後日、エイモスの宣言通り、ダリアとセドリックは新学期の準備のためダイアゴン横丁へ来ていた。
そこかしこに魔法薬の材料や呪いの道具が売っている露店があり、ダリアは生まれ故郷の呪文市場を思い出していた。
ダリアの故郷、カプローナでは、呪文作り達が作った呪文が、大きな橋の上で露店のように売られていた。
勿論カプローナ一の呪文作りの名家であるモンターナ家の呪文は一番の人気商品で、幼かったダリアも、母に双子の兄と一緒に連れられて橋を通りかかったとき、売られているそれを誇らしく眺めた記憶がある。
教科書を買った後、どうやら職場の知人に出会ったらしいエイモスは、ダリアをセドリックに任せて別行動をとることを決めた。
どうやら緊急の仕事があるらしい。ナントカとかいう生物が、また大量発生しているという会話が途切れ途切れ聞こえてきた。
セドリックは何度もダイアゴン横丁に来たことがあるため、店の場所などは知り尽くしてはいたが、あらゆることを「あれはなに?」「これはなに?」と聞いてくるダリアの相手をしなければならないということに気づき一気に憂鬱になった。
マダム・マルキンの洋装店の前に来ると、セドリックは知り合いの姿を見つけ、思わず声をかけた。
「やぁ、ハグリッド。」
「ん?おお!ディゴリーでねえか!元気だったか?」
ホグワーツの森番、ルビウス・ハグリッドだ。
人より何倍も大きな体なので、遠くからでもすぐに気づくことができる。
見れば、傍に男の子を連れている。おそらくマグル出身者の買い物の付き添いで来ているのだろう。
男の子は伺うようにこちらを見ていたので、セドリックは安心させるようににっこり笑って手を差し出した。
「初めまして、僕はセドリック・ディゴリー。ホグワーツの3年生だよ。よろしく。」
「あー、ウン。ぼくはハリー・ポッター。よろしく。」
おずおずと差し出された手を握りながら、セドリックは内心驚いていた。
ハリー・ポッターといえば、魔法界では知らない者は居ない有名人だ。
思わず額の傷を探しかけ、慌てて目をそらした。初対面でじろじろ顔を見るのは、失礼だろう。
そんなセドリックとは対照的に、ダリアはハリーの額の傷を無遠慮にじろじろ眺めながら難しい顔をしていたので(ダリアは「この子すごい守りの魔法がかかってるなぁ」と考えていた)、セドリックは慌ててダリアの頭を掴んで下を向かせた。
「ん?ディゴリー、そっちのちっこいのは?」
「ああ、彼女は―――――――ダリア、僕の親戚なんだ。今年からホグワーツに入学する。」
例によって口からスルスルと言葉が流れ出てくる。
ダリアは頭を掴まれたことを恨めしそうにしながら、ちらりとハグリッドとハリーを見て、ぶすっと「どうも。」と言い、セドリックの後ろへ隠れた。
あんまりにも失礼な態度だったので、セドリックは「人見知りなんだ。」とフォローしなければならなくなった。
だがダリアはハグリッドのように大きな人間を見たことがなかったので、実際に内心少し怯えていた。
ハリーはその様子を見て、「あんまり似てない親戚だな。」と思った。
そうはいっても、ハリーとダドリーも全然似ていない従兄同士だったので、取り立てて変には思わなかったが。
二人と別れ、洋装店で新しい制服を買った後(セドリックは背が伸びたので、前の制服は丈が合わなくなっていた)、またダリアの質問攻めが始まった。
「ねぇ、ハリー・ポッターって誰?有名な人なの?」
「君、ハリー・ポッターを知らないのかい?」
セドリックはぎょっとしてダリアを見た。
彼を知らないことにももちろん驚いたが、ダリアが彼を知らずにあんなにじろじろ見ていたということにも驚いていた。
だがダリアの傍若無人な態度には(悲しいことに)慣れてしまっていたので、その事には特に触れず、声を潜めて答えた。
「例のあの人を倒した、魔法界の英雄だよ。」
「例のあの人って誰?」
「――――――。」
今度こそセドリックは言葉を失った。
しばらく難しい顔をして黙り込んだセドリックだったが、次の店へ歩き始めると同時に、例のあの人について潜めた声で簡単に説明してくれた。
セドリックの話を聞きながら、ダリアは「悪の大魔法使いってどこにでもいるのね。」と考えていた。
例のあの人とやらは先ほどのハリーとかいう男の子に倒されているらしいので、そう恐ろしくはなかった。
