ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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決意

 ダリアとリドルはまとまった時間を作り、お互いに魔法を教え合う事を決めた。

 

「じゃあ、今度の週末……は、ハロウィーンパーティーがあるんだった。きっと皆寝室でパーティーの準備をするから、ここは使えないわね。」

 

「もうそんな時期なのか。そうだな――――いい場所を知ってるから、そこを使おう。」

 

「え、なにそれ。――――まさかとは思うけど、バジリスクが居た部屋じゃないわよね。」

 

「そんなわけないだろう!――――週末になったら、8階の廊下に行くんだ。いいね。」

 

 8階の廊下に穴場スポットでもあるのだろうか。あの辺りはグリフィンドール生が頻繁にうろついており、あまり近づいたことが無いので地理感が無い。

 

 リドルがどの様な場所を想定しているのかはわからないが、彼が良いというのなら、それなりに使える場所なのだろう。

 とりあえずの待ち合わせ時間と場所を決めると、ダリアはリドルをキャットの元へ送り出し、談話室へと降りていった。ここ数日で大量の宿題が出されたので、差し迫ってそれらの課題を片付ける必要があったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー、やっと終わったわ……。」

 

 魔法史のレポート(小鬼の反乱について、羊皮紙二巻き分)を書きあげたパンジーが、羽ペンを放り投げてソファの背もたれにぐったりともたれかかった。

 同じくレポートを仕上げたダフネが、ずっと下を向いていたため凝り固まった首を回しながら、うんざりしたように言う。

 

「ねぇ……ちょっと最近、宿題が多すぎると思わない?」

 

「ん――――まぁ、去年に比べたら、確実に多くなったわよね。」

 

 ダリアは自分の目の前の、山のような教科書と羊皮紙を見てため息をついた。

 先生方はダリアが12科目を受講しているという事を知っているが、だからといって課題の量を減らすというような温情を見せることは無い。宿題の量は膨れ上がるばかりだ。

 

 談話室にはダリア達の他にも、頭を抱えて教科書とにらめっこをしている4年生の生徒達の姿がちらほらあった。急激に増えた課題の量に、誰もが苦戦しているらしい。

 

 

「でも、来年は『ふくろう』があるからしょうがないって、マクゴナガルも言ってたし。やるしかないでしょ。」

 

「それにしたって、よ!試験は一年以上先じゃない。こんな学期が始まったばかりの頃から全力出してちゃ、息が続かないわ――――ほら。ミリセント、起きなさいよ。まだ天文学の課題が残ってるのよ。」

 

「うう……。」

 

 机に突っ伏していたミリセントが、うめき声を上げた。頭脳労働が得意でない彼女は、課題の多さにすっかり参ってしまっていた。

 

「もういや――――ここ最近、毎日毎日勉強ばっかり!唯一の息抜きが、ムーディの『闇の魔術に対する防衛術』って、おかしくない!?」

 

「ああ……。」

 

「まぁ、ミリセントにとってはそうかもね。」

 

 2年生の時の『決闘クラブ』を思い切り楽しんでいたミリセントにとって、ムーディの刺激的な授業は、皮肉なことに今までで一番心躍るものだった。

 ミリセントは行儀悪くローテーブルに頬杖を付きながら、悩まし気にため息をついた。

 

「はぁ――――今日授業があったばかりなのに、もう次の授業が待ち遠しい。こんなのはじめて……。」

 

「――――授業が待ち遠しいって言ってるミリセントは初めて見たわ。」

 

「ホントに珍しいわね……。」

 

 あの刺激の強さは、確かにミリセント向けかもしれない。ダリアは今日行われたムーディの授業を思い返し、そう思った。

 

 ムーディは初回の授業で宣言した通り、生徒全員に闇の魔術に対峙する(もしくは、使用する。)ための心構えを叩き込むつもりのようだ。第二回目の今日は、「服従の呪文」を生徒に直接施し、それに対抗する術を身を以て教えられた。

