先何話かは原作とあんま関係ない話が続きます。
少年、ベル・クラネルはデマーシアという国で生まれ育った。
そこに住む人々は皆一様に誇り高く、規律正しく他人を思いやる気高い精神を持っている。
彼もまた、そんな気高き魂を持つ一族の末裔なのである。
しかし、彼にはほかのデマ―シア国民とは少しだけ違う部分がある。
一般的なデマ―シアの国民たちは、デマ―シアの更なる繁栄を望み、自らの才能を惜しむことなく使い、行商や工業に勤しんでいる。
両親もそれに倣い、騎士としてデマ―シアのある名門一家に仕えていたが、ベルが物心付く前にモンスターとの戦闘で命を落としている。
そして、一人残され孤独の身となったベルはまだ幼く、両親が仕えていた名門一家も物心もついていない子供を引き取るにも、むやみやたらに一族の血を薄めることをよしとしなかったその名門の頭首は、最低限の援助を続けながらも、知り合いの孤児院にベルを預けることにした。
それからしばらくして、異邦の大陸から移住してきたと言う老人に引き取られたベルは、その老人から様々な事を教わった。
モンスターについての事や、オラリオと言う都市の事、そして『男のロマン』についてなど。
『男のロマン』については、いささかデマ―シアの国民性からかけ離れた内容だったため、最初は懐疑的だったが、饒舌にそのロマンとやらを語る義理の祖父を見るうちに、次第にベルはその内容に感化されていった。
そして、一度その祖父の話に興味を持ったベルは、祖父からさらに様々なことを聞いた。一般教養から様々な土地の文化まで、子供特有の柔軟な頭は次々とそれらを吸収し、何時しかこの手で、この目でその異国の文化に触れたいと思うようになった。
幸せの中、順風満帆に幼少期を過ごしたベル。しかし、その幸せも長く続くことはなかった。
ある時、祖父が姿をくらましたのだ。
唯一の家族で会った祖父の失踪、それは少年を両親を失った時以上に孤独にした。
その孤独はたやすく埋められることはなく、唯一縁のある名門、両親の仕えていたクラウンガード家も、祖父に引き取られてからは援助こそしてくれたものの、それだけの関係である以上、ベルを引き取るという事はしなかった。
それからと言う物、仕方なくベルはまた孤児院に戻ることになった。
周囲の人たちは、出来る限りの支援をしてくれてはいたが、誰もが経済的な余裕を持っているわけではなく、ベルを引き取るという事はしてくれなかったのだ。だが、ベルもそれが仕方のないことだと理解していた。
だが、やはりその理不尽な孤独に耐えられるほど、幼かったベルは成熟してはいなかった。
その孤独は、何時しか疑問へと変わる。
何故、これほど慈愛に溢れた国で自分のような存在が生まれるのか、何故、自分はこれほどまでに慈悲を受けてきたにもかかわらず、何もできずにいるのだろう、と。
しかし、幾何かの時が経ち、未だ心の中にその気持ちが残っていた彼は、その疑問を晴らすため、自らの祖父の夢を『間違いではない』と証明するため、弱冠十四歳にして彼は旅に出ることにした。
目を閉じ、剣を手に据えるその男は肩を落とし、軽く息を吐く。
その刃の先には、訓練用と思わしき藁の人形が経っていた。
爽やかな風が、地面に生えた草木を揺らす。そしてその風が男のほほをなでる。それを皮切りに、男は目を開いた。
剣を天高く振り上げ、男は雄たけびを上げる。照り付ける太陽の光を浴びて輝いたその剣は、まるで何かの加護を受けているかのように美しかった。
「うおおおお!!デマ―シアァァアア!」
瞬間、剣の切っ先が空中にその残像だけを残し消える。
木々を揺らすほどの雄たけびを上げながら、男が武骨な大剣を片手で振り下ろす。
丸太に藁をまいただけのその人形は、見た目こそ貧弱なかかしのようにも見えるが、その基礎には丈夫な丸太が使われている為頑丈、並大抵の件の一振りでは傷がつく程度だろう。
だが、その男はたった一撃、その大剣の一振りで、その人形を縦に切り裂いて見せた。
ゴウ、と衝撃波と違えるほどの風が舞う。
切り裂かれた藁人形は一瞬の静止の後、真っ二つに割れた木の杭と藁の束に分解した。