たどり着いたのは、オリバンダー杖店という店だった。
紀元前382年創業という看板をダリアは胡散臭げに眺めた。眉唾物だ。
店内はひんやりしていて、細かいほこりが差し込む光に反射してキラキラしている。
二人が入ってきたことに気が付いたのか、奥から老人がぬっと現れた。
ダリアは一目で、この老人が苦手だと思った。
どこを見ているのかわからない、キラキラした目。ダリアの後見人の大魔法使いと同じ目だ。
つまり、かなりの変人に違いない。
「いらっしゃい、おや、君は―――――セドリック・ディゴリーさん。お久しぶりじゃな。杖のメンテナンスですかな?」
「こんにちは、オリバンダーさん。今日は、この子の―――――従妹の付き添いです。杖は全く問題ありませんよ。」
「ふむ。君の杖は確か―――30センチ、トネリコ材、芯はユニコーンの尾、よくしなる。――――大事にしておくれ。さて、新しいお客さんの杖選びじゃな―――――。」
ダリアの杖選びは困難を極めた。
オリバンダーは様々な杖を持たせては取り上げ、それを何度も繰り返した。
何度か振ってみさせることもあったが、その度に店内の杖の箱が雪崩を起こしたり、ガラスが割れたりした。
セドリックはトゥリリを抱き上げ、入り口近くに避難していた。
オリバンダーは「こんなに難しいお客さんはめったに居ない!一日に二人も出会えるとは!」と喜んでいた。ダリアは「やっぱりこの人変。」と思った。
あんまりにも疲れるので、ダリアはこっそり呪文を使うことにした。
あらかじめ作っておいた呪文ではなく、その場で呪文を作るためには、本来ならダリアは歌う必要があるのだが、城での勉強の成果か、口笛だけでもある程度の呪文が使えるようになっていた。
―――――失せ者探しの呪文でいいかしら。
頭の中で呪文を作り、小さな口笛と共に送り出した。
呪文が店内を駆け巡り、店の奥から、何か箱のようなものが落ちてくる音がした。
「オリバンダーさん、奥から何か音がしましたよ。」
「ふむ、確かに杖が落ちる音だった。どれ見てきましょう。」
店の奥に引っ込んだオリバンダーは、古ぼけた箱を持って出てきた。
何やら驚いた顔をしている。
「いやはや、この杖を久しぶりに見ました。何代も前の店主が作った杖で、もちろん今まで誰にも扱うことはできなかった。特殊な芯材を使っていて、誰にも合うと思わなかったので、他の誰もこの杖を試したことが無いのです。ですが、これも何かの縁、ぜひ振ってみてください。」
誰にも合うと思わないものを何故作ったのだろうと思ったが、ダリアの呪文によって選び出された杖である。
自信を持って振るうと、杖の先から光る羽のようなものが飛び出てきた。
『天使の羽だ。』
「天使の羽?」
トゥリリの言葉に思わず返すと、オリバンダーは「ブラボー!」と言って近づいてきた。
「まさしく。これは芯材に天使の羽を使っているのです。700年ほど前、当時の店主が目撃した天使の、たった一枚落とした羽を使用して作った杖と伝わっています。金色に光り輝く天使と伝えられているが――――まさか私の代でこの杖の持ち主が現れるとは―――」
カプローナの天使だ。とダリアは思った。
ダリアの生まれた国、カプローナには守りの天使が存在する。
少し前にも、カプローナの危機を救いに現れたということを、ダリアは数年ぶりに再会した弟伝えに聞いていた。
―――――つまり、ダリアはその場に立ち会ったわけでは無いのだが。
暗い気持ちになりかけたダリアは、急いで別の事を考えた。
―――――700年に一人の才能ってわけね。うん、すごいじゃない、私。
ダリアはにっこり笑って顔を上げた。
「20センチ、サンザシ材、芯は天使の羽、頑固者――――大事にしておくれ。」
「ありがとうございます。」
鍋や望遠鏡など、他に必要なものを購入してエイモスとの待ち合わせ場所に行くと、お祝いにペットを飼うかという話になったが、ダリアは「トゥリリがいるからいい。」と断り、ディゴリー家に帰ることとなった。
その後、新学期が始まるまで、ダリアは教科書を読んだり、セドリックの部屋に押しかけてホグワーツの話を聞きだしたり(セドリックは迷惑そうにしながらも答えてくれた)、呪文を作ったりしながらして過ごした。