いよいよホグズミード駅に到着した時には、すでにあたりは暗くなっていた。
ここからは上級生と新一年生は別行動らしい。セドリックが「ほかの生徒に呪いをかけないように。」と何度も念を押していたが、もうすでに眠たくなっていたダリアは話半分に聞いていた。
セドリックは最後まで心配そうにしながら、友人らしき男子生徒に連れられて去って行った。
ダリアに話しかけるセドリックを遠巻きにしてキャアキャア言っていた一年生の女の子のうち一人が、興奮気味にダリアに話しかけた。
「ねぇねぇ、今の素敵な人!あなたのお兄さん?」
「あー、うん、従兄。」
「わぁ、いいなぁ!あんなに素敵な親戚のお兄さんが居て、羨ましい!」
そのままダリアは女の子に囲まれ、次々と「寮はどこなの?」「何年生?」「彼女居るの?」とセドリックに関する質問をマシンガンのように投げかけてきたが、おざなりに答えていたダリアがついに歩いたまま船をこぎだしたのを見て、彼女たちは呆れた様子で離れていった。
ふっと意識が浮き上がると、いつの間にかボートに乗っていたようだ。
ハグリッドが立ったまま眠るダリアの首根っこを掴んでボートに放り投げてくれたらしい。
新入生たちが歓声を上げて指さす方を見ると、そこには荘厳な城が見えてきていた。―――ホグワーツ城だ。
目を輝かして城を見つめる他の新入生たちを見ていると、何となく元の世界で初めて城を訪れた時の気持ちを思い出して、ダリアは苦い表情になった。
城につくと、今度は厳格な表情の魔女が、ハグリッドに代わり一年生たちを誘導した。
明るい城内に先ほどよりは意識を覚醒させたダリアは、セドリックから聞き出したしゃべる絵画や、動く階段を興味深く観察した。
―――――しゃべる絵画は、自分でも作ってみたい。動く階段はなんで存在するのか意味が分からないけど。
城内を進んでいるうちに、いよいよ組み分けの儀式が行われる大広間の前に到着した。
他の一年生は、自分がどの寮になるか口々に話している。
そのうち数人の男の子が寮について口論を始め、厳格な魔女―――マクゴナガル教授というらしい―――に注意されていた。
ダリアはそれをぼんやり見ながら、セドリックから寮について聞き出した時のことを思い出していた。
それぞれの寮の特徴について聞いたところ、自分に一番合った寮はスリザリンだろうな、と思っていたので(セドリックも「そうに違いない。」という表情をしていた。)、ダリアは組み分けに関してはそんなに興味を持っていなかった。
新入生はまだそこかしこでおしゃべりしていたが、マクゴナガル教授が「静粛に。」と言うと水を打ったように静まり返った。大広間の大きな扉がゆっくりと開いた。
大広間の中は、「大」がつくだけあってとても広かった。
ゆうに300人は座れるであろう長テーブルが4つあり、そこにそれぞれの寮生が座り、一年生に向かって拍手をしている。
ふとダリアが視線を感じて顔を向けると、案の定セドリックが不安そうな(もしくは疑わし気な)表情で見つめていた。
あんまりにも気負いすぎだと思ったダリアがピースサインを送ると、セドリックはもっと不安げな顔になったので、ダリアはむっとした。
一年生が全員入場すると、教員机の前に、立派な椅子とボロボロの三角帽子が用意された。
あれが組み分け帽子だろう。
縫い目の部分がもぞもぞと動き出し、事前に聞いていた通りに歌いだした。
ダリアはそれを聞きながら「ド下手ね。不合格。」と評価した。
歌を歌って呪文を紡ぐ一族の出身なので、歌唱には厳しいのだ。
歌が終わると、さっそく組み分けが始まった。
アルファベットが一番早い金髪の女の子がハッフルパフに組み分けされると、次々と一年生の名前が呼ばれ、そしてそれぞれのテーブルに分かれていった。
中にはしばらく時間がかかる生徒もいたが、大抵の場合すぐに決まっていたので、ダリアの順番はすぐにやってきた。
「モンターナ・ダリア!!」
名前を呼ばれたダリアはすたすたと前に出て、椅子にストンと座った。
教員により帽子をかぶせられると、ダリアの頭のサイズよりだいぶ大きめの帽子は、すっかり視界を覆ってしまった。
『フーム、これはこれは!なんと珍しい!君は別の世界から来たお嬢さんだね?』
「知ってるの?」
『知っていたわけではない。今知ったのだ。私は被った者の心を映し出す存在だからね。君が被ったことで生まれた今だけの知性なのだよ。』
