その日の織斑一夏は少し遅れて寮に帰っていた。
あれから薫子からの連絡は無い。
それでも集められる情報は集めようと校内で聞き取りを行っていた。
『今日も収穫は無かった。皆、本当に気付いて無いのか?』
些細な変化や不自然なしぐさ等、気になる点は無いか?っと言う質問を何人かの生徒に投げ掛けて見たものの。返って来た答えは特に変わったものは無かった。
有るとすれば妙に話が合う事位でそれ以外は要領を得ないものばかりであった。
部屋に入るとシャワールームから水の音が聞こえて来る。
「シャルルは、シャワーか。」
自分がまだ帰ってこない内に済ませようと思ったらしい。
そこで、ふとボディーソープの替えが切れてる事に気が付く。
このまま気付いて出て来た所を鉢合わせても不味い。
一夏は愛子から受け取っていたモザイクゴーグルを付けてシャワールームに入った。
「シャルル。ボディーソープが切れていたはずだが?」
「あ!い、一夏!って、えっと…着けてるそれ何?」
「モザイクゴーグルだが?」
「へぇ~。何でそんなの着けてるのかな?」
「これ無しでお前の裸体を見るのは色々不味いだろ。」
「うん。ちょっと状況が見えないけど。もしかして、気付いてる?」
「当然だろ。あんな解り易い仮装…。」
「一夏、ちょっと外で待ってて。」
「うむ。分かった。」
ボディーソープの替えだけを置いてシャワールームから出ていく。
少し時間を置いてからシャルルがシャワールームから出て来る。
長い沈黙の後、シャルルが口を開く。
「何時から…気付いてた?」
「ほぼ最初からだな。」
何気なく返って来た答えにシャルルの顔に陰りが見えた。
「変装していたと思ったんだけど。」
「あのレベルでは最早、文化祭の仮装と言った方がまだ納得できるぞ。」
「ほっ他の人には言って無いよね!」
「一人だけ、信用できる人に情報収集の依頼目的で明かしはしたがそれ以外ではないぞ。」
「そうなんだ。誰なの?」
「済まんな。それは契約上の守秘義務と言う奴だ。」
「そっか。でも、まぁ一夏が信用してる人なら問題ないかな。」
「それで、話してくれるか?こうなった訳を。」
「うんいいよ、とは言っても一夏ならもう知ってるかも知れないけど。」
そこからの証言は薫子からの報告にあったものと大凡は同じだったがシャルル本人の出自が愛人の子である事など新たな事実も弁明された。
「シャルルと呼び続けるのもなんだ、シャルと呼ばせて貰うぞ。」
「うん。分かったよ。」
「それで、これから如何する?」
「如何するって?」
「生徒手帳を軽く見たが。校則の中に今回の事で応用出来る項目は確認出来なかった。」
「一部例外はあるが今回に関しては余り参考にはならなかった。」
「うん、そうだよね。」
「…シャル、一つ聞きたい。」
「何かな?」
「お前の元々の姓と母親の名前は?」
「?ウェストコートだけど、お母さんはマリア・ウェストコートだよ。」
それを、聞いた一夏の脳裏に一つ朧気ながら真実に近いものが見えて来た。
急に黙った一夏を不安そうに見つめる。
「シャル、愛子姉さんの所に行くぞ。」
「えぇ!如何したの急に。」
「愛子姉さんなら、何とかなるやもしれん。」
「それって、如何ゆう事?」
「今は、詳しく言えん。だが少なくとも、あの人であれば俺以上に今回の件の詳細を知ってる可能性がある。」
「そうなの⁉」
「取り敢えず、今は俺を信じろ!」
それから再び変装を施して愛子の居る教職員寮に足を延ばした。
愛子の部屋の前でノックすると中から声がする。
「誰かな?って、一夏君にシャルルちゃんか、そろそろ来る頃かと思ってたよ。」
「という事は、俺の考えてる事は大体合ってると思っても。」
「うん。取り敢えず、ここじゃ何だから中に入りなよ。」
愛子に促され部屋の中に入る。
着席を勧められ適当な所に腰を掛けると話し合いが始まった。
「それで、先ず何から話そうか。」
愛子が語りかけてくる。
「では先ず、現デュノア家当主とその奥方そしてシャルの母親マリア・ウェストコートの関係についってを。」
「そこから切り込むか…いいよ、結果から言えばその三人の関係は幼少の頃から交流があったみたいだよ。」
