ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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生首、ヒッポグリフ、そしてネズミ

 寒さもだいぶやわらぎ、暖かな日の光を感じられるようになってきた頃、やっとホグズミード行を許可された週末がやって来た。

 

 ダリアは久しぶりに同室の友人たちと連れ立って、ホグズミード村へ遊びに行くことにした。

 今日はミリセントが追っかけをしている「妖女シスターズ」というバンドの握手イベントが開催されるらしい。ホグズミードのメイン通りは、いつにも増して彼ら目当ての客でごった返していた。

 

 特に握手会が行われる特設ステージ周辺は身動きにも苦労するほどで、人込みに潰されそうになったダリアは早々に戦線離脱することを決意した。

 同じようにインドア派のダフネも早々に音を上げたので、一緒に少し離れたベンチに座り喧騒を眺めながら、おしゃべりして時間を潰した。

 

 

「ミリセントもパンジーも、よくやるわよね。ちょっと私には無理だわ。」

 

「ホントにね。私、さっきおっきなおばさんに潰されそうになって、ここで死ぬんだと思ったもん。」

 

「大げさねぇ。――――――あ、ミリセントよ。」

 

 

 押し合いへし合いする人込みの中でも、大柄なミリセントはよく目立つ。人込みの中を泳ぐようにかき分けながら、最前列でメンバー達に必死で手を振っている。

 パンジーもミーハー魂を発揮して、そこそこ楽しんでいる様子だった。

 

 

「―――――――ミリセントはもういいのかしら。ホラ、あのギターの人。恋人が居るって落ち込んでた。」

 

「それはもういいんですって。この前の週刊魔女で、破局がすっぱ抜かれていたから。」

 

「あ、そうなの―――――――」

 

 

 なるほど、どうりで何の憂いも無く、イベントを楽しんでいるわけだ。

 

 やがて握手会が終わると、ライブが始まった。即席ステージから激しい音楽が大音量で流れ始め、会場は一気に沸き立った。

 あまりの爆音に、ホグズミード村の住人が眉を顰めながら次々に防音魔法らしきものを掛けている。確かに、昔かたぎの人々には受け入れにくい方向性の音楽かもしれない。かくいうダリアも音楽はクラシック派だった。

 

 拡声魔法を使い、ボーカルらしき人物が叫ぶ。

 

『てめえら、盛り上がってるかーーーーーーーーーーー!!!』

 

 うおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 

 地面を揺るがすような唸り声に、ダリアは思わず耳をふさいだ。ミリセントが勢いよくコブシを天に突き上げているのが見える。

 

 クラシック派のダリアではあるが、ミリセントからの熱烈なプレゼンを受けた結果、「こういうのもたまにはいいかな」と思えるようになってきていた。

 しかし、ライブへの参加はまだ早かったらしい。ステージのあまりの熱量に圧倒されたダリアは、見ているだけでかなりの体力を消費し、ライブが終わるころにはヘロヘロになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、楽しかった!!やっぱり妖女シスターズは最高ね!!」

 

 思う存分ライブを楽しんだミリセントは、ホグズミード村からの帰り道でもずっと輝くような笑顔を浮かべ、弾むように歩いている。

 それとは対照的にライブに圧倒されたダリアとダフネは、疲れて重い体を引きずるように歩いていた。パンジーもそこそこ疲れたらしく、苦笑いしている。

 

「ミリセントは元気ねぇ。疲れないの?私見たわよ、あなたが頭を激しく振りたくってるところ。」

 

「当たり前でしょ。あんなにノリのいい曲、ヘドバンするしかないじゃん!」

 

「え、ヘド――――――なに?」

 

 

 ダリア達がきゃいきゃいじゃれあいながらスリザリンの寮に戻ると、何やら談話室が騒がしい。何事かと騒ぎの中心に近づくと、暖炉の真ん前でドラコが憤慨しながら何やら喚き散らかしていた。

 

「――――――本当に見たんだ!!ポッターの生首がホグズミードに浮いていた。―――――なのにポッターの奴、僕が幻覚を見ただのなんだの言って言い逃れをして――――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――どうしたの?あれ。」

 

 ダリアは話の流れが全く見えず、近くに座ってオロオロしていたゴイルに事情を尋ねた。ゴイルはしばらく考えるようにもごもごしていたが、ようやく上手い具合に説明できる言葉を見つけたのか、ぎこちなく話し始めた。

 

 

「――――――――さっきホグズミードで、ポッターの生首を見た。そいつに泥を掛けられて、ドラコは怒ってる。」

 

