ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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VSスリザリン

 クリスマスの夜に見た悪夢。その夢の中でセドリックを殺した男が、実在していた。

 

 日刊預言者新聞で、10年ほど前のピーター・ペティグリューを知ったダリアは、混乱の極みに居た。

 

「どうして私、見たことも無いピーター・ペティグリューの顔を夢で見たのかしら。――――――――まさか私、本当に予知夢の才能に目覚めちゃったの?」

 

『それこそまさかだよ。だってダリア、今までそういうの一回も見た事無いじゃない。このタイミングで予知夢の才能に目覚めるだなんて、そんなの都合が良すぎるよ。――――――何かの罠じゃない?鵜呑みにしない方がいいと思うけど。』

 

「それは、そうなんだけど―――――――――――。」

 

 トゥリリが冷静に忠告するが、ダリアはそう落ち着いて居られなかった。

 真偽はどうあれ、あの男が実在しているという事実を知ってしまった以上、あの『悪夢』が現実のものとなってしまう可能性も捨てきれない。

 セドリックが死んでしまう可能性がある以上、見過ごせるはずも無かった。

 

 ダリアは悩んだ末に結論を出した。

 

「――――――決めた。ブラックに協力して、ピーター・ペティグリューを捕まえるわ。」

 

『ペティグリューを捕まえて、ブラックに引き渡すっていうの?―――――――本気で?きっと彼、ペティグリューを殺しちゃうよ。』

 

「―――――――でも、アズカバンにぶち込んだだけじゃ、ブラックみたいに脱獄しちゃうかもしれないし・・・・・。」

 

 あれが予知夢だと仮定して、それがいつ起こることなのかということをあれだけの情報で正確に把握するのは不可能だ。一時的にピーターを拘束したところで、その先ずっとそのまま檻の中だとは限らない。

 不穏分子は確実に消しておきたかった。

 

 黙り込むダリアに、トゥリリは猛然と抗議した。

 

『ダメだよ、ダリア。その決断はしちゃダメだ!いくら相手が悪い奴だからって、そいつが死ぬのを黙認しちゃったら、もう戻れないよ――――――――――ダリアはきっと、罪の意識に耐えられないと思う。』

 

「わかってる!でも私、―――――――セドリックに、死んでほしくない――――――」

 

 自分が悪人になりきるには神経の細い、中途半端な人間だということは重々承知である。それでもダリアは、自分が罪の意識を背負う恐れよりも、セドリックの命が失われてしまうかもしれない恐怖の方が勝っていた。

 

『ひとまず冷静になって考えてみよう。ダリアは今、自分が思ってるよりもずっと焦ってるよ。―――――――――別に夢の内容が、今日明日起こるってわけじゃないんでしょ?』

 

「――――――セドリックが今より背が高かったから、多分。」

 

『一度持ち帰って、ゆっくり考えてみよう。ペティグリューを捕まえるにしても、誰に引き渡すかの判断は、もう少し慎重にするべきだと思うよ。―――――――――いいね?』

 

「――――――――――わかったわ。とりあえず、今すぐにペティグリューをブラックに引き渡すのは、やめておく。」

 

 ダリアは決断が先延ばしになったことに内心安堵して、トゥリリの提案を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペティグリューをどうするのかの結論を先延ばしにしたまま、いよいよこの日がやって来てしまった。

 

 スリザリンVSハッフルパフのクィディッチの試合である。ダリアは自寮であるスリザリンか、はたまたセドリックがキャプテンを務めるハッフルパフか、どちらを応援するかの選択を迫られていた。

 

 とは言いつつも、ダリアはすぐにどちらを応援するか決めた。

 

「ごめんなさい、私、自分に嘘はつけない。――――――今回はハッフルパフを応援させていただきます。」

 

「あんですってぇ!?」

 

 ドラコ過激派のパンジーが勢いよく飛び上がり、ミリセントに羽交い絞めされた。ダリアは目を逸らし口を尖らせた。

 

