ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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スリザリン式恋愛塾

 年が明けて新学期が始まった。

 

 久々に顔を合わせた友人たちは、クリスマス・パーティーの時よりもダリアの顔色がずっと良くなっていることに安心した。

 

「よかった。骨と皮だけになっていないかずっと心配してたのよ。元気になったのね。」

 

「うん。まあ、色々考えた結果、とりあえず開き直ったから。悩むことは無くなったかな。」

 

「あらそうなの。後で詳しく教えなさいよ。」

 

 セドリックを諦めることなどできないという結論を出したダリアは、悩むことをやめて開き直っていた。パンジーのように素直に恋をしていようと決めたのだ。

 

 そのおかげで挙動不審はなりを潜めたが、別の問題が浮上してきた。どうすればセドリックを我が物にすることができるのか。具体的な作戦は何一つ思いついていない。

 先日のチョウ・チャンの例を見れば分かるように、セドリックはホグワーツでもかなり人気のある男子生徒である。早急に手を打たなければ取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。

 

「セドリック、ノットのママ、マンティコア――――――今年のホグワーツはそれで行くわ。」

 

「え?なにか言った?」

 

「なんでもなーい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決意したは良いものの、そううまい具合に具体的な作戦など思いつくはずも無かった。ダフネやミリセントは面白がって色々とアドバイスをしてくれるが、所詮彼女たちの知識は胡散臭い雑誌の受け売りだ。唯一片思いの実体験を伴っているパンジーのアドバイスも、ダリアに合っているとは思えなかったし、正直上手くいく方法ではない気がする。

 

 結局なんの手立ても浮かばないまま、スリザリンVSレイブンクローのクィディッチの試合の観戦や、ブラックが再びホグワーツに侵入するといった事件(あのおじさん耐え性が無さ過ぎじゃないのかとダリアは思った)が起こっているうちに、数週間もの時間が経過してしまった。

 

 ちなみにダリアはダフネにクリスマスプレゼントとしてもらった万眼鏡を手に、クィディッチの試合を割と楽しんで観戦していた。万眼鏡に出会ってから、何となくクィディッチの楽しさが理解できるようになってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――それで、これが僕の考えた仮説なんだけど。世界Aと世界Bの違いは単に魔法が一般的なものであるだけではなく、大気に満ちた魔力の量そのものなんじゃないか?こちらの世界では失われてしまった神秘が色濃く残るあちらの世界では―――――」

 

 ダリアは興奮して持論を展開するリドルを見て、ため息をついた。楽しそうで何よりだが、定期報告の度にこれをやられるとうんざりしてしまう。

 面倒なことを強いている自覚はそれなりにあるので、毎回ある程度満足するまで聞いてやるのだが、気が滅入っていたダリアはもうこれ以上聞く気になれなかった。

 

 ―――――――これが、数年後に魔法界を恐怖に陥れる極悪人になるっていうんだから、人間って分からないわよね。

 

 夢中でベラベラと話し続けるリドルの端正な顔を見て、ダリアは考えた。

 既に本性を知られているダリアの前では割とぞんざいな口をきくリドルだが、学生時代は相当な猫を被っていたと聞く。結果あれだけの配下を従えることができたのだから、人心掌握などお手の物だったのだろう。

 

 リドルの学生時代の暗躍を思い、ダリアふと思いついた。

 

「―――――――――そうだ。トム、あなたって恋人とか居たことある?」

 

「――――、――――――ねえ、この前のデートについての質問といい、君、何が言いたいんだい?」

 

 前回も唐突にデートについて質問されたリドルは、流石に疑問を覚えたのか胡乱気な顔をしている。今の問いに深淵な意図が含まれているとは到底思えなかったからだ。

 

「だからぁ。そのままの意味よ。デートなら何回もしたことがあるんでしょ?だったら恋人とか居た事もあるんじゃないの?どうなの?」

 

「―――――――――――――まあ、形だけなら、何人か。」

 

「どうやって恋人になったの?何したの?どんな手を使ったの?」

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ―――――まさかとは思うけど、君、僕に、恋愛相談をしているのか?」

 

「―――――――――――――まあ、端的に言えば、そうなるわね。きゃっ。」

 

 ダリアは照れたように頬を染め、恥ずかしそうに顔を覆った。

 リドルは絶句した。

 

 

 

 

