ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

74 / 89
嫉妬

スネイプに連れられてダリアがスリザリンの談話室へ戻ると、寮生達が手ぐすね引いて待ち構えていた。ダリアがセドリックから話を聞いているという事は、どうやらスリザリン全体に伝わっているらしい。パンジーが待ちきれないとばかりに話を急かした。

 

「それで、どうだったのダリア。ディゴリーはなんだって?」

 

「うーん、まず、セドリックが部屋に入ると、クラムが話しかけてきたんだって。それで、私の話をして……。」

 

「そういうのはいいから。重要なところだけかいつまんで説明してちょうだい。」

 

「重要なところぉ?」

 

ダリアにとってはこれも十分重要なところだったのだが、仕方が無い。パンジーの言う「重要なところ」が何かを指しているのかは、ダリアとて理解している。

 

全スリザリン生が聞き耳を立てる中、ダリアはセドリックから聞いた小部屋での話し合いの一部始終を語って聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――そういうわけで、ポッターはセドリックと一緒に、ホグワーツの代表選手として試合に参加することになったんですって。マダム・マクシームもカルカロフ校長も、不満たらたらだったみたいだけどね。」

 

「くそ、やっぱりそうなったか……。」

 

ダリアの話をじっと黙って聞いていたドラコが、悔しそうにポツリと呟いた。半ば予想していたようだが、実際に耳にするとまた違うらしい。

 

「でも、よく他校の校長たちが許可したわね。」

 

「相当抗議したみたいだけど、ルード・バグマンが丸め込んだんだって。炎のゴブレットから名前が出た者は、最後まで試合に参加する義務があるとかなんとか。要は魔法契約の事だろうけど。」

 

「ふーん、ルード・バグマンがねぇ。確かあの人、魔法ゲーム・スポーツ部の部長だったか。試合が中止にでもなったら困るんだろうな。」

 

「ふん、ポッターにとっては救世主ね。ありがたいこと。」

 

ダフネがイライラしたようにブロンドの髪をかき上げた。せっかく念入りに整えた髪型をアピールする間もなく、パーティーがお開きになったことがまだ許せないのだ。

 

「ポッターはまんまと生徒達や教授たちを出し抜いたってわけか。さぞかしご満悦だろうよ。」

 

「さあ、自分はゴブレットに名前を入れてないって主張してたみたいだけど――――あんまりポッターの方は見てなかったから、私も詳しくはわかんないわ。セドリックと話してるうちにシリウス・ブラックが飛んで来て、どこかに連れて行っちゃったんだもの。」

 

「――――親馬鹿かよ、ドラコの父上でもそこまでじゃないぞ……。」

 

「おいセオ、父上の事を馬鹿にするな。」

 

ノットが呆れた風に言うが、ダリアも同じことを考えていた。

 

ダリアがセドリックに夢中で話しかけている時の事だった。突然大広間の扉が物凄い勢いで開いたかと思えば、血相を変えたシリウス・ブラックが飛び込んできたのだ。

 

ブラックはそのままポッターに飛びついて彼の無事を確かめると、ダリアを待つために偶然その場に立っていたスネイプとひと悶着を起こした末、ポッターを小脇に抱えて再び大広間を出て行った。

ポッターが代表選手に選ばれてから数時間も経っていない時の出来事だ。耳が早すぎる。

 

「――――よし、決めたわ。」

 

じっと黙って話を聞いていたパンジーが、目を危険に輝かせてスッと立ち上がった。談話室中の視線が彼女に集まる。

 

「このままポッターの思い通りになるのは癪だわ、何か嫌がらせをしてやりましょうよ。あいつの不正行為に抗議するのよ!」

 

「あら、いいじゃない。協力するわよ。」

 

「生まれてきたことを後悔させてやるわ!」

 

スリザリンのケルベロス(ダフネ、パンジー、ミリセント)はそう宣言すると、協力を申し出たスリザリン生何人かを巻き込み、如何にポッターに精神的苦痛を与えるかという作戦を額を突き合わせて話し合い始めた。

スリザリンの寮生同士の結束は、他のどの寮よりも強い。特にこういう悪巧みに関しては寮生が一丸となって取り組むため、とてもたちが悪いのだ。

 

「ダリア、あんたも一緒に考えなさいよ。ディゴリーを正式な代表選手って持ち上げる形にしようと思ってるからさ!」

 

「えっ、ほんと?」

 

ダリアは一瞬心惹かれたが、すぐに首を横に振った。他に大事な用事があるのだ。ポッターなんかに構っている暇はない。

 