 

 いくつかの法律に触れている可能性もあるトンデモ無い授業だが、ムーディは法律なんか知るものか、と言わんばかりに次々と生徒に服従の呪文を掛けていった。

 

「油断大敵!!――――って、まさか本当に呪文を掛けられるとは思わないわよね。だって、禁じられた呪文よ?私、何の抵抗もできずにうさぎ跳びをしちゃったわ。」

 

「私もよ。服従の呪文が、あんなにどうしようもない物だなんて思っても居なかったわ。魔法省が禁止するはずよね……。何故かダリアには、全く効いてなかったみたいだけど。」

 

「あはは……。」

 

 ダリアは空笑いした。

 ダリアは昔、後見人を狙う悪い魔法使いに操られて利用され、結果的に自分の命を一つ失ってしまったことがある。

 

 つい最近もデルフィーニに開心術を応用した『未来予知』を仕掛けられ、いいように踊らされたダリアは、どうしても心に侵入される類の魔法を受け入れることができず、ムーディの呪文をシャットアウトしてしまったのだ。おかげで余計に睨まれてしまった気がする。

 

 しかし、授業中の居心地は悪いものの、ムーディの授業がためになるのは確かだ。ムーディの授業はただ刺激的なだけではなく、実践に絡めて教科書範囲の教養もきっちりと抑えてくる。

 見た目の恐ろしさを考慮しなければ、去年のルーピン先生と同じくらいの「当たり」だ。闇祓い時代、数多くの部下を従えただけあって、後続への教授はお手の物なのかもしれない。

 

 ロックハートのようなダメ教師が続かなくてよかった、とダリアが内心考えていると、丁度談話室に入ってきたノットが声を掛けてきた。

 

「おい、モンターナ。談話室の外でディゴリーが呼んでるぞ。いつものアレじゃないのか?」

 

「セドリックが?――――げ、もうこんな時間。気付かなかった……。」

 

 ダリアは談話室の置時計を見て、慌てて立ち上がった。宿題に夢中で気付かなかったが、いつの間にか「体力作り」の約束の時間を過ぎていたようだ。しびれを切らしたセドリックが迎えに来たらしい。

 

「――――お前、何もこんな課題が立て込んでる時にまで、走りに行くこと無いだろ。しばらく休んでもいいんじゃないか?」

 

 広げていた課題の山をバタバタと片付け始めるダリアを見て、ノットが呆れたように言った。確かに走っている暇があれば宿題の山を片付けたいが、セドリックと一緒に過ごすことができる貴重な時間を見逃すはずがない。

 

「それとこれとは話が別なの――――よし、それじゃあ、行ってきまぁす!」

 

 ダリアは元気よく手を振ると、背後を振り返ること無く一目散に談話室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セドリックは魔法薬学の教室のすぐそばで待っていた。駆けてくるダリアの姿を認めると、寄りかかっていた柱から離れてこちらを向いた。

 

「セドリック!」

 

「ダリア――――よかった、起きてたのか。時間になっても来ないから、もう寝てるのかと思ってノットに声を掛けたんだけど。」

 

「みんなで宿題してたら、時間に気付かなかったの。ごめんなさい。」

 

 迎えに来てもらえて嬉しいダリアは、ニコニコしながら謝った。あまり反省していない様子にセドリックは一旦眉を顰めたが、すぐに思い直して頭を振った。

 

 ――――自分から謝っただけでも進歩だろう。あまりグチグチ言いすぎるのも、かえって良くないかもしれない。

 

 クィディッチ・ワールドカップでの件以来、セドリックは友人たちに過保護・過干渉の気を指摘されていた。自身の行動を振り返ってみれば、思い当る節はいくらかある。

 喉元まで出かかっていた小言を飲み込むと、気持ちを切り替えて手に持っていたものをダリアに見せた。

 

「今日からちょっと趣向を変えて、これを使おうと思うんだ。」

 

