ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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来訪

 ハロウィンまでの一週間、いよいよ始まる三大魔法学校対抗試合に向けて、ホグワーツ全体が浮足立っていた。客人を迎えるために校舎が隅々まで磨かれ、ハロウィンの飾りつけまで例年より豪華なものになっている。

 

 生徒達は暇さえあれば三大魔法学校対抗試合について話し合い、誰がホグワーツの代表に立候補するのか、試合はどんな内容なのか、という話題が飛び交っていた。

 

 そしてやって来たハロウィン前日の金曜日。その日の最後の授業は魔法薬学だ。

 すぐ後に他校の歓迎会を控えた生徒達が授業に集中できるはずも無い。あまりの落ち着きの無さに、スネイプにしては珍しく、グリフィンドールだけではなくスリザリンからも何点か減点をした。

 

「――――非常に残念なことに、諸君らの頭の中には、深淵なる魔法薬学の知識を詰め込むための余裕は残されていないらしい。」

 

 スネイプがイライラしながら教科書を閉じる。それを合図に何人かの生徒が急いで羊皮紙や羽ペンを鞄の中に仕舞いはじめ、スネイプの眉間の皺が更に深くなった。

 

「忌々しいが、仕方あるまい――――全員寮に荷物を置き、30分後に玄関ホールに集合だ。貴様ら一人一人の醜態が、ホグワーツの全体の品位を貶めることになる。心して行動することだ。」

 

 いつもより30分早い終業の鐘の音を合図に、生徒達は一斉にそれぞれの寮へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリアは一度寝室に戻って荷物を置くと、クローゼットをゴソゴソと探りマントを取り出した。10月も終盤に入り、日が沈むと空気がぐっと冷えるのだ。

 ローブの上からマントを羽織ると、その場でくるりと回って見せる。

 

「どう、変じゃない?ちょっと大きめのを新調したんだけど。」

 

「アー……まぁ、裾を引きずってないならいいんじゃないかしら。」

 

「――――やっぱりまだ大きいかぁ。」

 

 すぐ横で同じく身支度を整えていたダフネの微妙な反応を見て、ダリアはため息をついた。

 マントなので大きめでも羽織ることはできるが、裾がかかとの下まですっぽりと覆い隠している。毎日ミルクを飲んでいるものの、このところ身長の伸びは芳しくない。

 

「うーん。予定では今ごろ、もう少し背が高くなってるはずだったんだけど……クリスマスまでには、もう少し大きくなってるかしら。」

 

『魔法で伸ばしてみたら?お城に居る頃、調べてたことがなかった?』

 

「あれ、昔一度だけ試してみたけど、ものすごく痛かったからもうしたくない……。」

 

『――――あー、そういえば、3日間くらい動けなくなったことがあったねぇ。』

 

 ダリアは小さい頃から他の子どもたちに比べて小柄だったので、どうにか身長を伸ばそうと、色々と魔法を試してみた時期があった。

 しかし試してみた結果、たった半インチほど身長を伸ばしただけで全身に激痛が走り(後々分かったことだが、濃縮された成長痛だった)、数日の間寝込むことになってしまったのだ。

 

 当然、後見人には肉体を操作する魔法の使用を固く禁じられた。ダリアももう二度とあんな思いはしたくなかったので、禁じられるまでも無く身長を伸ばす魔法は記憶の片隅にしまい込んでいた。

 

 ダリアがウンウン唸っていると、とっくに身支度を終えていたパンジーが寝室のドアを開けて頭を部屋の中に突っ込んできた。

 

「ちょっと、あんた達いつまでやってるのよ。もう談話室は空っぽよ、早くしないと集合時間に遅れるわ!」

 

「あら、大変――――ダリア、悩んでいてもどうにもならないわ。とりあえず今日の所はそれを着てなさいよ。さっきも言ったけど、裾は引きずってないんだから大丈夫だと思うわ。」

 

