夏季休暇の始まり
夏季休暇に入ってしばらくたったある日のディゴリー家、ダリアは家の住民たちがまだベッドの中に居る時間に活動を開始した。
薄いタオルケットを横に除けてベッドから降り、カーペットの上をペタペタと歩いて勉強机へ向かう。
この3年の内に、随分と物が増えた。元々ダリアが使い始める前はゲストルームだったため、必要最低限の家具が置いてあるだけのシンプルな部屋でしかなかった。しかし今では、ダリアが快適に過ごすことが出来るようにとエイモスの手により、壁紙は少女趣味なものに張りかえられ、ニフラーのぬいぐるみや鏡台などが置かれたファンシーな部屋へと様変わりしていた。
夜明け前の暗さにもかかわらず、ダリアは慣れた様子で机まで辿り着き、おもむろに一番上の引き出しを開けると、ゴソゴソと中を探し始めた。
「――――――――――――あったあった。」
しばらく引き出しの中を漁った後、目当ての物を慎重に引っ張り出す。
月明かりに照らし出されたのは、ダリアが学年末、こっそりホグワーツから持ち出した逆転時計だった。
逆転時計を持ったままベッドまで戻ってきたダリアは、ネグリジェのままタオルケットの合間にぺたりと座り込んだ。ベッドの揺れを感じて目を覚ましたトゥリリが、あくびをしながら文句を言う。
『ふわぁ――――――――――――もう、ダリア、こんな朝早くから何するつもりぃ?』
「勿論、逆転時計の構造を調べるのよ。こんな時間じゃなきゃ落ち着いて調べられないもの。―――――――トゥリリは寝てていいよ。」
『あぁ、そういう――――――――。』
ディゴリー家は家族仲が大変よろしく、日中はリビングで家族と一緒に過ごすことがほとんどである。自室で勉強していてもしょっちゅうおやつの差し入れがあるため、隠し事には向いていない環境だった。
以前まで良からぬことを企む際には、こっそりと人避けの魔法を使用していたのだが、今はなんとなくディゴリー家の面々を魔法で操ることに抵抗があったので、出来るだけ魔法を使わずに済む方法があるならばそちらを選ぶことにしていた。
それでも一応部屋の鍵は閉め、窓に向かって指をついと横に振り、外から見えないようカーテンをしっかりと閉じる。頭上に小さな明かりを灯すと、早速足元に転がした逆転時計の解析に取り掛かった。
あらゆる魔法を教わったダリアにとっても、時間に関する魔法というものは、馴染みが薄いものだった。逆転時計を手渡された時にも思ったが、時間とは本来不可逆の物である。未来へ行くのは簡単だが、過去へ戻るのは大変難しい。
かつてダリアの後見人が、ネヴィル・スパイダーマンという男の死体を魔法で過去へ送ったことがあった。しかしダリアよりもずっと知識と経験がある彼でさえ、「生き物」を過去へ送ったという話は聞いたことが無い。
『えっ、御大にもできないことなの?』
「うーん、頑張ればできないことはないみたいだけど――――――――過去に戻って歴史を変えてしまうと、どんな変化が起こるか分からないから、出来るだけ避ける必要があるって言ってた。特に人の生死を変えてしまうと、未来にとんでもない影響を与えてしまうから絶対にダメだって言ってた気がする。」
『ふーん。――――――まぁ気軽に時間を遡れるなら、9つもある命をポンポン無くしたりしてないよね。』
完全に目が覚めてしまったらしいトゥリリが逆転時計をしげしげと眺めながら、感心したように言った。
とはいえ、逆転時計の構造自体はそう複雑なものでは無い。天球儀のような輪が二つ重なった部分は、ただ単に中央の砂時計を回転させるための装置だ。
問題は中心に位置する砂時計の中に入れられている、少量の砂粒である。砂の正体に見当がついたダリアは、後ろに仰向けに倒れ込んでうめき声を上げた。
「―――――――――――うわぁ、めんどくさぁ。」
砂の正体は、一粒一粒に大量の魔力を込めた、極小のダイヤモンドの粒だった。
命を複数持っているわけでもない普通の魔法使いが、時間を遡ることが出来るほどの魔力を賄うことはできない。そのため時間をかけて少しずつ魔力を宝石に溜め込み、それを魔法具とすることで、個人での時間遡行を可能にする魔力を補っているのだろう。
魔力を込めた宝石の粒を砂時計に詰め込み、本体に施した呪文で魔力が過去へ向くよう固定して、砂時計の中央の蜂の腰を通り抜ける回数で遡る時間を調節する。その構造は理解したが、肝である『粒』を作るのが、想像するだけで果てしなく面倒な工程だった。
