ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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学期末

「よしよしよしよし――――――――――――。」

 

 学期の最後の日、試験の結果が発表された。

 ダリアはスネイプに手渡された成績表を食い入るように確認すると、満足気ににんまりした。当然ながら全科目合格、トップの成績だ。

 

 

 こんなにいい成績、誰かに自慢せずにはいられない。ダリアは声をあげかけて、すんでの所で思いとどまった。

 

 今回の期末試験はクィディッチの試合のタイミングと丁度重なり、応援や練習に夢中になっていたスリザリン生達は例年より成績が下がっていた。

 近くのテーブルでは、ドラコが成績表を見つめて落ち込んでいる。その横でパンジーが必死で慰めているが、表情は晴れないままだ。

 

 流石にこの状況でこの成績を自慢してしまっては、友人を失いかねない。ダリアはそれなりに空気が読める子になってきていた。

 

 

 

 かといって誰かに自慢したい気持ちは治まらない。どうでもいい知り合いに話しかけようにも、近くに居るのはザビニくらいだ。ザビニに自慢しても自己顕示欲は満たされそうにない。

 

 そこでダリアは思いついた。

 

 ―――――――――そうだ、セドリックの所に行こう!

 

 きっとセドリックなら、本人が良い成績を取っているに違いないので、自慢したって気分を悪くすることはないはず。自慢して、あわよくば褒めてもらえたりするかもしれない。

 

 ダリアはそう決めると静かに立ち上がり、音も無くスリザリンの談話室を抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大広間で適当なハッフルパフ生を見つけ、こっそり後を付けてハッフルパフ寮の入り口近くまでやって来る。しかし流石に、寮の中にまで入るわけにはいかない。

 ダリアがその場でウロウロとしていると、偶然通りかかったハッフルパフ生が不審に思って声を掛けてきた。

 

「おい、スリザリン生がこんなところで何してるんだよ!」

 

「はぁ?」

 

 いきなりの喧嘩腰な口調に、思わずこちらも声を荒げてしまう。ダリアが睨みつけると、相手は一瞬怯んだように身を引いたが、負けじと睨み返してきた。

 

「はん、どうせクィディッチで負けた腹いせに嫌がらせをしに来たんだろう?流石陰湿さにかけてはホグワーツ一の寮だな!これだからスリザリンは嫌われるんだよ!」

 

「ちょ、ちょっとスミス、やめなって――――――――」

 

 ハッフルパフ生にしては珍しいくらい攻撃的な生徒だ。知り合いらしい男子生徒が諫めるが、それを振り払って偉そうにふんぞり返っている。

 普通に驚いてしまったダリアは、思ったことを素直に口にした。

 

「なによあんた。ハッフルパフのくせにスリザリン生みたいな奴ね。変なの。」

 

「な、なんだとっ!?」

 

「だって今、ドラコみたいな厭味言ってたわ。ドラコもよくああいうこと言ってるし。」

 

「このっ――――――――――」

 

「ザカリアス、やめてってば!」

 

 カッとした男子生徒がダリアに掴みかかろうとするのを見て、女子生徒が慌てて止めに入った。長い金髪を三つ編みにした、小柄な少女だ。

 

「ごめんなさい、モンターナ。この人、すぐカッとなっちゃうの。普段はもう少し大人しいのだけれど――――――――」

 

「ふーん。別に(どうでも)いいけど。」

 

 覚えの無い顔だが、あちらはどうやらダリアの事を知っているらしい。

 どこかで話したことでもあっただろうか。少し考えても全く思い出せないので、ダリアはしれっと目を逸らした。

 

 ザカリアスと呼ばれた男子生徒は、それでも怒りが収まらない様子で、少女に食って掛かっていた。

 

「なんだよ、スーザン!もとはと言えば、この女がハッフルパフ寮の近くをうろついてるのが悪いんだろ!」

 

「だからって、そんな喧嘩腰じゃダメよ。まずは冷静に話を聞くべきだわ。」

 

「はん、スリザリン相手に話なんかする気ないね。」

 

「ザカリアスったら!」

 

 同じ寮の生徒に対しても、喧嘩腰は変わらないらしい。スリザリンならともかく、温厚な生徒の多いハッフルパフじゃ浮くだろうな、とダリアは思った。

 