「うぅ……分かったわ。じゃあトゥリリ、行ってくるね。」

 

『いってらっしゃぁい。』

 

 トゥリリの間延びした声を背に、ダリア達は急いで階段を駆け下り、玄関ホールへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄関ホールでは、各寮の寮監が生徒達を整列させていた。息を切らして駆けてきたダリア達を見て、スネイプが眉を顰める。

 

「随分と時間がかかったようだな――――客が来る時までに、その乱れた髪を整えておきたまえ。」

 

「は、はぁい……。」

「ごめんなさい……。」

 

 

 

 

 

「どうして私まで怒られなきゃいけないのよ、私は二人を呼びに行っただけなのに……。」

 

「ごめんってば、パンジー。呼びに来てくれて助かったわ。」

 

「もし遅れてたら、もっとスネイプ先生に叱られてたと思うわ。ありがとう。」

 

 とばっちりを食らってプリプリ怒るパンジーを宥めつつ、スリザリンの4年生が並んでいる場所へ滑り込む。

 どうやらダリア達がスリザリン生達の中で最後だったらしい。スネイプはもう一度生徒達が全員居るかどうかを確認すると、最前列に並ぶ一年生たちを先導しながら正面玄関を抜けていった。

 

 ダリアの予想通り、外は既に夜のとばりがおり始め、頭上には青白い月が輝いていた。並んだまま石段を降りて整列すると、冬の匂いがする冷たい風が吹き抜けてダリアは思わずマントを掻き合わせた。

 

「ううっ――――寒いわ。どうして城の中で待っていちゃいけないの?あとどれくらい待たなきゃいけないのかしら……。」

 

「たしか、6時頃に到着するのよね。もうすぐ時間だけど――――どうやってホグワーツまで来るのかしら。」

 

「そもそもボーバトンもダームストラングもどこにあるのよ。遠いところにあるってことしか私知らないわよ。」

 

「私が聞いた噂じゃあ、ボーバトンはフランスにあって、ダームストラングは北欧の辺りだって――――まあ、本当かどうかは分からないけど。」

 

 噂好きのパンジーが自信なさげにそう言った。

 世界各地に存在する魔法学校は、基本的に入学する資格がある者にしかその詳細を明らかにしていない。子供たちが多く集う学び舎に政治や戦争の影響を及ぼすことが無いよう、その所在地等を厳重に伏せられているのだ。

 そのため生徒達のほとんどは、他の魔法学校について大まかな噂でしか知らなかった。

 

 全員の整列が終わり手持無沙汰になった生徒達が、口々にボーバトンとダームストラングについて空想の入り混じった雑談を繰り広げていると、周囲を注意深く見渡していたマクゴナガルが鋭い叱責を飛ばした。

 

「皆さん、静粛に!ボーバトンの代表団がやってきましたよ!」

 

 マクゴナガルが目をやる方向を見やり、ダリアは目を疑った。

 空の彼方に現れた小さな点が、段々とホグワーツへ向かって来る。最初は黒い豆粒のようにしか見えなかったそれが城に近づくにつれ、その驚くべき全貌があらわになってきた。

 

「空飛ぶ家だ!」「馬車だ!」

 

 興奮した一年生が飛び跳ねながら叫んで寮監達に叱られているが、仕方のない事だろう。禁じられた森の上空を滑るように飛んできた影は、巨大な空飛ぶ馬車だったのだ。大きな館ほどもある車体を引くのは、それぞれが象ほども大きい立派なパロミノのペガサスだ。

 

 ――――ぺ、ペガサスだ!!!