「―――――――――え、生首!?心霊現象じゃない!」

 

 

 叫びの屋敷と言えば、英国随一の心霊スポットだ。ありとあらゆる出入口が厳重に閉じられており、誰も住んでいないことは確かなのだが、満月の夜になると屋敷の中から身の毛もよだつような叫び声が聞こえてくるのだという。

 

 そんなところで生首なんかを見た暁には、肝の小さいダリアはすぐさま気絶する確信があった。ゴーストが山ほど居るホグワーツだが、それとこれとはまた話が別なのだ。

 

 ドラコもダリアとどっこいどっこいの気の小ささなので、同じく悲鳴を上げて気絶するのではないかと思っていたのだが、そうではなかったらしい。冷静に考えた結果、ポッターが何らかの方法を使って姿が見えないように小細工したのだろうと見当をつけていた。

 

 ドラコはイライラと頭を掻きむしりながら、どっかりとソファに座り込んだ。泥を掛けられたことに加え、その後ポッターがまんまと逃げおおせ、罰則も受けなかったことが更に気に食わないらしい。

 

 

「ふん、悪運の強いやつらめ!!――――――――――――まあいいさ。やつらがどれほど騒いだところで、ヒッポグリフの処刑は時間の問題だ。あの連中が絶望する顔を見るのが今から楽しみだよ。」

 

 絵に描いたような小悪党の台詞だったが、ダリアはそれよりもドラコの「ヒッポグリフ」という言葉が気になった。

 

 

「ヒッポグリフ?処刑って――――――――――そんなことになってたの?」

 

「ダリア、知らなかったのか?僕があんなに談話室で話していたのに!」

 

「あ、うん――――――――今年それどころじゃなくって。」

 

 ドラコが愕然と言うので、ダリアは気まずげに目を逸らした。実際、今年は全ての授業を取っているため談話室に居る時間は常に予習復習に追われており、ドラコの自慢話に耳を傾ける余裕はなかった。

 

 ダリアが必死でレポートをこなしている現場に何度か鉢合わせたことがあったからか、ドラコは呆れながらもそれ以上追求することは無かった。

 

「まったく――――――まず、父上は僕の腕の怪我のことで、ホグワーツの理事たちにあの森番を罷免するよう要請した。」

 

「ふむふむ。」

 

 しかし、ハグリッドの監督責任は認められなかったのだという。おそらくダンブルドアの介入によるものだろう。彼はハグリッドを特別に気にかけている。

 

「えぇー、それっておかしくない?確かにドラコが不適切な行動をとったのが怪我の原因だけど、事故が起こらないように配慮するのが教師の役割でしょ。授業中の事故は教師が責任取るべきだと思うし――――――それ以前に、初めての授業でヒッポグリフは無茶よ。」

 

 ヒッポグリフを凶悪な生物と認識しているわけでは無いが、扱いに注意が必要な生物だという事は間違いない。教師も初めて、生徒も初めての授業で扱う内容としてはやはり難易度が高すぎる。

 

「ああ。父上もそうお思いになられた。だが一度決定した委員会の採決を覆すことは難しい。だから父上はどうにかして森番に責任を取らせるため、魔法省から危険生物処理委員会を引っ張りだしてきたんだ。」

 

 ドラコがハグリッドにより命の危険に晒されるのは、1年の時に引き続き2度目である。予想通り、ルシウス氏のハグリッドに対する怒りは収まりがつかなかったようだ。

 

「間抜けな奴らだよ。結局ダンブルドアはヒッポグリフの命より、あの森番をこのまま学校に置いておく方を選んだんだ。――――――――――所詮、ダンブルドアも万能じゃないってことさ。全てを好きにできると思ったら大間違いだ。」

 

 ドラコが憎々し気に言うのを、ダリアは複雑な気持ちで見つめた。

「可能性の糸」を引っ張る前の時間軸では、ドラコはヒッポグリフのことをそれなりに気に入っていた様子だった。それなのにこの時間軸では、情などひとかけらも感じていないかのように振舞っている。

 

 ドラコとヒッポグリフの関係に、自分の不用意な言動が水を差してしまった自覚があったダリアは、大変責任を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほらね、ヒッポグリフの命でさえこうなんだ。ペティグリューの命なんてダリアに背負えるはずがないよ。』

 

「う―――――――――わかってる!それより、このままじゃヒッポグリフが可哀そうだわ。ヒッポグリフがヒッポグリフらしく振舞っただけなんだもの。―――――――どうにかして助けてあげられないかしら。」

