ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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行方

「――――ふぎゃ!!」

 

 ベッドの中でぐっすり眠っていたダリアは、何か大きなものを頭上に落とされた衝撃で、強制的に意識を覚醒させられた。

 

 突然の襲撃にわたわたしながら手当たり次第に魔法を飛ばすが、何の手ごたえも無い。

 幾分か冷静になったダリアは、自分の頭に何かが覆いかぶさっている事に気付いた。

 

「な、なに。誰が私にこんなひどい事を――――あ。」

 

 慌てて身を起こしてその鈍器を振り払ったダリアは、自分のひざ元に重たげに転がった一冊の本を見て、全てを理解した。膝に転がっていたのは、昨夜リドルに借りた本だった。

 

 記憶について書かれたその本は思いの外面白かった。そのため止め時が見つからず、ダリアはベッドに横になった後も頭上に本をフワフワと浮かべたまま読み進めていた。

 その記憶が朧気ながら残っている。どうやらこいつが、ダリアの額にたんこぶを作った犯人のようだ。

 

 いつの間にか寝落ちてしまっていたのだろう。ダリアの意識が消えた後もしばらくの間本は頭上でフワフワと浮いていたようだが、たった今浮遊の効果が切れ、ダリアのおでこから鼻の頭に強烈な一撃をお見舞いしたということか。時計の針は午前五時を指し示していた。

 

 ――――は、恥ずかしい……。

 

 自分の失敗で大きな声を出してしまったダリアは、赤面しながらそれをベッド横の本の山の一番てっぺんに置き、再びシーツの中に潜り込んだ。

 同室の誰もまだ起きていなくて本当によかった。一連の行動をダフネ辺りに目撃されていたら、きっと死ぬほど弄られていたに違いない。

 

 起床時刻にはまだ早い。夜が明けるまでもう一眠りしてしまおうとダリアは目を閉じて、暖を取ろうと腹のあたりをゴソゴソと探った。

 

「――――あれ?」

 

 トゥリリが居ない。いつもなら朝になる頃には、ダリアのベッドに帰ってきて寝こけているはずなのだが。

 

 寝ぼけて足元のシーツに潜り込んだのかとベッドの中をゴソゴソと探るが、気配は無い。布団を引っぺがして逆さに振ってみても、小さな黒い影が転がり落ちてくることは無かった。

 

 ダリアは布団を掴んだまま呆然と立ちつくした。自分の頭の奥からどんどん血が降りていくのを感じる。

 

 

 

 ――――トゥリリが、帰ってきていない。

 

 

 

 そう結論を出したダリアは、おもむろにベッドから飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 何の前触れも無く突如として暖かなシーツを引きはがされたダフネ、パンジー、ミリセントの3人は、目を白黒させながら体を起こした。

 

 魔法でそれなりに温められているとはいえ、真冬の寝室は凍えるような寒さだ。一体誰がこんな狼藉を働いたのかと辺りを睨みつけるが、犯人はすぐに見つかった。

 

 時刻は5時を少し回った程度の早朝である。いつもならこの時間には夢の中に居るはずの友人が、何かに取りつかれたかのように泣きながら寝室中のクローゼットをひっくり返している。

 その鬼気迫る様子に怒りの前に恐怖が先立った3人は、仲良く悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 3人はダリアに散らかした物を片付けさせると、ひとまず話を聞こうとベッドの上に座り込んだ。

 まだ夜明けには早いが、完全に目が覚めてしまっている。尋常でない友人の様子も気になったため、睡眠時間を削ることを決意したのだ。近頃のダリアが怒ったり泣いたり忙しいのは知っていたが、流石に夜中に起きだして騒ぎを起こすような事は今までに無いことだ。

 

 しかし、身構えながらダリアの要領を得ない訴えを聞いた3人は、その内容に思わずずっこけてしまった。

 

「トゥリリが居ないって――――あんたさぁ。たった一日帰ってこなかったくらいで、そんな大げさな……。」

 

 同室内で唯一の猫飼いであるミリセントが、脱力したように頬杖をついて言う。基本的に猫は気儘な生き物だ。思い通りに動いてくれることなどほとんどない。

 

「猫なんてそんなもんでしょ。私のミロなんて、3日も帰ってこないとかざらだし。」

 

「うちのトゥリリはミロみたいにノーテンキじゃないもん……今まで朝帰りしたことなんて一度も無いもん……。」

 

 ダリアはぐずぐず鼻を啜りながら、ミリセントの楽観的な言葉に抗議した。

 ネグリジェ姿のまま哀れっぽく泣きじゃくるダリアに、ミリセントは「あんたの猫変わってるもんね……」という言葉を無理やり飲み込んだ。

 

 同じく脱力したように話を聞いていたパンジーたちは、既にベッドにもう一度潜り込み始めていた。

 

「昨日の朝まではちゃんとベッドに居たんでしょ?夜の散歩が長引いてるだけなんじゃないかしら。最近、中庭で猫の鳴き声がすごいらしいし……。」

 

