ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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忍びの地図

 試合には負けたものの、ハッフルパフを優勝争いから蹴落としたスリザリンは、早くも宿敵グリフィンドールとの最終決戦に向けての気運が高まってきていた。

 

「流石に早すぎない?だってグリフィンドール戦ってイースター休暇明けでしょ?まだ何週間も先じゃない。」

 

「しょうがないでしょ、相手がグリフィンドールなんだから。きっと試合が近づいたら今以上にピリピリしてくるわ。」

 

 毎年、2寮のクィディッチ対抗戦が行われる前後では、スリザリン生とグリフィンドール生の諍いが後を絶たない。宿命のライバル同士である2寮の戦いは、もはやクィディッチ内だけに収まるものではないのだ。

 

「今年もウィーズリーの双子が、スリザリン寮の入り口に糞爆弾をしこたまばらまく時期が来るのね。めんどくさいなぁ―――――現行犯で捕まえてクィディッチ出場停止とかにできないの?」

 

「無理無理。あの双子、そういう所は結構抜け目がないもの。それにもし捕まえたとしても、マクゴナガルがどうにか別の罰則に変えて試合に出場させるんじゃない?あの人クィディッチのことになるとおかしくなっちゃうし・・・・。」

 

 グリフィンドールの寮監であるマクゴナガル教授は普段は厳格かつ公正な魔女だが、何故かクィディッチのこととなると冷静な判断力を失ってしまう困った人だ。一年生の頃、規則を捻じ曲げてまでポッターをグリフィンドールチームのシーカーに任命したこともあるほどだ。

 もっともスリザリンの寮監であるスネイプ教授が彼女以上に贔屓をする人なので、文句を言いにくいのだが。

 

 そのスネイプ教授から聞いたところによると、グリフィンドールは何年もクィディッチ杯を手にしていないのだという。「今年こそは」とマクゴナガル教授が考えているのならば、有能なビーターであるウィーズリーズを試合に出さないという選択はしないだろう。

 

「ちぇっ。じゃあせめてあの双子に嫌がらせしましょうよ。奴らがスリザリンの談話室に近づくと、持ってる糞爆弾がその場で爆発する呪いとかどう?足はつかないはずよ!」

 

「――――――そんな魔法使えるのあんたくらいなんだから、すぐに特定されると思うんだけど・・・・。」

 

 不安そうな様子のダフネ達に、この作戦の効果の大きさとそれに比例する隠蔽性の高さを懸命にプレゼンしていると、ドラコ達が近づいてきた。ダリアはその中にノットの姿を認めると、すぐさま気配を消すようにミリセントの横に張り付いて座った。

 

「さっきから楽しそうな話をしてるじゃないか。グリフィンドールの連中にいっぱい食わすんだって?僕らにも聞かせてくれよ。」

 

「ドラコ!そうなの、ウィーズリーの双子たちに目にもの見せてやりたいと思ってたのだけど、ダリアの作戦がちょっと――――――。」

 

「ダリアの作戦?」

 

 パンジーの言葉を聞いて、ドラコがほんの少し尻込みをした。ダリアはその反応を見逃さなかった。

 

「―――――――何よ、今の反応は。私の作戦じゃ不満だって言うの?」

 

「い、いやそんなことはないさ。ただ、ちゃんとダフネ達に監修してもらった方がいいんじゃないかと思って――――――」

 

「どういう意味よそれっっ!」

 

 ダリアは気配を消していたことも忘れ、ドラコに噛みついた。

 まるでダリアの考えた作戦では気が乗らないとでも言いたげな反応だ。確かにダフネ達が考える嫌がらせに比べれば派手さが足りないかもしれないが、内容を聞きもせずにそんな反応を返されるのは心外だ。

 

「は―――派手さを心配しているんじゃない。むしろ派手すぎることを心配してるというか、君は加減を知らないから――――――――」

 

「なによそれ!私がいつ、加減を忘れたって言うのよっ!」

 

「え・・・・結構頻繁にあるじゃないか・・・・。」

 

 去年の年末、ダリアが自分に掛けた防護魔法が強力過ぎたためマンドレイク薬の効果を受け付けず、一人石化から回復できなかった事件は記憶に新しい。そんな都合の悪いことは忘れたことにして、ダリアは更にドラコに噛みつこうとしたが、不意にドラコの後ろに立っていたノットと目が合ってしまった。

 

「―――――――――――ふん。」

 

