しなんだからね!ディゴリーと一緒に帰ってきたことも割れてるのよ!」
「一緒に帰ってきたのは別にセドリックだけじゃなかったんだけど・・・・。」
「いいから、こっちで何があったか話しなさい!!」
パンジーの熱量に終始押されながら、ダリアは寝室に引きずって行かれた。
部屋の中ではミリセントとダフネがこれまた厭らしい笑みを浮かべて待ち構えていた。
「――――ちょっと待ってよ、あなた達さっきまで私の体調の心配してくれてなかった?どうしてそんな獲物を狙う獣みたいな目をしてるの?」
「確かに私たちがダリアの体調を心配していたのは本当よ。」
ダフネが先ほどの弱弱しい表情とは打って変わった嗜虐的な笑みを浮かべた。
「でもそれとこれとは話が別。他人の恋バナを見逃す私たちじゃなくってよ。」
「私は面白そうだから便乗しただけだけどね。」
色恋沙汰にそこまで興味がないミリセントまで、ダリアを揶揄い倒す気満々である。ダリアは呻いた。
スリザリン女子3人の回りくどくてしつこい質問の嵐に晒されたダリアは、抵抗むなしく先ほどあったことを洗いざらい吐かされていた。
「そ―――それってデートじゃない!クリスマスデート!!!!」
パンジーが大興奮で「キャーッ!」と叫んでベッドをバシバシ叩くが、ダリアはいまいち納得していなかった。
「デートなのはダニー達だけで、残りはオマケだよ。私はバカ騒ぎ要員なんですって。」
「何言ってるのよ!クリスマスの週末に男女がホグズミードなんてデートしかありえないわよっ!あんたがどう思っていようとこれはデートなの!ダブルデート!!!」
「ひぇ・・・・。落ち着いてよパンジー・・・・。」
狂ったように叫ぶパンジーに、ダリアは圧倒された。前から思っていたが、パンジーのこの恋愛に対する執着心は一体何なのだろうか。ドラコへの尽くしようといい、いっそ病的だ。
「しっかし、マクニッシュも中々気の利いたことするわねぇ。流石ハッフルパフの参謀っていうか。」
一方ダリアの話を聞いたミリセントは、ダブルデート(仮)の発案者ダニーに対して、しきりに感心していた。
「ダニーの事知ってるの?」
「知ってるわよ。だってハッフルパフチームの主力メンバーじゃない。中々抜け目ないチェイサーだって、スリザリンでもマークされてるのよ。」
「割と良い家の出身で結構顔もいいから、ハッフルパフではディゴリーに次いで人気なのよ。クィディッチも上手いしね。」
「ふーん。」
ダニーに関して「セドリックの友達」程度の認識しかなかったダリアは、彼の意外な知名度に少々驚いていた。ロミーリアは中々の良物件を捕まえたらしい。
デート(仮)の日時を知った3人は、ダリアに「デートを成功へ導く極意」を繰り返し言って聞かせた。3人がデートに行ったことなど一度も無い事を知っていたダリアは、話半分に聞いてミリセントに何度もどつかれた。
月曜になると、体調不良で休んでいたルーピン教授が復帰していた。休養する前よりずっとくたびれた様子で、よほど体調が悪かったと見える。
その日の闇の魔術に対する防衛術の授業は、「おいでおいで妖精」の対処法についてだった。さまざまな呼び名があるが、「鬼火」として世界中で存在が確認されている魔法生物だ。
沼地で「おいでおいで妖精」に旅路で出会ってしまった時にどうすればよいのかをノートにまとめていると、ダリアの鼻先をかすかな甘い香りがかすめた。最近嫌になるほど嗅いだ覚えのある香りだ。どうやらルーピン教授から漂ってきているらしい。
香水とは違う、どこか薬品めいた香りを嗅いで、ダリアの脳裏にあの冷たい地下教室の光景がひらめいた。
―――――あ、そうだ。この前の魔法薬学で嫌になるほど刻まされた、モンクスフードの香りだわ。
何故か前回の魔法薬学では、突然教科書の流れから外れ、植物系の魔法薬学の原材料についての授業になったのだ。そこでスネイプは生徒達に、モンクスフードの花と根をより分ける作業を行わせていた。何でも、とある魔法薬の材料として、これから大量に必要になってくるのだという。
――――――確か、モンクスフードの別名は、トリカブト、アコナイト、ウルフスベイン――――あ。
授業の内容をぼんやりと思い出していると、ダリアはあることに気が付いた。