「そうよ。まだ夜も明けてないのに……心配かもしれないけど、もうちょっと待ってみたら?案外朝食の時間になったら、お腹が減ってひょっこり帰ってくるかもしれないわよ。」

 

 パンジーとダフネはそう言うと、頭までシーツを被って二度寝を決め込んでしまった。ダリアの気にしすぎだと思ったらしい。眠気もまたわき上がって来たのか、すぐに寝息を立て始めた。

 

「でも、でも……今まで一度も無かったのに……。」

 

 それでもダリアがぐずぐずしていると、ミリセントが頭を掻きながら困った様に口を開く。ダリアは心配しすぎだとは思うが、ペットを心配する気持ちはミリセントにも理解できた。

 

「まあ、心配する気持ちも分からないわけじゃないけどさ。どっかで塀から落ちて着地に失敗してる可能性も無くは無いし――――あ、ごめん今のナシ。これ、うちのミロならの話だから。」

 

 だばぁ、と涙を溢れさせたダリアを見て、ミリセントは慌てて前言を撤回した。今は余計な刺激を与えない方がいいかもしれない。

 

「あんたんとこのトゥリリは意外としっかりしてる(かもしれない)し、そんな事ないか。――――まぁ、ダフネの言うように朝までは様子見てなよ。それでも帰ってこないんなら、探すの手伝ってあげるからさ。」

 

「――――うん。」

 

 ようやく落ち着いてきたダリアは、ミリセントの慰めにひとまず納得した。

 確かに、取り乱し過ぎていたかもしれない。今から帰ってくる可能性は十分にあるし、外での用事が長引くことも無くは無いだろう。ここ最近、トゥリリの存在で心を落ち着かせることが多かったからか、ついつい過剰に反応してしまった。

 

 ――――もう一眠りして、まだ帰ってきていなかったら、探してみよう。

 

 ダリアはそう決めると、自分ももう一度ベッドに潜り込んだ。

 

 

 

 

 

 しかし、朝になってもトゥリリは戻ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリアはベッドの上で膝を抱えて座り込みながら、かつてバジリスクを探した時のように意識を飛ばして城中を探し回っていた。

 

 ふと物音が聞こえて目を開けると、リドルがドアの前に立っていた。淡い期待を胸に彼を見上げるが、リドルは硬い表情のまま首を横に振った。

 

「だめだね。僕も一通り猫が行きそうなところは探してみたけれど、どこにも居なかったよ。」

 

「――――そう。」

 

 ダリアは目に見えて落ち込んだ。

 トゥリリが姿を見せなくなってから、丸3日が過ぎていた。

 

 最初は楽観的だった友人達も、ここまで長引くと流石にただ事ではないと思ってくれたらしい。それぞれの人脈を頼って方々に聞き込みをしてくれているが、トゥリリの行方は依然として不明のままだ。

 

 三角座りの膝に顔を埋めているダリアを見ながら、リドルが静かに口を開いた。

 

「……君の方はどうだったんだい?何か手掛かりは見つかった?」

 

「――――ミリセントのミロが、トゥリリを最後に見た時の事を教えてくれたの。校長室に行くって言ってたらしくって。」

 

「校長室に?なんでまた……。」

 

 関連性の見えない場所にリドルが首を傾げる。しかし、トゥリリが校長室を目指していた理由はダリアにも分からなかった。

 ミロはニーズルの血を引いているわけでも無い、ごく普通の猫である。本猫のおっとりとした性格も相まって非常に忘れっぽいため、詳しい事情は既に記憶の彼方に消えてしまっていたのだ。

 

「――――分かんない。でも調べてみたら、確かに校長室まで行った痕跡が見つかったの。だけど……。」

 

「足取りはそこで消えた、と。」

 

 ダリアはコックリ頷いた。ミロからの情報提供を受けトゥリリの足取りを追ったはいいが、校長室に入った後の痕跡を見つけることが一切できなかったのだ。

 静かに話を聞いていたリドルが、おもむろに口を開いた。

 

「まあそういう状況なら、校長室で何かあったと考えるのが普通だよね。」

 

「――――。」

 

 ダリアは無言で、膝に埋めていた顔を上げた。

 

 トゥリリの足取りは中庭を出た後城の中に入り、軒を伝って校長室の天窓に続くもの一筋のみだった。校長室に入った形跡があり、出た痕跡だけが見つからないのならば、リドルのように考えるのが自然だろう。

 そして校長室の中には、トゥリリの気配を感じなかった。

 

「考えられる可能性としては、ダンブルドアが隠したか、それともどこか別の場所へ姿くらましで連れて行ったか……。」

 

「――――でも、なんのために?ただの猫にそこまでする?」

 

 トゥリリは校長室に侵入している所を見つかり、拘束されてしまったのではないか。ダリアもその可能性を一度は考えたが、あまりにも腑に落ちない。

 トゥリリは強い魔力を持つ神殿の猫の血を引いているが、はた目にはそれは分からない。首輪をしているペットを捕える必要など無いはずだ。

 

