Bitter Sweet 〜消えた記憶の行方〜   作:椿姫

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最後に更新したのは5月です…
失踪疑惑なんてもんじゃないものがついてますががんばります。


第11話 正義と秩序の女神

 

〜町外れの廃墟〜

 

 

ここは、花咲川や羽丘から離れたところにある、もう使われなくなった鉄工所。いや、もうそれは何年も前の話で今は廃墟となっている。近辺では幽霊がいるのではないか、呻き声やら何やらが聞こえてくるだのなんだの噂が立ち、誰も近づく気配がない。それどころか人は居ないはずなのだが、

 

「…閃宮崎豪傑とその妻と被害者の妹、それに八代空牙検事と津上秋人捜査官も殺した。ここまでは計画通りだ」

 

そこには男が1人、テーブルに座って呟いていた。男はダンボール箱の中から、この計画の為に貯め込み、購入していた食料を取り出し口に放り込む。

 

「いくら警察でもこの離れの廃墟までは目が行き届くわけがない。なにせ警察が立入禁止区域に指定してあるわけだからね。ははは」

 

男はそう言いながら、次のターゲットに狙いを定め、計画を実行しようとしていた。テーブルに置いてある血塗られたナイフでターゲットの写真に勢いよく突き刺す。その突き刺した写真には、菊乃と同じクラスの都築涼平が映っていた。男は徐にスマホを取り出して次の計画の旨を話し出す。

 

「そうだ…次は都築涼平を始末する。殺れるよな…?」

『………はい』

 

 

菊乃side

 

 

〜花咲川総合病院 3F〜

 

 

「ここは…どこだ?なんで俺、病院に…?」

 

俺は何故この場にいるのか考える。確か有咲さんとりみさんの誤解を解いて譜面を見て血を吐いて…それからえっと…

 

「かはっ!?がふっ…ごほごほ…」

 

俺の口からは、僅かだがぴちゃぴちゃと血が垂れる。偶然そこに居合わせた看護婦の人が俺を見るなり血相を変えて駆け寄ってきた。

 

「せ、閃宮崎さん!?酷く衰弱してたのにいきなり起き上がっては危険です!寝ててください!」

「あ、すいません…」

 

ここは言うことを聞いてた方が利口だろうと思った俺は無理をせず再び布団を被った。

 

「今頃りみさんと有咲さん、何してるんだろう…」

 

ふと呟いて目を閉じ、再び寝付こうとすると男二人が入ってくる。俺を見るなりやたらと険しい表情になっているのが分かる。

 

「お前が閃宮崎菊乃だな?」

「えっと…だ、誰ですかあんたら?」

「あ?俺達は警察だ」

 

男はそう言って警察手帳を胸ポケットから取り出し俺に見せてきた。

 

「花咲川警察署 閃宮崎家惨殺事件特別対策本部の陸奥シゲアキだ」

「同じく特別対策本部の東雲タツヤです。陸奥さんは僕の上司にあたります」

「いらねぇこと言ってんじゃねぇよタツヤ。今日はちゃちゃっと用事を済ませるよう言われてんだろうが」

「はぁ、陸奥さんは相変わらずせっかちですね…」

「あ、あの…話が見えないんだけど。俺に用があるんじゃないの?そもそも警察がどうして病院にいるんだよ?」

 

話に割って入ると顎髭を謫わえてる陸奥が俺に歩み寄る。

 

「な、何だよ?」

「そう怯えなさんな。俺達はお前を保護しに来たんだよ」

「は?ほ、保護?」

「あぁ。お前はこの病院を退院次第、俺達が引き取る事になってんだよ」

「……え?」

 

 

有咲side

 

 

〜市ヶ谷家 蔵〜

 

 

香澄達と和解してホッとしてると婆ちゃんが早足で歩いて来た。手には受話器を持っている。

 

「有咲ー?有咲いるかーい?」

 

私は蔵から出て婆ちゃんの元に駆け寄る。

 

「どうしたんだ婆ちゃん?」

「さっき病院の人から連絡が来て…菊乃くん、意識取り戻したみたいなんだよ」

「えっ!?」

 

私がびっくりしていると、りみや香澄達も蔵から出てくる。

 