「し―――――――信じられない。未来の闇の帝王であるこの僕に、恋愛相談だと?正気だとは思えない。何を考えているんだ。ありえない―――――――」

 

 短くはない時間でショックから立ち直ったリドルは、震える声でブツブツ呟いている。ダリアは口をとがらせて文句を言った。

 

「なによぅ。ちょっとくらい教えてくれたっていいじゃない。かわいい後輩に道を示すと思ってさぁ。形だけでも恋人が居た事あるんでしょ?どうやってそこまで持ち込んだのか教えてよ。」

 

「そういう問題じゃないんだよ!くそ、どうして僕がこんな小娘のくだらない悩みに付き合わなくてはならないんだ。いくら復活するためとはいえ早まったとしか思えない!」

 

「くだらなくないもん。一大事だし。今度変なこと言ったら魔力引っこ抜くわよ。」

 

 少々頭に来たダリアは、貸し与えていた魔力を吸い上げてリドルを脅した。

 

「ぐっ――――――――――――大体、どうして僕なんだ。もっと他に適任が居るだろう。」

 

 リドルの問いに、ダリアはもったいぶって答えた。

 

「よくぞ聞いてくれたわね。私があなたに期待している理由はただ一つ―――――――――あなたの人心掌握術に興味があるからよ!」

 

「―――――――なんだって?」

 

「あなたって将来、何百人もの魔法使いを支配下に置くことになるじゃない。やっぱりそういう独裁者って、自分をいいように見せる方法だとか、相手の弱みに付け込む方法だとか、そういう手腕に長けてるものでしょ?学生時代も相当猫を被ってたっていうなら、人に好かれるように行動することなんて朝飯前だっただろうし――――――――――そういうテクニックをちょっと教えて欲しいのよね。」

 

「―――――――――――確かにそういう手段は用いていたけれど。」

 

 学生時代、常に人に好かれるよう意識して行動していたリドルは、学校中ほぼ全ての人物に好感を持たれていた。勿論そうなるまでに後ろ暗い手段を使ったことが無いとは言えない。時に生贄を用意し、時に自らが犠牲になり、あらゆる手段を使って生徒達の心を虜にしていった。その人気はもはやカルト教めいたもので、その熱狂はダンブルドアの警戒を更に強める一因にもなっていた。

 

 これらの偉業を達成することができたのは、全てリドルの他人に対する観察眼と、自分のふるまいが相手にどんな印象を与えるかということを研究した成果による人心掌握術のおかげだった。

 

「ねぇねぇ、いいでしょ。私、なりふり構わないって決めたの。スリザリンらしく、どんな手段を使っても欲しいものを手に入れるって決めたの。協力してよぉ。」

 

 ダリアは変な方向に開き直っていた。もはや暴走列車と言ってもいい。

 

「―――――――――――――――――――――そこまで言うなら、いいだろう。」

 

 リドルはこめかみをもみながら答えた。リドルとて、どんな手段を使っても復活すると決意した立場だ。心底やりたくないが、覚悟を決める。

 

「――――――――ただし、やるからには徹底的にだ。数日ほど時間をくれ。その間に、必要な情報を調べてみよう。」

 

「やったー!!ありがとう!!!!」

 

 ダリアは歓声を上げて飛び上がった。そこそこ有力なアドバイザーを手に入れることができた。これなら割と参考になる助言をそれなりに期待できそうだ。

 数日後、ダリアの期待はいい意味で大きく裏切られることになる。

 

 

 

 

 

 

 

「――――――僕の調査によれば、セドリック・ディゴリーに気がある女子生徒は複数人存在する。ほとんどは取るに足らない有象無象だが――――――そうだな、この女には気を付けた方がいいかもしれない。レイブンクローのチョウ・チャンだ。」

 

「この女、この前クィディッチの後、セドリックに声を掛けようとしてたわ。」

 

「ああ。友人達の後押しがかなり強い上、クィディッチという共通点もある。脅威になるとしたらこいつだな。この女をどうするかだが―――――――――。」

 

「――――――――――やっぱり闇討ちかしら?」

 

 完全に吹っ切れたダリアが、据わった目で物騒なことを尋ねた。しかしリドルは静かに首を横に振った。

 

「―――――リスクが高すぎる。それは最終手段だ。それよりももっと手軽な方法がある―――――――チャンの目を他に向けさせるんだ。」

 