「ただの猫じゃないよ。」

 

 しかしリドルは、強い口調で断言した。ダリアが驚いてリドルの顔を見上げると、こちらを見つめるリドルの赤い目と視線がかち合う。

 

「ただの猫じゃない――――君の猫だ。」

 

「え……。」

 

 ダリアはリドルの目を見つめたまま、ぽかんと口をあけた。彼の言いたいことが、よく分からなかった。

 戸惑うダリアに言い聞かせるように、リドルが深刻な表情で言葉を紡ぎあげる。

 

「ダンブルドアは非常に用心深く、かつ疑り深い。一度危険視した存在に対しては、とことん追求の姿勢を弱めない。――――かつての僕はあいつの慎重さのせいで、継承者としての活動を断念せざるを得なかった。」

 

 それは60年前に彼が引き起こした、バジリスクを使ったマグル生まれの排除の事だろうか。

 

「それは――――ダンブルドアの警戒は正しかったんじゃないの?実際トムはヤバい奴だったんだし……。」

 

「――――言っておくが、君も他人事じゃ無いんだぞ。」

 

 何の気なしに口にしたダリアを、リドルがねめつけた。

 

「君はもう少し、自分が通常の枠から逸脱している自覚を持った方がいい。それだけではなく、君はスリザリン生だ。僕と同じく、十分警戒されるだけの素養はある。――――君は全く、自分が怪しまれているという自覚がないのかい?」

 

「え……。」

 

 戸惑いながらリドルの指摘を聞いていたダリアは、一通りの過去を振り返ってみた。

 

 ――――そういえば1年生の頃、ドラコを見つけた時も呼び出されていた気がする。

 

 ――――2年生の頃も防護呪文の事で校長室に呼び出されたし……あ!ホグワーツの護りの魔法をキャットが破ったせいで疑われたんだった!

 

 ――――3年生の時は……特には何も無かったけど。もしかしてヒッポグリフを逃がした事、疑われてる?

 

 ――――今年だって。フラーにあんなひどい呪いを仕掛けたのが、もしかしてバレちゃった?

 

「――――どうやら、身に覚えがあるみたいだね。」

 

 ダリアは青ざめた顔で頷いた。よくよく考えてみたら、疑われる要素が有り余っている。逆に、よくもまあ今まで気付かなかったものである。

 

「きっと、警戒している生徒のペットが校長室に侵入したから、念のために拘束しておこうとしたってところかな。」

 

「ど、どうしよう。私が不注意な行動とったせいで――――早く助けに行かないと!」

 

 勢いよく立ち上がるダリアを、リドルが制止した。

 

「今トゥリリを探し出して解放したとしても、ダンブルドアの警戒を後押ししてしまうだけだ。」

 

「でも、でも……!!」

 

 ダリアは焦りを消すことが出来なかった。元々短気ではあったのだが、このところの精神的負荷によりその傾向はより一層強まっていた。

 

 ――――ストッパーが無いというのも、こういう時は困りものだな……。

 

 良かれと思って計画した企みの思わぬ弊害に、リドルは眉を顰めながらダリアを宥めた。

 

「ダンブルドアは罪の無い小動物を問答無用で殺すような真似はしない。君が無害だという事が分かれば、きっと何食わぬ顔でトゥリリを解放するはずだ――――冷静に考えたら分かる事だろう?」

 

「――――。」

 

 感情が追い付かないだけで、リドルの言いたいことは十分理解できる。

 きっとダンブルドアはリスクの計算まできちんとできる人間だ。“疑い”だけの時点で、人質、いや猫質に手荒な真似をする人間ではない。しばらく彼を警戒して大人しくしていれば、きっとトゥリリは無事に帰ってくる。

 

 その微かな希望に、ダリアは縋り付くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ひとまず、上手くいったかな。

 

 ダリアが沈んだ顔で寝室を出て行ったのを確認したリドルは、満足気に息をついた。

 

 トゥリリを必要の部屋に放り込んだ後、リドルはその事が露見しないよう、その場から校長室までの道のりに残るトゥリリの痕跡を入念に消し去った。そうすることでダリアの警戒を自然にダンブルドアに向けることができると考えたからだ。

 

 案の定、余裕を失い視野が狭くなっているダリアは、リドルの誘導通りにダンブルドアに疑いを向けた。これでダリアももっと注意深く行動するようになるだろう。リドルは以前から、ダリアの警戒心の低さを危惧していた。

 自分の異能がばれたとしても、最終的に魔法でどうにかできるという前提が無意識下にあるからだろうか。ダリアは頻繁にこの世界に無い呪文を、大して隠すことなく使っていた。

 

 それに加えトゥリリの話していた内容から察するに、何故かダンブルドアはダリアの周囲に分霊箱の存在があるのではないかと疑っているらしい。事の露見を防ぐためにも、彼から距離を取っておく必要があった。