まず面倒なのが材料であるダイヤモンドの確保である。ダイヤモンドの加工は魔法を使えばどうにかなりそうだが、単純に素材が高価で用意が難しい。いざとなればノットに用意するよう言えばいいので、そう難しい問題ではない。
本当に面倒なのが、粒に魔力を込める作業だ。
学校から持ち帰った逆転時計を見るに、必要となってくる砂の量はおよそ1立方センチメートルあまりだろう。粒の粒径を0.1ミリと考えると、1立方センチ当たりの個数は、単純に計算して100万粒。一粒一粒に同量の魔力を込めるのにも繊細な技術を必要とする上、100万回繰り返すことを考えると、それだけでやる気が萎えてくる。
「無理・・・・1時間に1粒作っても、100年以上かかる・・・・これ作った人頭おかしいよ・・・・・。」
当然、製作者は一人で作ったわけではないだろうが、それでもとんでもない労力だったに違いない。もはや狂気すら感じる。ダリアはドン引きすると同時に、これを作ったという神秘部に強い興味を抱いた。
神秘部は魔法省でも、存在が謎に包まれた部署である。一体他にはどんな研究をしているのだろうか。
『じゃあ、作るのムリなの?』
「無理無理。大人数で協力して作るならできると思うけど、そんなに協力者は望めないだろうし。――――――ていうか、人数が増えれば増えるほど、一粒一粒の魔力量がばらけて粗悪品になっちゃうし。」
ダリアは完璧主義者なので、作るからには完璧なものを目指したかった。妥協してノットと二人で作っても50年以上もかかる。現実的でない上、もし完成したとしてもノットの母親の物になると思うと、更にやる気が出ない。
「ノットのママを追い出す方法を見つける方が、どう考えても現実的だって。今度クィディッチ・ワールドカップで会う時にそう言ってみる。」
そう結論を出すと、いそいそと逆転時計をトランクの奥底にしまい込んだ。せっかくダミーまで用意して持ち帰ったが、これ以上こねくり回していてもしょうがない。
長時間同じ姿勢で居た事で固まった背筋を伸ばし、閉め切っていたカーテンを開ける。いつの間にか夜が明けて、明るい日差しがさして来ていた。
先ほどからかすかに漂ってきていたおいしそうな朝食の匂いに我慢が出来なくなったダリアは、ネグリジェから簡素なワンピースに着替えると、急いでダイニングルームへ降りていった。
「あらダリア、早起きさんね。どうしたの?」
いつもなら起こしに行くまでずっと眠りこけているダリアがしっかりとした足取りでダイニングに現れたのを見て、キッチンでベーコンエッグを焼いていたサラが目を丸くした。
「早く目が覚めちゃったから、勉強してたの。」
「――――――――えらい!流石は学年で一番の成績を取った才媛だな、きっと数年後には主席のバッジを貰えるぞ!」
ソファに座って新聞を読んでいたエイモスが、感動したように口を挟んだ。
元々親馬鹿気質だったエイモスは、息子のセドリックに向けるのと同じように、ダリアにもその親馬鹿っぷりを発揮していた。褒められるのは大好きなダリアは毎回とても嬉しいのだが、謙虚なセドリックは最近恥ずかしさも感じるらしい。
「もう、エイモスったら。またセドに調子がいいって怒られるわよ。――――――――さぁ、朝食の準備ができたわよ。ダリア、テーブルの用意を手伝ってくれる?」
「はぁい。」
ダリアがテーブルの上を綺麗に拭きランチョンマットを敷くと、キッチンの方からお皿がヒュンヒュンと飛んでくる。料理上手なサラは、家事魔法も同じように得意だった。
コップに紅茶を注いでいるうちに、あっという間に食卓が完成した。
「エイモス、もう食べられるわよ。ダリアは手を洗ってきて。」
「セドリックは?また朝からジョギング?」
「ああ。家の周りを軽く走ってくると言ってたな。そう遅くはならないはずだが――――――――噂をすればだ!今帰ってきたみたいだぞ。」
玄関口の方から物音が聞こえ、しばらくするとダイニングの入り口から軽く汗をかいたセドリックが顔を覗かせた。
「よかった、朝食には間に合った。ただいま、もうお腹ペコペコだよ――――――――あれ、ダリア?珍しいじゃないか、起こしに行く前に目が覚めてるなんて。」
「暑くて寝苦しくって目が覚めちゃったの。」