 言い合いを続けるハッフルパフ生をぼんやり眺めていると、上級生らしき別のハッフルパフ生がダリアに気が付いた。今度はどこかで見たことがある顔だ。

 

「――――――お?セドの従妹じゃん。」

 

「ホントだ。こんなところで何してるんだ?」

 

 クィディッチのチームメンバーだった。以前セドリックの応援に行った時に少しだけ顔を合わせたことがあったので、覚えていたらしい。

 ダリアはこれ幸いと、その生徒に声を掛けた。

 

「セドリック居る?」

 

「たぶん居ると思うけど。呼んでこようか?」

 

「うん。」

 

 上級生たちはここで待つようダリアに告げると、セドリックを呼びに廊下の奥へと消えていった。

 その会話を聞いていた先ほどのハッフルパフ生の女の子が、おそるおそるといった様子で話しかけてきた。

 

「あ―――――――あなた、セドリックの従妹なの?あの監督生のセドリック・ディゴリーの、従妹?」

 

「――――――――まぁ、一応そう(いう設定)だけど。」

 

 ダリアが肯定した途端、ざわめきが走った。

 

「信じられない・・・・・完璧紳士のセドリックと、『あの』モンターナの血が繋がっている――――――?」

 

「似てねー。嘘だろ・・・・。」

 

「何かの間違いじゃないのか?共通点が全く見つからないぞ・・・・。」

 

「―――――そ、そこまで言われる筋合いはないわ!」

 

 実際血が繋がっているというのは真っ赤なウソなので、似ていないというのは当然なのだが、そう頭ごなしに否定されると頭に来る。ダリアは最初に突っかかってきた男子生徒に詰め寄った。

 

「なんだよ、文句あるのか!」

 

「あるわよ!先ほどの発言の撤回を求めるわ!確かにセドリックが格好良くて優しくて頭もいいスーパー監督生だという事は否定しないけど―――――――」

 

「(そこまで言ったか・・・?)」

 

「私にも共通点くらいあるもの!―――――まず、私がめちゃくちゃ可愛いことは間違いないし、今日返ってきた成績だってひっくり返っちゃうくらい良かったし!!ホラこれで共通点が2つ見つかったわよ!」

 

「自分で言うのかよ・・・・・。」

 

 小さい頃から「可愛いね。」「お利口さんだね。」等褒められ続けたダリアは自分の見た目の可愛らしさと頭の良さには絶対の自信を持っていたので、胸を張って宣言した。

 あまりに自意識過剰で偉そうなので、聞かされたハッフルパフ生達は思わず否定したくなったが、明確な反証が見つからなかったので、何も言えない。

 

 しかし、先ほどの男子生徒が、果敢にも食って掛かった。

 

「ふん、そういう不遜な所が似てないんだよ。確かにセドリックは格好いいし頭もいいけど、それを鼻にかけたことは一度もないぞ!」

 

「ちょっと、ザカリアス―――――――」

 

「!!!!」

 

 ダリアは衝撃を受けた。確かにその通りだ。セドリックの紳士たる所以がその謙虚な姿勢にあることは間違いない。そしてダリアは自分が謙虚とは程遠い性格をしているという自覚があった。

 図星を突かれたダリアは、しどろもどろで反論した。

 

「で、でも、最近は私も性格良くなってきてる気がするし・・・・今日だってスリザリンの談話室で自慢するの我慢したし・・・・・。」

 

「ふん、言い訳のつもりか?セドリックは自分に甘くも無い!」

 

「!!―――――う、ううう―――――――!!」

 

 頭の中には「何様のつもりだ。」だとか「貴様さてはセドリックのファンだな。」だとか、色々と言ってやりたいことがひしめいていたものの、劣勢の今そんなことを言えば、負け犬の遠吠えにしか聞こえないだろう。

 

 涙目で睨みつけるダリアを見て、三つ編みの女子生徒がまた間に割り込んだ。

 

「ちょっと、ザカリアス。言いすぎよ。そこまで言う事無いじゃない。」

 