 

 

 あとはダリアが、いつまでダンブルドアを犯人だと思い込んでくれるかだ。

 しばらくの間はトゥリリを無事解放するために大人しくしているだろうが、きっとすぐに限界が来る。しびれを切らしたダリアが直接ダンブルドアの元へ乗り込んでしまえば、元の木阿弥だ。

 

 ――――それまでに完全に、ダリアをこちら側へ引き込んでおく必要がある。完全にダンブルドアと決裂してしまえば、トゥリリの行方は永遠に謎のままだ。

 

 自分らしくない賭け事のような企みだが、成功率はそれなりにあるとリドルは踏んでいた。

 というよりも、事を起こすならば今しかないと考えていた。

 

 

 

 ダリアの後見人でもあるかの大魔法使いが、この世界に干渉することが出来なくなっている今でしか。

 

 

 

 以前キャットから『クレストマンシーが最近忙しそうにしている』という情報を耳にして以来、リドルは後見人の動向についてそれとなく探っていた。

 彼と家人との会話を盗み聞きして判明したのは、何故かかの大魔法使いが、この世界Bに干渉できなくなっているというとんでもない事態だった。

 

 彼ほどの大魔法使いを拒絶する結界を張ることができる、彼と同等の大魔法使い。そんな人間が居るのか疑問に思ったが、世界の狭間から世界Bを注視すると、確かに強力な結界が存在するのが見て取れる。 リドルはその結界が、ノット邸に張られたものと酷似しているという事に気が付いた。

 

 

 それと同時に、誰がその結界を張ったのかという事も理解したのだ。

 

 

 ――――どういう仕組みで彼女があれほど強力な結界を作ることが出来たのかは分からない。だけど僕の予想が正しいのならば、僕の計画はきっと上手くいく。

 

 ――――いや、上手くいくことが約束されている!

 

 

 伝言役として各世界の各地を飛び回っているリドルは、様々な情報を統括して考えることができる立場にあった。ダリアの話、キャットの話、後見人から盗み聞いた話。

 

 それらを繋げ合わせて導き出した答えを前にして、リドルの目が興奮で輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食にはまだ早い大広間の一角、今日全ての授業を終えたダリアは、相変わらずぐずぐずと泣いていた。隣でセドリックが困った様な顔でダリアを慰めている。

 

「そうか、トゥリリはまだ見つかってないんだね……。」

 

「うん……。」

 

 ダリアの愛猫、トゥリリの姿が見えないという話は、居なくなった初日にダリア本人から聞かせれていた。

 彼女たちの付き合いは随分と長いらしい。旅行にも必ず連れて行き、なんならホグワーツでの授業中も鞄に潜ませて連れ歩くほど、片時も離れたことが無いと言わんばかりにべったりな関係だ。

 そんな存在と唐突に引き離されたダリアの嘆きようは、見ていて痛々しいほどだった。

 

 あの妙に知性を感じさせる猫に限って迷子になっている可能性は無いとは思うが、ここはホグワーツである。生徒や教師でさえ知らないような仕掛けが隠されている可能性が無いわけでは無い。

 セドリックもできる限りの伝手を使ってトゥリリの行方を捜してみたのだが、成果を得ることは出来なかった。

 

「やっぱり、どこかホグワーツの仕掛けに迷い込んでしまったのかも……だとすれば4階か7階――――あと8階辺りも怪しいな。どこから探す?」

 

「――――。」

 

 あの辺りは授業で使われる教室が無いため、人通りが少ない。未知の仕掛けがあるとしたら、きっとそのあたりだろうとセドリックは見当をつけた。

 しかしダリアは浮かない表情で俯いたままだった。

 

「ダリア?」

 

 顔を覗き込むと、ダリアの肩がびくりと跳ねる。気まずげに目を逸らしたと思ったら、ダリアは歯切れ悪く話し出した。

 

「あ――――あのね。実は、トゥリリが最後にどこに行ったか、分かったの。」

 

「えっ……。」

 

 予期していなかった言葉に、セドリックは目を見開いた。

 トゥリリの行方に関する手掛かりになるはずの情報だが、ダリアの顔色は優れない。あまり良くない場所だったのだろうか。

 

「――――場所がどこであれ、一歩前進じゃないか。早速そこに探しに行こう。」

 

「そう、したいんだけど……。」

 

 ダリアは一度、言葉を切って俯いた。

 

「無理なの。その……トゥリリ、校長室に入っちゃったみたいで。」

 

「校長室に?」

 

 あまり猫が行きたがる場所には思えず、セドリックは首を傾げた。

 

「なんでまた……。」

 

「わかんない。ミロ――――ミリセントの猫に聞いたの。調べてみたら、確かにトゥリリは校長室に行ってた。でも、出てきた形跡が無くって……。」

 

 それはつまり、トゥリリはまだ校長室に居るという事だ。勝手に入って調べることは出来そうにない。

 