「なるほど。そういう魔法なのね、よくできてるわ。」
ダリアは感心して言った。
自立思考する生き物を魔法で作るのは簡単だが、脳みその無い道具に思考させ、しかもそれを何万回と繰り返すことを可能とするには、相当複雑な呪文が必要に違いない。
「それで、私の寮はどこになるわけ?」
『ふむ、君の寮はここしかないだろう―――――――君によき友との出会いがあることを祈って。』
『スリザリン!!!!』
予想通りの組み分けだったが、最後よく分からないことを言われた気がした。
眠たくてノロノロとスリザリンのテーブルへ向かっていると、次に組み分けされた男子生徒がもう後ろにきていた。
「早く座ってくれよ、もう腹がペコペコなんだ。」
「それは失礼。」
急かされたダリアはムッとしながらも、手ごろな席に座った。
偶然隣も空いていたので、ダリアを急かした男の子もそのまま隣に座って早速食事に手を付け始めた。
その食べっぷりを見て、そういえば自分も腹が減っていることに気付いたダリアが好物を探していると、近くの上級生(おそらく5年生くらいだろう)がこのあたりの一年生に向けて話しかけてきた。
「やぁ、スリザリンへようこそ。これから仲良くしてほしい。まずはお互い自己紹介といこうじゃないか。」
組み分けで名前を呼ばれたのに、今更自己紹介が必要なのか、と思ったが、どうやら別の意図があったらしい。
スリザリンの自己紹介は、名前の前に肩書が付くようだ。
ダリアの直前に組み分けされた(しかも帽子を被るか被らないかの時点で組み分けされていた)男の子は、
「聖28一族の、ドラコ・マルフォイだ。」
と自信たっぷりに自己紹介していた。
スリザリン特有の選民思想を下敷きにした、カースト確認の場であるらしい。
本来ならダリアも「カプローナで一番古くから続く呪文作りの名門、モンターナ家のダリア・モンターナよ!」などと宣言したいものだが、カプローナの存在しないこの世界で言ってもしょうがないので、無難に
「両親は魔法使い。ダリア・モンターナ。よろしく。」
と答えておいた。
しかし、話には聞いていたがすごい寮だ。マグル出身と答えようものなら途端にゴミを見るかのような目で見られ、「お前はあっちだ。」と長机の隅っこに追いやられる。
追いやられた一帯に座っている生徒たちは、スリザリンにおける稀有なマグル出身者なのだろう。全員が例外なく沈んだ表情をしている。
――――――学校側がどうにかすべきなのではなかろうか。
ちらりと教職員机を見たが、誰も気にしていないようだった。
これがホグワーツの伝統ということなのだろうか。
どちらにせよ、ダリアの「両親が魔法使い」という答えはスリザリンでは受け入れられるラインに入っていたらしい。近くの上級生と握手をして、ようやく食事に手を付けることが出来た。
途中、「魔法界の英雄」だというハリー・ポッターの組み分けがあり、ハリーが選ばれたグリフィンドールが大歓声を上げ、スリザリンのテーブルが面白くなさそうに文句を言う場面もあったが、ダリアは全く気にせず大好物のラムチョップを頬張っていた。
宴が終わると最後に校歌をそれぞれ好きなように歌い(ダリアは「なんて無茶苦茶なの!?」とキレていた。歌には厳しいのだ。スリザリン生の中には歌っていない生徒も多かった)、それぞれの寮へと案内されていった。
セドリックの視線を感じたが、満腹になりとてつもなく眠かったダリアはそれを無視した。
スリザリンの寮は、地下牢にあった。
厳かな雰囲気の談話室だが、照明は緑で、あまり目には良さそうではない。
どうして白い明りにしなかったのだろう。
『知らないの?緑って目に優しい色なんだよ。』
荷物と一緒に寮へ送られていたトゥリリが、知ったかぶって言ったが、あまりそうは思えなかった。
――――――談話室で過ごすことは、これから先あんまりないんじゃないかな。
そこから更に新入生は数人ずつのグループに分かれ、それぞれの寝室へと別れていった。
ダリアの部屋は4人部屋だった。
先ほどの血筋申告自己紹介の場で、「聖28一族」と名乗った女子生徒達ばかりのグループだ。というか、「聖28一族」とやら出身女子生徒は、同学年にはこの3人しか居なかったのだけれども。
部屋割に作為的なものを感じたが、疲れ切った彼女たちは挨拶もそこそこに、ベッドの中に潜り込んでホグワーツ最初の一日を終えた。