〜花咲川警察署〜
「タツヤ、調べたもんは纏まったか?」
陸奥が部下であるタツヤの座っている席にやってくる。
「はい、これが事件初日に調べたものと先程のクラスメイトの皆さんから聴いた情報です」
タツヤは陸奥に事件の事を纏めたファイルを手渡す。陸奥はそれを受け取り1ページずつ捲っていく。
「しっかし…随分細かく纏めたな」
「どんな情報でも大切ですから。提供してくれた皆さんに感謝しないといけませんしね」
「ホンット、お前はクソ真面目だな……っん?」
「クソは余計ですよ…ってどうしたんですか陸奥さん」
「空欄が何個かあるんだけどよ…これなんだ?」
陸奥が示すそれは、菊乃のクラスメイト達一人一人の名前とそれと別に聞いた情報がメモされていた。
「それは事情聴取をした際に聴けなかった人達です。何人か来てなかったでしょう?」
「聞けなかったガキ共か…ふん、どーせ男も女も不良だろ?」
元も子もない上司の発言にタツヤは溜息をつき、眉を顰めながら陸奥に反論する。
「陸奥さん、何でもかんでも不良って決めつけないでくださいよ…体調不良で居なかった子もいたんですから」
「それでタツヤ。残りのガキの事情聴取はいつやるんだ?」
「明日にでも、と思ってますよ。学校関係者全員に許可はもらってますから。それに…この後は閃宮崎家の自宅捜査とその周辺の人間関係を調べるんでしょう?僕も行きますので準備してきます」
そう言ってタツヤは席を立ちロッカーに捜査の準備に行った。その隙に陸奥はタツヤの机の、調べられてない生徒リストに目をやる。
「南雲 アツヤ、都築 涼平、東 千鶴、無月 蓮花……か。こんなかに犯人のガキがいたりしてな…いや、考えすぎか。ガキが悪戯に人を殺すなんてしてたらそいつの神経疑うしイカレてるだけだ…」
この時、陸奥の脳裏にかつて生きていた自分の息子が思い浮かんだ。心の奥底へ封じ込め、決して思い出したくもない最悪の出来事を。
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〜1年前〜
『おい!お前……何したか分かってんのか!?』
血で染まった異常な光景、そしてその教室に怒号が響き渡る。
『………』
『何とか言えよ!!オイ!』
包丁を持った男は目を大きく見開き血だらけのまま、ただただ実の父親である陸奥を見つめるばかりだった。
『父さん…俺にとって生きる価値ない同級生殺したら犯罪なの…何が悪いの??なんで俺…父さんに怒られてるの?俺のどこが悪いの?俺って悪い子なの!?ねぇ、どうしてっ!?ねぇ!!ねぇ、ねぇ……ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇどうしてぇぇぇ!!!!!?』
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「………っ、クソが。変なモン思い出しちまったぜ」
陸奥は苦虫を噛み潰したような表情になる。そこに準備を終えたタツヤが戻ってくる。
「お待たせしました陸奥さ…って、ど…どうかしたんですか?」
「なんでもねぇよ。ほら、とっとと閃宮崎家とその周辺の人間片っ端から調べるぞ」
「は、はい!」
僅かな苛立ちを見せながら陸奥は席を立つ。それをタツヤは駆け足で追っていった。
菊乃side
〜牛込家〜
「し、知ってるも何も…有咲ちゃんは友達で、同じ学校で、同じバンド仲間……だよ?」
りみさんの口から放たれたその一言に俺は驚きを隠せなかった。
「同じ学校に通ってるんだ…それに、バンド?」
「う、うん!あ、あのさぁ菊乃くん…」
「?どうしたの?」
「えっと、その…あ、有咲ちゃん、菊乃くんと会ってなんて言ってた?」
りみさんの質問に俺はさっきの出来事を思い出す。えっと、確かあの時……
『私だぞ?幼馴染の市ヶ谷有咲だぞ…?ほ、ほら…よく私の家の蔵とかでかくれんぼしたり公園で遊んだりもしたろ?』
…こんなこと言ってた気がする。
「俺の事を見て、幼馴染だぞ?って言ってたよ」
「菊乃くんと有咲ちゃんが幼馴染…?」
りみさんは俺と有咲さんが"幼馴染"だった事に驚きを隠せないでいる様子だった。
「でも、俺は何の事かさっぱりでさ。あの人…有咲さんに悪い事したかも知れない」