「ほ、本当なのか婆ちゃん?」

「さっき電話が鳴ってね、何かと思ったら菊乃くんが入院してる病院からで…」

「マジか!よしみんな行くぞ!!」

 

私は香澄達と勢い良く蔵を出てお菊が入院してる病院へと向かった。

 

 

〜花咲川総合病院 受付〜

 

 

病院に着いた私達はすぐさま受付に駆け込み、お菊と会談させるように話す。

 

「市ヶ谷さんですね?それとお友達の方4名ですね?かしこましました、少々お待ちください」

 

待つこと数分、面会許可が降りた私達はエレベータに乗る。

 

「有咲ちゃん、菊乃くん大丈夫かな?」

「大丈夫だ…って言いたいけどずっと寝てたからな。だいぶ弱って窶れてなきゃいいけど…退院するまで何か差し入れでも持ってった方がいいか…」

「…ふふ」

「どうした沙綾?」

 

突然沙綾が笑いだす。おたえと香澄も私を見てニヤニヤしている。

 

「お、おい!なんで笑ってんだよ!」

 

「いや、有咲が菊乃くんのことをすごく大切に思ってるんだなぁって。流石幼馴染…かな?」

「た、大切って…私は別にそんな、あいつは昔っから泣き虫だし1人で溜め込むのも多かったし放っておけないって言うか…ゴニョゴニョ」

 

急に恥ずかしくなり、思わず目を逸らしてしまう。

 

「有咲顔紅くなってるよー?」

「は!?おたえ何言ってるんだよ!?」

「有咲ってもしかして〜」

 

香澄がニヤニヤしながら私の方を見る。

 

「な、なっ、なんだよ香澄?」

「もしかして菊乃くんのこと…」

「う、うるせーっ!!」

「あ、有咲ちゃん落ち着いて…声大きいよ?あ、もうすぐ着くよ」

「りみ。わ、わりぃ…」

 

りみに指摘され声のボリュームを下げる。そうこうしてる内にお菊がいる3Fまでやってきた。他の入院患者の人達とかに迷惑が掛からないように早足でお菊の病室に向かう。

 

「お菊!大丈夫…か?」

 

扉を開けるとお菊が起きていた。最後にあった時よりもだいぶ窶れていて髪もボサボサ、弱々しくなっているがお菊だということは分かる。が、それよりも驚きがあった。お菊の前に知らない男が2人いた。

 

「あ、あんたら誰だよ!!」

「開口一番吠えるな嬢ちゃん。俺達は閃宮崎菊乃に事情聴取しようとしてただけだ」

 

バツが悪そうな顔をしている男の1人が私の前に出てきて何かを取り出した。

 

「え?け、警察手帳?」

「俺達は警察だ。おいタツヤ、この嬢ちゃんたちに説明してやれ」

「あ、はい」

 

タツヤと呼ばれたもう1人の警察官が私らの前に来た。

 

「えっと…キミたち【閃宮崎家 惨殺事件】は知ってるよね?僕達は事件特別対策本部として事件を追ってるんだ。閃宮崎菊乃くんが意識を取り戻したことを聞いて今陸奥さんと事情聴取?みたいなことになってるんだ。決して悪い事はしないから大丈夫だよ?」

「は、はぁ…」

 

本当に大丈夫なのかはさておき、変な人じゃないってことは分かった。ましてや警察だって言ってるから

 

「それで、話は変わるけど…君が市ヶ谷有咲ちゃんで、そっちの子が牛込りみちゃんかな?」

 

突然名前を出されて私とりみは肩を震わせる。

 

「え?そ、そうですけど…」

「わ、私達に何か用ですか…?」

「そ、そんなに怯えないでいいのに…えっとね、今2人のことを聞き込みしたり探しててね?警察の方で2人を見つけたら事情聴取するように言われてたんだ」

「な、なんで私らなんだよ…?」

 

疑問に思った私は問い掛けると陸奥と呼んでいたもう1人の警察がお菊への事情聴取を一旦取りやめ、私らの方を向く。

 