 

 すぐ近くにスネイプが居たため叫びこそしなかったが、ダリアは内心で大興奮していた。ダリアは馬が大好きなのだが、特にペガサスは小さい頃から一番のお気に入りだ。

 

 モンターナ家は呪文を作る際、製造元を示す紋章として、若葉色の下地に翼がある馬の絵が描かれた図案を使用している。家を出たばかりの頃、ダリアはホームシックに駆られてはその紋章を眺め、カーサ・モンターナを思い出していた。

 そんなわけで人一倍ペガサスに対して思い入れがあるダリアは、後程絶対に近くで天馬を拝むことを決意した。

 

 空飛ぶ馬車が物凄い衝撃音を立てて地上に着陸すると、中からボーバトンの校長が現れた。とてつもなく背が高い女性で、ダンブルドアと並ぶと大人と子供のような身長差だ。同じく背が高いハグリッドとはほとんど変わらない背丈のように思えるが、威厳に満ちた立ち居振る舞いが、彼女を何倍も大きく見せていた。

 

 彼女がダンブルドアと話をしている間に、馬車から次々とボーバトンの生徒達が外へ出てくる。男女ともに薄手の青い絹の絹の制服を身に纏い、寒さに身を震わせている。パンジーの言うように、イギリスよりも温かい「フランスの辺り」にある学校というのも、あながち間違いでは無いのかもしれない。

 

 ボーバトンの校長に連れられて生徒達が城内へ入ってしまうと、隣のパンジーがこそっと耳元に囁いてきた。

 

「何あれ、気取っちゃって嫌な感じ。あの人達、並んでる私たちに目もくれずに通り過ぎていったわよ。」

 

「え、そうだったの?私ペガサスしか見てなかったから気づかなかったわ……。」

 

 ブルンブルンと鼻を鳴らすペガサスにずっと見蕩れていたダリアは、ぼんやりと気の無い返事をした。

 

「――――あんた、前から思ってたけど、異常に馬好きよね……。」

 

「だって可愛いでしょ。見てよあの毛並み、パロミノだよ、触ってみたいなぁ。」

 

「あんなに大きな生き物に触るって、吹っ飛ばされるわよ。危ないからやめてよね――――ほんとにやめてよね。ねぇ、分かってるの?」

 

 ペガサスを見てうっとりとため息をつくダリアの様子に不安を感じ、パンジーは思わず釘を刺したが、ダリアは「うんうん」と生返事を繰り返していた。

 

 

 

 

 

 ボーバトンの例から、ホグワーツの生徒達は何となくダームストラングも空からやって来るものと考えていた。しかし目を凝らしてみても、空には全くそれらしきシルエットを見つけることができない。

 

 しかし、寒空の中震えながら立ち続けていると、どこからともなく不気味な音が響いてきている事に気付いた。ゴロゴロという音は次第に強まり、ついには地面を揺らすような地響きに変わる。

 

「湖だ!!」

 

 生徒の一人が叫んだ瞬間、湖にいくつもの水柱を立てながら、巨大な幽霊船が姿を現した。どういう仕組みなのか全く分からないが、ダームストラングは湖の中を通ってホグワーツにやって来たようだ。

 

「どうやってここまで来たの、ホグワーツには姿現しなんてできないはずでしょ?あの湖、水中に海に繋がる通路でもあるのかしら……。」

 

「まぁ、大イカが居るくらいだから、あり得なくはないよな……。」

 

 タラップが降りた大型帆船からは、続々とダームストラングの代表団が下船してきている。よほど寒い地域から来たのだろう、生徒達は全員分厚い毛皮のマントを着込んでおり、ボーバトンの生徒達とは逆に暑そうに襟元を緩め始めていた。

 

 銀色の毛皮をまとった男に先導されて、ダームストラングの代表団がホグワーツ城へ入って行く。これでようやく温かい食事にありつける、と安堵したダリアだったが、不意に巻き起こった歓声にビクッと肩を震わせた。悲鳴のようにも聞こえる叫びは、ダームストラングの生徒の誰かに向けて放たれている。

 

 原因はすぐに判明した。

 

 隣のパンジーがダリアの腕を掴み、ピョンピョン飛び跳ねながら激しく揺さぶってくる。パンジーに振り回されるまでも無く、ダリアもそのダームストラング生を見た瞬間、熱狂の原因を理解した。