―――――この前、ルーピン先生の代わりにスネイプ先生が授業をした時に扱ったのも、教科書の流れを無視した人狼だった。魔法薬学で教えられたのも、何故か時期外れのウルフスベイン。それに、ルーピン先生の体調が悪かった時期は。
ダリアは復習がてら、ウルフスベインを使った魔法薬について調べていた。有名なものは、近年ダモクレスによって開発された、脱狼薬だという。それらが意味することとは。
「――――――やり方が汚い。流石スリザリンって感じ。」
「ダリア、何か言ったかい?」
「なんでもないです、すいません。」
スネイプ教授の思惑に気付いてしまったダリアは、自寮の寮監の陰湿さを改めて認識し、ぶるりと身震いした。
「やぁ、なんだか顔色が悪いけどどうしたんだい?」
「いやぁ、自寮の寮監の陰湿さを再認識して。今更ながら、私って結構ナメた態度を取ってたかもって思って―――――――って誰?」
逆転時計を使うべく、人気の無い場所へ向かって廊下を進んでいると、突如何もない空間から声を掛けられた。
慌てて視線に魔力を通して辺りを見渡すと、ダリアの横にうっすらとした輪郭の何かがふよふよと浮いているのが見えた。今にも消えかねない儚さである。
ダリアは慌てて自分の魔力を分け与えてやった。
「ああよかった。もう少しで消えてしまう所だったよ。」
「あのさぁ―――――一応言っておくけど、あなたが勝手に消える分は私、知らないからね。こんなに魔力を消費するまで何してたわけ?えぇっと――――――――、トム。」
声の正体は、かなり久々に姿を見るトム・リドルだった。
ハロウィーンの頃から世界Aと世界Bを行き来する伝書鳩として使っているのだが、世界Aの魔法体系にすっかり魅了されてしまったらしく、ここ最近はあちらの世界へ入り浸りになってしまっていた。
割と潤沢に与えられた魔力をほとんど使いきってしまうほど精力的に活動していたらしいリドルは、自慢げに胸を逸らせて言った。
「イタリアへ行っていた。まあ、こちらのように統一された国では無かったけれど――――――君の生家も見てきたぞ、ダリア・モンターナ。」
「―――――なんていうか、それは、とんだ長旅だったわね。」
大量の魔力を使い果たすはずである。記憶という不安定な存在のまま、よくぞそれほどまでの長旅をしたものだ。ダリアは呆れを通り越して感心してしまった。
「面白いのは、あちらの世界の魔法使いの定義だ。あの世界は魔法が溢れているにも関わらず、『魔法使い』と呼ばれる人間はそう多くない。君の友人のエリックもそうだが、こちらで言う無言呪文のようなものを使いこなす一握りの人間だけがそう呼ばれている。勿論それ以外にも魔法を使うことができる人間は世間にありふれているよね。君の生家のように『呪文』を作り出す『魔術師』が、訓練や工夫によって実力を高めることができるという点では、こちらの魔法使いという存在に一番近いのかな?まあ、なんにせよ、あちらの世界にはまだまだ僕の知らないことが―――――――」
『それ、まだ続きそう?続くようならうるさいから黙らせて欲しいんだけど。』
興奮のあまり口が止まらないリドルに、鞄の中で寝ていたトゥリリが不機嫌そうに起きだしてきた。完全に同じ意見だったダリアは、ちょいと指を横になぞり、リドルの口を閉じさせた。この口撃を頻繁に受けているらしいキャットに同情してしまう。
「わかったからとりあえず落ち着こうよ。あの人の動向で何か変わったことはあった?」
リドルはほんの少し不満げな顔をしたが、基本的にダリアには逆らわない契約を結んでいるので、素直に話題を変えた。
「特に変わったことは無いよ。第7系列の世界に視察に行っていたらしいけれど、僕やエリックが知る限り、この世界への訪問の予定は無いはずだ。」
「そう、よかったぁ。」
ダリアは安心しで胸を撫で下ろした。
ヴォルデモートが暗躍していた時代がどうだったかは知らないが、彼が死んで(というか肉体を失って)からは、特に目立った「魔法を悪用した事件」も起こっていないため、それほど頻繁にここを訪れる機会は無いらしい。
「あの人がこっちに来ないってことが分かったから、あっちに戻っていいわよ。また何かあったら伝えてもらうけれど―――――そうだ。あなたに聞きたいことがあるんだけど。」
ダリアはふと思いついた。
「なんだい?君が質問するなんて、珍しいな。」