 ダリアは水を被ったかのようにスッと怒りが引いていくのを感じた。ノットと目が合った瞬間、彼と冷戦中だということを思い出したのだ。

 ダリアは視線を逸らしながら、元々座っていたソファに腰かけなおした。

 

 ドラコは急にクールダウンしたダリアを不審な顔で見ていたが、怪しげな作戦に巻き込まれない内に、取り巻きたちを連れて慌てて逃げて行った。

 ダリアはノットがドラコ達と一緒に去ったのを確認すると、大きなため息をついた。

 

 

「――――――――――ねぇ、ダリア。いい加減教えなさいよ。あなた、ノットと何があったの?あなた達クリスマス休暇明けから、まともに話してないじゃない。」

 

 その一連の様子を見ていたダフネが、声を潜めて言った。ダリアとノットの冷戦は、既にスリザリンの友人達の知るところとなっていた。ずっとのらりくらりと躱していたのだが、今のダフネは「答えるまでは逃がさない。」と目で語っていた。

 

「さっきみたいにぎくしゃくされると、こっちもやりにくいのよ。喧嘩したならしたで、ちゃんと理由を言ってちょうだい。」

 

「ノットが何かしたっていうなら、私からあいつに言ってあげるからさ。とりあえず、訳の分からないまま喧嘩に巻き込まれるのは嫌なのよね。」

 

 誤魔化しきれないと悟ったダリアは、渋々口を開いた。

 

「別に、喧嘩じゃないの。ノットが何かしたっていうわけじゃないんだけどね・・・・・。」

 

「じゃあ、誰がどうしたって言うのよ。」

 

「―――――――――――ノットのママが怖くって。」

 

 周りの生徒達に聞こえないように、ダリアは小さな声で言った。

 予想外の名前にダフネ達はあっけに取られていたが、すぐにクリスマスパーティーでの出来事を思い出したらしい。ダリアと同じように声を潜めて、事情を聞いてきた。

 

「ノットのお母様って――――――この前のクリスマスパーティーで、ダリアの歌を褒めに来ていた方でしょう?確かに、怖いほどの美人だったけれど。」

 

「―――――――――逆らえないって感じはしたわよね。ダリア、何故か質問攻めにされてたし。――――――――ノットからあの人に話が伝わるのが嫌だから、あんなにぎこちなくしてるっていうわけ?」

 

 ミリセントの言葉に、ダリアは首を振った。

 

「パーティーから帰ったあとは確かにそんなことも考えてたけど、新学期が始まってからは別にそこまでは思ってなかったわ。――――――――おかしいのはノットの方よ。」

 

 確かに最初、ダリアの態度はかなりぎこちないと言えるものだった。しかしノットの方も、そんなダリアの様子を気にも留めずに事務的な対応をするばかりで、目も合わせようとしないのだ。

 

「――――――どっちもどっちね。お互い気にしすぎなんじゃないの?早いところ、話し合いでも何でもして解決してほしいんだけど。――――――なんなら、そういう場でもセッティングするわよ。」

 

「―――――――私は、別にそれでいいんだけど―――――――――――」

 

 ダリアは躊躇した。

 ダリアはまたノットと普通におしゃべりしたいと思っているが、もしかするとノットの方はそうではないかもしれない。

 

 ―――――――もしかすると、本当に母親の指示を受けて、ダリアと関わっていた可能性だって捨てきれない。

 

 そんなことはないと思いたいが、思考が嫌な方にばかり流れていく。ダリアは悩んだ末、判断を相手に丸投げにすることにした。

 

「ノットにも聞いてみて。ノットが良いって言うなら、話し合う。」

 

「あのねぇ。」

 

 ダフネは呆れた顔をしたが、ダリアの決意が固いことを察して、その提案を受け入れた。

 その時、長い間黙っていたパンジーが、周りを気にしながら口を開いた。

 

「――――――参考になるかどうか分からないんだけど、ノットのお母様に関する噂を聞いたことがあるの。そんなに詳しくは知らないんだけど――――――」

 

 ダリアは思わぬ情報提供に驚いたが、同時に納得もした。パンジーは大の噂好きで、その情報網はホグワーツのみならず、イギリス魔法界の貴族社会にも広がっている。

 あれだけ強烈な印象のある女性である。何らかの噂が巡り巡ってパンジーの耳に入っていてもおかしくはなかった。

 

「まず、これは結構有名―――――というか、別に隠されてないことなんだけど、ノット夫人はノットとは血がつながっていないの。ノットを生んだお母様は随分と前に亡くなっているんですって。つまり、継母ってことね。」

 

「―――――――――そうだったんだ。」

 