「だったらダンブルドア先生に聞きに行こう。校長室の中に迷い込んだのなら、先生に調べて貰えば……。」

 

「無理なの!」

 

 ダリアは突然、わっと声を上げて泣き出した。

 セドリックはぎょっとして腰を上げ、慌ててハンカチを取り出す。わぁわぁ泣くダリアの顔面にそれを押し付けると、泣き声がくぐもったものに変わった。

 

「ぐるじい……。」

 

「ご、ごめん。とっさに……。ホラ、落ち着いて話してごらん。」

 

 泣き通しで真っ赤になっている頬をハンカチで拭ってやると、ダリアはポソポソと小さな声で話し始めた。

 

「わ、私が。私が疑われてるから、トゥリリが捕まったのかも、しれなくって……。」

 

「――――疑われてる?君が?」

 

 ダリアはこくりと頷いた。

 

「私が色々、普通じゃ無い事したから。だからトゥリリを人質にして――――」

 

 ――――そんな馬鹿な。

 

 セドリックは耳を疑った。ダリアが普通でないことは確かだが、それだけであのダンブルドアが何らかの疑いを向けるだろうか。それだけでなく、ペットの猫にまで手を出すなど考えられない。

 だが何故かダリアは自分がダンブルドアに疑われており、それが原因でトゥリリを拘束されたと信じ込んでいるらしかった。

 

「……ともかく、一度話を聞きに行こう。校長室にトゥリリが居るのも絶対じゃ無いんだ。ダンブルドア先生がトゥリリの事を知らない可能性だってあるし――――それに、もし本当に君がその……何をかは分からないけど疑われているなら、誤解を解かないと。」

 

 大体、その“疑い”というのが何に対するものなのかすら定かではないではないか。ダリアは色々と裏のある人間だとは思うが、決してダンブルドアが直々に警戒するような極悪人ではない。

 そう思って提案したセドリックの言葉に、やはりダリアは首を横に振った。

 

「ムリだよ……。」

 

「どうして――――」

 

「だって!」

 

 ダリアは一瞬声を荒げた後、再び顔を俯かせる。

 

 ――――だって私、本当はここに居ない人間だもん。

 

 今はまだ疑いは疑いでしかないかもしれない。だが実際、ダリアは色々な人の記憶を誤魔化してホグワーツに潜り込んでいる。一応隠蔽してはいるが、叩けば埃しか出ない身なのだ。

 

 疑いが確かなものになり、ダンブルドアがダリアの身元を根こそぎ調べてしまえば、それらの事まで明るみに出てしまうかもしれない。そうすれば、ダリアはここを出て行かざるを得なくなってしまう。

 いくらダリアでも、自分の身元調査に関わるかもしれない全ての人間の記憶を操作するのは、難しい事だった。

 

「私、ずっとここに居たい。お城なんて、帰りたくない……。」

 

「ダリア……。」

 

 セドリックは戸惑ったような表情で、俯くダリアを見つめた。

 ダリアが偉大な大魔法使いの元で修業を積んでいて、そこでの生活に耐え切れなくなって家出をしてきたという事は、2年前にエリックという少年から聞いて知っていた。

 

 そこでどんな生活を送っていたのかは分からない。しかし、ダリアの捻くれた高慢さと卑屈さを培った場所ならば、あまりのびのびと過ごすことが出来る環境では無かったのだろうという事が推測できる。

 あのエリックという少年が家出に協力すると申し出ていたのも、セドリックの予想を後押ししていた。

 

 ダリアはずっと、元の場所に連れ戻されることを恐れている。そのため、自身の経歴の偽りが露見することに対して過敏になっているのかもしれない。

 セドリックはため息をついた。

 

「分かった。とりあえず、ダンブルドア先生に相談するのは無しにしよう。本当にトゥリリが校長室に居るかどうかも分からないしね。」

 

「――――。」

 

「ホグワーツには、僕たちが知らないような仕掛けがたくさんあるんだ。隠し通路や、隠し部屋――――もしかしたら校長室に繋がっている道があって、そこから迷い込んでいる可能性だってある。そういう所を、探してみよう。――――それでいいね?」

 

「――――。」

 

 ダリアが俯いたまま、それでもこくりと頷いたのを見て、セドリックはほっと息をついた。ひとまずは落ち着いてくれたので、良しとしよう。

 実際、彼はダンブルドアがトゥリリを拘束しているという情報をあまり信じていなかった。他の場所を調べた方がずっと見つける可能性が高いと、セドリックは思っていた。

 

 

 

 

 

 

 トゥリリが姿を消してから3日が経つ。どこかに迷い込んでしまっているならば、出来るだけ早く見つけてやらなくてはならないだろう。

 早速探しに行こうと席を立ちかけた時、後ろから突然声を掛けられた。

 

「やあ、ディゴリー君。今大丈夫かい?」

 

「グラントさん?」

 