「なんだ、早起きしたなら一緒にジョギングすればよかったのに。」
「絶対ヤダ。」
ダリアはきっぱりと拒否した。
元々ダリアのクィディッチ嫌いを矯正しようという目的で始められた『ダリアの肉体改造計画』は、ダリアがクィディッチに興味を示してもまだ続けられていた。
セドリックは体力づくりのため、夏休み中でも早朝と夜遅くの過ごしやすい時間帯にジョギングをしている。朝に弱いダリアは、夜のジョギングにだけ参加するようなんとなくルールが出来ていた。走るのは一日一回で十分だ。
「ほらほら、話は後にして、セドも手を洗ってきなさい。お父さんが待ちくたびれてるわよ。」
「そうだぞ、セド。せっかくの母さんの料理が冷めてしまう!」
「ああ、ごめん父さん。すぐ行ってくるから。」
「早くしてよー!お腹減った・・・・。」
ディゴリー家の一日は、朝から賑やかに始まった。
「――――――なんと、バーティの体調がかなり悪いようだぞ。もうベッドから起き上がるのにも苦労する状態らしい。確かに魔法省を辞めてからは、随分と窶れていたらしいが―――――。」
「まぁ、お気の毒に――――――ご病気なの?」
「いや、そこまで詳しくは書いていない。―――――――――仕事一筋で生きてきた男だ。唯一の生きがいを失って、一気に憔悴してしまったのだろうな。」
片手で新聞を読みながら、エイモスがサラと深刻そうな表情で話し合っている。誰か知り合いの体調が悪いらしい。新聞に載るほどの有名人なのだろうか。
ダリアはエイモスの向かいの席でソテーしたマッシュルームをつつきながら、反対側の記事をぼんやりと眺めた。
『シリウス・ブラック二股発覚?本命は職場の同僚か、それとも有名ファッションモデルか』
――――――――――おじさん、やっぱりダメな大人だったわ。
ブラックが社会復帰し、闇祓いに就職してしばらくの間、日刊預言者新聞はブラックを過剰に持ち上げる記事を連日掲載していた。しかし読者が同じような記事に見飽きてきた頃、今度は徐々にゴシップ記事が増え始めた。
記者はやはりリータ・スキータとかいう魔女だ。噂によると、事実を100倍ほど膨らませた文章を書くことで有名なのだが、これほど女性関係のゴシップが立て続けに報道されると、ブラックの行動にも原因があるとしか思えない。
『特定の人は居た事が無い』と豪語していたブラックを思い出しながら、記事を読み進めていく。どうやらブラックは、闇祓いの同僚(ショッキングピンクの髪!)と食事に行っているところと、ファッションモデル(スタイルがいい金髪の美女)とデートをしているところを、同時にすっぱ抜かれたらしい。
どっちがブラックの本命か、動く写真を見比べながらダリアが下世話なことを考えていると、横からセドリックに小突かれた。
「―――――――ダリア、聞いてる?」
「え?」
ダリアはハッとして顔を上げると、セドリックが眉を顰めてこちらを見ていた。何回か声を掛けられていたようだが、集中していたため全く気が付いていなかった。
「ごめんなさい、ぼんやりしてて聞いてなかった・・・・。」
「まったく―――――――――今日は、ダイアゴン横丁へ買い物に行くから、朝ご飯を食べたらすぐに支度だって。」
「ダイアゴン横丁に?」
ダリアは首を傾げた。今年はまだホグワーツから、新学期の案内の手紙も来ていない。家族そろってダイアゴン横丁に行く用事と言われても思いつかなかった。
よく分かっていないダリアに、エイモスが笑って教えてくれた。
「もうすぐクィディッチ・ワールドカップだから、キャンプの道具の買い出しに行くんだ。テントは今まで使っていたものがあるが、他にも色々必要なものがあるからなぁ。」
「――――――キャンプ!と、泊まるの?しかも、テントで!?」
ワールドカップに一家総出で観戦しに行くことは聞いていたが、日帰りだと思い込んでいたダリアは、テーブルに身を乗り出して聞き返した。
「ああ、そうだよ。―――――――そういえば、詳しい予定をまだ話していなかったな。ワールドカップの会場には、当日の朝に『ポートキー』で移動する。試合開始までにテント設営を終わらせて、試合が終わった後はしばらくキャンプでもしようかと考えている。」
「―――――――やったぁ!!!私、キャンプ初めて!」