「うーん、やめとくわ。11月の後半に、もう第一の課題が行われるんだって。色々と準備しなくっちゃ。」

 

「準備って……ダリアが試合に出るわけじゃ無いでしょ?何かすることが――――」

 

ダフネが途中で言葉を切り、ハッと息を呑んだ。

 

「まさか――――闇討ち?」

 

「ちがうわよぉ……。したいのは山々なんだけど、セドリックにダメって言われちゃったんだもん。」

 

ダリアは頬を膨らませた。一番手っ取り早く試合を終わらせることができる方法だと思うのだが、確かにセドリックの好む正々堂々とした戦はできなくなってしまう。

 

「だからせめてセドリックが気持ちよく競技に参加できるように、他が抜け駆けしないか見張るの。一瞬たりとも気は抜けないわ。今日から私は華麗なるスパイ……地を這い壁を駆け、音も無く闇に潜むしなやかなヌンドゥ……。」

 

ダリアは両手をひらひらと動かして奇妙な動きをした。しなやかさを表現したかったらしい。スリザリン生達はそっと目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヌンドゥって――――そこはデミガイズじゃないの?スパイするならさぁ。』

 

「それはそうなんだけど。デミガイズよりヌンドゥの方が、女豹感が出ると思って……。」

 

ダリアは次の日から早速行動を開始した。

トゥリリを抱えて談話室を出ると、正面玄関へ向かう。まずは敵情視察、敵の根城を観察するのだ。

 

城の外へ出たダリアは、最初に黒い湖へと向かった。湖にはダームストラングの幽霊船が停泊している。日曜の早朝にもかかわらず、湖の岸辺にはたくさんの生徒達が鈴なりに並び、幽霊船を眺めていた。

見たところタラップは降りていない。ダームストラング生達は全員船の中で過ごしているのだろうか。

 

『そうかもよ。ここの校長、相当疑り深そうだったじゃない。昨日あんなことが起きたばかりだもの、きっと警戒してるんだよ。』

 

「うーん、確かに。その可能性はあるわね。」

 

 

船に籠っているのならば、とりあえずは無害だろう。ダリアはしばらくの間大イカとキャッチボール(ダリアが一方的に小石を投げて、大イカがキャッチする)をして遊ぶと、黒い湖を後にした。

 

次に向かったのはボーバトンの巨大な馬車だ。

ちょっとした屋敷ほどもある立派な馬車は、ホグワーツ城のすぐそばに停められているはずだ。ダリアはほんの少しの期待を胸に、城の外周に沿って歩き出した。

 

やがて城の裏手にパステルブルーの館が見えてくる。クラムという有名人が居るダームストラングに比べると、見物人の数はそれほど多くないようだ。

ダリアは馬車の近くまで近づくと、ようやく屋敷の隣にお目当ての物を見つけて目を輝かせた。

 

「いたいたっ!トゥリリ、ペガサスだよ!」

 

『――――うわぁ、おっきいねぇ。』

 

ダリアは小走りで芝生の上を駆け抜けた。天馬を囲い込んでいる柵に飛びつくと横板を一枚よじ登り、天馬が良く見えるように精一杯首を伸ばす。視線の先では、パロミノのペガサスが数頭寄り添いながら草を食んでいた。

 

随分と巨大なペガサスだ。以前動物園で見たことがある象と比べても遜色が無いほどである。つぶらな瞳はルビーのように赤く燃え、毛並みは太陽の光を反射して金銀に光り輝いていた。

ダリアは柵にもたれかかりながら、ため息をついた。

 

「綺麗――――触ってみたいなぁ、あの毛並み。それでもって、あわよくば乗せてもらうの。」

 

『あの高さから落っこちちゃうとシャレにならないから、やめておきなよぉ。それに、柵の中に侵入してるところを見られたら大変でしょ。』

 

「ふん。わかってるわよ、そんなこと――――でも、触るくらいはいいんじゃないかしら。」

 

夜中ならば、誰にも見つかることなくペガサスと交流することができるだろうか。ダリアは秘かな野望を持った。

 

 

 

ボーバトンの屋敷はカーテンが閉め切られ、人の気配が感じられなかった。どうやら学生達は馬車から降り、どこか別の場所へ向かっているようだ。

 

「あら、もうこんな時間。お昼を食べに大広間へ行ったのかしら。」

 

『そうかもね。ダリアってば随分長い事ペガサスに夢中になってたから。』

 

「気付かなかったわ……。」

 