「そ、そうなんだ…で、でもさ!有咲ちゃんに会って何かその、お、思い出せたことってない?どんな些細なことでもいいんだけど…」
「…思い出せたことは何もないんだ。ごめん」
「あ、謝らなくていいよ菊乃くん…そんなすぐに思い出せないことは私もお姉ちゃんも分かってるから、ね?」
言い終わるとりみさんはすっと立ち上がる。
「り、りみさん?」
「そろそろご飯の時間だけど…食べられる?」
時計に目をやると時刻は19時をまわっていた。事実腹も減っていたので俺は無言で頷き、りみさんと一緒に1階のリビングに向かう。食事を終えてから俺は、りみさんとゆりさんが風呂から上がるまで家から持ってきた物を部屋の中で一つ一つ見ることにした。
「スマホと財布…あとは…」
持ってきたカバンのファスナーを下ろすと、俺が通ってたと思わしき学校の教科書やらノートが沢山入っていた。
「……教科書とノートばっかしだな」
記憶を取り戻すヒントがなにか入ってるかと思っていたけど結局は期待外れだった。諦めてバッグを閉めようとするがあるものが俺の目に留まる。もう一度バッグを開けて奥の方を探るとそこから出てきたのは、部屋の机の引き出しから持ってきた1枚のぼろぼろの楽譜だった。
「……これって、ピアノの譜面?でもなんでピアnーーっ!?」
その時、俺の脳裏に何かが浮かんできた。それと同時に、急激に頭が痛くなり思わず楽譜を足元に落とした。
(う、うぐぅ…いだぃ…あだまがいだぃ…)
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『お菊!!それって今度コンクールで発表する曲かっ!?』
『ま、まぁ…ね』
『どんな曲なんだよ!ちょっとだけ…見せてくれないか?』
『だ、駄目だよっ!!まだ完成してないし…そ、それに…だいぶ難航してるから、さ。ね?』
『そうだったのか…じゃ、じゃあさ!私に何か出来ることないかっ?私もお菊の力になりたいんだよ!』
『それって、一緒に曲を作るって事…?』
『そうなるな』
『なんか…2人の共同作業って感じだね』
『は、はあぁぁぁぁぁぁあ!?き、きょ、共同作業っ!?な、何言ってんだよお菊!!そ、そう言うのはま、まだ、だろ…?』
『へ?まだって…それって有咲と…』
『んああああ!気にするなぁ!と、に、か、く!私とお菊で一緒に曲を作るんだよ!』
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「っは…はぁ、はぁ……な、なんだったんだ今のは…?」
そ、それに…なんで有咲さんが俺の記憶の中に?そんなことを思いながらもう一度楽譜を手に取る。
「……あれ?この楽譜、題名が……無い?」
それによく見ると…ページが破かれてる?これ1枚だけでは無いってことか…な?だとしたらまだ他にも楽譜が…
「菊乃くん。お風呂上がったよー…って何してんの!?」
「はわわ…すっごい散らかってるぅ」
その時、ちょうど風呂から上がったゆりさんとりみさんが部屋に入ってきた。それと同時に部屋の光景に驚きを隠せない様子でもある。無理もない、俺が持ってきた教科書やらノートが散乱しているのだから。
「……散らかしちゃってすんません。持ってきた物を片っ端から調べてたもんで。記憶に繋がるものがないか気になったんで、ね…」
そう言いながら俺は集めた物をバッグに詰める。
「まぁ…結局なんにも無かったですけどね。じゃ、俺も風呂はいってきますね」
さっき頭に響いたあれはこの2人にはまだ話さないでおこう。俺はそう思い足早に風呂場に向かった。
りみside
「あれ?」
「どうしたのお姉ちゃん?」
「これって……楽譜?」
お姉ちゃんが、菊乃くんのバッグの近くにおいてあった楽譜を手に取る。見たところすごくぼろぼろで破かれたような跡が残っていた。
「ピアノの楽譜…だよね、これ?」
「う、うん…でもなんで1枚だけ?」
「わかんないけど…破かれてるからこれの他にあと何枚かあるって事?」
「うん…私はそう思うよ。りみはどう思う?」
「わ、私も」
その時、答えを遮るかのように私の携帯が鳴った。
「わわっ!?びっくりしたぁ…って香澄ちゃん?」
携帯を開くと香澄ちゃんから着信が来ていた。
「お姉ちゃん、ちょっと電話してくるね」
お姉ちゃんにそう言って私は部屋から出て電話に対応する。