「他って―――――――向けれる?セドリックよりカッコイイ人ってホグワーツに居る?」

 

 ダリアが無意識の内に口にした恋する乙女フィルターに、リドルは胃に直接砂を流し込まれたような顔をした。

 

「―――――そんなの知るもんか。だが、方法はある。チャンは今、故障でクィディッチ選抜メンバーから外されがちで、かなり落ち込んでいるらしい。そこを他の男に慰めさせる。」

 

「はあ。――――――――ちなみに、誰に?」

 

「ハリー・ポッターだ。奴なら有名人だし、チャンも言い寄られて悪い気はしないだろう。」

 

「ええー、ポッター!? どう考えてもセドリックの方がかっこいいじゃない!」

 

 ダリアは不満たらたらで文句を言ったが、リドルは考えを曲げる気はないらしい。

 

「分かってないな。―――――いいかい、人の心を掴むときの狙い目は、そいつが弱っているときだ。どんな奴でも弱った時に望む言葉をくれる人間には心を開く。そこをポッターに押させるんだ。―――――幸いポッターもチャンが気になっているらしい。少し出会いを演出してやればイチコロだ。」

 

「お、おお・・・・・・・・・。」

 

 リドルのあまりの調査力に、ダリアは圧倒されていた。この数日で一体どれほどのことを調べたのだろう。セドリックだけでなく、チャンやポッターについての情報まで調査済みとは、予想をはるかに超えた驚きのフットワークだ。

 

「これでひとまずの障害を排除したとしよう。次に考えるのは、セドリックの意識をどう君に向けさせるかだけれど――――――――――はっきり言おう。君は今、よくて手のかかる妹程度にしか見られていない。」

 

「う―――――――それはまあ、認めるわ。」

 

 ホグズミードで防寒具をぐるぐる巻きにされた時など、完全に子ども扱いだった。当初の険悪な関係を思うと大いなる前進だが、ダリアが求める反応はそれではない。

 

「当面の目標は、彼のその意識を変えることだ。とはいえ、君の強みはその無邪気な振舞いにあると言っても過言ではなく、その武器を捨てるのはあまりに惜しい。」

 

「――――――――じゃあどうするのよ。」

 

「君は無邪気に振舞いつつも、ふとした瞬間に女性らしさを演出する必要がある。少女が女性へと徐々に変化する成長過程を見せつけろ。ギャップで殺れ。」

 

「――――――――――――ひゃい。」

 

『ギャップを狙え』だなんて、言っていることはダフネ達と同じなのだが、この説得力の違いは一体何なのだろう。次々と繰り出されるリドルの大胆な恋愛指南に、ダリアは次第にガクガクと頷くしかできなくなっていた。

 

「いいか、奴が落ち込んでいる時にはすかさず傍に行って慰めろ。先ほども言ったが、弱っている瞬間が相手に付け入る狙い目だ。多少不格好でも構わない、自分の存在を心の弱い部分へ刷り込め!」

 

「自分の強みを生かせ!別人になろうとすれば、いつかはボロが出てしまう。あくまで無邪気に、時には真摯に、ふとした瞬間にいじらしく!自分の全てを使って最大限に愛らしく振舞え!」

 

「小悪魔的演出は最終段階にしろ。逃げる者を追いかけたくなるのは野生の性だが、自分の獲物としての魅力を知らしめるまではあまり意味がない行為だ。功を焦って利を失うのは愚の骨頂!」

 

「機を前にためらうな!己の益のみを考えろ!自分がスリザリン生である自覚があるならば、どんな手段を使っても絶対に目的を達成するという気概を持て!!!」

 

「は――――――はい、師匠!!!!」

 

 かつて数百人もの大人の魔法使いたちを虜にしたというリドルの人心掌握術。ダリアは今、その神髄を目の当たりにしていた。圧倒的な人間観察力に裏打ちされた、圧倒的な説得力。その頼もしさたるや。

 彼の倍は年の行っている魔法使いや、身分の高い魔法貴族が、何人も彼のしもべのように振舞っていたというが、それも納得のカリスマ指導者っぷりだ。ダリアもすっかり、リドルのことを恋愛マスターとして崇め始めていた。

 