 

 黒く濃い眉に曲がった鼻、少し猫背気味に屈んではいるが、弱弱しさを一切感じさせない猛禽類のような鋭い目。

 

 彼の存在に気付いたドラコやノットがあんぐりと口を開けている。しばらくの間興奮からか声を出すことができなかったパンジーが、口元をパクパクさせた後、上ずった声で叫んだ。

 

「嘘、し、信じられない――――クラムよ、ビクトール・クラム!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大広間に入ってテーブルについても尚、生徒達の興奮は冷めやらぬ様子だった。夏休みに全世界を熱狂させたクィディッチ・ワールドカップの決勝戦、中でも一番のプレーを見せたビクトール・クラムがすぐ近くに居るとなれば、無理からぬ話である。

 

 ダリアが座っているスリザリンのテーブルも例外でなく、しきりにダームストラング生達が固まっている辺りを見ながら、興奮を抑えきれない様子で囁き合っていた。

 

「だって――――だってクラムだぞ!?ブルガリア・ナショナルチームの、シーカーの、ウロンスキー・フェイントの――――まさか、ダームストラングの学生だったなんて!」

 

 ドラコが白い頬を真っ赤に紅潮させて叫んだ。ワールドカップの観戦では「クラムが居るブルガリアを応援する。」と公言していた彼である。その高揚っぷりはすさまじく、今からでもダームストラングに編入する、とでも言いかねない様子だ。

 

 とはいえドラコが特別異常というわけでは決してない。魔法界で時の人であるクラムを知らない者はおらず、他の生徒達も似たり寄ったりの興奮ぶりでクラムへ熱視線を送っていた。クラムのプレーに感銘を受けたダリアも、チラチラと視線をダームストラング生の方へ向けていた。

 

「絶対にスリザリンのテーブルに来る。スリザリン生は他の寮より生徒が少ないから席が空いてる、だから絶対にだ。絶対に――――よし!!クラムが来るぞ!!」

 

 普段クールを気取っているノットまでもが、大きくガッツポーズを取って歓声を上げた。

 ダームストラング生達は、スリザリンのテーブル席に座ることを決めたらしい。前方から順に空いている席に詰めていき、なんとクラムはダリア達4年生のすぐそばに座ることになった。あまりの幸運に、クラムファン(ドラコ、ノット、パンジー)が気絶しそうになっている。

 

 クラムは椅子に座ると、分厚い毛皮を脱いで一息ついていた。長旅の疲れがあるのか、ワールドカップ決勝戦の時のような覇気は感じられないが、それでもその目の鋭さは変わらない。近くで見るクラムは、ますます育ちすぎた猛禽類のように見えた。

 

 しばらく言葉も出ずクラムを見つめていたドラコが、身を乗り出して食い気味に右手を差し出した。

 

「ミ、ミスター・クラム!ぼ、僕、その――――ドラコ・マルフォイと言います!よろしく――――あと、ファンです!ワールドカップ決勝戦、感動しました!」

 

「――――ありがとう。」

 

 勢い余ってつんのめりそうな(そしていつになく腰が低い)ドラコの挨拶に、クラムは一瞬面食らっていたが、すぐに落ち着いた様子で握手に答えた。きっとドラコみたいなファンの対応には慣れたものなのだろう。

 

 感激してポワワンとしているドラコを尻目に、周りの生徒たちもクラムと握手をして自己紹介をしていく。ダリアもちょっとした握手会のような感覚で、ドキドキしながらクラムに自己紹介をした。

 

「ダリア・モンターナです。えーっと……随分と英語が上手なんですね。」

 

「ああ。たくさん、練習した。――――まだ発音ヴぁ、苦手だけど。」

 

 確かにアクセントに癖があるが、それでも十分意思の疎通が可能なレベルだ。ダームストラングの代表に選ばれるだけあって、クィディッチだけでなくその他の成績の方もかなり優秀なのかもしれない。

 