「もしもs」
『りみりーん!!』
「わぁ!?か、香澄ちゃんっ!?」
開口一番香澄ちゃんの大きな声が響く。
『良かったぁ!!今日の練習来れないって聞いて何かあったのかずーっと心配してたんだよーっ!!おたえもさーやもすっごく気にしてたみたいだし!何かあったの!?』
「あ、その、えっと…」
…今、菊乃くんの事を香澄ちゃん達に話すわけにもいかないし有咲ちゃんと菊乃くんとの関係も気になるし…どうしよぅ。
「な、何でもないよ香澄ちゃん…私は大丈夫だから」
『そっか…でも何かあったらすぐ相談してね!?』
「う、うん…ありがと香澄ちゃん」
『それとりみりん!』
「どうしたの香澄ちゃん?」
『さっきから有咲に電話かけたりメールしてるんだけどさっぱり出てくれないんだー。おたえとさーやもメールに既読すら付かないって言ってたんだけど何か知らない?』
…もしかしなくても菊乃くんの事だよね?私も有咲ちゃんと菊乃くんの事に関しては知りたいけど私の予想だと多分、今の有咲ちゃんは…
「とりあえずそっとしておいた方が…いいと思うな」
『うーん…気になっちゃうよ〜』
『お姉ちゃーん?早くお風呂入っちゃってー?もう23時過ぎちゃうよ〜?』
電話越しに妹の明日香ちゃんの声が聞こえてきた。
『うわぁあっちゃん!?ごめんなさーい!ごめんりみりん、まだ話したいんだけど電話切るね!また明日学校でー!!』
「う、うん。また明日…」
香澄ちゃんは慌てながら電話を切る。
「ごめんね、香澄ちゃん…」
そう一言呟いて私は部屋に戻った。
有咲side
「はぁ…はぁ…う、うぅぅぅ…」
一体どのくらい泣き叫び、喚き散らしたんだろうか。私の部屋は物が散乱して人に見せられるような状態じゃなかった。
「………片付けねーと」
ポツリと呟き、私は暗い部屋のまま散乱した私物を片付ける。
「…ははは、枕が涙で濡れちまってる。こんなに泣いたのなんてあん時以来だな…」
毛布やぬいぐるみをベッドに置いて机の電気を付けた私はそのまま椅子に座る。
「ちょっと肌寒いな…ストール、どこやったっけ…?」
肩にかける位のストールを被り、再び机に座り込む。
「どうやったらお菊の記憶…戻るんだろうな」
なにか記憶に繋がるキッカケ、それが無いか考えた私は机の引き出しからあるものを取り出す。それは中学の時に私とお菊で作ったコンクールで発表する曲の楽譜だ。けど手元にあるのはたったの1枚。残りは多分お菊の家にあるんだろう。
「お菊と一緒に作った楽譜…懐かしいな。コンクールで発表する曲を一緒に考えたりして………うぅっ」
けど…今のお菊はそれすらも忘れちまってる。あれほど泣いたのにも関わらず、またも目から涙が滴る。もう…こんな思いをしたくない。そう思った私はある事を決心する。
「…………お菊、お前の記憶は私が取り戻す。だから…ちょっと時間かかるけど待っててくれ」
虚空を掴むような仕草をしながらお菊のことを浮かべる。そしてそのまま私は布団を被って静かに眠りについた。
しかし…私は気づいてなかった。この決心があんな事に繋がるなんて….この時の私やポピパのメンバーはまだ…知る由もなかった。
〜花咲川警察署〜
時を同じくして陸奥とタツヤが菊乃のことについて調べている一方、警察に一通の電話が掛かってきた。
「はい。花咲川警察署です……えっ!?それは本当ですかっ!?…はい!分かりました!失礼します!!」
警察官は慌てて電話を切ってメモ帳を取り出し聞いた話を書き記す。それに気づいたもう1人が何事だと言わんばかりに声をかける。
「どうした?そんなに慌てて」
「あぁ…実はたった今さっき電話が掛かってきて『菊乃のことについて知ってることは多少なりとも提供してやる』ってきたんです!!」
「マジかよ…それで、その電話してきた相手って一体誰なんだ?陸奥さんとタツヤさんには俺から伝えとくからお前は上層部にいって伝えて来い」
「り、了解です。えっと確か、名前は
…奥沢廻寧って言ってましたね」
菊乃のことについて知ってる廻寧…菊乃とどういった関係なのか?
そして有咲の決意…菊乃の記憶…どう繋がっていくのでしょう。
評価とお気に入り追加してくれた皆さん、読んでくれてありがとうございます。亀更新ですがこれからも読んでいただけると嬉しいです。