「なんだよ、そいつを庇うのか?――――――だからハッフルパフ生は舐められるんだよ!さっきのそいつの、興味ないっていう顔を見たか?きっと僕らが同級生だっていう事にも気づいてないぞ!馬鹿にしてるだろ!」

 

 確かにダリアは、彼らが同級生だという事を全く知らなかった。

 自分の周りの人間にしか興味を持てず、その他の人間がどうなろうと知ったことではないと思っていたダリアは、この3年間で幾度となく同じ教室で授業を受けたことがあるはずの同級生の顔と名前すら一致していない。

 

 ダリアがなすすべも無く呻いていたところに、チームメイトに呼ばれて談話室を出てきたセドリックが、不穏な空気を感じ取り慌てて駆けつけた。

 

 ハッフルパフの3年生達とダリアが睨みあっている状況を見て、何らかのトラブルを確信したのだろう。厳しい表情で両者の間へ割り込んだ。

 

「一体何があったんだ?監督生として、喧嘩は見過ごせな―――――」

 

「セドリック!!!」

 

 言い負かされた悔しさが一気に決壊したダリアは、勢いよくセドリックの腰辺りに飛びついた。ぼろぼろと泣きながら顔を上げると、あっけに取られているセドリックに向かって喚きたてた。

 

「私、あいつ、大っ嫌い!!!!!」

 

 そのままわぁわぁと声を上げて泣き出したダリアを見て、言い争っていたハッフルパフ生達が寄り集まってぼそぼそと相談し始める。

 

「やっぱりザカリアスが言いすぎたのよ。」

 

「僕は悪くないぞ!あのスリザリン女が性格悪いのは事実じゃないか!」

 

「でも、最初に喧嘩腰になったのはこっちだし――――」

 

 内心「ダリアが何かやらかしたんじゃ・・・」と思っていたセドリックだが、今回ばかりは相手側にも何かしら反省すべきところがあるらしい。

 痛む頭を押さえながら、セドリックは事情を聞くべく、とりあえずダリアを宥めにかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、ダリアの偉そうな態度が頭に来たザカリアスが、過剰にダリアを攻撃して、こんなことになったと。そういうことかい?ジャスティン。」

 

「はい、そうです。」

 

 名前を上げられたザカリアスは不満げに口元を引き結んでおり、ようやく落ち着いてきたダリアは時折しゃくりあげている。

 ダリアの要領を得ない訴えとハッフルパフの下級生の説明から、なんとか状況を理解したセドリックは、ますます頭が痛くなるのを感じた。

 

 ザカリアスはハッフルパフ生には珍しい口の悪い皮肉屋で、今までも対人関係の問題で寮を問わずトラブルを起こしたことがある男子生徒だ。そんな彼と煽り性能の高いダリアが鉢合わせて、何事も起こらないはずが無い。

 

「――――――まず、お互いの悪かったところを確認しよう。まずザカリアス、君は相手がスリザリン生というだけで敵視するのはいい加減やめるんだ。確かに彼らの中には僕らを馬鹿にする生徒が多いけれど、全員が悪意ある人間ではないという事を忘れないでくれ。」

 

「でも。」

 

「ザカリアス、何も泣き寝入りしろと言っているわけでは無いんだ。無用なトラブルを回避するのも、賢い生き方の一つだよ。――――――もっと穏便に済ませることができる方法を考えてほしい。」

 

「―――――――はい。」

 

 ザカリアスはぶすっとしたまま不愛想に返事をした。納得していないという表情だが、しばらくは大人しくしてくれるだろう。

 

 問題は、もう片方の方だ。セドリックは未だ腰語りにしがみ付いたままのダリアをべりっと引きはがすと、厳しめの口調で言い聞かせた。

 

「―――――そしてダリア。君も自分の言動が周りにどう思われるかをよく考えるべきだ。自寮の入り口近くに他寮生が居たら、不審に思われるのは分かり切ったことだろう?今度からはそのあたりも考えてほしい。」

 

「―――――――――。」

 

 ダリアは無言のままだったが、全身から不満だというオーラを放っていた。セドリックは意にも介さず続ける。

 

「あと、無神経な物言いは控えるように。相手の気持ちを考えた言葉を選んでくれ。」

 

「―――――――――――。」

 

「わかったかい?」

 

「―――――――――――わかったわよ!」

 