 どうりで似ていないはずだ。ダリアは納得した。

 それに付け加え、ダリアはあることを思い出していた。夏季休暇明けの出来事だ。

 ホグズミード駅からホグワーツ城へ向かう馬車に乗る時、ノットはセストラルの姿が見えていた。あれは、実の母親の死を目の当たりにしたことがあったからなのだろうか。

 

 パンジーの噂話は続いていく。

 

「それで、ここからが良く分からない噂なんだけれど――――――――――ノットのお母様は、出自がはっきりしていないんですって。」

 

「えっ――――――――」

 

 それはスリザリンの貴族にとって、かなり致命的だ。彼らは自分たちの家系図に、マグルの血が混ざるのを嫌う。出自のはっきりしない女性を受け入れることなどありえないのではないだろうか。

 

「跡継ぎのノットがすでに居るから、そこまで重要視はされなかったみたい。家系図には載っていないらしいし―――――――純血で、高貴な血を引いているって言うのは間違いないみたいだし。」

 

「なんでそんなことが分かるの?」

 

「あの人、蛇語が話せるらしいの。サラザール・スリザリンの直系の子孫である証拠よ。」

 

「蛇語ならポッターも話せるじゃない。」

 

「あれは――――――――まあ、ポッター家も元は古くからある魔法族の家系だし、ちょっとしたつながりがあってもおかしくはないけれど。――――――ともかく!ノットのお母様についてわかっているのは、それだけ。魔法大臣の秘書になるほど有能な人が、それまで全く名前を聞くことが無かったって、不自然でしょ?だからそういう噂があるの。」

 

「ふうん。」

 

 スリザリンの子孫であるという噂が本当なら、リドルと顔が似ているのもそれなりに説明がつく。

 サラザール・スリザリンはリドルやノットのママと同じような顔をしていたのかもしれない。ダリアはそんなことを考えながら、ノットが消えていった寝室の方をじっと見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――まぁ、スリザリンは1000年以上も前の人間だからね。僕以外にも彼の血を引く子孫が居る可能性は否定しないさ。だが、パーセルタングが発現するほどの血の濃さとなると、僕が調べていないはずがないんだが―――――――」

 

「えー、調べたっていっても所詮学生の時のことでしょ?見逃しててもおかしくないんじゃない?」

 

「まさか。ホグワーツに眠るスリザリンの資料は勿論、魔法貴族の旧家に取り入ってそれぞれの家系図まで調べた結果だぞ。抜けがあるはずがないだろう。」

 

「――――――そぉ?なら別にいいんだけど。」

 

『この人の自意識過剰な所、ちょっとダリアと似てるよね。あっちの方がだいぶ突き抜けちゃってるけど。』

 

 人気の無い廊下の一角、ダリアは報告に来たリドルに、ノットの母親のことを話していた。「蛇語を使うことができる」という情報を聞いても、リドルはやはり彼女に心当たりがないらしい。

 死喰い人でさえ彼女の出自を知らないというので、ヴォルデモートの子孫という可能性は薄くなったが、依然として彼女のルーツは良く分からないままである。

 

 以前訪ねた時はさほど興味を示さなかったリドルだが、件の人物がパーセルマウスだという話を聞いて、俄然興味がでてきたらしい。

 

「――――――気になるな、僕の方でも調べてみよう。歴史に隠されたスリザリンの末裔――――――面白いじゃないか。僕がその秘密を暴いてやる。」

 

「じゃあ、そういうことでよろしくね。はい、今回の分の魔力。」

 

 悪そうな笑みを浮かべるリドルに、ダリアは「最近なんだか生き生きしてるなぁ」と思いながら、いつものように活動に必要な分の魔力を渡した。

 

「っ―――――――――毎回思うことだが、相も変わらずデタラメな魔力量だな。キャットといい君の後見人といい、魔力の濃い世界に住んでいると、個人が持つ魔力量も変わってくるのか?」

 

「え、どうなのかしら。確かに私やキャットみたいな特殊な体質の人間は私たちの世界でよく見つかるみたいだけど、過去に別の系列の世界から跡継ぎが発見されたこともあったらしいし。ミリー―――――私の後見人の奥さんだって、元々は別の系列の世界から来た大魔法使いだっていうわよ。」

 

 故ゲイブリル・ド・ウィットがクレストマンシーだった頃、後継者だったクリストファーの他にも、ミリーやダリアの母エリザベスなど、才能ある子どもたちを城に招き、特別な教育を施していた時期があったという。その中には確か、第七系列の世界からやって来たというコンラッドという男の人が居たはずだ。