男が息をついた後、一人の少年が大男のそばに寄って来た。
「すごいですガレン隊長!」
サラサラとした白髪に、透き通るような美しい赤色の瞳を持つ少年。
背は伸び、その四肢もある程度逞しくなってこそいるが、孤独にまみれた悲運の道をたどって来た少年『ベル・クラネル』その人であった。
彼は祖父の失踪後、デマ―シア国営の教会に孤児として引き取られたが、その後、唯一の家族で会った祖父から託された『ある夢』をかなえるために手始めにデマ―シアの軍隊に若くして入隊したのだ。
ふぅ、と一息ついたガレンはその自分を呼ぶ声に気が付き、その声の主であるベルの居る方へ目を向けた。
笑顔で手を振り寄ってくる彼にガレンは笑顔で答える。
「おお、ベルか!久しぶりだな、出港は明日だったか?」
久し振り、と言うのも彼は一週間以上前に軍の弊社から立ち退き、軍を抜けていたからである。
もともと彼が軍に入った理由は、少しでも自分の生まれた祖国、デマ―シアのために勤めたかったのと、その後旅に出るための資金を貯めるためだったのだ。
彼が十歳の時に異例の入隊を果たしてからすでに四年と言う歳月が経ち、ベルは軍からの給金で目標最低限の資金が集まったこともあって、彼は早々に軍を脱退し、それからは船出を待つ身となったのだ。
そして旅でを明日に控えたベルは、今までお世話になって来た人々に挨拶をしようとデマ―シアを回っているのである。
そして、彼が軍に馴染めるようになったきっかけでもあり、ある程度野良のモンスターとも戦えるよう鍛えてくれた恩師でもあるガレンに一番初めに会いに来たのだ。
ガレンは、ベルの両親が仕えて来た『クラウンガード家』の次期党首であり。その縁もあり、軍に若くして入ったベルに世話を焼いてくれた人物だ。そして、デマ―シアの騎士として勤めることを止め、旅に出ることを選んだベルの旅路を後押ししてくれたよき理解者でもある。
「はい!僕の夢だった旅にようやく出られるんです!昨日から興奮しっぱなしですよ!」
「それはよかったな。まだ戦士としては未熟だが、その旅がお前を強くしてくれることを願っているぞ」
まるで、年の離れた弟を見るように、優しい目でベルを見降ろすガレン。剣の握りすぎで逞しくなったその手は、無意識のうちにベルの頭を包み込んでいた。要するに撫でているのである、不器用ではあるが優しいその手で。
「隊長・・!」
「おっとすまんな、嫌だったか?」
涙のにじんだ瞳でガレンを見上げながら、ベルは勢いよく首を横に振った。
「ハハハ!それはよかった」
豪快に笑いながら、戸惑うように宙に泳いでいた手を再びベルの頭にのせる。
くしゃくしゃと頭髪を乱し、にやけるように笑みを浮かべるベル。
豪快な大男が、きゃしゃな少年の頭をなでる、外見こそ親子の様にしか見えなかったが、そこには、兄弟のような確かな絆が存在していた。
「ところで、挨拶周りでここに来たんだろう?ほかの奴らには会いに行かないのか?」
「はい!今からクインさんに会いに行くところです!」
クインはガレンと同じくベルの上司で、相棒と連携しボウガンで敵をしとめる狩人のような女騎士だ。
その相棒との連携で勇敢に敵陣の奥地へ攻め込むさまは『デマ―シアの両翼』と称えられるほど。
彼女も任務から帰って来ては子供の身体ではつらいであろう訓練に苦戦するベルに様々な稽古をつけてくれた恩師の一人でもある。
「クインか、奴は今休暇を取っているから、大方町で相棒のヴァロールと散歩でもしているだろう。
ああ、それと、もし会う事があったら妹のラクサーナにも挨拶をしていってくれないか?」
「ラックスさんですか?」
「ああ、ラクサーナは帰郷するたびお前の事ばかり聞いて来るんだ。お前の事はまるで弟のように思っていたからな」
ラクサーナ・クラウンガード、通称ラックスはその名の通りガレンの妹であり、今現在はガレンと同じく軍に所属しているが、とある事情により今は巨大な壁に包まれるこのデマ―シアの壁外で諜報活動にいそしんでいる。
そんな彼女は、壁外で起きた様々な出来事をベルに対し雄弁に語り、ベルに旅立ちの決心をさせた人物の一人でもある。