ダリアは飛び上がって喜んだ。色々なところへ旅行に連れられたことがあるダリアだが、後見人がベッド以外では絶対に寝たくない、という種の人間だったため、今までの人生でキャンプをしたことが一回も無かったのだ。
決してアウトドア派ではないダリアだが、一度くらいは川で釣りをしてみたり、明かりの無い山奥で満点の星空を見たりしてみたいと思っていた。
はしゃぐダリアを微笑ましく見て、サラが笑った。
「ダリアったら、そんなに楽しみだったの?じゃあ、キャンプのお料理は腕によりを掛けなきゃね。」
「私、バーベキューってやつしてみたい!お肉を自分で焼いて食べるんでしょ?楽しそう!」
「ふむ。じゃあ、夕飯はバーベキューをすることにしよう。となると、肉を多めに買う必要があるな―――――――。」
エイモスが買い出しの計画をブツブツと考え始めた。
ダリアが顔いっぱいに満面の笑みを浮かべていると、セドリックが横からこそっと顔を近づけてきた。何か言いたいことがあるらしい。
ダリアがどぎまぎしながら耳を寄せると、セドリックがボソボソと言った。
「お肉もいいけど、ちゃんと野菜も食べなきゃダメだよ。」
「――――――――分かってるわよ!」
完全に子ども扱いしている。ダリアは少々頭に来たので、いらいらと返事をして顔をそむけた。
およそ一年ぶりのダイアゴン横丁である。
去年の夏休みに訪れた際はブラックがアズカバンから脱走した直後だったため、人通りも少なく閑散としていたのだが、今年は例年通り活気に満ち溢れている。
「いや、いつもより人出が多いくらいだな。ワールドカップ直前だ、皆考えることは同じなのかもしれん―――――――早めにキャンプの買い物を終わらせてしまおう。」
マグルのキャンプと違い、魔法族のキャンプはほとんど荷物を必要としない。魔法のテントは内部にベッドを置けるため寝袋を用意する必要が無く、簡単なキッチンも併設されているため調理器具を持っていく必要も無い。勿論ライフラインはつながっていないが、魔法族は魔法で火を起こすことが出来るため、薪を持っていく必要も無かった。
テントとテントを立てる道具の他には、それこそ食料くらいしか用意するものが無い。ダイアゴン横丁の食料品売り場は、家族連れでごった返していた。
「―――――母さんとダリアは、外で待っておいた方がいいんじゃないかな?僕と父さんで必要な物を探し出してくるよ。ね?父さん。」
ギュウギュウと押し合いへし合いする魔法使いたちの姿を見て、セドリックが提案した。華奢なサラと小柄なダリアがあの中へ入って行くとなると、無事では済まないだろう。
エイモスも腕まくりをしつつ、頷いた。
「それがいいな。サラ、ダリアと一緒に別の買い物をしておいてくれ。私はセドと食料品売り場へ行ってくる。マトンと、ビーフと、ソーセージ―――――あとワインとビールか。」
「あと野菜もね。それと、お酒はほどほどにしておいた方がいいよ。」
セドリックがしっかりと釘を刺した。最近、エイモスの腹回りがたるんできていることに気付いていたからだ。息子に飲酒を控えるよう言われたエイモスは少々落ち込んだ。
「セドの言う通りよ、エイモス。仕事で疲れているのも分かるけれど、最近はお酒が無くなるペースが速いもの。―――――――――それじゃあ、食材の買い出しは頼んでもいいのね?二人とも、気を付けて。」
サラが心配を滲ませた声で言うが、恐らく大丈夫だろうとダリアは思った。エイモスもセドリックも、普通の魔法使いに比べてだいぶがっしりした体つきをしている。
食品売り場へと向かう二人を見送ると、ダリアはサラに手を引かれて店の外へ出て行った。
ダイアゴン横丁の通りを戻りながら、ダリアは前を行くサラに問いかけた。
「別の買い物って、他に何か買うものがあるの?」
「あら、キャンプの買い物じゃないの。――――――そうね、これはもう言ってもいいかしら―――――――今からマダム・マルキンの店でドレスを買うのよ。」
「―――――――――ドレスを?」
予想外の買い物に、ダリアは目をしばたたかせた。
サラの話すところによると、今年、ホグワーツでは大規模なダンスパーティーが開催されるらしい。4年生以上の生徒はパートナーと共に参加することができるのだという。
「クリスマス・ダンスパーティー!?そんなのがあるの?」
