ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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得体のしれない少女

 すっかり寝入ってしまった小柄な少女を見て、セドリックはここ最近多くなったため息をついた。

 

 

 

 衝撃的な対面から数か月、セドリックはこの得体のしれない少女にこれでもかというほど振り回される毎日を送っていた。

 

 最初の印象は、驚くほど可愛らしい女の子だった。

 子供らしく柔らかそうな肩までの黒髪に、華奢な体。

 病的なほど白い肌に、小さなサクランボみたいな唇と零れ落ちそうな青い瞳がよく映えていた。

 

 まるで絵画から抜け出してきたような少女にセドリックは一瞬見蕩れたが、次の瞬間その感情は恐怖に変わった。

 目があった瞬間恐ろしい呪文をかけられ体の自由を奪われたのだ、当然である。

 

 どうやら少女はセドリックが帰宅する数日前にディゴリー家に潜り込み、両親に偽の記憶を植え付け、存在しない親戚に成りすましているらしかった。

 ディゴリー家だけでなく村の人たちにも呪文をかけて回っていたらしく、ダリアの存在はいつの間にか周知のものとなっていた。

 

 ただセドリックの存在は予想外だったようで、記憶を植え付ける呪文をかける代わりに、その日のうちに怪しげな呪文で言動を制限された。

 記憶を植え付ける呪文の作成は相当難しいようで、一朝一夕で作ることはできないものらしい。

 

 最初のうちは、両親の記憶を好き勝手に操作された怒りや、自分の言動を操られる恐怖でダリアの事を徹底的に避けていたが(両親は「久しぶりに会って照れてるんだろう。」とニコニコ笑っていた。自分の親ながら、こんな能天気で大丈夫なのだろうかと心配になった)、数日後、ダリアにホグワーツの入学許可証が届いたらそういうわけにもいかなくなった。

 

 

 怒涛の質問攻めが始まったのだ。

 

 

「制服ってどんなの?」

 

「寮って何?」

 

 という質問から、

 

「友達とはどんなこと話すの?」

 

「休みの日って何するの?」

 

 といったプライベートに至るまで、ありとあらゆることを答えが返ってくるまでしつこく聞かれた。

 最初のうちは無視をして呪文で強制的に吐かせられるといったことを繰り返していたが、数回繰り返すうちに諦めて素直に答えるようになった。

 

 答えているうちに、セドリックは「この子はあまり社会の事を知らないんだな。」ということがだんだんわかってきた。

 質問の内容は多岐に渡っていたものの、中には魔法界で生きていたら常識として知っている内容についてのものもあった。

 ますますこの子の正体が分からなくなった。

 

 

 それでも数か月一緒に暮らしているうちにダリアについて分かることは増えていった。

 

 まず、ホグワーツの入学許可証が届いたことから、11歳らしい。

 そのことを知った時には、まず「この生き物は本当に人間だったのか。」という衝撃も味わった。

 

 トゥリリという黒いペルシャ猫を飼っていて、どうやら会話することが出来るらしい。

 ダリアに直接確かめたわけでは無いが、どう考えてもそうとしか思えないような場面が何度もあった。

 トゥリリは見る限りただの黒猫なのだが、こちらも時々普通でないと感じることがある。

 

 父親がイタリア人で、ハーフらしい。

 これも彼女から直接聞いたわけではなく、母のサラから聞いたことだ。イタリアの姓を名乗っているので、おそらくそう記憶を植え付けたのだろう。

 

 杖を使わずに呪文を使うことが出来る。―――――これは本当に恐ろしいことだ、とセドリックは思っている。

 無杖呪文を使える魔法使いは、ほんの一握りの偉大な人物(それが善か悪かは別として)だけであるとされている。

 たった11歳の女の子がホイホイ杖も無しに呪文を行使するのは、異常事態なのだ。

 ダイアゴン横丁で必要品を買うときもわざわざ杖を買うのか疑問だったが、「それとこれとは話が別。」「呪文の種類が違う。」などよく分からないことを言っていた。

 何かたくらみがあるのだろうか。

 

 他にも性格はかなり高飛車で高慢ちきかつ小賢しく自己中心的だとか(両親の前ではかなり猫を被っている)、片付けが下手とか(汚いわけでは無いが、物があちこちに乱雑に置いてある。一度サラに言われて整理整頓を手伝うこともあった)、運動は苦手なようだとか(エイモスに誘われ渋々キャッチボールをしたことがあったが、すぐにへばっていた)、色々なことが分かってきたが、知れば知るほど、ダリアの正体が分からなくなる。

 

 

 絶対に普通の少女であるはずはないのに、人間らしい部分を見ると、揺らいでしまうのだ。

 

 

 今だってそうだ。セドリックの両親に抱きしめられて戸惑ったり、手紙を出すことを気まずそうにしてみたり、涎を垂らすほど眠りこけていたり(膝の上のトゥリリに涎がかかり、猫が迷惑そうに口元を拭っていた。やはりこの猫も普通ではない)。

 

 

 

 彼女は一体、何なのだろう。

 

 

 ぼんやり眺めているうちに、ふとコンパートメントの窓から知っている顔がのぞいているのに気が付いた。

 ダニエル・マクニッシュ、同じハッフルパフ寮の親しい友人で、クディッチでチェイサーをしているチームメイトだ。

 眠っている少女に気付いてか、ドアがそっと開けられた。

 

「よぉ、久しぶりだな、セド。元気だったか?」

 

「久しぶり、ダニー。まぁまぁかな。」

 

 色々あったしね。とは口にしなかった。

 おそらくダリアについての疑問と判断され、別の言葉になっているはずだ。

 当たり障りのない近況報告をして、ダニエルはダリアに目をやった。

 

「んで、こっちのおチビちゃんは知り合いか?見たところ新入生みたいだが。」

 

「ああ、この子は―――僕の従妹だよ。今年からホグワーツなんだ。」

 

「へえ!お前親戚居たんだな!へぇー!」

 

 ダリアが眠っているのをいいことに、ダニエルはしげしげと観察した後、「確かに、顔立ちとか似てる気もするな。特に鼻筋とか。」と勝手に納得した。

 セドリックは曖昧に笑い、ダリアも文句を言うかのように顔をしかめてもぞもぞと動いた。

 似ているはずはないのだが、親戚と聞いてそう錯覚したのだろうか。

 

「おっと起こしちまうかな。それじゃそろそろ退散するぜ、邪魔したな。」

 

「ああいや、こっちこそ悪いな、あんまり話できないで。」

 

「学校着いたら色々聞かせてくれよな。――――――同じ寮になれるといいな!」

 

 ダニエルはダリアを指しながら笑って出ていった。

 

「まぁ、ハッフルパフではないだろうからそれは無理だろうな。」とセドリックは思った。

 彼女の性格的に、スリザリンが一番合っている気がする。他の寮ではダリアのキツイ性格は絶対に浮いてしまうだろう。

 

 

 到着時刻が近づいてきたので、セドリックは色々考えるのをやめて、ダリアを起こしにかかった。

 

 

 

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