「そりゃあ、パンジーは好きな人が同じ寮だから、どこを応援すればいいかはっきりしてていいわよ。でも、セドリックはハッフルパフ・チームのキャプテンなんだもん。――――――――パンジーだって、ドラコがもし別の寮だったら、そっちの方を応援してたでしょ?」

 

「―――――――――そうね、してると思うわ。」

 

 素直に納得してくれたパンジーに、ダリアはホッと息を吐いた。クィディッチでハッフルパフを応援すると決めた時、一番色々言ってきそうなのが彼女だったからだ。後の友人たちは文句を言いながらも受け入れてくれるはずだ。

 

「――――まあ、ダリアがクィディッチに興味を持っただけ成長よね。好きにしなさいよ。」

 

「でも一応、応援するならスリザリンの観客席じゃない方がいいと思うよ。中には過激なサポーターもいるからさ。」

 

「うん。そうするわ。」

 

 せっかくなので、ハッフルパフの観客席にでも押しかけてジャネットと一緒に見ようかな、と思っていると、丁度通りかかったザビニが茶々を入れてきた。

 

「おいおい、モンターナは寮より男を取るのかよ。あーヤダヤダ、女って薄情だよなぁー。」

 

「えい。」

 

 いつも一言二言多い男だ。ダリアは杖を一振りしてこむら返りの呪いをかけてザビニを悶絶させてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合当日の朝、ダリアはローブのフードをすっぽり深く被り、ハッフルパフのテーブル席までやって来た。ダニー達と共に朝食を食べているセドリックを見つけると、背中をちょんちょんつついた。

 

「セドリック。」

 

「ん?―――――――――ダリアじゃないか。どうしたんだ、こんなところで。」

 

 普段ならスリザリンのテーブル辺りにしか出没しないスリザリン生がハッフルパフのテーブルに現れたことで、周囲が少しざわめいた。

 

「なんだよチビじゃん、珍しいな。ははーん、なるほどな―――――――――ズバリ、スパイにしにきたんだろ!残念ながら、作戦会議はとっくに終わってるぜ。」

 

 ダニーがニヤニヤ笑いながら言うので、ダリアはふくれた。あの顔は分かって言っている顔だ。

 

「ちがうわよ!―――――私、今日はハッフルパフ・チームの応援することにしたの。だからご飯もこっちで食べる。」

 

「えっ――――――」

 

 驚くセドリックを他所に、ダリアはいそいそとセドリックの横のスペースに滑り込んだ。ためらうな大胆に攻めろ。

 とりあえずリドルに指示されたミッションを遂行することができたダリアは、満足してテーブルのポーチド・エッグに手を伸ばした。

 

「スリザリンの応援はいいのかい?――――――あ、いや、応援してくれるのは嬉しいんだけど。友達と険悪になったりするんじゃ」

 

「だからこうやって変装してるんじゃない。」

 

「そのフード、変装だったんだ・・・・・。」

 

 セドリックは少し呆れた顔をしたが、あまり追求しないことにしたようだ。ダリアが無茶苦茶なのは今に始まったことではない。

 近くで興味津々で成り行きを見守っていたハッフルパフ・チームの選手たちが、ニヤニヤ笑っている。セドリックが貧弱な従妹のことを心配してよく愚痴るため、チーム内でダリアのことはそれなりに有名だった。

 チームメイトの一人が、揶揄うように言う。

 

「スリザリンの従妹ちゃんがわざわざ応援しに来てくれるんだ。ますます負けられないな、セド!」

 

「もちろん。――――――――――試合をする以上、勝ちを目指すのは当然だろ。」

 

 

 

 ――――――かっこよすぎる・・・・。

 

 セドリックがニヤッと笑って言った言葉を聞いて、ダリアは顔に血が上るのを感じた。ふと周りを見てみると、同じように頬を赤く染めてポワッとしている女子生徒が何人も居る。予想以上に敵は多いらしい。

 

 ダリアが彼女らを蹴落とす決意を新たにしているうちに、セドリック達は朝食を食べ終わったらしい。次々に席を立ち、競技場へ向かっている。昼からの試合のウォーミングアップに向かうのだろう。

 

「じゃあダリア、僕らは練習に行くけど。そうだな――――――――――ジャネット!」

 