 クラムは終始むっつりとした表情を浮かべていたが、意外にも話しやすく、話題を振ればその都度丁寧に答えてくれた。どうやら機嫌が悪そうな顔つきは、生まれつきのものらしい。

 

「この学校ヴぁ、とても居心地がいい。」

 

 クラムがテーブルの上に並べられた金の食器達をしげしげと眺めながら、感心したように言う。彼だけではなく、他のダームストラング生達も、壁の見事な装飾や魔法のかかった天井を、興味津々と言った様子で眺めている。社交辞令にも聞こえたが、どうやら本気で言っているらしい。

 

「ヴぉく達の学校は、生徒が使う物に、こんな金をかけない。ヴぉく達はいつも、質素な生活をしている。校舎ヴぁこんなに煌びやかじゃ無いし、食事中の私語も認められて居ない。」

 

「え、そうなの?」

 

 意外な言葉に、ダリアは思わず口を挟んでしまった。ドラコが入学を考えていたという話をきいてから、何となく純血の名家の子息が多く通う学校だというイメージがあったため、学校でもそれ相応の生活水準が確保されているものだとばかり思い込んでいた。

 

「修道院みたいな暮らしね。ダームストラングは清貧を重んじる校風なのかしら。」

 

 ダフネが思案しながら言った言葉に少し納得した。余計な欲を排除して勉学に集中させるため、厳しく生徒達を管理する学校があるという話は聞いたことがある。

 

「なんだぁ。だったらどっちにしろ、ドラコにダームストラングは無理じゃない。残念だったわね、ドラコ。」

 

「お、おいダリア!」

 

 ドラコが焦って否定するが、箱入り息子の彼が修道院のような質素倹約な暮らしに耐えられるとはやはり思えなかった。案外、ルシウス氏はそんな息子の根性を鍛えなおそうと、ダームストラングへの入学を考えていたのかもしれない。

 

 全ての生徒達がそれぞれの寮のテーブルに着くと、各校の校長が上座へと現れた。どの校長も背が高いが、やはりボーバトンの校長は飛びぬけて背が高い――――というよりも、全体的に巨大だ。背を高くする呪文の力加減を間違えてしまったのだろうか、だとすれば、あそこまで背を伸ばすのはきっと物凄い苦痛を伴ったに違いない……。

 

 ダリアがぼんやりそんなことを考えていると、ダンブルドアが毎年恒例の乾杯の音頭を取り始めた。

 

「こんばんは。紳士、淑女、そしてゴーストの皆さん。そして今夜は特に、客人の皆さん。」

 

 ダンブルドアは代表団の生徒達に向けて、ニッコリと笑顔を浮かべた。

 

「ホグワーツへようこそ、心から歓迎いたしますぞ。本校での滞在が快適なものとなるよう、わしは心から期待し、またそうなることを確信しておる。」

 

 ダンブルドアの言葉に、ボーバトンの女生徒の一人が笑い声を上げた。なんだか癪に障る声だったので、ダリアはマフラーを頭に巻き付けた女子生徒の方を睨みつけた。

 

 普段自分たちも似たようなことをしているくせに、他校の人間が同じことをすると許せなくなるらしい。スリザリン生の何人かも、同じようにムッとした表情でボーバトンのテーブルの方を睨みつけていた。

 

「――――三校対抗試合は、この宴が終わると正式に開始される」ダンブルドアが続ける。

「さあ、それでは、大いに飲み、食い、かつ寛いでくだされ!」

 

 ダンブルドアが着席すると、テーブル上の大皿に次々と食事が現れた。御馳走は御馳走でも、今日の料理は普段とは一味も二味も違う。ブイヤベースやニシンの酢漬けなど、代表団の生徒達になじみ深い料理がそこかしこに用意されていた。

 

 長旅を終えた客人たちは勿論、寒空の下長い時間立ち尽くしていたホグワーツ生達も、待ちに待った食事に我先にと手を付け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、お腹いっぱい――――苦しい……。」