「す―――――すごいわトム。これほど的確なアドバイスがもらえるなんて思っても居なかった!週刊魔女の恋愛特集記事だなんて目じゃないわ、ダイアゴン横丁辺りで恋愛相談所を開けばがっぽり丸儲けできるレベルよ!すっごいビジネスの香りがする。どう?私と組んでひと山当てたり―――――――。」

 

「絶対にしない。」

 

「ええー。そんなぁ。――――――――まあ、無理にとは言わないけど。」

 

 とりあえずは諦めたダリアだったが、少し不満気だった。

 

 

 

 

 

 ところで、リドルの恋愛指南を聞いているうちに、ダリアはあることに気がついていた。

 

「ねえ、トムって子ども居る?もしくは親戚。」

 

「―――――――藪から棒に。一体なんなんだ。」

 

「いや、何となくトムに似てる人を見かけて。女の人なんだけどね。」

 

 マルフォイ邸のクリスマス・パーティーで感じた、ノットの母親に対する既視感。それの正体が分かったのだ。彼女の顔立ちには、何故かリドルの面影が感じられた。

 したくも無い恋愛指南をさせられ(途中から割とノリノリだったようにも見えたが)疲労していたリドルは、うんざりしたように答えた。

 

「僕に親戚は居ない。全員死んでいる。それに前も言ったけど、将来の僕のことに関しては記憶がないから何とも言えない。――――――――まあ、僕が子供を作るとは思えないけれどね。」

 

「確かに一生独身タイプではあるわよね。―――――あ、えーとその、いい意味で。」

 

 いい意味があるのかどうかよく分からないが、リドルに睨まれたダリアはとっさにそう言った。ありがたいアドバイスを頂戴した影響か、ダリアはリドルに対してほんの少し気を遣うようになっていた。

 幸いリドルはいい意味で受け取ってくれたようだ。

 

「そうだとも。僕は愛なんて言う不確かなものに縋らずとも、一人だけで生きていくことができるのさ。だから僕はこれからも人を愛することがないだろうし、子どもを作ろうとするはずもない。」

 

「うーん。まあ、本人が言うならそうなのかしら・・・・すっごく似てるんだけどなぁ。」

 

 確かにヴォルデモートに子どもが居たなら、彼が猛威を振るった時代に話題になっていそうなものだ。そういう話が全く出ていないということは、きっと彼の子孫ではないのだろう。

 しかしながらあれだけ似ているのだ、遠い親戚という可能性は十分に存在する。

 

 ―――――――ノットから少し聞きだせないかしら。でも、あの人に筒抜けになっちゃう可能性もある――――――どうしよう。

 

 ダリアは学期が始まって数週間、最低限の会話しか交わしていないノットのことを考え、ため息をついた。流石にこれだけ長い間ぎくしゃくしていると、友人たちも異変に気付く。ダリアは何度かダフネ達に「ノットと喧嘩したのか。」と聞かれていた。

 

 ―――――――喧嘩じゃないんだけど、あんなことがあったら流石に気まずいのよね。ノットのお母さんに開心術を掛けられたなんて、人には言えないし。

 

 ノットはノットで、ダリアのぎこちない態度に無関心を貫いている。以前まではダリアが怒るのを楽しんでいるかのように軽口を叩いて来ていたにもかかわらず、今ではそれが嘘のようにあたりさわりのない会話しか振ってこない。

 

 ダリアはそれが大変不満だった。ノットはダリアがホグワーツに入学したてで、まだ周りに対してツンツンしていた頃、初めて自分から話しかけてきてくれた友達だったのに。

 

「それなのに、なんなのよ。あんな風に――――――――――ノットのばか。」

 

 ダリアは寂しげに、ここには居ないノットに向かって文句を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノットのことでまた落ち込みかけたダリアだったが、気分を変えるために禁じられた森にやってきていた。トゥリリは来ていない。最近クルックシャンクスという猫と仲良くなったらしく、よく二匹で連れ立って狩りをしに出掛けているのだ。

 

 ダリアはチキンを手土産に、興奮気味で最近あった出来事を語った。

 

『っていうことで、超々有能な恋愛アドバイザーを見つけたから、悩みも無くなったんだよねー!ということでおじさんはもうお払い箱です!ごめんね!』

 

『いや、特にアドバイスをした覚えはないから別にいいんだが。―――――――――そんな怪しい奴の口車に乗って、お前の飼い主大丈夫なのか?そいつ本当に信用できるのか?』