「まあね。―――――あなた、デートってしたことある?」
「―――――――はあ?」
リドルは予想外の質問に、ぽかんと間抜けな顔を晒してしまった。あまりに俗な問いが、まさか自分にされるとか思っても居なかったからだ。
しかし、リドルは一瞬で顔を引き締めた。世界を股に掛けた家出を計画してしまう少女のことだ。一見くだらない質問に見えて、何か深い意味があるのかもしれない。
「僕はこの通り容姿端麗だったからね。人並みにはデートの経験もあるよ。」
「ふーん。――――――ちなみに、デートってどこに行ったの?」
「は?――――――ま、まぁ、三本の箒で食事をしたり、アクセサリーを見繕ったり。相手がいい気分になりそうなことをしてやっていたかな。―――――それで、この質問ってどういう意味があるんだい?」
「あ、質問は終わったから、今度こそもう行っていいわよ。」
ダリアはリドルのおでこを指ではじいて、キャットの元へ飛ばした。リドルの恨めし気な声が聞こえた気がしたが、ダリアは「相手がいい気分になりそうなこと」を考えるのに必死で聞こえなかった。
「相手がいい気分になりそうなところ――――――やっぱり、クィディッチ用品の店とか?いや、デートじゃないけど。デートじゃないけど、やっぱり準備はしとかないとっていうか。」
『誰に向かって言い訳してるのさ・・・・・。』
リドルの考察もむなしく、俗100%の気持ちでの質問だったダリアは、ホグズミードにあるスポーツ用品店を調べるべく、図書館へ走った。
ハッフルパフ対レイブンクローの試合の当日も、相変わらず冷たい雨が降り注ぐ悪天候だった。
スリザリン生は他寮とは全面的に仲が悪いが、基本的にグリフィンドール以外は眼中に無い。そのため前回のグリフィンドール戦のような熱量はさほど感じられない。
しかしそれでも観戦に行くあたり、魔法界でのクィディッチの人気ぶりが伺える。
またこの試合でハッフルパフが勝つと、グリフィンドール優勝の可能性が消えるため、スリザリン生の内では今回に限って、どちらかというとハッフルパフを応援する風潮が強かった。
ダリアも前回に引き続き、いつになく真剣な面持ちでスリザリンの観戦席へ座っていた。今回は最初から、ダフネに借りた万眼鏡を手に準備万端の状態で試合に臨んでいる。
「―――ダリア、大丈夫?顔がいつにもまして白いけど。」
「だいじょうぶ。」
「本当に?目の下にクマもあるけど・・・・。」
「だいじょうぶ。」
「――――――――今日の朝ご飯は何を食べたんだったかしら。」
「だいじょうぶ。」
「だめだこりゃ、聞いちゃいないわよ。」
友人達の声も頭に入ってこない程、ダリアは緊張していた。ついに試合開始のホイッスルが鳴ると、ダリアは急いで万眼鏡をのぞき込んだ。
レイブンクローのクィディッチチームは、スリザリンとは別の意味で厭らしい戦法を得意としていた。
スリザリンのクィディッチは、ルールを破ってでも勝利をもぎ取る、ギリギリのラフプレーを得意としている。一方レイブンクローはルールの隙間を突くような、相手の精神を揺さぶる緻密な作戦を立てることで有名だ。
どちらかというとグリフィンドールに近い直情型のハッフルパフチームにとっては、限りなく相性が悪い相手である。
「ああ・・・・・。そんなフェイントに乗っちゃダメだって。―――――うう・・・・・。」
試合は常時レイブンクロー優勢で進んで行った。レイブンクローの強気かつ挑発的なプレーに、ハッフルパフチームは案の定翻弄されている。
万眼鏡のおかげで試合の流れを追うことができるようになったダリアは、終始ハラハラしとおしだった。
次々とレイブンクローがゴールを決める中、ハッフルパフも必死で追いすがっているが、点差は開いていくばかりだ。
そして試合開始から一時間ほどが経った頃、セドリックがレイブンクローのビーダーに妨害されている間に、ついにレイブンクローのシーカーがスニッチを捕え、レイブンクローの勝利で試合が終了した。
スリザリンの観客席から、がっかりとしたため息が漏れた。
「あーあ、残念。これは直接、スリザリンがグリフィンドールをぶちのめすしかなさそうね。」
「まあ、自分たちの手で引導を渡す方がすっきりするわよ。さ、帰りましょ――――――――ダリア?」