 行きがけに、セドリックはダリアを見て不安そうな顔をした。いつもダリアの面倒を見てくれている友人たちと離れて過ごすのなら、放っておいたらとんでもないことになりそうで少し心配だ。

 セドリックは暫く考え、同学年の友人に声を掛けた。彼女ならばダリアとも仲がいいし、変なことをしないよう気を使ってくれるだろう。

 

「――――――あら、ダリアじゃない。どうしたの?」

 

「今日はハッフルパフの応援をしたいらしいんだ。一緒に居てあげて欲しいんだけど・・・・。」

 

 ロミーリアは一瞬あっけに取られた様子だったが、すぐに笑顔を浮かべて快諾した。

 

「――――ふふ、いいわよ。ダリア、一緒にセドリック達のことを応援しましょうね。」

 

「――――――うん。」

 

 ダリアはセドリックに子ども扱いされたことが少し不満だったが、ロミーリアと一緒に観戦するのは望むところだったため、大人しく彼女に手を引かれた。

 

 

 

 

 

 

 試合開始まではまだ時間があるが、今回のゲームはハッフルパフにとっては今年最後の試合である。ほぼ全ての寮生が観戦に行くことが予想されるため、いい席を取るために二人は早めにホグワーツ城を出て競技場へ向かった。

 

 観客席への道すがら、ロミーリアがダリアにこっそりと話しかけてきた。

 

「ねえダリア。ちょっと前から思ってたんだけど、やっとセドリックに対して素直になる気になったの?」

 

「え――――――――――――――――うそ、ロミーリア気付いてたの?」

 

 数拍置いて言われている意味を理解したダリアは、目を丸くしてロミーリアを見上げた。

 

「私、そんなに分かりやすいのかしら―――――――――セドリックもすぐに気付くと思う?」

 

「それは――――――――うーん、どうかしら。私はダリアの様子を見てたから気づけたけれど、セドリックはあれで意外と鈍いから。あの人、周りから好かれることに慣れすぎて、逆に好意に鈍感になってる節があるわよね。」

 

「あぁ――――――――――なるほど。うん、そうかも。」

 

 ロミーリアの言葉に、ダリアは納得した。あれだけ黄色い声援を浴びても涼しい顔をしているのだ。自分に向けられる特別な好意に気付いていない可能性も十分にある。

 

「そこを気付かせた者勝ちってことよね。やっぱり攻めまくるしかないのかしら。」

 

「ふふ。―――――――――――――――がんばってね、応援してるから。」

 

「なによぅ、それ・・・・・。」

 

 どうにかこうにか自分の気持ちに折り合いをつけ、ダニーと丸く収まったロミーリアは、幸せそうに笑っている。あんなに悩んでいたのに、今ではすっかり余裕の表情だ。

 

「ふんだ。前相談に乗ってあげたんだから、今度は私の相談に乗ってよね。絶対だからね。」

 

「分かってるわ。私も、色々聞いて欲しいことがあるし。」

 

 ――――――――絶対に惚気を聞かせる気だわ。

 

 ダリアはなんとなく確信し、ロミーリアに相談するのが少し面倒くさくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が空のてっぺんに上りきった頃、いよいよハッフルパフVSスリザリンの試合が始まった。ハッフルパフの今までの対戦成績は一勝一敗である。レイブンクロー戦では大敗を喫してしまったため、優勝を狙うためにはスリザリンに大量の得点リードをして勝つ必要があった。

 

 後がないハッフルパフ・チームの選手たちが張り詰めた表情をしているのに対し、まだ試合を残しているスリザリン・チームの選手たちは比較的余裕のある表情をしている。

 ダリアは割とドラコの挑発顔を見慣れているのだが、流石に今回ばかりはそのにやけ面を張ったおしてしまいたくなった。

 

「うわー、何よあの厭らしい顔!!信じらんない、写真に撮って10倍に引き伸ばして談話室に飾ってやろうかしら。そうすれば自分がどんなに意地の悪そうな顔してるか分かるでしょ!」

 