「それについては俺から話す。事件のニュースで女子高生がこいつ、閃宮崎菊乃と一緒に救急車で搬送された時に同行したってあったろ?その後に事件を調べてたらこいつと一緒にいる女子高生の姿あってよぉ、探してく内に嬢ちゃんらが事件の被害者の重要参考人として引っ張りだされたんだ」

「陸奥さーん、口悪くなってますよ?」

「フン、別にいいだろ。とにかくお前らも事情聴取すっから隣の空き部屋に来い。タツヤ、閃宮崎菊乃の方はお前がやれ」

 

そう言ってさっさと部屋を出ようとすると、沙綾が陸奥を引き止めた。

 

「ち、ちょっと待ってください」

「あ?なんだ?」

「有咲とりみりんに…変なことしたら例え警察でも私達許しませんからね!」

「沙綾ちゃん…」

「さーや…」

 

沙綾はが強く警察に言うがそれでも向こうは表情一つ変えなかった。

 

「変なことするわけねぇだろ。嬢ちゃんらに手ぇ出すほど堕ちてねえ。ほら、さっさと来い」

 

それだけ言って部屋を出ていく。りみはさっきの陸奥って言う警察の人にちょっと怯え気味だったのか震えていた。

 

「り、りみ…大丈夫だ。もし何かあったら私がいる」

「あ、有咲ちゃん…う、うん。じゃあ沙綾ちゃん、香澄ちゃん、おたえちゃん…ちょっと行ってくるね?」

 

私とりみは陸奥が待っている空き部屋へ向かった。

 

 

菊乃side

 

 

有咲さんとりみさん大丈夫かな…それ言ったら今の俺のこの状況もなんだけど。だって警察の人と有咲さん達の知り合いみたいな人達いるし…

 

「えっと…菊乃くん?取り敢えず見てもらいたいものがあるんだけどいいかい?」

 

警察の人、もといタツヤさんが傍のテーブルに写真を何枚か置いて見せる。俺はそれを1枚ずつ手に取る。

 

「これは…どこの写真ですか?」

「これは事件当初のきみの家の写真だよ。リビングや親の部屋等を事件の参考資料として抑えてみたんだけど…記憶が無いんじゃあんまりわかんないよね?ごめんね」

「そんなことないですよ。何か一つでも俺が思い出せればって思って持って来たんですよね?」

「うん、まぁそうなんだけどさ…はは」

 

タツヤさんが申し訳なさそうにしてると、スマホのバイブレーション音が聞こえてきた。スマホの主はタツヤさんだった。

 

「あっ!?ごめんね菊乃くん、ちょっと上の人から電話みたいで…ごめんねすぐ戻るから。…はい、もしもしこちら東雲です」

 

タツヤさんは電話対応の為に一旦病室から出て行く。今この部屋にはベッドで寝ている俺と有咲さんとりみさんたちと一緒に来た3人だけだ。一言で纏めると非常に気まずい。取り敢えずタツヤさんが持ってきてくれた写真を見ようとするとポニーテールの人が俺に近寄ってくる。さっき陸奥さんに対して感情的になってた人だ。

 

「きみが有咲とりみりんが言ってた菊乃くんでいいんだよね?さっきは変なとこ見せちゃってごめんね…」

「えっと…別に悪く思ってないので大丈夫ですよ?ただ有咲さんとりみさんを心配したんですよね?友達思いなんですね」

「そんなんじゃないよ。あ、私は山吹沙綾。よろしく。こっちがおたえと香澄」

 

沙綾さんが残りの2人を紹介するとその2人が俺の前に出てくる。黒髪ロングの人と猫耳?みたいな感じな茶髪の人だ。

 

「花園たえです。気軽にたえって呼んでもいいしおたえでもいいよー」

「私戸山香澄!えっとね!有咲とりみりんとおたえとさーやとバンドしてる!」

「香澄、声大きいよ?」

「えへへ…ごめんごめん」

 

なんか騒がしい子だなぁと思いながら俺は再び写真に目を移す。当初の遺体や家族の物だと思われる備品、家の至る所を根こそぎこれでもかと言わんばりに撮ってあった。

 

(携帯とかを取りに行った時とはまた違ってる。これは書斎…?こっちはピアノの部屋だしこれは妹の部屋?俺に妹がいたってことになるのかな?)