 

 ダリアがトゥリリと談話室の隅でコソコソと話し合っていた時、ふと視線を感じた。―――――――――――ノットだ。

 

 ダリアはこちらをじっと見つめるノットに、「なんか文句ある?」という風に顎をツンと上げて見せた。前までのノットなら「天井に何かいいものでも見つけたのか?」くらいは言って挑発してきそうなものだが、彼はすぐにフイっと目を逸らして寝室の方へ引っ込んでしまった。

 

「――――――――――――――ふんだ。いいもん別に。そっちがそのつもりなら、絶対にこっちからは話しかけないんだから・・・・・・。」

 

『意地張ってもしょうがないと思うよ?とっとと話し合えばいいのにさ。』

 

 トゥリリが呆れたように言うが、そういう問題ではないのだ。ダリアはノットが去って行った寝室の入り口辺りを睨みつけ、つまらなそうに鼻を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒッポグリフを助けたいと思ったダリアだが、そこには数々の問題が立ちはだかっていた。

 

 まず考えたのは、ヒッポグリフをダリアが元居た世界へ逃がすという作戦だった。しかしこれはすぐにダリア自身で却下した。

 こちらとあちらで同じヒポグリフという名で呼ばれる生物であったとしても、その生態は世界によって少しずつ違ってくる。下手に手を加えて生態系を破壊してしまうのは避けたい。逃がすとしたら、こちらの世界で場所を探さなければならないだろう。

 

 そして、この世界でどこかへ逃がすにしても、そこにまた問題があった。

 

 ダリアはヒッポグリフの生息地を知らなかったのだ。

 

 もちろん、「怪物的な怪物の本」や「幻の生物とその生息地」は調べてみた。しかしそこには「ヨーロッパ原産」としか記述されておらず、どの国で生まれたのか、またどこに生息地があるのかなどは一切記載されていない。

 図書館で調べようにも、何故かヒッポグリフ関係の書籍は全て貸し出されていた。マダム・ピンズ曰く、グリフィンドールのハーマイオニー・グレンジャーが借りているのだという。

 

 実際の所、グレンジャーはヒッポグリフの裁判を覆すための資料としてそれらの本を借りていたのだが、それを知らないダリアにはグレンジャーが重度のヒッポグリフオタクだとしか思えなかった。

 

「ロックハートのテストといい、グレンジャーってちょっと変わったものに興味があるのね。ヒッポグリフは私も素敵だと思うけど。」

 

 

 

 本で調べることができないなら教授に聞くしかない。

 しかし魔法生物飼育学の教授に質問しようにも、ハグリッドは今回の騒動の原因でもあるので、直接尋ねるのは憚られた。向こうもスリザリン生に聞かれていい気はしないだろう。特に今は。

 

 

「他に、魔法生物について詳しい人は――――――――ルーピン先生かしら。授業で水魔や河童について取り上げていたし。」

 

『確かに。知ってる可能性は高いよね。――――――でもダリア、聞き方には気を付けた方がいいよ。』

 

「うん、わかってる。」

 

 委員会で一度決定した採決を覆すことが難しいのは、ダリアも理解していた。その採決に逆らってヒッポグリフを逃がそうとするならば、少なからず規律を破ることになる。

 自分がヒッポグリフを逃がした犯人だと気付かれてしまえば、罪に問われる可能性もあった。

 

「どうにか自然な会話で、ルーピン先生にヒッポグリフの生息地を聞いてみるわ。」

 

 他に方法も思いつかないので、ダリアは覚悟を決めてルーピン教授の研究室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーピン教授の研究室は他の先生達同様、自分が担当する教科の教室のすぐ隣に存在している。ダリアはルーピンにどう話を切り出すか考えながら、お行儀よく部屋の扉をノックした。

 

「こんばんは、モンターナです。ルーピン先生はいらっしゃいますか。」

 

 しばらくすると、内側からドアが開き、いつものようにくたびれた様子のルーピンが顔を覗かせた。――――――というよりも、いつにも増してくたびれている気がする。もしかすると、「例の時期」が近いのだろうか。

 

「やあダリア、君が質問にくるなんて珍しいね。授業で分からないことがあったのかい?」

 

「えっと、闇の魔術に対する防衛術の授業は、分かりやすいです。――――――今日は魔法生物飼育学についての質問なんです。今の状況では、ハグリッドには質問し辛くって。ルーピン先生も詳しそうなので、お話を聞けたらと思ったんですが―――――。」