スリザリンの生徒達がダラダラと帰り支度をする中、ダリアは万眼鏡をのぞき込んだまま立ちすくんでいた。
丸い視界の中で、セドリックが箒から降りたち、ぬかるんだ地面に蹲っている。その様子に、ダリアは唇を噛んだ。
その時、ダリアは視界の端に、レイブンクローの女子選手が寄り集まっているのが目に入った。
中心に居るのは確か、たった今スニッチを捕ったばかりのレイブンクローのシーカーだ。友人らしき女子選手に背中を押されながら、じりじりとセドリックに近づいて来ている。
彼女の姿を見た瞬間、ダリアは何故かうなじの辺りがざわつくのを感じた。
あのまま彼女をセドリックに近づけてはいけない。彼女がセドリックに接触すると、何かきっと「ダリアにとって」よくないことが起きてしまう。
そう本能が警鐘を鳴らしている。ダリアは静かに腹をくくった。
「―――――あの女。」
「え?なに?何のこと?」
「レイブンクローのシーカー・・・・・・。」
「ああ、チョウ・チャンのこと?嫌な女よね。ちょっとかわいいからって調子に乗っちゃって。カマトトぶってるけど、きっと性格悪いはずよ。あの女がどうかしたの?」
パンジーの言葉から分かったことと言えば、ほとんど言いがかりに近い信憑性に欠ける情報のみだったが、彼女が何者かが分かれば十分だ。ダリアは万眼鏡をローブのポケットに押し込むと、感情を抑えた声で告げた。
「ちょっと私、競技場の方に行ってくる。―――――――あのさ、どうにかして、チャンを足止めできる?」
パンジーとダフネ、ミリセントは顔を見合わせた。ダリアが自分から、他の寮の生徒に危害を加えるようなことを言うのは初めてだった。
しかし、ダリアが睨みつけている現場を見て事情を察した3人は、力強く頷いた。
「任せなさいよ。伊達に何年もスリザリン生やってるわけじゃないんだから。足がつかないように嫌がらせをするなんて朝飯前よ。」
パンジーが悪い笑みを浮かべてそう言う。流石これまで数々のグリフィンドールいびりをこなしてきた女だ。説得力が半端じゃない。
「まあ、ダリアがこんなこと頼むなんて珍しいものね。今回くらいは聞いてあげようかしら。」
ダフネも普段は積極的に他寮生に絡みに行くことは無いが、彼女を大人しい少女だと勘違いしてちょっかいを掛けてきた輩は皆、ダフネの口撃を受けて泣き帰るはめになっている。深窓の令嬢に見えて意外と戦闘力は高い。
「ホラ、さっさと行きなって。いくら私達でも、そう長くは足止めできないかもしれないからさ。」
ミリセントはもはや百戦錬磨の戦士の風格をもっていた。その背中だけで足止めどころか相手の生きの根を永久に止めることができそうな雰囲気が漂っている。
ダリアは改めて、心強い友人が居てくれたことに感謝した。胸が温かい気持ちでいっぱいになる。
やっていることは下種だが、美しい友情がここにあった。
「うん。―――――――――ありがとう!」
ダリアは感激のあまりちょっと泣きながら、観客席の階段を駆け下りて言った。
ダリアが競技場へ降りる頃には、チョウはセドリックのすぐそばまで来ていた。ダリアはわけのわからない衝動に急き立てられながら、セドリックに声を掛けようとした。
「セドリ―――――――」
その時、レイブンクローの観客席で大爆発が起こった。
競技場のあちらこちらから悲鳴が上がる。けが人は出ていないようだが、派手な噴煙は止まる気配が無い。セドリックに話しかけようとしていたチョウは、慌ててチームメイトと共にレイブンクローの観客席へ駆けていった。
――――――十中八九パンジー達の妨害工作だが、やりすぎではないだろうか。足がつかないというのは本当なのだろうか。
ダリアは途端に不安になった。先ほどは感動しすぎて考えが回らなかったが、脳筋のミリセントが居る時点で、止めておくべきだったのではないだろうか。
セドリックも目を丸くして爆発騒ぎを見ていたが、冷や汗をダラダラ流しながら立ち尽くすダリアに気が付き、慌てて立ち上がった。
「ダリア、どうしてここに――――――いや、とりあえず今はここから離れた方がいいか。逃げるぞ。」
「ウン。」
あの爆発がもしかすると自分のせいかもしれないということはとてもじゃないが言うことができなかったため、ダリアはぎくしゃくとセドリックの後をついていった。