 セドリックの背後に立っていたのは、三校対抗試合の公式カメラマン、コンラッド・グラントだった。横には何故かフラー・デラクールも控えている。

 

「どうしたんですか?――――あれ、今日はカメラを持ってないんですね。」

 

「ああ。いや、今日は挨拶に来ただけだから。広報のために試合以外の時もホグワーツで取材する許可が魔法省から降りてね。――――ホグズミード村に長期で宿を取ったんだ。これからちょくちょく、学校で写真を撮らせてもらうことがあるかもしれない。」

 

「それは――――大変ですね。」

 

 セドリックは純粋に驚いた。第二の課題は来年の2月のはずで、まだまだ随分と時間がある。宿まで確保してしまっては、他の仕事にも支障が出るのではないだろうか。

 驚いた様子のセドリックを見て、コンラッドは苦笑した。

 

「三校対抗試合は、海外からも注目が集まる一大イベントだからね。魔法省も力を入れているんだよ――――おや?」

 

 コンラッドは、セドリックの横でじっと俯いているダリアに気が付いた。どう見ても様子がおかしい。

 視線に気が付いたセドリックが、スッとダリアの前に出る。

 

「すみません。飼い猫が行方不明になってしまって――――だいぶ参っているんです。」

 

「おや……。」

 

 コンラッドが意外な程深刻な顔で眉を顰めたので、セドリックは内心驚いた。ダリアと彼とはほとんど関わり合いが無かったはずだ。

 しかし、コンラッドは上辺だけではなく本気で心配しているように見える。

 

「それは――――とても心配だね。いつから姿が見えないんだい?」

 

「――――3日前から、ですけど。」

 

 ダリアがセドリックの後ろに隠れながら、おどおどと言った。コンラッドとは第一の課題の時に一度話したきりの間柄だ。何故自分に積極的に話しかけてくるのかが分からなかった。

 コンラッドはダリアの返答を聞いて、ますます眉を顰めた。

 

「3日か……出来るだけ早く見つけてあげなければならないね。――――僕も手伝うよ。君たち生徒は日中授業があるだろうから、その間に色々探してみよう。」

 

「それは――――ありがたいですけど。」

 

「いや、気にしないでくれ。僕も日中は暇だからね。――――それに、これでも探し物はとくいなんだ。」

 

 セドリックが戸惑いながら礼をすると、コンラッドは人当たりの良い笑みを浮かべて去って行った。

 彼の人間性もあるのだろう。親切心での申し出だとは思うのだが、やはり何か違和感は覚える。当のダリアも、セドリックの背後で訝し気にコンラッドを見ていた。

 

 

 

 後には、腰に手を当ててふんぞり返ったフラーが残されていた。

 

 

 

「はなーしは、終わりましたか?」

 

「あ、ああ。終わったけど……。」

 

「では、次はわたーしの話を、聞く番でーす。――――あの話は、どうなーりましたか?」

 

 ずい、と強引に距離を詰めてくるフラーに、ダリアの胸の奥で再び嫉妬の炎がチリチリ火花を散らす。

 

 ――――何、この女。課題が終わって今まで大人しくしてたのに、どうしてまた……。

 

 話しかけられたセドリックは、不思議そうな顔で首を傾げた。

 

「あの話――――ええと、何の事だっけ?」

 

「とぼけなーいでくださーい!課題が終わった後、わたーしはちゃんと、あなたに話まーした!」

 

 フラーは眉を吊り上げながら腕を組んだ。本物のヴィーラほどでは無いが、美人が怒ると凄みがある。

 

『あの話』とは一体何の事なのだろう。フラーはセドリックと、どんな話をしたのだろうか。不快に思いながら聞くダリアの耳に、とんでもない言葉が飛び込んできた。

 

 

「クリスマス・ダンスパーティーの、パートナーの話でーす!!」

 

「!?」

 

 ダリアはぎょっとして、フラーの美しい顔を見上げた。

 つまり、フラーがダンスパーティーのパートナーをセドリックに頼んだという事だろうか。

 

「ああ、あの話……。」

 

「!?」

 

 セドリックもそれを聞いて、何の話か思い出したらしい。ダリアはまたもやぎょっとして、目の前のセドリックの横顔を見上げた。

 

 ――――何それ、聞いてないけど!?

 

 第一の課題が終わってから今までセドリックと会う機会は何度もあった。しかし、彼からそんな話題が出た事は一度も無い。

 混乱するダリアを他所に、二人はどんどん会話を進めていく。

 

「この前も言ったと思うけど、難しいよ。他のパートナーを探した方がいいんじゃないのかな?」

 

 ――――いや、『難しい』じゃなくって、無理ってはっきり言ってよ!

 

「いいえ、私はあきらーめません。あなーたが頷くまで、何度も頼みまーす。」

 

 ――――何よそれ!そこは諦めなさいよ、このドロボウネコ!