 ロミーリアは「ダリアも悪だくみの時はよくああいう顔してるけど・・・。」と思ったが、口には出さなかった。

 

 

 

 

 試合はハッフルパフ優勢で進んていった。

 しかしスリザリンも中々しつこく追いすがっている。点数自体はリードしているのだが、ハッフルパフは思うように得点差を広げられていない。

 

 ダリアは万眼鏡でセドリックと他の選手たちを素早く切り替えながら、はらはらと試合の経緯を見守っていた。

 セドリックは競技場に素早く目を走らせてスニッチを探しながら、得点にも気を配っている。ある程度点差を稼いでからスニッチを捕らなければ、優勝は狙えない。

 

 ダニー達の奮闘の末、スリザリンとハッフルパフの点差がある程度開くと、セドリックは途端に箒の方向を変え、一点に向かって突進し始めた。

 

 ――――――――――スニッチを見つけたんだわ!!

 

 観客席が一瞬の沈黙に包まれた。全員が固唾を呑んでセドリックの行方を見守ったが、一瞬ののち、競技場はブーイングの嵐が巻き起こった。

 

「あーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 

 スリザリンのビーターがセドリックの進行方向上に突然現れ、直接棍棒を振るったのだ。幸いセドリックはすんでの所で避けることができたが、せっかく見つけたスニッチは見失ってしまったらしい。再び上空へ戻って行った。

 

 危険極まりないファウルに、審判のマダム・フーチを含めた会場中の全員が怒り心頭だった。

 当然ダリアもプッツリと怒髪天をつき、思いつく限りの汚い言葉で自寮のビーターを罵った。

 

「この、―――――×××野郎!トントンチキ!!へなちょこ!!よくもそんな卑怯なことを!!」

 

 スリザリンを応援している時には、この程度のファウルなら「まあ勝つためならしょうがないんじゃない?」等嘯いていた人間の発言とは思えない掌の返しようだ。

 

「ダリア、落ち着いて―――――」

 

「おたんこなす!ヘチャムクレ!顔は覚えたわよ、夜道で背後に気を付けなさい!!」

 

「もう、試合はまだ終わってないのよ!ああ、ダニー、頑張って―――――!」

 

 ロミーリアが祈るようにフィールド上のダニーを見つめている。あと少しという所でのファウルでの妨害にも、ハッフルパフは冷静さを失わなかった。挑発に乗らない安定感はハッフルパフ・チームの強みでもある。

 しかし、シーカーの妨害に成功したことで、スリザリンの選手たちは絶好調になった。

 勢いに乗ったフリントたちは、次々とゴールを決めていき、ついに点差は埋められてしまった。

 

 

 

 

 ハッフルパフの観客席が不安に包まれる中、不意に両チームのシーカーが同時に動き出した。再びスニッチが姿を現したのだ。

 距離ではセドリックが圧倒的にドラコをリードしている。このままいけば、確実にスニッチを捕り、ハッフルパフは勝利することができるだろう。

 

 しかしそれは同時に、優勝の可能性を自ら手放すことを意味していた。

 

「セドリック―――――――――――」

 

 かといってスニッチを見逃してしまえば、きっとドラコがスニッチを捕え、スリザリンが勝利してしまう。優勝を諦めてでも、試合に勝つ方を選んだのだろう。

 万眼鏡の視界の中、スニッチを捕えた瞬間のセドリックは苦渋の滲んだ顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合が終わった後も、セドリックはキャプテンとして堂々と挨拶していた。勝利は勝利だが、得失点差の計算で、事実上ハッフルパフの優勝は不可能となってしまった。

 スリザリンのキャプテン、マーカス・フリントが良い笑顔で何やら話している。内容までは聞き取れないが、ダリアはその様子を憤懣やるかたないという思いで見つめていた。

 

「絶対アレ、嫌みなこといってるわよ。あいつセドリックの人の良さに付け込んで試合順変えてもらっておきながら、恩知らずにもほどがあるでしょ・・・・。」

 

 セドリックは何でもない顔で応対しているが、それなりにセドリックを見てきたダリアは、彼の心が乱れているのがなんとなく分かった。

 