空を見上げると、太陽はすっかり空の高い位置に昇りきっている。丁度いいタイミングでダリアのお腹がぐるぐると音を立てた。

 

「――――まあ今日の調査はこれくらいでおしまいにしようっと。どうせ昨日の今日じゃ、何かおかしなこと企むなんて無理よね!」

 

ダリアは今すぐに大広間に帰って昼食にありつくことを決めた。空腹の前にはどんな使命感も勝てないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心無し早足でホグワーツ城まで戻って正面玄関を抜けると、大広間前に何やら人だかりが出来ていた。全員が全員、何か写真のようなものを手にクスクス笑いあっている。

 

「なにかしら、あれ。掲示板の前でもないのに寄って集って、変なの。」

 

『しかも女の子達ばっかりだよ。珍しいねぇ。』

 

トゥリリの言う通り、集まっているのは寮も学年もバラバラな女生徒たちばかりだ。全員が手に写真を持ち、それを見ながらキャアキャアと黄色い声を上げている。ダリアはこれと同じ光景を見たことがあったので、瞬時にピンときた。

 

「分かったわ、あの人達、有名人――――つまりクラムの写真の裏取引をしてるのよ!ホグズミードで妖女シスターズのライブがあった時もこんな感じだったもの!」

 

『写真を?――――そんなものを集めて、一体どうするって言うのさ。』

 

「さあ?いつでもクラムを見てうっとりするためじゃない?パンジー達のために一枚くらい買っていってあげようかしら。」

 

クラムファンの友人たちのために一枚くらい写真を買ってもいいだろう、とダリアは女生徒達の集団に近づき、その手元を覗き込んだ。

そしてあんぐりと口を開けた。

 

「――――ねぇ、この角度のセドリック、とっても素敵だと思わない?」

 

「ホント!普段からハンサムだけど、やっぱりセドリックはクィディッチをしてる時が一番格好いいわよね!」

 

たった今自分が目にしたものが信じられないダリアは、反射的に声が聞こえた方向に体ごと向き直った。恐ろしい言葉が聞こえた気がする。

先ほどよりももっと注意深く人だかりの様子を観察し、あることに気付くと、ダリアは頭に金盥を落とされたかのような衝撃を受けた。

 

この集団はクラムのファンなどではない――――セドリックのファンだ。

 

黄色い声を頑張って聞き取ると、女生徒たちは皆一様に、甘ったるい声でセドリックの名前を呼んでいる。だとすれば、この輪で取引されている盗撮写真は、やはり見間違いなどではなくセドリックのものだったというのか。

 

ダリアは怒りか嫉妬か何やら良く分からない感情で体がワナワナと震えだすのを感じた。

 

――――こ、この女ども!セドリックが代表選手に選ばれた途端、夜の街頭に群がる蛾みたいに……!

 

確かにセドリックは以前から人気がある生徒だった。監督生で、クィディッチのキャプテンで、首席で、更に見た目も性格も良いとなれば当然だろう。それはダリアも納得できる。

だがこんな風に女生徒が寄り集まって騒ぐことは、今まで一度も無かったはずだ。

 

『きっとセドリックが代表選手になって、箍が外れちゃったんだろうねぇ。すごいやセドリック、ボス猫のハーレムも目指せるかもよ。』

 

「感心してる場合じゃないわよっ!これは大事件よ、今すぐこの害虫どもをどうにかしないと!」

 

ダリアは暢気な事を言うトゥリリに、涙声でわめきたてた。

セドリックはいつもクィディッチやら監督生の仕事やらで忙しくしている分、女生徒との接触が少ない。なのでダリアは数人の女の影に気を付けるだけでよかった。だが、こんなに沢山女生徒がセドリックに群がってしまえばそうもいかない。

 

ダリアはここにいる有象無象の女生徒たちより、絶対自分の方が可愛いという自信が有った。しかし、これだけの数が居れば、その中に誰かひとりセドリックの好みに合致する女生徒が現れる可能性も否定できない。

 

セドリックが代表選手に選ばれたことの思わぬ弊害に、ダリアはギリギリと歯ぎしりをした。

 

それはそれとして、出回っていた盗撮写真は全種類購入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女生徒達によるセドリックの写真の裏取引を目撃して以来、ダリアは暇さえあればセドリックの周囲に張り付き、鋭い目で辺りを哨戒していた。

 

「ダリア。君、最近一体何をしてるんだ?」

 

「何って――――護衛に決まってるでしょ?セドリックは今やホグワーツを代表する有名人なんだから。いつどこで誰に襲われるか分からないじゃない。」

 