 

「そうは言ってもなぁ。都合がつくかどうか……。」

 

 ――――都合なんかつかないわよ!はっきりすっぱり、ダンスパーティーは私と行くんだって断ってよ!

 

 ダリアの頭がせわしなく二人の間を行き来する中、会話はどんどん不穏な方向へ進んで行く。

 

「都合は関係ありませーん。何としても、予定は開けてもらいまーす!」

 

 ――――なんで、あんたは、そんなに偉そうなのよ!予定なんて絶対開けないからね!

 

「いや、だからそれは……。僕からそんな事、言えないよ。」

 

 ――――え、なに。何を言うっていうの……。

 

「あなーたが、言う必要はありませーん!私が言いまーす!」

 

 何となくセドリックが折れる雰囲気を感じ取ったダリアが冷や汗をかいていると、しびれを切らしたフラーが両手でバーンと机を叩きつけた。

 その勢いに、セドリックとダリアは思わず後ずさった。

 

「お、落ち着いてくれ、フラー。冷静になって考えてみてほしい。どう考えても、彼は――――」

 

「わたーしは、落ち着いて居まーす!」

 

 どう見ても落ち着いて居ない様子で、フラーが小鼻を膨らませて息巻いた。

 

「あなーたは、イエス、と言うだけでいいのでーす!後はわたーしがどうにかしまーす!」

 

「いや、でも迷惑をかけるのは……。」

 

「迷惑かどうかは、あなーたが決めることではあーりません!」

 

「はぁ…………。」

 

 しつこく食い下がるフラーに、セドリックが長い長いため息をついた。ダリアはまた泣きそうになりながら、セドリックの様子を伺った。

 

「――――わかった。君の熱意には負けたよ。」

 

「では……!」

 

 ――――うそ、待って、待って!ダメだよ、そんなの。絶対ダメ……!

 

 ――――セドリックは私と踊るんでしょ?約束したでしょ?踊るんだから……!

 

 心臓が異様な程大きな音でどくどく脈打っている。話の流れは、確実に良くない方向へ向かっていた。ダリアは祈るように目の前のセドリックを見つめていた。

 しかし、ダリアの願いも虚しく、セドリックは首を縦に振った。

 

「ああ。僕から彼に話を通して――――」

 

「ダメーーーーーーーーーー!!!!!」

 

「ダリア!?」

 

「きゃあ!?」

 

 ダリアはセドリックの言葉を聞き終わるまで我慢することが出来ず、泣きながらフラーの目の前へ飛び出した。そのまま彼女の胸辺りに飛びつき、ぽかすかと手当たり次第に拳を振り回す。

 

「わぁぁぁぁああん!!」

 

「アィー(痛い)!――――何をするの!」

 

「ダリア!止めるんだ!」

 

 実際フラーに当てることが出来た拳は、たった2、3発ほどだろう。ダリアはすぐさまセドリックに振り回していた両手を掴まれ、確保された。

 

「一体何があったんだ!どうして突然こんな――――」

 

「セドリックは私とダンスパーティーに行くんだから!あんたとなんて行かないんだから!ドロボウネコ!ナルシスト!ばか!薄着!」

 

 それでもじたばた暴れながら泣き喚くダリアに、フラーが銀髪を振り乱して怒りながら文句を言った。

 

「一体、何のはなーしですか!わたーしはこのいとと、パーティーにいきませーん!!」

 

「うそ!うそ!!だってさっき、セドリックにパートナーの事頼んでたもの!」

 

「わたーしがパートナーにするのは、わたーしをドラゴンから救ってくれた、あのいとでーす!!」

 

「――――え。」

 

 ダリアの動きがピタリと止まった。ようやく大人しくなったダリアに、物凄い力で暴れるダリアをどうにかして抑えつけようと頑張っていたセドリックは、ぐったりとして口を開いた。

 

「フラーは、第一の課題で助けてくれたチャーリーと踊りたいんだって。僕はチャーリーとの橋渡しを頼まれていたんだよ……。」

 

「その通りでーす!!」

 

 フラーはプリプリ怒りながら、乱れた髪を撫でつけている。セドリックは申し訳なさそうに、彼女に謝った。

 

「ダリアがごめん。悪気は――――あるか、これは。ともかく、ごめん。」

 

「ほんとでーす!――――絶対にあのいとに話を付けてもらわなければ、気が済みませーん!」

 

「――――頑張ってみるよ……。」

 

 フラーはダリアを一睨みすると、銀髪を翻してカツカツと去って行った。真実を知ったダリアは、連行される宇宙人のような姿のまま放心していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セドリックはフラーの姿が見えなくなったのを確認するともう一度大きなため息をつき、そのままダリアを引きずって無理やり椅子に座らせる。自分も目の前に座ると、腕を組んで低い声で問いかけた。

 

「――――ダリア、どうしてあんなことをしたんだい?」

 

 明らかに怒りを含んだ声色に、ダリアはセドリックの顔を直視することが出来ず、いじけたように床のタイルを見つめていた。

 しかし、頭の両側から手を添えられ、強引に顔を上げさせられる。

 