 

曖昧な記憶を辿りながら写真を1枚ずつ見ていくと1つだけ銅像が映っている写真があった。俺はそれを手に取りじっくりと見てみる。

 

「この銅像…ここじゃないどこかで見た気がする」

 

俺の言葉に沙綾さん達が反応を示し、俺の所に寄ってきた。

 

「わぁー、でっかい銅像だぁ…偉い人?それとも歴史上でなんか革命起こした人なのかな?」

「ぐおぉーってなって、ぶわぁー、みたいだね」

 

たえさんは何を言ってるのかさっぱりだからスルーしよう。そう思ったその時、

 

…キイィィィンッ!!

 

何かが頭に響き、俺は頭を押える。3人はどうしたのかと言わんばりに俺を見る。

 

「っ!?…うぁ…」

「菊乃くん?」

「頭押えてる…頭痛い?」

「そういうわけじゃなさそうだけど…なんか苦しそうだよ?」

「(うう…またこれかよ……でも、今度はハッキリと頭の中に…記憶が…)」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

〜裁判所 資料館〜

 

 

『わぁぁ…大っきくて広ーい!』

『こら菊乃、はしゃいだらダメだぞ?』

『いいじゃないですか豪傑さん。菊乃があなたの職場を見てみたいって言って1番喜んでたのは豪傑さんじゃないですか』

 

優しく微笑んでるのは…俺の…父親と母親か?そしてあのちっちゃい子供が…俺か?

 

『ははは…それを瑠璃に言われるようじゃ俺もまだまだだな』

『お父さんお父さん!これなにー!?』

 

俺が指さしていたのは大きな銅像だ。しかもそれはさっき写真で見たものと酷似している。

 

『それはテーミス像、正義と秩序の女神だ。左手に正邪を測る天秤を持ち、右手には悪魔から社会を守るための剣、顔には法の下の平等の為に目隠しをしてる。貧富や権力の有無に関係なく万人を等しく扱うという意味が込められたギリシャ神話の女神だ』

 

……その時、俺の頭の中に何かが戻って行くような感覚があった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「うぅ…っあ!はぁはぁ…は、はぁはぁ…」

「菊乃くん大丈夫…?声掛けても唸り声上げたままだったから怖かったんだけど…」

「……ちょっと、ね」

 

気がつくとまた、汗でびっしょりになってしまっていた。沙綾さん達が俺の事を心配そうに顔を覗き込む。丁度電話を終えたタツヤさんも同時に戻って来るなり俺を見て血相を変える。

 

「き、菊乃くん?!どうしたんだい汗びっしょりだよ!?」

「タツヤさん、ちょっとだけ思い出せたことがあるんです」

「え!?ホントかい!?」

 

俺の言葉にタツヤさんだけでなく沙綾さん達も身を乗り出す。

 

「閃宮崎豪傑…もとい俺の父親だった仕事先に何度か行ったことがあるんです。それも幼少期の頃から何度も何度も…そしてそれだけじゃないんです。はっきりと残ってる言葉があるんです」

「え?はっきりと残ってる言葉?」

「はい…"正義と秩序の女神・テーミス"です。ギリシャ神話に出てくる女神のひとつでその写真にもあります。今のところ思い出せたのは父親の仕事のこととテーミス像くらいですが。他のことはまだうっすらだったり曖昧だったりで…」

「いや、少しでも思い出せたことが何よりだよ!これは事件に関連してくるぞ〜っ!!進展するぞ〜っ!?」

 

そう言うとタツヤさんはメモ帳のようなものを取り俺の喋った事をメモしまくる。

 

(タツヤさん、事件に対して随分とアレだけどいい人…かな?こっちはいいとして有咲さんとりみさん大丈夫かなぁ…?)