「?――――何それ。」

 

「何って――――箒だけど。」

 

「いや、だから。どうして箒を二本持ってるの?」

 

 セドリックはダリアのジョギングに付き合った後、そのままクィディッチの練習を始めるため、いつも自分の競技用箒を持ってきている。しかし、何故か今日は自分の箒に加え、見慣れない箒をもう一本持っていた。

 

 嫌な予感がして身構えるダリアに、セドリックは事も無げに言い放った。

 

「これはホグワーツの備品の練習用箒だよ。ダリアもだいぶ体力が付いてきたから、そろそろ箒に乗る練習をしてもいい頃かなって。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 抵抗むなしく、ダリアは競技場に引きずって行かれた。

 

「嫌だよぉ。私、箒なんて乗りたくない――――どうして走るだけじゃいけないの?運動するだけなら、箒に乗る必要なんてないじゃない!」

 

「ジョギングは持久力を付けるためにこれからも続けるよ。でも、箒に乗るとバランスを保とうとして全身の筋肉が鍛えられるんだ。今日からジョギングの後に箒に乗る練習を始めるよ。」

 

「嘘でしょ……。」

 

 最近ようやく途中でばてることなく湖を一周できるようになり、幾分か余裕ができていたのだが、セドリックはダリアの持久力の伸びに気付いていたようだ。すぐさま課題の追加を考える辺り、ダリアをとことん鍛えるつもりらしい。

 

 ダリアはノコノコとセドリックに付いてきたことを早くも後悔し始めていた。こんなことならノットに言われた通り、山盛りの課題をこなしている方がマシだったかもしれない。

 ダリアが絶句していると、セドリックが更に爆弾を落とした。

 

「――――それに、せっかく最近クィディッチの面白さが分かってきただろう?次は実際にクィディッチに参加することを目指してみてもいいと思って。」

 

「えっ。私、クィディッチ選手を目指すの!?」

 

 ダリアは真っ青になった。

 確かにこの体力作りはダリアのクィディッチ嫌いを矯正する目的で始められたものである。ダリアが無事クィディッチに興味を示し始めた後も体力作りのために続けてはいたものの、それは決してクィディッチ選手になるためではない。

 

「ムリムリムリ!――――セドリック、よく考えてみて。私、こんなに可愛い女の子なんだよ?こんなか弱い私を、ブラッジャーみたいな怖いボールがピュンピュン飛んでる場所に放り込む気?――――見てよこの細腕!この力こぶ!」

 

 ダリアは袖をめくって腕を曲げると、えいっと力を込めた。筋肉は全く盛り上がらない。

 

「こんなにも非力――――一瞬でペチャンコにされちゃうよ!」

 

「いや、僕もダリアがクィディッチチームのメンバーになれるだなんて、これっぽっちも思ってないけど。」

 

 セドリックは喚きたてるダリアをさくっと遮った。流石にそこまで無理難題を吹っ掛けるつもりは無い。

 自分で自分の非力さを熱弁したにもかかわらず不満気にむくれているダリアに、セドリックは丁寧に説明してやった。

 

「何も、クィディッチ杯に参加しろとは言ってないよ。寮の正式チーム以外にも、ホグワーツにはクィディッチの同好会が沢山あるんだ。中には初心者向けの集まりもあるみたいだから、そういう所でならダリアも試合ができるんじゃないかなと思ってさ。――――ほら、いくつか調べてみたんだ。」

 

「え、本当にクィディッチするの?私……。」

 

 ダリアは渋々、セドリックが広げた羊皮紙を覗き込んだ。いくつかの同好会の名前と、特色が事細かに書かれている。わざわざ調べてメモしてきたらしい。

 

「やっぱりただ乗るだけより、簡単でもいいから試合をした方が身になるからね。――――ほら、これなんてどうかな。低学年の女子生徒達の集まりで、練習は週に1回だって。寮は関係なしで、スリザリンの女生徒も何人か居るみたいだよ。――――これくらいならダリアも続けられると思うんだけど。」