「そんな。ダリアじゃないんだから、闇討ちなんて誰もしないよ……ほら、午後からの授業に行っておいで。遅刻するよ。」

 

セドリックが呆れた顔でダリアを促した。確かに午後の授業の開始時間が迫ってきている。

流石に授業をすっぽかすことは考えられない。ダリアは血を吐くような思いで、近くに居たダニーに後を託した。

 

「ダニー、後は頼んだからね。絶対に、絶っっ対に、セドリックを奴らの毒牙から守ってね。絶対だよ?」

 

「わかったわかった。ホラ、とっとと行ってこいよ。」

 

ダニーに追い払うような仕草で手を振られ、ダリアは渋々セドリックの元を離れ、ホグワーツ城の地下へ向かった。午後の授業は2時間続きの魔法薬学なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

ダリアが上の空のまま地下牢の魔法薬学の教室へ着くと、スリザリン生達が外で待っていた。ダリアに気付いたダフネが軽く手を振った。

 

「あらダリア。スパイ活動はもう終わったの?」

 

「全然。授業が始まるから、ダニーに託して引き上げてきたの。――――それで、どうして教室に入らないのよ。鍵でも閉まってるわけ?」

 

ダリアが首を傾げると、教室の外に立っていたスリザリン生達が、顔を見合わせてにんまりと笑った。パンジーが誇らしげに、ローブの胸元を指し示した。

 

「バッジが完成したの!ポッターの奴に真っ先に見せつけてやりたくて、待ち構えてるのよ!」

 

「ホラ、ダリアの分もあるわよ。」

 

ダフネがポケットから取り出したバッジをダリアに手渡した。ダリアはその大きなバッジを手に取って、しげしげと眺める。赤い蛍光色の文字が、薄暗い地下牢で一層輝いて見えた。

 

「おお――――『セドリック・ディゴリーを応援しよう、ホグワーツの真のチャンピオンを!』――――中々いい出来じゃない。」

 

「もちろん、それだけじゃない。――――ホラ。」

 

ドラコがバッジを胸に押し付けた。すると赤い文字が消え、代わりに緑色に光る文字が浮かび出てきた。

 

「『汚いぞ、ポッター!』――――へぇー、考えたわね。これだったら普通に付けてる分には、誰も中傷メッセージだなんて思わないわ。先生達の目もごまかせるわ!」

 

「でしょでしょ?変身術で仕掛けを作るの、すっごく頑張ったんだから!」

 

教員に見咎められた時のため、逃げ道を用意している所がいかにもスリザリン生らしい。

これはパンジー力作のギミックだったようだ。頬を紅潮させながら、どれほど複雑な魔法を使ったのかを力説していた。

 

ダリアがバッジを自分のローブに取り付けていると、ちょうどポッターがグレンジャーと一緒に魔法薬学の教室の前まで辿り着いたところだった。目ざとくそれに気づいたドラコが、バッジをぶら下げたまま早速絡みに行った。

 

「やあ、やっとお出ましか。ポッター。」

 

「――――へぇ、素敵なバッジを付けてるじゃないか。僕にも一枚くれない?」

 

ポッターは目も合わせずに、仏頂面で吐き捨てた。ここ数日間中傷の視線に晒されたことで、自分が置かれた立場がいかに面倒な物かを痛感したらしい。

スリザリン生がロクでもないことを企んでいるということも、ある程度予想していたようだ。

 

「気に入って貰えて安心したよ。僕らお手製の応援グッズなんでね。――――そうそう。このバッジ、こんな機能も付いているんだ。」

 

ドラコはニヤニヤと笑いながら、バッジを胸元に押し付けた。たちまちバッジに書かれたセドリック応援のメッセージが、ポッターを罵る言葉に入れ替わる。

周りをギラギラ光る『汚いぞ、ポッター』で取り囲まれたポッターは、見る見るうちに怒りで真っ赤になった。

 

「あら、とっても面白いじゃない。」

 

笑っていたパンジー達に向け、グレンジャーがポッターを庇うように、皮肉たっぷりに言い放った。

 

「ほんっとにオシャレだわ。」

 

「まあ、あんたのその『反吐』バッジに比べたら、どんなバッジでもオシャレに見えるでしょうね。――――それ、一体何のバッジなわけ?あんたが反吐みたいに不快な女だってことは、自分で主張しなくったって皆知ってるわよ。」

 