 

 

りみside

 

 

〜花咲川総合病院 別室〜

 

 

「まぁ、俺が聴きたいのは全部聴いたし嬢ちゃん達からも有力な話は聴けた。こんなおっかない警察の俺の事情聴取付き合ってくれてあんがとさん」

 

警察の陸奥さんとの事情聴取が終わると、私と有咲ちゃんはふにゃっと脱力する。

 

「おぉぉ終わったぁ…」

「づがれだぁ…変に緊張したぜぇ…」

「わりーな嬢ちゃん達。ちょっと飲みもん買ってくるけど何か飲みてぇか?奢りだ」

「いいんですか?そんなに気を使わなくても…」

「いいんだよ。ほら、何が飲みたい?」

 

私と有咲ちゃんは取り敢えず冷たい飲み物でいいです、と一言伝えると陸奥さんは部屋を出ていく。ものの数分で買ってくるとそれをテーブルに置いた。

 

「冷たいもんって言われたから取り敢えずオレンジジュース買ってきたけどいいか?」

「大丈夫ですよ。あ、ありがとうございます…」

 

私と有咲ちゃんは缶のプルタブをカチッと開けてオレンジジュースをこくこくと飲む。酸味が身体中に染み渡っていくのが分かる。

 

「ふぅ…美味しぃ」

「い、生き返ったぁ…」

「長い時間突き合わせちまってわりーな嬢ちゃん。俺らは上層部に戻ってさっきのこと報告すっから後は閃宮崎の傍にいてやんな。ま、退院したら保護対象になるけどよ」

「あ、あの…」

 

陸奥さんはそう言って部屋を出ようとすると有咲ちゃんが陸奥さんを引き止める。

 

「どうした嬢ちゃん」

「お菊のことでちょっと…」

「なんだ?」

「えっと…保護の件、もう少しだけ先延ばしにして貰えませんか…?」

 

有咲ちゃんの言葉に陸奥さんは一瞬驚くけど、有咲ちゃんが何を言いたいのか察したのか陸奥さんは軽く頷いた。

 

「まぁ、その辺は俺だけじゃ決められないからなんとも言えん。けど、その事も言っといてやる」

「あ、ありがとうございますっ!」

 

今度こそ部屋を出ようとした陸奥が、何かを思い出したかのようにバッグから何かを取り出した。そしてそれを私と有咲ちゃんに渡す。

 

「忘れるとこだった。実は閃宮崎のクラスメイトからこれを渡されたんだ。多分閃宮崎のもんだろ?」

 

それは私たちが探していた菊乃くんの作った曲の楽譜の1ページだった。

 

「多分閃宮崎が記憶喪失になってんのと関係してると思って持ってたが俺はピアノはさっぱりだからな。嬢ちゃん達が持ってた方がそれは役に立つだろ?それじゃ、今度こそ俺は行くからな」

 

陸奥さんは頭を掻きながら部屋を出て行った。私と有咲ちゃんはその後沙綾ちゃんと菊乃くんがいる部屋に戻って互いに何があったか情報共有をして病院を後にした。

 

菊乃くんの記憶が少し戻ったって聞いた時は私も有咲ちゃんも喜んだ。家に帰ってからは警察の人が来た事や今日の出来事はもちろんお姉ちゃんにも話した。

 

「…って言うわけなんだ。菊乃くんは病院で安静にしてるよ」

「そっか、よかった…。私もお母さんも心配してたから無事だって事が分かっただけでも嬉しいよ。ありがとう、りみ。そしてお疲れ様。ゆっくり休んで…ね?」

「…うん。ありがとぅ」

 

お姉ちゃんは私の頭を優しく撫でる。私は疲れからかお姉ちゃんに抱きついたままそのまますぅすぅと寝息をたてた。

 

 

有咲side

 

 

「お菊…」

 

お菊の記憶が少し戻ったのは嬉しいけどまだ私のことは完全に思い出せていなかった。私は蔵に戻ってからずっと枕を抱きしめたままベッドに横になっている。

 

「ま、そんな簡単に記憶が戻ったら苦労はしてねーよな」

 

ベッドから起きあがり、私は警察の人が持ってたというお菊の楽譜に目を通す。

 

「やっぱりこの楽譜…お菊が中学の時に作ったやつだ!」

 

今まで持っていた楽譜と照らし合わせることにした。お菊が持っていたぼろぼろの楽譜と、私が持っていたやつ、それで今日警察の人から貰った楽譜を繋げてみると、後半の3ページだけだが完成した。

 