 

 リドルの存在のことをトゥリリ以外の誰にも言うことができないダリアは、在籍している生徒のことが良く分かっていないブラックにリドルの名前を伏せて自慢しに来ていた。

 百人力のバックを得て浮かれポンチになっていたダリアは、誰かにその事をしゃべりたくてしょうがなかったのだ。

 

 自慢したはいいものの、リドルの独裁者もかくや、というマインドコントロールじみた人心掌握術を聞いたブラックは、案の定ダリア(の飼い主)の身を案じた。

 

『おじさん遅れてるなぁ。ギャップを狙えだなんて、今時週刊魔女にも乗ってるテクニックなんだよ?それの使い時を教えてもらっただけじゃん。』

 

『お前、猫のくせに雑誌読むのかよ。――――――――まあ、恋愛なんか遠ざかって久しいのは確かだが。そうか、今時はそういうのが流行りなんだな・・・・。』

 

 ダリアの言うことを真に受けたブラックは、時代の流れを感じて遠い目をした。

 

『――――――――ていうかおじさん、またグリフィンドール寮に侵入したんだって?懲りないなぁ。ポッターの寝室まで行けたんでしょ?ネズミ捕まえたの?』

 

 クリフィンドールVSレイブンクローの試合があった日の夜、ブラックは再びホグワーツ城に侵入した。ロン・ウィーズリーのベッドの上でナイフを振りかぶっていたところを目撃されたそうだ。一躍時の人となったロンにより、その話は次の昼には学校中に駆け巡っていた。

 そこまで狙っているネズミに近づくことができたのだ。ついに仕留めたのかとも思ったが、残念ながらそううまくは行かなかったらしい。

 

『いや、ピーターは居なかった。どうやら危険を察知して逃げたらしい。昔から逃げ足だけは早い男だった。』

 

『ふーん。残念だったねぇ。』

 

 ついてない男だなぁ。とダリアは思った。そこまで近づくことができたのに、目的を達することができないとは。おかげでホグワーツ城内の警戒は最高潮に達しており、先生たちが常に目を光らせ、壁という壁にブラックの手配書がべたべたと貼られていた。3度目の侵入はもはや不可能だろう。

 

『学校のどこかには居ると思うんだ。ピーターはホグワーツの外へ出るという危険を冒すほどの勇気も無い臆病なやつだから。早い所見つけたいんだが―――――――――お前ももしネズミを見かけたら、とりあえず捕まえてくれないか?指が欠けた奴なら、ここまで連れてきて欲しい。』

 

『うーん、―――――――――あんまり期待しないでね。私ネズミ嫌いだから。触りたくないんだよね。』

 

『おいおい、猫のくせに・・・・・・・』

 

 ダリアはあまり乗り気でない返事をした。ダリアの生家があるカプローナではネズミは悪魔の化身とされていたため、強い苦手意識を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし次の日、そうも言っていられないような事実が判明してしまった。

 ダフネ達に引きずられてやって来た朝食の席。ダリアは日刊預言者新聞を流し読みしながら、オートミールをズルズルと啜っていた。

 ある写真を見た時、ダリアは驚きのあまりオートミールの皿をひっくり返してしまった。

 

「あー!!!!!」

 

「ちょ、なんなのよダリア、突然大きい声出して!!」

 

「やだ、かかっちゃったじゃない!!どうにかしてよ!」

 

「ご、ごめん。ていうか、これ。この人!!」

 

 ダリアは慌ててダフネのローブにスコージファイを掛けて、日刊預言者新聞のとある記事を指さした。

 

「―――――――ピーター・ペティグリューの写真じゃん。これがどうしたのさ。」

 

「ピーター!?これがあの!?」

 

 記事には『ブラック未だ逃走中!遺族は今。』という見出しが大々的に掲げられている。今回は件のピーター・ペティグリューについてだ。在りし日のピーターの写真が大きく引き伸ばされて掲載されていた。

 ダリアはこの顔を見た瞬間、体に電流が走った。つい先日のことを思い出す。

 

 ――――――こいつはこの前ダリアが見た夢で、セドリックを殺していた男だ。随分と若いけれど間違いない。

 

 突き付けられたダリアの指を必死に避ける小男を見ながら、ダリアは茫然と立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

 


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