グレンジャーの胸元に輝くバッジに目を付けたパンジーも、負けじと言い返した。

確かに、彼女はなぜ『反吐』と書かれたバッジを身に着けているのだろうか。――――彼女が身に着けている『S.P.E.W.(反吐)』がSociety for Promotion of Elfish Welfare、屋敷しもべ妖精福祉振興協会の頭文字を指しているとは露ほども知らないダリアは、心底不思議だった。

 

 

 

 

小競り合いをするポッターとドラコ、グレンジャーとパンジーを眺めながら、ダリアはふと、この場に居るべき人物が一人足りないことに気が付いた。いつもならば真っ先に噛みついてくるはずのウィーズリーの姿が見えない。

 

いや、居るには居る。しかし、いつものようにポッターのために突っ張るのではなく、他のグリフィンドール生達と一緒に壁にもたれかかってこちらを見ているだけだ。騒動が聞こえていないはずも無いだろうに、こちらへ来る気配も無い。

 

 

理由を考える間もなく、ポッターを見つめるウィーズリーの目を見た瞬間、ダリアは彼の感情を理解してしまった。理解できてしまった。

 

 

あの目は城に来たばかりの頃、当時数多く居た後継者候補たちの中でダントツの才能を持っていたダリアが、何回も向けられたことがある目だ。――――そしてダリア自身、キャットに何度も向けたことがある目だ。

 

要は、ウィーズリーはポッターに嫉妬しているのだ。いつも一緒に居るのに、注目を集めるのは常にポッター。小さな出来事が積み重なり、今回の事でついに爆発したのだろう。

 

それを理解した瞬間、ダリアは腹の底から色々な種類の怒りが沸き上がって来るのを感じた。自分でも意外なほどの勢いで吹き上がるその衝動に突き動かされるまま、ダリアはわざとらしい大声でパンジーに話しかけた。

 

「――――ねぇ、パンジー。バッジ一つ余ってない?」

 

ダリアの中で、どうにかしてウィーズリーを傷つけてやろう、という残酷な気持ちがむくむくと膨れ上がる。今まで言葉を発することが無かったダリアが大きな声を上げたことで、注目が一気に集まった。

 

「そりゃあ、在庫はたくさんあるけれど……それがどうかした?」

 

 

 

「じゃあ、ウィーズリーに一つ分けてあげましょうよ――――あの人、このバッジが欲しくて欲しくて、たまらないみたい!」

 

 

 

 

誰かが息を呑む音が聞こえた気がした。

きっとグレンジャーだ。ポッターとウィーズリーの間に挟まれ、どうにか彼らの仲を修復しようと頑張っていたのだろう。ダリアが今からするのは、彼女のそんな努力を水の泡に帰す行為だ。だがそんなことは関係ない。

 

突然苛烈な悪感情を向けられたウィーズリーは一瞬たじろいだが、すぐに怒りが勝ったのか、頭を低くしてダリアを威嚇した。しかし、どこか動揺しているのか、いつもダリアに突っかかってくるような勢いは無い。

 

「――――なんだよ、モンターナ。僕がいつ、お前らにそんなバッジが欲しいなんて頼んだって言うんだ。」

 

「あら、私としては、気を利かせたつもりだったんだけど――――だってあなた、ポッターが代表選手に選ばれたのが気に入らないんでしょう?顔に書いてあるわよ。」

 

ダリアの言葉に、ウィーズリーの表情が凍り付いた。そんなに分かりやすい表情をしておいて、スリザリン生が気付かないとでも思っていたのだろうか。

 

――――いや、他のスリザリン生が気付くことが無くても、ダリアだけは絶対に何があっても気付くことが出来るはずだ。その感情はダリアが一番慣れ親しんできたものなのだ。

 

ウィーズリーをダリアの視界から隠すように、グレンジャーがダリアの前に躍り出た。これ以上、ダリアに余計な事を言わすまいという思惑が透けて見える。

 

「そんな事無いわ!ロンはそんな、そんなつもりじゃ――――少なくとも、ロンがその趣味の悪いバッジをつけることは絶対に無いわ!」

 

「だったらどうして、さっきポッターがドラコに絡まれてる時に見て見ぬふりをしていたのよ――――このバッジの『汚いぞ、ポッター』と同じことを、あいつが思ってたからなんじゃないの?」

 

「そ、それは……」

 

グレンジャーが必死で言い募るが、どこか空々しい雰囲気は否めない。当のウィーズリーは青い顔でダリアを睨みつけたまま、無言で口元を引き結んでいる。

ポッターはと言えば、ダリアの挑発に対して反論しようともしないウィーズリーに、はっきりとした怒りを向けていた。

 