 

「私、もう低学年じゃないし……。」

 

 その後も箒に乗る・乗らない、試合をする・しないの押問答が繰り広げられた末、結局ダリアは「箒に乗ってある程度上達することができたら、考えてみる。」という約束を取り付けられてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――うーん。まぁ、思ってたよりはマシかなぁ……。」

 

 ダリアが箒に跨る姿を見たセドリックは、真剣な表情で呟いた。ダリアは地上から1メートル上の空間にガチガチの状態で留まりながら、セドリックを睨みつけた。

 

「思ってたよりって――――これ以上どんな状態を想像してたの……。」

 

「もっとこう、10秒くらいで箒から落ちるレベルを想像してたんだけど――――うん、箒の扱いはそれなりにできてるじゃないか。体の使い方は全然ダメだけど。」

 

「これくらいなら、1年生の時にやったし……。」

 

 ダリアは口元を尖らせると、箒の柄を汗が滲む掌でしっかりと握り直した。

 

 ホグワーツで飛行訓練が行われるのは1年生の間のみだ。ダリアは当時から箒での飛行を敬遠していた。

 

 自分の体を浮かせて飛ぶのは難なくやってのけることができるのだが、箒を浮かせてそこに乗るという行為にはどうしても慣れることができない。

 箒から落ちることが不安で力いっぱい柄にしがみ付くので、全身が緊張してすぐに疲れてしまうのだ。

 

「箒の操作は問題ないとして、後は体の使い方かな――――よし、しばらくこの辺りを飛んで練習してみようか。」

 

 セドリックはそういうと、自分の箒に跨ってサッと上空へ舞い上がった

 

「えっ……ま、まってよー。」

 

 ダリアは慌てて箒の向きを変え、セドリックの後をヘロヘロと追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分の練習を終え、ホグワーツ城への帰路へ着くころには、ダリアはへとへとになっていた。セドリックの言う通り、ただ単に箒に跨るだけではなく、バランスを取るために全身の筋肉を使うので疲労が半端でない。その上箒の上でバランスを崩し、途中で何度も地面にポトポト落ちたのであちこちが痛む。

 

「乗馬と同じくらい疲れた……。」

 

「余計な力が入ってるからだよ。慣れたらもっと楽になる。」

 

「ホントに慣れるのかなぁ。」

 

 甚だ疑問だったが、それでも乗馬よりかは希望を持つことができそうなのは確かだ。

 箒は馬と違って勝手に走り回ったりしない。ダリアは馬が好きだが、馬の動きについて行けずすぐに落馬してしまうので馬に乗ることができないのだ。

 

「それもまぁ、練習あるのみだよ。とりあえず、まずは打身をマダム・ポンフリーに診てもらいに――――なんだか騒がしいね。」

 

 玄関ホールに辿り着くと、階段下の掲示板の前に人だかりが出来ていた。どの生徒も興奮した様子で、口々に何事かについて囁きあっている。

 

「何が書いてあるの?セドリック、見える?」

 

 背の低いダリアは爪先立ちをしても掲示板に張り出されている紙を見ることができない。しかし長身のセドリックも、人込みに阻まれて掲示物が見えないらしい。

 

「えーと――――やっぱり、ここからじゃ遠すぎて何も分からないな。誰かに聞いてみようか――――あ、アーニー。」

 

「あ、セドリック!丁度良かった。今から探しに行こうと思ってたんだ。」

 

 セドリックが人込みの中から出てきたハッフルパフ生に声を掛けた。どことなく見覚えがある。夏休み前にザカリアス・スミスと口喧嘩をした時、近くで同級生達と一緒に困った様に立っていた生徒の内の一人だ。

 ダリアは気まずくなって、そっとセドリックの陰に隠れた。

 