そんな人物にベルが挨拶をしに行かないわけもなく、もともと会いに行くのは決めていたが「はい!」とだけ元気よく言い残し「ではまた」と元気な声で別れを告げてベルはその場を去ってゆく。
あっさりとした別れだが、長い付き合いである二人にとって、別れに必要なのは言葉ではなく、その絆を確かめ合うほんの少しの時間で十分だったのだろう。
軽快に石畳を駆けていくベルの後姿をみながら、ガレンは再び剣を握り、独り言のようにつぶやいた。
「彼の旅路に、デマ―シアの加護があらん事を」
ベルは次なる恩人のもとを訪れようと町中をさっそうと駆ける。
次に会いに行く人物は先程ガレンにも言った通りクインなのだが、彼女が軍で担う仕事は主に国外でのことが主なので彼女が街に降りることはなかなかない。それだけに、彼女が街にいることが確かでも、彼女がどこにいるかなどは想像もつかない。
そんな風に、恩人を探すのに悪戦苦闘していたベル。猛獣数分もは全力疾走をしてさすがに疲れ、小道に差し掛かったころ、一息つこうと道の端の壁にもたれかかる。
「はあ、どうしよう。今日中に皆さんとは話しておきたいのに・・」
あいさつ回りに思わぬ原因で悪戦苦闘し、ベルはため息をつきつつ空を見上げる。
雲が少なく、青々とした空を見るベルは、ふと思う。
この何処を切り取っても絵画のように美しい風景とも明日でお別れ、旅に出ることは何年も胸の内に秘めていた願いだったため当然うれしいし、むしろ早く新天地に赴きたいとすら思っている。
しかし新たなる出会いは、時に悲しい別れを意味する。
どんな悲劇があれ、どんな思い出があれ、この生まれ育った場所を離れると言うのはやはり寂しいものだ。
「よしっ・・」
ベルは、そんな暗い考えを振り切るように顔を両手で勢い良く叩く。
分かれとはいつだってさみしいものだ、だからこそやり残すことがないよう、恩人たちにはちゃんと礼を言わねば。
つかの間の自問自答も終わり、ベルは壁にもたれかかっていたその姿勢を戻す。
すると突然、さんさんと輝いていた太陽が急に視界に現れた何かによって遮られた。
「どへぶっ!」
かと思えば、ベルの頭部に衝撃が走り、その突然の出来事にベルはバランスを崩し、転倒してしまう。
目をあけられても、何かにさえぎられたままで視界は暗闇のまま。おそらく急に飛び出してきた何かが自分の顔に飛びつき、そのまま乗っかっているのだろうと考えたベルは、自分の顔面に乗っているであろうそれを量の手で持ち上げる。
すると見えたのは、美しい青色の毛並みをした気品あふれる鳥だった。
ベルはこの鳥に見覚えがあった。何故ならばこの四年間、ともすればそれ以前からたびたび目にすることのあったあの『デマ―シアの両翼』クインの相棒である鷹『ヴァロール』だった。
「ヴァロールさん!?」
ベルは以前から鷹であるヴァロールをさん付けで読んでいる。
と言うのも、初めてベルとヴァロールが出会った時、ベルが小柄だったこともあってか兎、つまりは狩りの対象と勘違いされ、訓練でへとへとだったベルの事を軽くついばんできたのだ。
それからと言う物、その出来事が軽いトラウマになり、ベルはヴァロールに対していつも年長者をいたわるように接してきたのだ。
「ってことは・・」
そう、先程紹介したように、ヴァロールは『デマ―シアの両翼』クインの相棒である。そして彼らは鳥と人間でありながら、まるで親兄弟のように仲が良く、二人が離れるのは狩りで獲物に襲い掛かるときか気に入った人物にヴァロールが寄っていくかのどちらかなのだ。(まあベルがそのどちらに該当するかは分からないが)
つまりは、ヴァロールがいるという事は、当然相棒のクインも近くにいるという事。
そこまでベルが思考を巡らせた時、少し遠くから女性の声が聞こえて来る。
「おーい、ヴァロール!どうしたんだ急に!」
その女性こそベルが探し求めていた女性、クインであった。
「クインさん!」
「ベルじゃないか、ひさしぶりだな!」
ゴールデンウィークで何個か同時進行でやりながら投稿した話なので変な部分もあるかもしれません、もし気付かれた方がいたらご指摘の程、お願いします。