 ――――――――――絶対、落ち込んでるわよね・・・・・。

 

 相手が落ち込んでいる時にはすかさず慰めろ。リドルのありがたいお言葉にはそうあったが、ダリアはついさっきとあることを思い出した。

 

 ダリアは、人を慰めるのがものすごく苦手だった。今まで他人を慰めたことなどほとんど無いし、前回偶然セドリックを慰める側に回った時には、何故か大爆笑されてしまった。

 結果的にセドリックが元気になったのでそれなりに成果はあったと言えるのだが、今のダリアの目的と乙女心を考えると、あまり好ましい反応ではない。

 

 ――――――――でも、セドリックが落ち込んだままでいるよりは、私が笑い者になって気分を変えられるのなら―――――――でもやっぱ笑われるのイヤだな―――――。

 

 ダリアは悩んだ末、ロミーリアに別れを告げると、ハッフルパフの選手ロッカールームに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 ハッフルパフのロッカールームでは、選手たちがまだ何やら話し込んでいた。ドアに近づいて耳を澄ませてみると、セドリックの声が細々と聞こえる。キャプテンとして、何か話をしているらしい。

 

 しばらくすると、ロッカールームの中から選手たちがぞろぞろと出てきた。ダニーの姿はあるが、セドリックの姿は見えない。――――――もしかすると、また前のようにロッカールームの中で一人落ち込んでいるのかもしれない。

 ダリアはそっと入り口に近づくと、ドアの隙間にニュッと頭を突っ込んだ。

 

 案の定、中ではセドリックがベンチに腰かけながら、俯き加減に座っていた。こちらから表情は見えないが、明らかに落ち込んでいる。

 予想通りの展開に、ダリアは息をつめた。イケてる慰めの言葉は、まだ思いついていない。

 セドリックがパッと元気になって、ダリアの気づかいに感心するような、気の利いたスペシャルな文句は何かないだろうか。

 

 ダリアがロッカールームに首だけ突っ込んだ状態でポクポク考え込んでいると、人の気配を感じたセドリックが、ふと入り口の方に目を向けて悲鳴をあげた。

 

「うわぁ!?――――――――って、ダリア!?またそんなところで何して―――――――」

 

「はっ!?―――――――う、迂闊―――――。」

 

「迂闊、じゃないだろ。一人でこんなところに来たのか!?シリウス・ブラックがホグワーツをうろついているかもしれないのに―――――!!」

 

 セドリックは怒ったように言うと、慌ててダリアをロッカールームに引きずり込んだ。最近思うのだが、セドリックはダリアが才能ある大魔法使いの卵だということを忘れている気がしてならない。ブラックなんかに後れを取る気など全くないダリアは、少し不満だった。

 

「大丈夫だよ。私、ブラックよりずっと強いもん。鉢合わせになってもきっとすぐ捕まえられるわ。」

 

 鉢合わせるどころか本人(犬?)と頻繁に会っているという事実はうっちゃったまま文句を言うダリアに、セドリックは疑わし気な目線を向けた。

 

「でも君、肝心な所でお粗末なミスが多いし。――――――実際、去年は自分のうっかりで石になってしまったんだろう?」

 

「―――――――――。」

 

 ぐうの音も出ない正論だった。

 完全に沈黙したダリアを見て、セドリックはやれやれというようにため息をつくと、再びベンチにどっかり腰かけた。

 

「―――――――――――やっぱり、疲れてる?」

 

「ん――――――まあ、そうだね。試合が終わったばかりだし――――――――クィディッチ優勝杯も逃しちゃったしね。気が抜けてしまったのかも。」

 

「そっか。」

 

 ―――――――「勝ったんだからいいじゃない!」――――は、ちょっと違うか。「スリザリン相手に中々のいい勝負だったんじゃない?」――――傷口に塩塗ってどうするの。「私の中で優勝はハッフルパフだから!」―――ってなにそれ訳わかんない。なんて言えばいいの、ああもう何かいい感じの――――――

 

「――――――――ぶっ、」

 

 ダリアが真剣に考えこんでいると、セドリックが噴き出した。またもや下を向いたまま笑っている。

 