 たしかアーニー・マクラミンという名前だっただろうか。彼はセドリックを見つけると、顔を輝かせて駆け寄ってきた。

 

「あれ、僕に用事だった?」

 

「ああ、そうなんだ。僕、知らせてあげようかと思って――――ホラ、あの掲示板!いよいよ一週間後に、三大魔法学校対抗試合が始まるって!当然、立候補するんだろう?」

 

 

 

 ダリアは運動で温まった体が一気に冷えるのを感じた。

 

 

 

 まさかこんなに早く、三大魔法学校対抗試合が始まってしまうとは。

 アーニーは期待に輝く顔でセドリックを見つめている。やはり、セドリックがホグワーツの代表に選ばれるというのは、彼を知る者の中では共通認識のようだ。

 

 彼は何と答えるのだろう。ダリアが恐る恐る隣を見上げると、意外にもセドリックは困ったような笑顔を浮かべていた。

 

「アーニー、試合の内容も分かってないんだ。それについてはまだ何とも言えないよ。」

 

「ええ?――――でも、ホグワーツの代表に相応しい生徒なんて、セドリック以外に居ないと僕は思う。立候補すれば絶対に選ばれるよ!」

 

「そんなこと無いさ。僕よりすごい生徒は沢山居るよ。」

 

 持て囃すアーニーを、セドリックは困惑したように宥めている。ダリアもアーニーの意見に内心で同意した。きっとセドリックが立候補すれば、必ず代表選手に選ばれる。17歳以上の生徒達の中で、セドリック程優秀な人間を他に知らない。

 

 

 

 

「セドリック?――――ふん、あんなウスノロが代表選手になんかなれるもんか。」

 

 複雑な気持ちで黙り込んでいたダリアの耳に、信じられない暴言が飛び込んできた。そう大きな声では無かったが、偶然にもざわめきの合間を縫って妙にはっきりと聞こえた。同じく耳にしたらしいアーニーも不快な表情で辺りを見渡している。

 

 ダリアが発信源を睨みつけると、そこに居たのは案の定、ノッポのウィーズリーだった。本人は近くに悪口を言った相手が居ることに気付いておらず、ポッターやグレンジャー達とおしゃべりを続けている。

 

 最近彼らとトラブル続きだったダリアは、「またあいつらか。」と眉を顰めた。文句を言ってやろうと肩を怒らせて足を踏み出したダリアの肩を、セドリックが掴んだ。

 

「アーニー、ごめん。僕、これからこの子を医務室まで連れて行くんだ。また後で話そう。」

 

「え?あ、う、うん……。」

 

 アーニーはセドリックに言われて初めて、ダリアの存在に気付いたらしい。突然の事に目を白黒させている。

 セドリックはアーニーが戸惑っている間に、ダリアを追い立てて足早にその場を去った。そのまま人の多い玄関ホールを抜け、医務室がある廊下へ入ると、ようやく歩調を緩める。

 

「ふぅ――――ダリア、僕のために怒ってくれるのは嬉しいんだけどね。すぐに喧嘩腰になるのはダメだってば。」

 

 抗議を止められて不満だったダリアは、すぐさまセドリックに反論した。

 

「でも、あいつさっき、すごく失礼なこと言ったわ!あんなこと言われて、セドリックは頭に来ないの?」

 

「――――まあ、ロンからは元々、そんなに好かれていないからね。」

 

 セドリックは困った様に言った。同じ村に住むウィーズリー家の面々とは昔から顔見知りだが、フレッドやジョージの双子など、年の近い兄弟とはあまり馬が合わないのだ。

 

「数年前までロンとはそれなりに話す仲だったんだけど、ここ最近はあんな感じかなぁ。お兄さんのビルやチャーリー、パーシー達とは割と仲良くやってたんだけど……。」

 

「確かに、あの双子たちとは馬が合わないだろうけどさぁ。」

 