 有無を言わさぬセドリックの態度に、ダリアは渋々返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お互い心から納得しているわけではなさそうだったが、このまま同じ空間に居た所で、これ以上状況が改善することは無いだろう。セドリックはふてくされたダリアを連れ、足早にハッフルパフ寮を離れた。

 

「まったく。前から何度も、何度も言ってるけど、無駄に高飛車な言動は本当にやめるべきだと思うよ。不快に思う人も多いし――――――むやみやたらと敵を作りたくはないだろう?」

 

「―――――――でも私が可愛いのも、頭がいいのも、本当のことだもん。」

 

「―――――――――――――自分に自信があるのは悪い事じゃないと思うけど、それをそのまま口にするのはよくないよ・・・・。」

 

 セドリックは道すがら、むっつりとしたままのダリアに、正しいコミュニケーションの取り方を諭し続けていた。響いている感覚は無いが、それでも誰かが言ってやらなければ、一生この性格は矯正できないだろう。

 なんとかしてダリアを真人間に戻してやりたいセドリックは、根気強く話しかけ続けた。

 

 

 

「――――――それにしても、他寮生と言い争いだなんて、珍しいじゃないか。君、知らない人間には自分から関わって行かないだろう。何が原因でそんな言い争いになったんだ?」

 

 説教の合間に、ふと喧嘩の大本の原因が気になったセドリックは尋ねてみた。人見知りなところのあるダリアが、(おそらく)初対面の男子生徒と言い合いを繰り広げるとは思えなかった。

 

 ダリアはふてくされたまま、口を尖らせる。

 

「だって。――――――あいつ、私とセドリックが全然似てないって言うんだもん・・・・。」

 

「――――――――――あのさぁ・・・・。本当の従妹じゃないんだから、似てないのは当たり前だろう?」

 

 自分で潜り込んできたくせに、まさか忘れたわけではないだろう。セドリックが呆れると、ダリアが俯いたまま続けた。

 

「セドリックは良い人なのに、私はすごく性格が悪くて、全然似てないって・・・・・・。」

 

 そのままダリアは再び、ぼろぼろと泣き出してしまった。セドリックはそこでようやく、ダリアが自分の性格の悪さを気に病んでいるのではないかという事に思い至った。

 

 これは驚きの発見だった。傍若無人なダリアは、例え他人から自分の性格の悪さを指摘されたとしても、歯牙にもかけないと思っていたからだ。一体どんな心境の変化があったのだろうか。

 

 セドリックがあっけに取られていると、ダリアがしゃくりあげながら尋ねてきた。

 

「セドリックも私の事、自意識過剰で我儘で性格悪いと思う?」

 

「あー・・・・・・・・。」

 

 ダリアにそう思わせる所があるのは確かだが、それを直接伝えていいものかどうか。返事に困ったセドリックは目を泳がせた。

 しかし肯定する雰囲気を感じとったダリアがぐしゃりと顔を歪め、また泣き出しそうになったため、慌てて取り繕った。

 

「やっぱり、悪いと思ってるんだぁ―――――――――!!」

 

「いや、確かに君にそういう所があるのは事実だけど!確かに直した方がいいとは常日頃言っているけど、それは何もダリアが悪いと思っているわけじゃなくて――――――――――。」

 

「じゃあどんなつもりなのよー!!!」

 

 直立したまま号泣するダリアを、道行く生徒達がジロジロと見ながら通り過ぎていく。セドリックは焦ってダリアを使われていない教室に押し込んだ。

 これで人目を気にせずに済む。セドリックはとりあえず一息つくと、ハンカチを取り出して涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっているダリアの顔を拭ってやった。

 

「ううう~~。」

 

「ああもう、こんなにぐしゃぐしゃにして――――――いいから一回泣き止むんだ。落ち着いて話もできないじゃないか。はぁ。」

 

 結局今年も、ダリアに振り回されて一年が終わった気がする。セドリックは汚れたハンカチにスコージファイをかけてポケットにしまうと、しゃくりあげるダリアを椅子に座らせた。

 

「いいかい?ダリアのその自分本位な性格は、確かに万人受けするものじゃないと思う。今回のように気分を害する人が居るのも、分かってるよね。」

 