「これで後は前半3ページだけか…けど、何でだ?」

 

ふと私の頭によぎる。何でお菊の楽譜が1ページずつバラバラになっていたのか。私がお菊の楽譜を持っていたのは記憶を無くす以前、お菊が私の家で完成した曲を披露した時があって帰った時1枚だけ忘れてったんだ。あの時お菊、コンクールまでまだ時間があるから預かってて欲しいって言ってたけどすぐあの事件が起きて返すことできなかったし…

 

「にしても、残りはどこにあるんだ…?」

 

考えても楽譜からホイホイ私の元に来るわけない、そう考えた私は取り敢えず風呂に入って疲れを落としに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄達Poppin’Partyが陸奥とタツヤ達から事情聴取を受けたその日の夜、都築涼平は学校に戻って来ていた。理由はただ単に忘れ物をしたからだ。時間は19時を回り、辺りが少しずつ暗みを帯びている。今の時間、ここの学校はいるとしても夜間清掃のおばちゃんが2〜3人と事務の人くらいだ。

 

「ありー?どこいった?課題ノートが見当たらねぇ…折角学校に戻ろうとしたのにこれじゃ意味ねぇじゃねぇかよ」

 

机の中を漁って見るが中々見当たらないことに僅かだが苛立ちを覚えた涼平は自分のロッカーに手をかける。

 

「こっちかー…っお!あったあった!」

 

涼平は緑色の課題ノートを手に取る。これで帰れると思ったその時、カツンカツンと階段を上がってくる音が聞こえた。涼平はスマホのライトを翳して一応身構えを取る。

 

「誰かいんのか?で、出て来いよ!」

 

声に反応したのか足音の主が涼平のいる教室に入って来る。

 

「………」

「ってなんだよお前か、ビックリさせんなよ。どうしたんだ?もしかして忘れ物か?奇遇だな、実は俺もでよ」

「…正義と秩序の女神の名の元に裁きを下す」

「…は?お前何言って」

 

その刹那、入ってきた人間が握っている鋭利なハサミのようなものが見えた。そしていきなりハサミを振りかざし、涼平に襲いかかった。

 

「はぁっ!?ちょ、おま…何すんだよいきなり!!」

「………!!」

 

紙一重で躱し続ける涼平はリアルに命の危険を感じていた。あんなに鋭利なハサミで刺殺されるなんてたまったもんじゃない。何とかして逃げようとするが涼平は足を滑らせ机に身体をぶつけて転んでしまう。

 

「あぐっ…痛って…」

 

ハサミを持ったまま馬乗りにされた涼平は拘束を解こうとするが逃げられない。

 

「ひいいぃっ!!だ…誰かっ!!誰か助けてっ!!殺されるっ!!!は、ハサミ持ったやつに殺されるっっ!!!!だれかぁ!!た、頼むから助けてくれえぇぇぇ!!」

「…!!!!」

 

そして逃げられなくなった涼平へそいつは無表情でハサミを勢いよく振りかざし…

 

 

〜翌日 聖木松高校〜

 

 

「ふぅ、教室一番乗りd…え?」

 

辻村恋太郎が引き戸を開けると、教室内の辺りに血が広がっていた。現実とは思えない異常な光景に戦慄する。机も乱雑しており誰かが掴みあったのかとも思えてしまう。

 

「な、なんですか…これは?」

 

ふと黒板に目をやると赤黒く【Force Judge END】と書かれていた。

 

「Force Judge END……?第4のジャッジ終了…?一体どういうことなんですか…?」

 

そして、その下に目を向けるとさらに目を疑うものがあった。

 

ピチョン…ピチョン…ピチョン

 

それは…首と動脈を切られ、血だらけになってその場にだらしなく座り込んでる都築涼平の姿があった。切られた首筋からは血が垂れている。

 

「……り、涼平?」

 

 

 




菊乃の記憶が少し戻り、クラスメイトが1人死んだところで今回は終了となります。放置してた訳では無いですが待たせてしまって申し訳ございませんでした。

いやぁ暑い!とにかく暑すぎます!だから夏は苦手なんですよね…
皆さん暑さに負けず、熱中症に気をつけながらお過ごしください。
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