「という事は、幼馴染という事ですか?」
「客観的に見るならね。そもそもデュノア社は元々はこの三人のご先祖様が共同で経営してたみたいだし。」
「では何故、現在は二つの家だけに?」
「如何もそこが、今の状況と繋がってるらしいの。」
「と、言うと?」
「これは、前の代の当主たちの話になるんだけどね。」
「その頃、コールマン家の方にある政治家との不正な取引があったみたいなの。」
「それが、何処かで露見した?」
「そう、だけど当時のコールマン家は会社の人事に多く血族が居たの。」
「まさかですが。ウェストコート家に罪を…。」
「えぇ、その通りよ。この事件が、切っ掛けになったのかは定かじゃないけどこの時期に多くの技術者がデュノア社を離れてるのよ。」
「ウェストコートは、技術開発系を担っていた家系。それを切り離せば当然技術者も離れる。」
「だから、現当主と奥様は如何にか離れた技術者を呼び戻そうとした。」
「それが、幼馴染でもあるマリアの娘の保護…。」
「ちょっと、待って!それじゃあ、僕は誰の子なの⁉お父さんの子じゃ!」
「うん。貴女は、間違いなくアルベール氏のお子さんよ。ただ決して不義の上で生まれた子じゃ無いのは確かね。」
「どういう事ですか?」
「元々はアルベール氏の婚約者は貴女のお母さん、マリアさんだったって事。」
「え!」
「そこで、あの不祥事が起きてしまった。当然、婚約は破棄されたわ。」
「そんな…そんなのって…!」
「多分、妊娠に気付いたのは破棄された後だったんじゃ無いかしら。」
「現在の奥様、カレン・コールマン氏はこの事に気が付いて自分の血族から親友とその子つまり貴女を守ろうとした。」
「元を正せば、自分の両親が原因で二人の仲を裂いてしまった負い目もあったようね。」
「それから、二人は如何にかマリアさんだけでも経営陣に呼び戻せないか模索したみたい。」
「それで、漸く手立てが見つかった頃マリアさんは亡くなった。」
「まだ幼い貴女だけでも守ろうと必死だったのね。わざと突き放すことで両家からの干渉を防いでたらしいわ。」
「お父さん…。」
「ここまでは、飽く迄憶測よ。だけどこれから確かめればいい。」
「相良先生?」
愛子は、PCの画面を操作してあるページを見せた。
「ここには、貴方達の欲しがってる薬が詰まってる。これを、貴方の両親に送れば少し時間は係るけど。」
「今、貴方達が抱えてる問題を解決出来る力がある。」
「それじゃあ!」
「だけど、気を付けて、薬は時として毒になる。この情報が、貴女や貴女を守ろうとしてくれた人たちを追い詰める事もある。」
「それでも…それでも!僕は、真実が知りたい!」
「覚悟は、出来てるのね。」
「はい!」
シャルルの覚悟の籠った視線に、愛子は頷き電話を取る。
「私です。例の情報を、アルベール氏に…はい。よろしくね。」
「相良先生、俺達は当分の間どうすれば?」
「暫くは、このまま生活を続けて。何か変化があればメールで知らせるわ。」
「了解しました。失礼します。」
教員寮を出て、暫く二人で歩く。
「一夏…。」
「ん?」
「色々、ありがとう。」
「その言葉はまだ早い。まだ何も解決しちゃいない。」
「そうだけど。でも、言いたいんだ。」
「そうか…。」
「そう言えば、夕飯まだだったな。」
「そう言えば…。」
「何か、奢れよ。それでチャラだ。」
「うん!」
二人の影が長く伸び、寄り添い合う様に重なっていた。
少し後のフランス、デュノア宅には緊張と安堵が立ち込めていた。
「あなた、これは…!」
「あぁ、間違いない。私たちが探し求めた物だ…!」
「これで、漸く終わるのね。」
「うん。これで、マリアに顔向けが出来る。」
永く苦しい道のりをお互いに愛し支え合いそして、友の敵を討つと誓った夫婦の戦いにも終止符が打たれようとしていた。
シャルル「今度、聞かせて貰おうお母さんの事とか二人の事とか。」
今作のシャルさんは不義の子で無い設定で行きます。
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