「――――――――――うん。」

 

「でも、僕はダリアが嫌な奴だとは思っていないよ。振り回されたことも多かったけれど、それで助けられたこともあるしね。」

 

 ダリアは驚いて涙が引っ込んだ。まさかいつも「真人間になれ」と言ってくるセドリックから、肯定的な意見が出てくるとは思ってもみなかったからだ。

 

「そうなの?」

 

「そうだよ。クィディッチで落ち込んでいた時も、ダリアの無茶苦茶に振り回されて、嫌な気分を忘れることができたし、次も頑張ろうと思えた。――――――――慰め方は下手だったけどね。」

 

「――――――――。」

 

 慰めるのが下手と言われたダリアは、喜んでいいのか怒っていいのか分からないような複雑な表情になった。しかし、慰めるのが下手だという事は事実なので、何も言えない。

 

 セドリックは真剣な表情で話を続けた。

 

「ダリアが根は悪い子じゃないってことは、もう分かってるよ。周りを振り回す性格だって、悪い事ばかりじゃない。――――――でも、相手の気持ちを考えない所だけは、直さなきゃいけないと思う。でないと、周りの人間はダリアの良いところに気付く前に離れて行ってしまうよ。―――――――――――それはもったいないだろう?」

 

「――――――――――――そう、なのかな。」

 

「そうだよ。」

 

 今までダリアは、不特定多数の人間からの好悪なんて気にしたことは無かった。どうせ性格が悪いので嫌われていると思っていたし、嫌われている分自分の才能を見せつけて称賛を集めることができれば満足だった。

 

 しかしホグワーツに来て、性格が悪くても気にしない(というか同じくらい性格が悪い)友人達ができ、交友関係が一気に広がったことで、もっと周りに目を向ける余裕が生まれてきていた。

 

「君は交友関係が狭すぎて、正しい人間関係を作ることに慣れていないだけだと思うよ。まずは、色々な人と関わることから始めてみよう。最初は難しいかもしれないけど、ダリアは要領がいいから、きっとすぐにできるようになる。――――――――どう、やってみるかい?」

 

「―――――――――――――うん。やってみる。」

 

 人見知りを直すことができたら、もっとダリアの世界は広がるかもしれない。

 そう思ったダリアは、まずは同学年の生徒の名前と顔を一致させるところから始めよう、と決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、結局何の用事があって僕に会いに来たんだ?急ぎのことでもあった?」

 

「あ!そうだ忘れてたわ。―――――――――これよこれ、見て見て!!」

 

 ダリアは泣き顔から一転してパッと笑顔になると、ごそごそとポケットの中を漁り、丁寧に折りたたんだ紙片を取り出した。

 その紙片を広げると、満面の笑みでセドリックの顔に押し付ける。

 

「うわ!何―――――――――これ、成績表?」

 

「うん!!自慢しに来たの!!!」

 

 押し付けられた成績表を受け取ってよく見て見ると、学年一位の成績だった。それも二位とはかなりの点差がある。セドリックは素直に感心した。

 

「すごいじゃないか。僕もこんな点数取ったこと無いよ。頑張ったんだね。」

 

「!!―――――――――――うふ、うふふ。まあねー!」

 

 全身から褒めてオーラを発していたダリアは、ようやく求めていた称賛を受け取り、満足そうに胸を逸らした。

 

「――――――――って、これを見せるためにわざわざハッフルパフに来たのかい?」

 

「うん。」

 

「またどうしてそんなことを――――――――というか、どうしてわざわざ僕に?」

 

「だってスリザリンの友達は、皆成績見てショックを受けてたから。流石に自慢するのは悪いと思って。――――――――――――――その点、セドリックなら成績良いでしょ?」

 

「あ、うん。」

 

 ダリアはケロっと言ったが、実際セドリックも去年に引き続き、学年で1位の成績表を貰ったばかりだった。ハッフルパフでのこの快挙は、数年前闇祓いに就職したニンファドーラ・トンクスという卒業生以来だとスプラウト先生に褒められていた。

 

「これは父さんが狂喜乱舞するな。」ダリアと自分の成績表を思い出し、セドリックは父親の浮かれっぷりを想像して苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今年の寮杯は、クィディッチ杯の得点が大きく影響し、やはりグリフィンドールの物になった。