 

 デザートまで綺麗に平らげて空腹を満たしたダリアは、ナイフとフォークを置くとパンパンに膨らんだお腹をいたわるようにさすった。普段目にしない料理があったからか、ついつい食べすぎてしまったのだ。

 

「ちょっとダリア、お行儀悪いわよ。」

 

「だって、うっかりすると出てきちゃいそうなんだもん。」

 

 おいしそうな食事が無制限に出てくるのが悪い。ダリアは責任転嫁した。

 視界の端っこでは、ドラコとノットがクラムとクィディッチの話題でそこそこ盛り上がっていた。この流れなら、サインを頼めば快くくれるかもしれない。

 ダリアがタイミングを見計らい、ポケットから羽ペンと羊皮紙を取り出そうとしていた時だった。ダンブルドアが立ち上がり、手前のゴブレットをスプーンで鳴らした。

 

「――――皆、存分に飲み食いした頃じゃろう。いよいよ三校対抗試合を開催するその前に、2、3個ほど伝えておかねばならんことがある。」

 

 ダンブルドアはそう言うと、上座のテーブルに座っていた二人を手で示した。

 

「まず、この三校対抗試合の開催に骨身を惜しんで尽力されてきたお二方の紹介からじゃ。こちらが国際魔法協力部部長、パイアス・シックネス氏。」

 

 どことなく幸が薄そうな印象を受ける壮年の男性が頭を下げると、儀礼的な拍手がパラパラと起こった。彼についての記事は、ダリアも日刊預言者新聞で読んだことがあった。

 

 シックネス氏は数か月前まで魔法法執行部の副部長を務めていたらしいが、クラウチ氏の辞任の煽りを受け、数か月前に国際魔法協力部へ飛ばされてきたのだという。三校対抗試合の調整をしたのは殆どが前任のクラウチ氏だったためか、どことなく居た堪れない表情を浮かべている。薄幸そうな上に気も弱そうだ。

 

 ダンブルドアが紹介したもう一人は、ルード・バクマン氏だった。有名な元クィディッチプレイヤーで知名度もあるからか、生徒達の拍手も先ほどよりずっと大きい。バクマン氏は生徒達に向けて朗らかに手を振り、拍手に応えていた。

 

 ダンブルドアの話は続いた。

 

「そして、こちらのお二方が、ボーバトンの校長、マダム・マクシームと、ダームストラングのカルカロフ校長じゃ。わしを含め、三校の校長は代表選手の健闘ぶりを評価する審査委員会に加わる予定じゃ。さて――――フィルチさん、箱をここに。」

 

 ダンブルドアの合図を機に、大広間の隅からフィルチが進み出てきた。両手で大事そうに、宝石がちりばめられた大きな木箱を掲げている。熱心にダンブルドアの話に耳を傾けていた生徒達から、いったいなんだろう、と興奮のざわめきが起こった。

 

「――――代表選手たちが取り組むべき課題は、既にバグマン氏たちによって検討されており、そのための手配も全て完了した状態じゃ。課題は全部で三つ、一年間を通して行われ、代表選手は魔法の腕、勇気、論理・推理力等、ありとあらゆる角度からその能力を試されることとなる。」

 

 ダンブルドアは杖を取り出し、フィルチが置いた木箱の蓋を軽く三度ほど叩いた。木箱に施されていた封印が消え、古ぼけた木枠が軋みながら解けていく。

 果たして箱の中から現れたのは、古ぼけた木でできた荒削りのゴブレットだった。一見何の変哲もない骨董品にも見えるが、ただ一つ常ならぬ特徴は、その縁から青白い炎が煌々と燃え上がっているという点だ。

 

「――――各校から代表選手を選ぶのは、この『炎のゴブレット』じゃ。立候補したい者は羊皮紙に名前と所属校をしっかりと書き、これから24時間以内にゴブレットの中に入れる必要がある。明日、ハロウィンの夜には、ゴブレットが各校を代表するに相応しい者の名を返してよこすであろう。」