「―――――一体あの爆発は何だったんだ?この前のディメンターのことと言い、最近のホグワーツはどうなっているんだろう――――――ダリア、何か知っているかい?」
「ううん、知らない。――――でもやっぱり、シリウス・ブラックの仕業じゃないのかしら。」
「そう、だね―――――まだ学校の敷地内に居るのかな。」
「きっとそうよ。そうに違いないわ。」
ダリアは開き直って、全ての責任をブラックに押し付けることにした。これ以上ないほどのスケープゴートだろう。いかにもあの熊犬がやりそうなことではないだろうか。
セドリックも腑に落ちたのか、それ以上蒸し返すことは無かった。そのまま会話が途切れ、ダリアは気まずくなった。
競技場に行ったは良いものの、何をどうするか、何を話せばいいかなど全く考えていなかったのだ。
続く沈黙に、ダリアの焦燥が募っていく。
こういう時いつもは気を使って何かしら話してくれるはずのセドリックが、今は無言で黙々と下を向いて歩いていた。明らかに落ち込んでいる。
ダリアは衝動に突き動かされるまま、何か言おうと口を開いた。
「その、セドリック、今回は―――――――えっと。」
「――――ダリア?」
「今回は、そのぉ―――――まことに、遺憾というか。あの。」
「―――――。」
「よ、要するに、私が言いたいのは。その、元気をですね。」
「――――ぐっ・・・・。」
セドリックが不自然に咳込んだ。
一瞬それが笑いをこらえているように聞こえたので、ダリアは胡乱気にセドリックを見上げたが、彼は唇を引き結んで難しい顔をしていた。どうやらただの咳だったらしい。
「だ、大丈夫?雨で冷えて風邪ひいちゃった?」
「いや、違う。どうぞ続けて。」
「そ、そぉ?じゃあ―――――なんだったかしら。えっと。あー・・・・つ、次があるわよ!次の相手をコテンパンにしてやれば、トントンでしょ!?」
「―――――次の相手はスリザリンだけど、いいのかい?」
「あっ、そ、そうだった。どうしよう―――――。コテンパンは、勘弁してあげて欲しいっていうか。鼻につく奴だけど、ドラコは割と苦労人っていうか。」
「―――――――――ぐっ・・・。」
ついにセドリックは地面に蹲ってしまった。細かく背中が震えている。話しているうちに、敗北のショックに耐え切れなくなってしまったのだろうか。それともやっぱり体調が悪いのだろうか。
ダリアは仰天してセドリックの背中に飛びついた。
「セドリック!?大丈夫――――――――――――ん?―――――あ!?わ、笑ってる!笑ってるでしょう!?」
セドリックは声を押し殺して笑っていた。それもただの笑いではない。大爆笑だった。
ダリアはショックを受けて、丸まったセドリックの背中をぼかすか殴りつけた。
「ひ、ひどい!どうして笑うのよ!私が頑張って慰めようとしてたのに!」
「い、いや、だって――――ダリア、君、慰めるの下手すぎ―――――ぐ、ふふっ―――まことに遺憾だなんて、もっと他に言いようがっ――――――はは!」
セドリックはついに、隠すことなく声を上げて笑い出した。ダリアは握りこぶしを振り上げたまま、途方に暮れてしまった。
もう二言三言どころじゃなくセドリックに言ってやりたかったのだが、その屈託のない笑顔を見ていると怒っている自分が馬鹿らしくなってきて、ダリアはゆっくりと握った手を下ろした。
「――――――その、今度のホグズミード。ダニー達がどっか行った後、クィディッチ用品店に行こうよ。いろんな道具が売ってるって、本に書いてあった。」
「今使ってるグローブが小さくなってきてたから、丁度いいや。」
「―――――それでその後、おじさん達のクリスマスプレゼント、選ぶの手伝って。」
「うん。いいよ――――――――ふ、ふふ。」
「ちょっとそろそろいい加減にしてよ。」
中々笑いが止まらないセドリックにイラつきながらも、ダリアは何故か満ち足りた気持ちだった。
結局、スリザリン3人娘によるレイブンクロー観客席爆破の犯行は、本当に足がつかなかった。
立案パンジー、作戦ダフネ、実行ミリセント。彼女らのえげつない犯行を目の当たりにしたスリザリン生達は、のちに彼女らを「スリザリンの眠れるケルベロス」と呼んだり呼ばなかったりして恐れたという。
ちなみにダリアは横でキャンキャン吠えている小型の室内犬と呼ばれたり呼ばれなかったりしていたらしい。