 これで3年連続、スリザリンは宿敵に鼻を明かされたことになる。学年末パーティーの間中、スリザリン生達はグリフィンドールのテーブルに向って忌々し気な視線を向けていた。

 

 特にドラコの僻み様はすさまじかった。

 クィディッチ杯で惨敗した上にヒッポグリフの処刑は失敗、しかも学年末試験は落第こそしていないものの理想には程遠い点数で、父親のお叱りを受けることは必然である。ヒッポグリフの管理の甘さの責任を学校に問うことができそうだというのが救いだったが、ドラコにとってこの一年は最悪だったと言えるだろう。

 

 パーティーが終わり、翌日ホグワーツ特急に乗る時になってもブツブツと恨み言をいい続けるドラコに、ついにダフネがキレた。

 

「ああもう、いい加減鬱陶しいのよ!男ならさっさと切り替えなさいよ、面倒ね!」

 

「何てこと言うのよダフネ!ドラコがこんなに傷ついてるっていうのに!」

 

 ドラコへの罵倒にすかさず反応し、パンジーがいきり立った。しかしダフネは意にも介さず、いらいらと髪をかき上げる。

 

「何よ、これでも私、十分我慢したつもりよ。そもそも私たちがこんなに慰めてるのに、いつまでもうじうじしちゃって。この甲斐性なし!」

 

 あまりの剣幕に、ドラコも流石にまずいと思ったのか、おずおずと謝った。

 

「わ、悪かったよ・・・・・。来年、また頑張ることにするさ。」

 

「もう、ドラコったら―――――――。」

 

 パンジーは不満気だったが、ドラコが何も言わなかったため、怒りの矛はとりあえず収めることにしたらしい。口を尖らせたままシートに座り込んだ。

 そんないざこざを気にも留めず、ミリセントが広げていた雑誌をコンパートメントの中央にバン!!と広げる。

 

「そんなことよりさ!!!いよいよ今年の夏休みはクィディッチワールドカップよ!!みんな当然観に行くでしょ?」

 

 雑誌には、一面にクィディッチワールドカップの見どころについての記事が掲載されていた。ダリアはその記事をまじまじと見つめる。

 つい最近ようやくクィディッチに興味を持ち始めたダリアは、クィディッチワールドカップなる催しについてあまり知らなかった。しかし話は聞いている。

 

「一応行く予定だよ。おじさんが手紙で、クィディッチワールドカップのチケットが手に入ったって言っていたから。詳しい事はまだ全然知らないんだけどね。」

 

「私もよ。お父様が私とアステリアの分のチケットを用意してくださっているの。」

 

「僕もさ。父上は魔法省と強いつながりがあるからね。毎回いい席を用意させているんだ。」

 

「俺の所も。―――――――――母、が魔法大臣の秘書だから、いい席を用意してもらってる。」

 

 流石にスリザリンの子どもたちは、親が権力を駆使してチケットを確保済みのようだ。

 

 結局全員がクィディッチワールドカップに行くという事が判明したため、会場で集まろうと約束を取り付けた。

 

「楽しみね!ああ、クラムに会えるのが今から楽しみでしょうがないわ!」

 

「パンジー・・・・・あんた本当にミーハーすぎるって・・・・・。」

 

「はぁ?ミリセントだって妖女シスターズのライブの時は似たようなものじゃない!」

 

「ええー、そう?私はもっと冷静だと思うけど。」

 

「そんなことないと思う・・・・。」

 

 狂ったように頭を上下に振りたくるミリセントを思い出し、ダリアはボソッと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りが薄暗くなってきた頃、ホグワーツ特急はようやくキングスクロス駅に到着した。

 

「じゃあまた、クィディッチワールドカップで会いましょ!」

 

「忘れるんじゃないわよ!」

 

「うん。ばいばい。」

 

 ダリアは家族と帰って行くダフネ達に、手を振って別れを告げた。

 彼女らの姿が見えなくなると、横でそわそわしていたノットが近づき、声を潜めて尋ねてきた。

 

「それでモンターナ、例の件だが―――――――。」

 