 

「この世界Bでそういう話を聞いたことが無いのは確かなんだけどね。――――――まあ、この世界って魔法が秘匿されてるから、見つけにくかっただけなのかもしれないけど。」

 

「―――――――ふん、なるほどな。」

 

 リドルは少し悔しそうな顔をしていた。「才能ある子ども」といえば、かつてのリドルもきっとそうだったはずだ。それこそ、クレストマンシー城で特別な教育を施されていてもおかしくないほどの。

 

「なによその顔。トムってば城で勉強したかったの?そんなにあっちの世界が気に入った?」

 

「―――――あの城で幼少期を過ごしていたら、どんな自分になっていたんだろうと思っただけさ。大した意味はない。」

 

『まあ、御大が傍に居るんだから、変な道には走れなかっただろうねぇ。』

 

「あはは確かに!トムの年で考えたら、まだ先代が後継者として学んでいた頃になるのかしら。先代ってめちゃくちゃ怖い人だから、結構気が合ってたかもね!」

 

「どういう意味だよ・・・・・。」

 

 幼い頃から才能ある子どもたちの中で学んでいれば、リドルの高すぎる自意識も少しは控えめになっていたかもしれない。過剰な選民思想も育たなかっただろう。

 そうでなくても、世界の監督役の元で暮らすのだ。少なくともヴォルデモートになることだけはあり得ない。きっとその当時のクレストマンシーが許さないはずだ。

 

 先代と一緒になって後見人を叱り飛ばす年老いたリドルを想像し、ダリアがくすくす笑っていると、廊下の向こう側から騒々しい足音が聞こえてきた。

 やけに慌てた様子の足音だ。授業に遅れそうなのかとも思ったが、この先に教室などは存在しない。そういう人が来ないような場所を選んでリドルと話をしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 果たして曲がり角から姿を現したのは、息を切らしたハリー・ポッターだった。ダリアを見つけると、一直線にこちらへ向かってくる。何故か非常に険しい表情をしている。

 彼の気に障るようなことをした記憶など全く無かったダリアは、不思議そうにそれを見ていた。

 

 

「―――――――――リドルは――――――リドルは何処だ!?」

 

「はぁ?」

 

 目の前に来るなり、ポッターはダリアの腕を掴んで激しい口調でまくし立てた。あまりの剣幕に、ダリアは目をぱちくりさせた。

 

「え?何?リドルって誰?」

 

「ふざけるな!さっきお前とリドルがここで話していたことは分かってるんだ。きっとこの辺りに隠れて――――――――」

 

「だからリドルって誰よ・・・・・。」

 

 戸惑うダリアを他所に、ポッターはあたりを猛然と探し始めた。とはいえ、ただの廊下に隠れる場所などそうあるはずもない。

 誰も見つけることができなかったポッターは、ダリアに負けず劣らず戸惑った顔をしていた。

 

「そんな、でも確かに地図にはモンターナとリドルの名前があったのに。―――――――――今だってまだあるのに!」

 

「だからぁ、リドルって誰って言ってるじゃない・・・・・。」

 

 古びた羊皮紙を見てブツブツ呟くポッターに、ダリアは段々イライラしてきた。突然女の子の腕を掴んできておいて放置するとは、失礼極まりない男だ。

 

 とはいえ、ポッターが何をそこまで必死になっているのかという事は気になる。ダリアはポッターの後ろにそっと近づくと、彼が舐めるように見ている羊皮紙を覗き込んだ。

 

「―――――――うわ、なにこれすごい!ちょっと見せてよ!」

 

「ちょ、見るなよ、取るなって―――――――し、しまった!」

 

 それはホグワーツの内部を示した地図だった。それもただの地図ではない。どこにどのような人物が居るか一目でわかる、素晴らしく手の込んだものだ。

 あまりに素晴らしかったので、ダリアはポッターから強奪すると、夢中でその地図を調べ始めた。横でポッターがどうにかして取り返そうと頑張っているが、意地でも手を離さない。

 

「へぇ、ホムンクルスの術が使われてるのね。城内の人間の魔力に反応して、地図の中に写し取って動かしてるのかしら。――――――――あ、ダフネ達だ!すごーい!」

 

 スリザリンの寮の内部など、色々と記載されていない場所もあるが、この地図は城内のほぼ全ての場所を網羅しているらしい。

 ようやく自分が今居る場所を探し出したダリアは、そこにハリー・ポッターとダリア・モンターナの名前の他に、もう一人名前と足跡が記載されていることに気が付いた。

 