「そうみたいよ。もうすぐ送られてくるホグワーツからの手紙には、正装用のドレスローブを用意するように書かれているらしいの。私もエイモスから詳しく聞いたわけじゃないのだけれどね。―――――きっと今年はイギリス中の女の子がドレスを買いに来るから、良いのが残ってるうちに決めておいた方がいいと思って。」
「ふーん。」
ダリアは以前制服を買いに来たマダム・マルキンの洋装店の、奥まったところにある小部屋に連れていかれ、次々とドレスを体に当てられていた。横では魔法の巻き尺がひっきりなしにぴょこぴょこと動き、ダリアの体の寸法を測っている。
「お嬢さんは肌が白いから、暗い色のドレスも似合うかもしれませんね。この群青のドレスはどうでしょう?」
「あら、明るい色も可愛いけれど、この色も冬の夜空みたいで素敵ねぇ。どう?ダリア。」
深い青色の薄布が何重にも重ねられた繊細なドレスだ。ちりばめられたスパンコールが、サラの言うように夜空の星を思わせる。ダリアの目の色とも合っている上、暗い色の布地との対比でダリアの肌の白さが際立つので、確かに似合っている気がする。
大人っぽいデザインなので、もう少し背が伸びて胸も大きくなったら、もっと素敵になるだろう。ダリアは色々と成長した自分がこのドレスを着てセドリックと踊っているところを想像して、ポーっとなった。
「うん、これ好き。私、今日から毎日ミルク飲む。」
「ミルク?――――――――ああ、そういう事ね。マダム、サイズを手直しできるように、布地を多めにつけてくださる?」
サラがダリアの願望を察して、笑ってマダムに注文した。
ドレスはサイズの調節をして、後日届けられるらしい。素敵なドレスを選ぶことができたダリアは、意気揚々と店を出た。エイモスとセドリックと待ち合わせしている漏れ鍋へ向かうのだ。
「やっぱり女の子は良いわねぇ。セドは何でも似合うけれど、男の子の服ってどれも同じで選ぶ面白みがないのよね。」
後ろでサラが、こちらもニコニコとしながら言った。ダリアのドレスを買う時に、サラはセドリックのドレスローブも注文していたのだ。黒のシックなデザインのドレスローブだったが、黒髪にグレーの瞳のセドリックなら、確かにどんなものを着ても似合うだろう。
待ち合わせ場所の漏れ鍋につくと、既にエイモスとセドリックが待っていた。二人とも大きな荷物を抱え、心なしか草臥れている。きっと食品売り場の人込みに揉まれに揉まれたのだろう、冷たい飲み物を飲みながらカウンター席に腰かけていた。
ダリアは、一目散に二人の所へ駆け寄ると、セドリックの隣の背の高い椅子によじ登った。
「あれダリア、買い物は終わったのかい?」
「ねえねえセドリック、私と一緒にダンスパーティーで踊って!」
「――――――――ダンスパーティー?」
ダリアが目をキラキラさせている。寝耳に水だったセドリックは、何のことか分からず戸惑った視線を向けた。
少し遅れてやって来たサラが、苦笑をしつつ解説した。
「今年はホグワーツで、クリスマス・ダンスパーティーが開催されるんですって。さっきそのドレスローブを買いに行ったのよ。セドのも選んでおいたからね。」
「ダンスパーティー?なんでまた・・・・・。」
学校生活も今年でもう6年目だが、ダンスパーティーが開催されるのは初めてだ。一体何があったのか。
ダンスパーティーが行われる理由は分からないが、とりあえずダリアの言いたいことは理解できた。要するに、ダンスパーティーのパートナーになって欲しいのだろう。
セドリックは少し考えたが、すぐに了承した。
「いいよ。じゃあ一緒にクリスマスパーティーに行こうか。」
「――――――――やったぁ!!!約束よ!」
セドリックとしては「他に行く人も居ないしダリアと行っても別に良いかな。」くらいの何の気なしの返事だったのだが、ダリアは飛び上がらんばかりに喜んだ。
セドリックにそんな気が無くても約束は約束だ。ダリアと約束した以上、セドリックは他の女生徒に誘われた所で頷かないだろう。
ライバルの邪魔もできる上に、セドリックとパーティーで踊ることができる、良い事づくしだ。
労せずしてパートナーの座を射止めることができたダリアは、新学期が始まるだいぶ前の今から、クリスマスの夜がとても楽しみに思えてきたのだった。
逆転時計は砂時計の砂一粒一粒に魔力が込められているとかいうのを、ポッターモアか何かで呼んだことがあるような気がします。絶対作るの大変ですよね。