 

 どうやらヒッポグリフの事件は、教職員間でもそれなりに知られているらしい。ハグリッドに聞きづらいというダリアの言い分を、ルーピン教授はすぐに理解してくれた。

 

「ふむ。――――――――――――まあ、聞いてみよう。期待に沿えるかどうかは分からないけどね。さ、部屋に入りなさい。温かいお茶をごちそうするよ。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

 ダリアは礼儀正しく頭を下げると、静かに研究室の中へ入った。見慣れたスネイプ教授にはナメた口をきくこともあるダリアだが、そこまで親しくないルーピン教授の前では大きな猫を被っているのだ。

 

 

 

 部屋の中は意外と物が散乱していた。もしかするとルーピン教授は片付けが苦手なのかもしれない。ルーピンはソファの上に置いてあった本をどけてスペースを作り、ダリアを座らせると、ティーセットを取りに部屋の奥へ引っ込んでしまった。

 

 お茶を待っている間、ダリアは物珍しそうに研究室の中を物色していた。私物は少ないようだが、生徒達の宿題やノートなどが山のように積んである。

 おそらくこれから採点するのだろう。先生って大変だ。

 

 机の上に視線を走らせた時、ダリアは散らばる書類の一番上に投げ出されている、黄ばんだ羊皮紙に目を留めた。

 

 ―――――――このボロボロの羊皮紙、なんだか最近見たことがある気がするわ。

 

 記憶を辿るうちに、ダリアは気付いた。

 これはポッターが持っていたあの不思議な地図だ。何故か今は白紙だが、きっとそうに違いない。リドルを感知できないようにするために掛けた魔法が残っている。

 

「どうして、これがここに――――――――――」

 

「やあ、お待たせダリア、お茶の用意ができたよ。」

 

 ダリアが一人で混乱していると、丁度ルーピンがティーセットを持って戻ってきた。そのままテーブルにポットとカップを置くと、湯気を噴き出すやかんから静かにお湯を注ぎ入れた。

 

「安い茶葉で申し訳ないけれど、ないよりかはマシだろう。さぁ、おあがり。―――――――――どうしたんだい?ダリア。その羊皮紙がどうかしたかな?」

 

 じっと古びた羊皮紙を見つめるダリアに、ルーピンが不思議そうに問いかけた。ダリアはハッとして目線を外した。

 

「あ、その。やけに古い羊皮紙だなと思って。何も書いてないし、何のための物なんだろうって――――――――。」

 

「ああ、なるほどね。」

 

 ルーピン教授は困った顔をしていた。

 

「なんと言えばいいのか―――――――そうだな。これは、生徒から預かった悪戯グッズだよ。今は白紙だけど、無理やり秘密を暴こうとすると、侮辱的な文字が浮き上がってくる仕組みになっているんだ。セブルス―――――スネイプ先生も被害に合われたはずだよ。」

 

「え、そうなんですか?」

 

 そんな機能があったとは知らなかった。どんな侮辱的な言葉が出てきていたのだろうか。ダリアは自寮の寮監の反応も含め、少し興味があった。

 

 しかし、ルーピンの言葉から察するに、ポッターはこの地図を使用しているところを見つかってしまい、没収されたのだろう。

 ただの悪戯グッズであれば没収した後すぐに捨てられていてもおかしくないが、こうして机の上に置いてあるという事は、もしかするとルーピン先生はこの羊皮紙の本当の使用方法に気付いているのかもしれない。

 

 しかしルーピンは、話は終わりとばかりに話題を切り替えた。

 

「さあ、魔法生物飼育学についての質問だったね。僕が答えられるかどうかは分からないが、とりあえず聞かせておくれ。」

 

「あ、はい。よろしくお願いします。まずは、ユニコーンについてのことなんですが―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果的に、ルーピン教授に質問する作戦は大成功だった。他の魔法生物に関する質問に混ぜて、自然にヒッポグリフの生息地について聞くことができた。と思う。

 しかしダリアは作戦の成功を喜ぶ前に、不思議な地図がルーピンの部屋に存在したという事実に驚いていた。

 

「まさか本当に、あの地図が大人の手元に渡るとは思わなかったわ。ポッターももったいないことしたわねぇ。でも、私にとっては都合がいいかも。」

 