「トム・マールヴォロ・リドル――――――――あ。」

 

 ずっと「トム」と呼んでいたため、トムのファミリーネームがすっかり抜け落ちていたダリアは、それを見てようやくポッターが何を言っているのかという事に思い至った。

 リドルは去年、秘密の部屋でポッターと対峙し、敗北して消滅したのだという。そこをダリアが無理やり存続させているわけだが、ポッターは当然その事を知らない。

 ポッターにしてみれば、死んだはずの人間が(元々生きてはいなかったが)突然生き返ったようなものだろう。驚くのも無理はない。

 

 ダリアはそんな考えはおくびにも出さず、何食わぬ顔で地図をポッターに返した。

 

「あんたが言ってるのって、このトム・マールヴォロ・リドルってやつのこと?確かにこの地図には載ってるけど、居ないじゃない。これ壊れてるんじゃないの?」

 

「―――――――――――でも、今までこんなこと無かったのに。」

 

「そんなこと言ったって、実際どこにも居ないじゃない。――――――ホラ、地図じゃこの辺に居ることになってるけど、別に誰も居やしないわ。」

 

 ダリアはトムが浮かんでいる場所に行くと、腕を左右にブンブン振った。体の中をすり抜ける腕にリドルは嫌そうな顔をしているが、当然それがポッターには見えることは無い。

 

「見たところすごく古そうだし、ガタがきていてもおかしくないんじゃないかしら。」

 

「――――だからって、どうしてリドルの名前がいきなり出てきたんだろう。」

 

「時間軸の設定がずれてるんじゃない?前ここに居た人の痕跡を地図が感知しているとか。」

 

 とりあえず誤魔化さなければ、とダリアは適当な出まかせを口にした。

 きっとポッターはこの地図の複雑な仕組みは理解していない。これに使われている魔法は学校では到底習わないような高度な魔法だからだ。

 

 案の定ポッターは、分からないなりに「そういうものなのかも」と一応は落ち着いた様子だった。

 

「――――――――ごめん、モンターナ。ここに居ないはずの人の名前があったから、僕、焦っちゃって。」

 

「全くよ。よくもものすごい力で掴んでくれたわね。私の細腕に痕が残ったらどうしてくれるのよ。もしものことがあったら、一生箒に乗れないような体にしてやるんだから!」

 

「怖いって、ごめんってば・・・・・。」

 

 ポッターは謝りながらも、どこかまだ納得がいっていない表情で来た道を戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 完全にポッターの姿が見えなくなると、ダリアはほっと安堵の息をついた。

 

「――――――――ねぇ、さっき君、僕の名前素で忘れていただろう。」

 

「やだ、演技だってば。本当だって。――――――――――それにしても、危なかったわね。まさかあんな魔法具があるなんて思っても居なかったわ。もっと慎重に動かなきゃいけないわね。」

 

 本来ならばただの記憶であるリドルは、忍びの地図に仕込まれているホムンクルスの術に反応しないはずだ。しかし、ダリアの濃い魔力を大量に受け取った直後だったため、ゴーストと同じようなものとして反応してしまったのかもしれない。

 ポッターから地図を奪った際、リドルの名前が記載されないよう細工を施したため、もう心配はいらないだろう。今回地図の存在を知ることができたのは運が良かった。

 

 人間であれば、ゴーストになっても、リドルのような不安定な存在になっても、居場所が記載される魔法の地図。となれば、人間が動物に姿を変えたとしても、同じような地図には人間としての名前が記載されるはずだ。

 ダリアはこれをペティグリュー確保、そしてアズカバン収監に利用することができないか、考えを巡らせた。

 

 ―――――――――あの地図を大人が持っていれば都合がいいんだけどなぁ。

 

 あれほど手間暇かけて作られた魔法具となると、おそらく市販の品ではないだろう。地図でピーターの名前を見つけるのは、社会的に発言力がある大人でなければ意味がない。

 

「まあ、そううまくいくはずもないかぁ。」

 

 ダリアはひとまず諦め、別の作戦を考えることにした。

 

 

 

 

 

 しかし、忍びの地図が大人の手に渡る機会は、意外と早くやって来た。

 




ハウルの動く城、面白かったですね!

ちなみに原作では、ハウルは異世界からやって来たという設定で、現実世界(クレストマンシーシリーズで言うと第12系列の世界B)のイギリスのウェールズ出身という事になっています。

なんとなく同じ世界観でつながっているのを感じて面白いですよね!

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