「大丈夫だよ、持って帰ってるから。夏休み中に色々仕組みを調べてみる。」

 

 ダリアは今朝ホグワーツを去る前、マクゴナガル教授の元へ行き、来年も逆転時計を使用することができるよう話を付けてきた。確かに毎日の予習復習や試験勉強は大変だったが、それでも全ての授業を受けることができるという魅力は捨てがたい。それにノットとの「逆転時計を作る」という約束もあったため、サンプルを手元に置いておく必要がある。

 

 当然夏休み中は学校に返却するよう求められたが、ダリアはこっそりと逆転時計をダミーとすり替え、実物を持って帰っていた。夏休みの間中、鍵の掛かった戸棚に保管されるという話だったので、使用されない限り偽物だとはバレないはずだ。

 

「助かるよ。――――――――――――――じゃあまた、ワールドカップで。何か分かったら、その時教えてくれ。」

 

「分かったわ。―――――――じゃあノット、気を付けてね。」

 

「―――――――――おう。」

 

 ノットは顔を引き締めると、人込みの中へ消えていった。おそらく今からあの家族の所へ向かうのだろう。

 

 

 

 ノットの後ろ姿を見送ったダリアは、セドリックの姿を探して辺りを見渡した。セドリックは監督生専用のコンパートメントに乗っていたので、到着後に合流することになっているのだ。

 

「ダリア、こっちだよ。」

 

「セドリック。」

 

 セドリックが人込みに埋もれていたダリアを見つけ、歩きやすい壁際に引っ張り出した。そのまま壁沿いに、改札口の方へ向かっていく。

 

「列車から降りたら探しにくいじゃないか。監督生のコンパートメントに来てくれたらよかったのに。」

 

「だってダフネ達とお別れしてたんだもん。ワールドカップまで会えないし・・・・。」

 

 それにいくら人見知りを直すことを決意したとはいえ、いきなり年上ばかりが居るコンパートメントにお邪魔する勇気はまだ無い。

 

 セドリックと話しながらエイモスとサラの姿を探していると、いくつか向こうの柱の方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた

 

「おおーい、セド、ダリアや!こっちだぞー!」

 

「父さん―――――――――。」

 

 満面の笑みで大きく手を振る父親の姿に、セドリックが口元を引き攣らせた。流石に少し恥ずかしいらしい。

 エイモスは待ちきれないといった様子で駆け寄ってくると、セドリックとダリアを二人まとめて抱きしめた。

 

「会いたかったぞ、私の宝達よ!二人そろって首席とは、何て素晴らしい子供達なんだ!私たちの誇りだ!」

 

「あ、ありがとう、父さん。でも少し苦しいかな――――――」

 

「おお、すまんすまん。つい嬉しさのあまり抱きしめてしまった!」

 

 エイモスは二人を解放したが、満面の笑みは引っ込む様子が無い。普段は尊敬できる父親なのだが、親馬鹿なところはどうしようも無い。

 ダリアはエイモスから解放されると、後からゆっくりと歩いてきたサラに駆け寄った。

 

「おばさん、ただいま!」

 

「お帰りなさい、ダリア。―――――――――あら、もしかして少し背が伸びたんじゃない?しばらく見ない内に、大きくなった気がするわ。」

 

「え?そうかな?」

 

 ダリアは自覚が無かったが、確かにサラの横に並んでみると、クリスマス休暇に帰った時よりも目線が近い気がする。

 

「成長期だもの、これからもっと大きくなるわよ。―――――――またマダム・マルキンで制服を新調してもらいましょうね。」

 

「ええ、まだ大丈夫だと思うけど――――――。」

 

「いいのよ、3年間着ているんだから古くなっていると思うし、来年のクリスマスには―――――あら、これはまだ秘密にしておかなきゃね。」

 

「?」

 

 サラのもったいぶった様子に、ダリアは首を傾げた。来年のクリスマスに何があるというのだろうか。

 

 ひとしきり再会を喜び合うと、4人はオッタリー・セント・キャッチポール村のディゴリー家に帰っていった。

 ダリアは久しぶりのサラの手料理を食べながら、クィディッチを好きになったことやセドリックの試合の様子など、今年あったことを思う存分語ることができた。

 


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