 真面目なセドリックと超問題児のあの双子とでは、どう考えても性格が合わないのは見えている。それに加え、それぞれ別のクィディッチチームに所属しているため、ライバル意識もひとしおだ。

 

「ともかく、僕が気にしてないんだから、ダリアは何もしちゃダメだ。分かったね?」

 

「――――はぁい。」

 

 セドリックに釘を刺されたダリアは、渋々報復を諦めた。ウィーズリーに馬糞の呪いをかけるのはまたの機会に見送りだ。

 それにダリアには、ウィーズリーよりももっと気になっていることがあった。

 

 

 

 ダリアは聞こうかどうか逡巡した末、思い切って口を開いた。

 

「あ――――あのね、セドリック。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……。」

 

「なんだい、改まって。」

 

「その――――さっきマクラミンが言ってたけど。セドリックは立候補、するの?例の――――三大魔法学校対抗試合の代表選手に。」

 

「――――何かと思えば、その事か。」

 

 途切れ途切れのダリアの言葉に、セドリックは幾分か拍子抜けしたように脱力した。

 セドリックは歩く足を止めずに、考えをまとめるかのように無言で廊下を歩いている。しばらく沈黙が続いたのち、セドリックは落ち着いた声で告げた。

 

「――――うん、立候補しようと思ってる。まだ誰にも言ってないんだけどね。」

 

 心のどこかで予想していた返答に、ダリアは鳩尾の辺りが鉛を飲み込んだように重くなるのを感じた。無駄だと思いつつも、つっかえながら言い縋る。

 

「で、でも――――危ないんでしょ?何百年も前には、沢山人が死んだって。危険だって……。」

 

「ああ、危険は承知の上だよ。それでも僕は、ホグワーツの代表選手に立候補しようと思う――――自分の力がどこまで通用するのか、試してみたいんだ。」

 

 静かな決意に満ちた声に、ダリアはクィディッチの試合に臨む時のセドリックを思い出した。セドリックは温厚そうに見えて、実際かなりの負けず嫌いだ。正々堂々とした勝負にこだわる裏には、自分の実力で相手に勝ちたいという思いが隠れている。

 

 そんなセドリックにとって、世界のライバルと実力を競うことができる三大魔法学校対抗試合は、またとない機会なのだろう。――――セドリックの頑固さを、ダリアは身を以て知っている。意見を変えることは、できないだろう。

 

 

 

 

 俯いたダリアを見て、セドリックが慌てて取り繕った。

 

「大丈夫だよ、ダンブルドア先生も言っていただろう?生徒が死の危険に晒されないように、長い間時間をかけて準備して来たって。危険は危険かもしれないけど、もし本当に危なくなったら先生方が助けてくれるはずだよ。――――それに、まだ僕が選ばれると決まったわけじゃないしね。」

 

「――――ううん、きっとセドリックが選ばれるよ。さっきマクラミンも言ってたけど、ホグワーツの代表選手として一番ふさわしいのは、セドリックだと私も思う。」

 

 最後に不安げに付け足したセドリックに対し、ダリアは吹っ切れたように言い切った。

 

 何も代表に選ばれたからと言って、セドリックが死ぬと決まったわけでは無い。安全対策は十分にされているし、本当に危なくなったら教師陣が助けに入るだろう。

 

 ――――それでも危ない時があれば、ダリアが危険を排除すればいいだけの話だ。危ない奴が狙っていても関係ない。セドリックは、ダリアが死なせない。

 

「私、応援するよ。手伝えることがあったら何でも言ってね。闇討ちとかしたくなったら、気軽に言ってくれていいよ。誰にもバレずにライバルを消してあげるから。」

 

「絶対にやめてくれ。――――でも、ありがとう。頑張るよ。」

 

 セドリックはダリアの申し出を却下した後、それでも嬉しそうに笑った。

 ダリアも笑ったが、セドリックを守るという決意をしたにもかかわらず、相変わらず漠然とした不安は胸に燻ったままだった。

 

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