 

 ホグワーツの組み分け帽子のような機能が備わっているのだろうか、とダリアは推測した。ゴブレットに知性が備わっているのかどうかは分からないが、ただの羊皮紙から書いた人物の人となりを読み取り、更に学校ごとに最も優れた者を選別する機能まで付いているとなると、相当複雑な魔法が使われているに違いない。

 

 ダンブルドアは17歳以下の生徒が面白半分にゴブレットに名前を入れることが無いよう説明し、最後に真剣な口調で全員に忠告した。

 

「代表者として名乗り出ようとする者たちにはっきり言うておかねばならんことがある。くれぐれも面白半分で名前をいれようとは思わぬことじゃ。一度ゴブレットに選ばれたからには、途中で試合を投げ出すこと叶わん。魔法契約により、選手は試合が終わるまで拘束されることが決まっておる。――――準備は万端にして居るが、それでも危険な競技であることに変わりはない。よくよく考えて、立候補するのじゃぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「スリザリンからは、ワリントンが立候補するって話よ。」

 

 宴会が終わり、大広間を抜けてそれぞれが寝室に戻る途中で、早速パンジーが仕入れた噂を披露した。

 

「ワリントンって、クィディッチチームの?」

 

「そう。さっき大広間を出る時に先輩たちが話しているのを聞いちゃった。」

 

「ふーん。まあ確かに、タフさならスリザリン一かもね。」

 

 ミリセントが感心したように言った。ワリントンはダリア達より2個年上のスリザリン生で、クィディッチチームのチェイサーだ。大柄でがっしりとした体つきをしており、ナマケモノのような長い腕から打ち出されるシュートはかなり重いらしい。

 

「――――まあそこそこできそうではあるけど、残念だけど代表に選ばれるのは難しいと思うな。確かに強そうだけど、セドリックの方が頭いいもん。」

 

「あら、結局ディゴリーって本当に立候補するの?ダリアの妄想じゃなくって?」

 

「するの!先週三校対抗試合の知らせが出た時に聞いたんだ。」

 

 以前よりも落ち着いて居るダリアに、ダフネが揶揄うように声を掛けた。

 

「いいの?前はあんなに『セドリックが死んじゃうかも!』って心配してたじゃない。本当は選ばれて欲しくなかったんじゃないの?」

 

「それは――――本音を言ったら立候補してほしくないけど。でもいいの、私決めたから。セドリックが代表選手になるんだったら、私が全部危険を排除するんだ。」

 

 ダリアはきっぱりと言った。今日各校の代表団を見て、その思いはますます強まった。ダームストラングのカルカロフ校長は、見るからに勝つために手段を選ばない大人だった。きっと自校の生徒を優勝させようと、あらゆる方法を使うだろう。

 ボーバトンのマダム・マクシームは高潔な人物に見えるが、学校の威信をかけた勝負に勝つためならば、手段を選ばないかもしれない。

 

「セドリックはそういう根回し――――妨害とかカンニングとか、馴染みが薄いだろうし。――――そういう汚い事は私が全部、見えないように隠しちゃおうと思って。だからセドリックは嫌な事なんて知らないまま、いつもみたいに正々堂々と戦えばいいの。」

 

 

 

 

 

 

「藪蛇だったわ――――――――前からディゴリーを神聖視しがちだとは思ってたけど。今回は流石に拗らせすぎじゃない?」

 

「ダリアったら、どうしてディゴリーが絡むと毎度途端に面倒になるのかしら……。」

 

「とりあえず、しっかり見張っておいた方がいいと思うわ。この調子じゃ、思いつめて何しでかすか分から(分かったもんじゃ)ないし。」

 

 自覚無く病みの片鱗を見せるダリアに、三人はとりあえず、ワリントンが今夜の内に闇討ちされないよう注意しておくことを決意したのだった。

 

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