「こういう話をしている時は、ちゃんと相手の目を見るんだ。」

 

「う……。」

 

 案の定、セドリックは怒っていた。ここまで怒らせるのは、久しぶりかもしれない。

 しかし、それも当然だろうか。冷静になった今振り返ってみれば、ダリアの先ほどの行動は理不尽な暴力でしかない。セドリックがそういうものを嫌っているという事を、ダリアは重々承知していた。

 

 承知してはいるのだが、ダリアは何故か反抗的な気分を抑えることが出来ず、目だけを逸らしてそっぽを向いた。その様子を見て、セドリックが苛立った声を上げた。

 

「ダリア。あのさぁ……」

 

「だって――――セドリックがあいつと楽しそうにしゃべってるから。」

 

「――――楽しそうだったかなぁ。」

 

「楽しそうだった!私を放っておいて、二人で私の知らない話で盛り上がってた!」

 

 実際今日の会話はあまり楽しそうな会話では無かったのだが、それでもしばらくの間ダリアが蚊帳の外に居たのは事実だ。ダリアは腹立ち紛れに暴れてセドリックの手から逃れようとしたが、固定された頭はびくともしない。

 

 真っ赤な顔でいきんで自分の拘束を逃れようとするダリアを見ながら、セドリックは顔を顰めた。

 今回のダリアは妙に強情だ。最近はすんなり反省することが多かったのだが、どうしたのだろう。

 

「――――ダリアを放っておいたのは、悪かったよ。でも、それが暴力をふるっていい理由にはならないだろう?」

 

「……知らない。」

 

「知らない事じゃないだろ。自分が悪い事をしたと思ってるから、目を合わせられないんじゃないのか?――――あとで一緒に謝りに行こうよ。」

 

「……嫌だ。絶対嫌だ。」

 

 セドリックに説教される内に、ダリアの中でどうして自分だけが責められなければならないのか、という不満が徐々に蓄積されていく。

 

 ――――だってあの女、私の事をまるっきり無視して話してた。私だけが悪いわけじゃない。

 

 ――――それに、勘違いするような話をしてたセドリック達も悪いわ。あんな会話聞いたら、相手をパートナーに誘ってるとしか思えないじゃない!

 

 思い返せば思い返すほど、イライラが募っていく。完全に不貞腐れてしまっているダリアを見て、セドリックも少し意固地になってきた。

 

「――――今回の事だけじゃない。前から思っていたけど、どうしてフラーに対して当たりがきついんだ?正直、気の合うタイプではないとは思うけど、いつも喧嘩腰じゃないか。」

 

「どうしてぇ?そんなの分かり切った事だわ!」

 

「分からないから聞いてるんだろ。フラーの何が気に入らないんだ?高慢に見えるかもしれないけど、話してみればいい子だって分かるよ。」

 

「……話さない!絶対話さないから!セドリックもあの子と話しちゃダメ!!」

 

「友人なんだから、話さないわけにもいかないじゃないか!一体どうして、そこまでフラーの事を嫌ってるんだ?――――納得いく理由を言わない限り、絶対に帰さないからな!」

 

「――――どうして、どうして分かんないのよ!!」

 

 

 際限なくたまる不満が、ついに爆発した。

 

 

 

「そんなの――――――――セドリックの事が大好きだからに決まってるでしょ!?」

 

 

 

 一瞬、大広間が水を打った様に静まり返った気がした。

 実際そうだったのだろう。ダリアがはっと気が付くと、夕食を食べにちらほら大広間にやってきていた生徒達が、びっくりしたような顔でこちらに注目している。

 

 ――――あれ。私、今、何を……。

 

 何かとんでもない事を口走ってしまったような気がする。

 おそるおそる目の前を見上げると、セドリックが目を見開いた状態で固まっている。

 

 

 

 事態を把握したダリアは、目の前が真っ白になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやって帰ってきたのだろう。気付くとダリアは寝室のベッドの上にあおむけに寝転がっていた。

 

「あら。夕食に姿を見せないと思ったら、帰ってたのね。トゥリリは見つかった――――ちょっと、どうしたのよ。その顔色。」

 

「――――ほんとだ。赤と青が入り混じってなんか紫になってるわよ。」

 

「また何かあったわけ?」

 

 どれほどの間転がっていたのだろう。夕食帰りらしき友人たちが、次々と寝室へ戻ってくる。呆然と天井を見つめるダリアを見て慌てて近寄ってきた。

 ダリアはかすれた声で、途切れ途切れに呟いた。

 

「――――告白、してしまった。」

 

「え?なんですって?」

 

 

 

 

 

「……セドリックに、大好きだって言っちゃったのよ!本当はもっと、断りようが無い状況まで追い込んでからする予定だったのに、こんな、こんな――――どうしよう……。」

 

 最近こんなことばかりだ。色々なことがありすぎて、ダリアはもう頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 

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