ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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ホグワーツ特急にて

 9月になり、ディゴリー一家は子供たちを見送りにロンドンのキングスクロス駅に来ていた。

 物珍しそうにあたりをキョロキョロするダリアを注意深く見張りながら、セドリックはカートを引いて両親の後を追った。

 

 ダリアは元の世界のキングスクロス駅を思い返しながら、「こっちの駅の方が近代的ね。」と考えていた。

 魔法が大々的に使われている世界Aは、その分科学技術の発達が遅れているため、こちらより少し時代遅れな感じだったのだ。

 

 9と3/4番線(ダリアは「どうして1/2番線じゃないんだろう。」と思った)に入ると、魔法族らしき大人と子供が大量に居て、別れを惜しんでいるようだった。

 先に行ったエイモスが、大きく手を振って妻と子供たちを呼んでいた。

 

「さぁ、早めにコンパートメントを取らなければ。セド、ダリアの荷物を上げるのを手伝っておやり。」

 

「うん。ほらダリア、貸して。」

 

 意外なことに、セドリックは素直にダリアの荷物を上げるのを手助けした。

 基本的に紳士的な性質な上、ここ数日のダリアの質問攻めが功をなしたのか、警戒心は未だ持っているものの、恐怖心はだいぶ薄れていた。

 ダリアは荷物をセドリックに渡しながら、別れを惜しむ家族たちの様子を盗み見た。

 ニコニコと笑いながらも、寂しさが隠しきれない表情を、ダリアはかつて自分に向けられたことがあったのを思い出した。

 

 ――――――――――――結局、それっきりだったけど。

 

 ダリアは周囲と同じように別れを惜しむセドリックとディゴリー夫妻をつまらなそうに見ていたので、急に伸ばされた腕にびっくりしてそちらへ倒れ込んでしまった。

 

「わぁ!」

 

「ダリア、あなたも元気でね!お手紙を送ってちょうだい、待っているわよ。」

 

「う、うん。」

 

 サラに抱きしめられて額にキスをされ、ダリアはどぎまぎした。

 誰かに抱きしめられるなんて、ここ数年なかったものだから。

 

 サラの次にエイモスに抱きしめられ、ダリアはぎくしゃくして逃げるように特急に飛び乗った。

 その様子を夫妻は面白そうに見ていた。

 

「じゃあセド、ダリアの事を頼んだぞ。」

 

「しっかり面倒見てあげるのよ。」

 

「――――――わかったよ、父さん、母さん。」

 

 その様子を複雑そうに見ていたセドリックも、両親と別れのキスをした後、特急に乗り込んだ。

 

 

 

 

 すぐにホグワーツ特急は出発した。

 セドリックがコンパートメントに入ると、ダリアはぼんやりと車窓を眺めていた。膝の上ではトゥリリが早速昼寝を始めていた。

 セドリックが何か話しかけるか迷っていると、ダリアの方から口を開いた。

 

「別に面倒見なくていいわよ。友達のとこにでも行ってきたら?」

 

 明らかに「どっか行ってよ。」という気持ちが透けて見えたので、セドリックは逆にここに腰を落ち着ける構えを見せた。

 ダリアはうろんげに、横目でそれを見た。

 

「何よ。あなた、友達居ないわけじゃないでしょ。行きなさいよ。」

 

「友達は居るよ。でも学校で会えるし――――それに、君が他の人に怪しげな呪いをかける心配がある。」

 

「かけないもん。」

 

「杖に誓って?」

 

 ダリアは「杖に誓うってどういう意味よ!」と思ったが、天使の羽が使われた杖に嘘の誓いをする気にはなれず、ふてくされた顔で目を逸らした。

 ――――実はちょっとくらいなら呪文を使っていいかなと考えていた。

 セドリックはため息をついた。

 

「―――――――――――――手紙って、ふくろうで送るんでしょ?」

 

 沈黙が続いた後、ダリアがポツリと言った。

 目線は窓の外を怒ったように睨んでいた。学校に梟小屋があることは、ここ数日の質問攻めで知っているはずだ。

 

「そうだけど―――――――――――手紙、送る気かい?」

 

「だって、送らないわけにはいかないじゃない―――――――送ってって言われたもの。」

 

 他人にすぐに呪いをかけようとしたり、当たり前の常識を知らなかったりする彼女は相変わらず得体のしれない存在だったが、

 どこか言い訳するかのように、罰が悪そうにそう言うダリアは、ただの人間の女の子に見えなくもなかった。

 

 

 

 

 以降特に話すこともなかったので、お互い教科書を読んだり猫と遊んだりして過ごしていると、突如ドアが勢いよく開いた。

 

「ネビルのカエルを見なかった?列車の中で居なくなってしまったの。」

 

 ふわふわの茶色い髪の、生意気そうな女の子だった。

 理知的な目をしているが、ちょっと前歯が大きい。

 普段のダリアなら「ノックくらいしたら?」とつっけんどんに言いそうなものだが(そしてセドリックに「君が言うのか。」という目で見られそうなものだが)、あまりに女の子の勢いがよかったので、驚きのあまり首をブンブン振るだけだった。

 

「いいや、見ていないよ。―――――見つからなければ、車掌に聞いてみるといい。特急の先頭に居ると思うから。」

 

「そう、どうもありがとう。さ、行きましょう、ネビル。」

 

 セドリックが代わりに答えると、女の子は来た時と同じようにドアをぴしゃりと締め、おどおどした男の子を伴ってさっそうと歩いて行った。

 ――――――――――――苦手なタイプだ。とダリアは思った。もっとも、得意なタイプがいるわけではないのだが。

 

「新入生かな?同じ寮になるかもしれないよ。」

 

 まっぴらごめんだ。とまた心の中で思った。

 ああいう手合いは城の中にも居た。お姉さんぶってダリアの世話をあれこれ焼きたがるくせに、ダリアの方がその子よりいろんなことが出来ると知ると(そしてダリアの高慢ちきな性格を知ると)、途端に悪態をつきながら離れていってしまうのだ。

 きっと彼女もそうに違いない。

 

 

 しばらくするとダリアは寝入ってしまい(寝ている間、車内販売やセドリックの友人らしき人物が何人か訪ねてきたのを夢うつつに感じたが、ダリアはあえて眠ったままでいた)、起こされた時にはもう日が沈みかける時刻になっていた。

 

 それから制服に着替えたり荷物の整理をしたりしているうちに、ついにホグワーツに到着したのだった。

 

 

 


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