 ダリアはスリザリン寮に戻ると、教科書に先ほどの質問で得た情報を書き加えながら、独りごちた。

 魔法生物飼育学の教科書である「怪物的な怪物の本」は、ページに羽ペンが滑る度にビクビク震えるので、非常にやりにくい。何とか抑えつけて無理やり書ききると、横で見ていたトゥリリが首を傾げていた。

 

『そういえば、この前あの地図が何か使えるかもって言ってたよね。どういうこと?』

 

「うん。あの地図、元が人間ならトムでもゴーストでも名前が載るみたいだったでしょ?ヒトの魔力に反応してるんだと思うんだけど、だったら動物もどきの名前も出てくるはずなのよね。」

 

 ダリアはそれを利用できないかと考えた。あの地図の仕組みを理解している大人がペティグリューの名前を見たならば、彼がまだ存命しているという事が自ずと判明するはずだ。

 

「死んだと思われていた人が生きてたんだもの。まず、12年前の事件の真偽が疑われると思うのよね。――――――順当に行けば、ペティグリューの罪が明らかになるはず。」

 

 先ほどの様子を見る限り、ルーピン教授はあの地図の本当の使用法、つまり城内に居る人物の名前が浮き上がる仕組みについて勘付いている風ではあった。ネズミに変身した状態のペティグリューを彼の前に連れて行き、あの地図と比較してみれば、ネズミ=ペティグリューの図式に気付いてくれるかもしれない。

 

 ダリアはブラックに聞く形でペティグリューの正体を知ったが、その過程で深夜徘徊など数々の規則を破っている。直接ダリアがペティグリューを公的機関に突き出すと芋づる式にその事もばれてしまうため、あくまで「偶然とらえたネズミがペティグリューだった」という態度を取る必要があったのだ。

 

「――――――最悪、仕組みに気付いてなかったとしても、無理やり気付かせる。あの地図が白紙になってたのは隠蔽魔法か何かの効果だと思うから、その場で解析して解除して、見せてしまえば嫌でも理解できるでしょ。全部うまくいけば、ペティグリューをアズカバンにぶち込めるわ。」

 

『まあ、それはそうだと思うけど。』

 

 ダリアの説明を聞いて、トゥリリが不安そうに口を挟んだ。

 

『まず最初にひとつ確認。ダリアはペティグリューを、ブラックに引き渡すのは止めたんだね。』

 

 ダリアは一瞬言葉に詰まった。ダリアは最近まで、ペティグリューの処遇について悩んでいたからだ。

 予知夢(仮)でペティグリューがセドリックを殺している場面を見た以上、真偽はどうあれ奴を野放しにしておくという選択肢は消えた。しかし、アズカバンに収監させるだけでは、ブラックのように今後脱獄するという可能性もあった。

 いっそのこと、ペティグリューを殺したいほど憎んでいるブラックに引き渡すべきではないかとすら考えていたのだ。

 

 しかし、ダリアはここ数日でその迷いを断ち切った。

 

 

 

「――――――――うん。やっぱり、いくら相手が悪い人でも、見殺しにするのはちょっと可哀そうだし。」

 

 不安要素を確実に消しておきたいという気持ちもあったが、罪悪感の方が勝っていた。アズカバンのセキュリティを信じるしかない。

 

 それに加えて、ダリアはブラックに情を移し始めていた。正体を隠しての邂逅だったとはいえ、既に会えばそれなりに会話するような関係になっている。いつかの学生時代の思い出を語るブラックを思えば、このまま彼が犯罪者の汚名を着せられたままであるというのは忍びない。

 そしてこの場合、ペティグリューをブラックに引き渡して殺させてしまえば、彼の冤罪が晴れる機会は無くなる。しかるべき機関に引き渡して真実を明らかにする必要があった。

 

 

 

 トゥリリはダリアの様子をじっと見ていたが、よく考えた末に出した結論だという事が理解できたからか、それ以上は聞くことは無かった。

 

『ダリアが納得してるなら、それでいいさ。―――――――それで、いつ決行するの?』

 

「うん。明日、スリザリンとグリフィンドールのクィディッチの試合があるでしょ?それが終わったら、すぐにペティグリューを探すわ。」

 

 ペティグリューを探すこと自体は、手持ちの呪文で何とかできるはずだ。後はペティグリューをトゥリリに捕まえに行ってもらい、ダリアがそれを「自分のペットが誰かのペットを捕まえてしまった。」とルーピンに届ければいい。

 

 勝負は明日の夜だ。ダリアはトランクを開けると袋を取り出し、中から人探しの呪文をいくつか見繕って決行に備えた。

 


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