「なんで笑うの!?私まだ変なこと何も言ってないのに!」

 

「ご―――――ごめん、あんまりにも考え込んでるから、おかしくてつい―――――」

 

「は、はぁ――――――?」

 

 考え込む様子だけでこんなに笑うなんて、流石に笑いの沸点が低すぎるのではないだろうか。ちょっと流石に失礼な気もする。

 ムッとしたダリアの様子を察し、セドリックは慌てて笑いをひっこめた。

 

「ごめん、慰めようとしてくれてたのに。――――――――せっかくダリアにハッフルパフを応援してもらったのに、こんなに落ち込んでたらいけないな。――――――――格好悪いところ見せたね。」

 

 

 

「――――――――――かっこわるくない!!!」

 

 セドリックが自虐的に言った言葉に、ダリアは思わず大声で反論してしまった。突然声を荒げたダリアに、セドリックが何事かと目を見開いている。

 

 意図せず飛び出した言葉に焦るが、言ってしまったものはもう取り消すことができない。ダリアは半ばヤケクソになりながら、怒った様な口調で続けた。

 

「セドリックは、かっこよかった!!ドラコのにやけ面にも嫌な顔一つしなかったし、スニッチ見つけるのも一番早かった!ビーターにファウルされても冷静だったし、挨拶の時だって、フリントにごちゃごちゃ言われてもずっと堂々としてたもん!すっごくかっこよかった!」

 

 一息に言ってしまってから、「文句ある?」という風にセドリックを睨みつける。黙って聞いていたセドリックの顔を見たダリアは、ぽかんとしてしまった。

 

 セドリックは顔を赤くして、ダリアの訴えを聞いていた。

 

 

 

 ダリアがまじまじと自分を見ていることに気が付いたセドリックは、慌てて片手で顔を隠しながら、目を逸らした。

 

「さ――――――流石に、そんなに褒められると、恥ずかしいかな。」

 

 

 

 

 赤面したセドリックを見たダリアは、瞬時に「これだ!」と思った。意気揚々と思いつく限りのおべっかを並べ立て始める。

 

「セドリックすごい、かっこいい!名シーカー!」

 

「ちょ―――――――」

 

「ハッフルパフの要!精神的支柱!!最高のリーダー!!」

 

「だから―――――――」

 

「美形!王子様!ピカピカエース!ホグワーツの顔!!」

 

「―――――そこまでいくとちょっとわざとらしいかも。」

 

「あ、はい。」

 

 味をしめて褒めすぎたのか、セドリックは一周回って冷静になってダリアを静止した。やりすぎてしまったらしい。

 せっかくいい雰囲気になりかけていた気がするのに、調子に乗って自分でぶち壊してしまった。あんなに照れているセドリックを見るのは初めてだったのに。

 

 心の中で後悔するダリアに、セドリックが声を掛ける。笑いを含んだ穏やかな声だった。

 

「でも、元気が出た気がするよ。ありがとう、明日からまた頑張れると思う。――――――――うん。今回はせっかくダリアがハッフルパフを応援してくれたんだから、最終試合では僕もスリザリンの応援をしてみようかな。」

 

「わぁっ!」

 

 頭の上に手を置かれ、わしゃわしゃとかき回される。確実に女の子に対する扱いでは無かったけれど、それでもダリアは嬉しかった。満足気に笑うと、「じゃあ今度はセドリックがスリザリンの席に来てね。」とちゃっかり次の試合の予定を予約したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――あ、でも私、デリックにはちょっと頭に来てるから。もしかしたら最終試合はあの人出られなくなってるかもしれないわよ。」

 

「絶対にやめてくれ!!」

 

 スリザリンのビーターへの闇討ちを暗にほのめかしたダリアは、セドリックにしこたま叱られた。

 




明日の金曜ロードショーはハウルの動く城ですね!!!!

映画の終盤、ソフィーたちがイチャイチャしすぎていつも体が痒くなってくるんですが、ジョーンズ氏の作品が原作という時点で大好きな映画です。数週間前から楽しみにしていました。

明日の夜が待ち遠しいです!

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