ダリアの唐突ともいえる激高にあっけに取られていたスリザリン生達も、彼らの様子を見て、徐々に事態を飲み込んできたらしい。舌なめずりしながら、嬉々としてダリアの援護射撃に回った。

 

「そうだったのか、ウィーズリー。悪かったよ、君の気持ちに気付くことができなくってさ。君が物欲しげな目を向けてくるのはいつもの事だからね。」

 

「そういう事なら、このバッジをいくつか分けてあげてもよろしくってよ。同じ気持ちのお友達に配って差し上げたら?」

 

「アハハ、あんたが誰かに物をあげられる機会だなんて、めったにないんじゃない?よかったわね!」

 

確実にウィーズリーの心の柔らかい部分を狙ってえぐり取るような攻撃に、ウィーズリーの青白い顔が怒りでどんどん赤く燃え上がる。爆発寸前のウィーズリーに、ダリアは感情の赴くまま最後のとどめを刺した。

 

「――――可哀そうなウィーズリー。家では家族からの期待に応えられず、学校じゃいつも添え物扱い。じゃああんたの価値って一体どこにあるわけ?」

 

ダリアは一瞬、自分が誰に向かって何を話しているのか、分からなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダリアの言葉の直後、ウィーズリーとポッターが同時に呪文を放った。ダリアが怒りに任せて弾き返すと、呪文はあらぬ方向へ飛んでいき、偶然その場にいたゴイルとグレンジャーにあたってしまった。

 

スネイプ教授が丁度やってきて、呪いにあたった二人に医務室に行くよう指示を出し、ウィーズリー達に罰則を言い渡したようだが、未だ怒りが腹の底で渦巻いていたダリアは気付いてすらいなかった。

 

 

授業が全て終わった後、ウィーズリーは荒々しく鞄を肩にかけると、逃げるように地下牢を飛び出した。その様子を見て、パンジーがくすくすと意地悪く笑う。

 

「ふふん、いい気味。今日の嫌がらせは大成功だったわね!」

 

「まさか、ダリアがあーんなに嫌な事を言う子だったなんてね。もしディゴリーに知られちゃったらまずいんじゃなあい?」

 

ダフネが揶揄うように言うが、ダリアはむっつりしたまま鼻を鳴らした。

 

「別にいいよ。私があのウィーズリーと仲が悪いの、セドリックはもう知ってるもん。」

 

「結構前から思ってたけど、あんたって前からロン・ウィーズリーのこと、かなり嫌ってるわよね。2年の頃あいつがナメクジ吐き出してた時も大爆笑してたし。――――まああいつ、やたらと突っかかって来るから気持ちは分からなくもないけどさ。」

 

「――――まあね。」

 

ミリセントの言葉に、ダリアは曖昧に返事をした。やたらと突っかかってくるロン・ウィーズリーの態度が気に入らないのは本当だが、ダリアが彼を嫌う理由は別にある。

 

彼がセドリックの悪口を言うからでも、ペトロッキ家と同じ燃えるような赤毛をしているからでも無い。同じ条件に加え、更に過剰ないたずらを仕掛けてくる双子に対しても、これほどの怒りを抱いたことは無い。

 

何故自分がロン・ウィーズリーに対して憎しみと言ってもいい感情を持っているのか。ダリアは薄々自覚していた。

 

ダリアとロンの境遇は似ているのだ。ともに大家族の一番目立たない位置に生まれ、家の外では超えることができない壁のような存在がすぐ近くに居る。

似たようなコンプレックスを持つ二人だが、それでいて決定的な違いがあることに、ダリアは何となく気付いていた。

 

 

――――私は自分の価値を証明するために、死に物狂いで努力した。でもあいつは私と違って、努力した様子なんて一つもない。それなのにあいつはどうして……

 

 

しかしその違いは、ダリアにとって許容することができない現実でもあった。

 




ロン好きな方ごめんなさい、報いは受けさせます。



今までも何度か描写していますが、ダリアの姉弟設定を載せます。

上から順番に

ローザ   優しい 長女
コリンナ  ガリ勉 次女
ルチア   お転婆 三女
パオロ   待望の 長男   ダリア  パオロの双子の妹 四女
トニーノ  末っ子 次男

上に3人女の子が居る上に、同時に生まれたパオロは待望の長男。
末っ子ポジションも1年後トニーノが生まれたことで、すぐに失っているという設定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。