円夏が愛子の下を訪れてから数時間後。
普段はアリーナとして使用されている競技場は、現在は演劇の舞台と化していた。
演目はシンデレラだが、少し…いや、かなりアレンジされた内容であった。
「…。」
「凄いわね…。」
「あぁ…これは、その…独創的?な内容だな。」
舞台の上で暴れまわり、飛んだり跳ねたり時に鍔迫り合い等の大凡のシンデレラではやらないであろう大立ち回りを、演者達が活き活きした表情で演じている。
ここまで、シンデレラをバトルロイヤル風にアレンジした脚本は他に無いだろう。
事実、他の観客も唖然としながらも劇の内容に引き付けられていた。
王子とシンデレラの戦いも大分進み佳境に入ろうとした時、ナレーションの一言が更なる急展開を呼んだ。
「王子が国の各地に送った魔女は、その行きついた土地で芽のある者たちを育てた。それが、彼女達である。そして、魔女は一人だけではない勿論その教え子も…。」
ヒロインが六人いるだけでも驚きの状況なのに、まだシンデレラは追加される事を告げていた。
ナレーションの終わった後に、入場ゲートらしい所が開き多数のドレス姿の女性が殺気を放って駆けだした。
王子を演じる兄は、マイクに拾える程の音量で場所を変える事を呟くと広場風のセットの方に走って行く。
「兄さん…。」
幾ら演劇の内容があれで、バトルシーン多めの舞台でも。
あの人数を相手にする事になる、兄の身を案じずにはいらない円夏。
シンデレラの軍勢を引き離し、セットの間を移動している時である。
急に証明が落ち辺りが暗闇に包まれた、劇に魅入られ集中していた観客は暗転した会場で軽いパニックになっていた。
暗くなった瞬間、円夏の心に原因の判らない胸騒ぎを感じた。
この胸騒ぎには覚えがある。
『あれは確か…兄さんが臨海学校の為に海に向かっていた時だ!』
あの時、円夏は強い不安を感じていたが、それが何が要因なのか分からなかった。
事件を知ったのは、謎の不安感が無くなり安堵していた時だった。
『似ている、あの時と何かが!でも…何が?』
自分が生まれてから、知ってはいても実際にはあった事もない相手の事をこれだけ強く感じれるものだろうか?
そう自問自答を続けるが、答えは出ない。
『円夏。』
「ベータ!如何したの⁉」
そんな時、自身の胸元に填っているピンバッチ型の待機状態のリベリオンボン太くんの補助AIベータが話しかけて来る。
『円夏、落ち着いて下さい。』
「う、うん。」
ベータに促され、不安に揺れる心を鎮める。
『現在、アルビノボン太くんが起動状態にあります。』
ベータから伝えられた報告は、円夏の思考を暫しの間停止させた。
「ベータ…何で、そんな事が判るの…?」
動揺しながらベータに尋ねる。
『本機には、ISコアの反応からどの組織に所属し如何いった用途で製造されたか独自で判別できるサーチ機能が備わっています。因みに、アルビノボン太くんより前にもう一機アメリカ軍所有で現在強奪されているアラクネの起動も確認されました。』
「…って!兄さん、今戦ってるの⁉」
『状況から見て、迎撃又は自衛による戦闘行動の最中と推察されます。』
「…兄さんだったら、大丈夫だと思うけど…。」
「やっぱり、心配?」
「うぇ!クララさん!」
「これだけ近くに居て、聞かれて無いと思ったのか?」
「アデリーナさん…。」
自分を挟むようにして座っている二人から声を掛けられる。
そして、円夏は少し悩んだ後意を決した顔で立ち上がる。
「行くのね。」
「はい!」
「頑張って来い。」
「ありがとうございます!」
明かりが復旧すると同時に座席から一番近い通路に抜けて、人目のない場所でリベリオンボン太くんを起動する。
そのまま、ステルスモードで兄が今いるであろう場所まで移動した。
「ふもっふ。ふももふーもふもるるもっふ?」『ベータ。兄さんの正確な居場所を特定できる形態は?』
『黒蝙蝠形態の音波探知機能なら可能です。』
「ふも…ふもーっふ!ふーふもふももっふ!」『そか…よーし!黒蝙蝠形態発動!』
『モードノワールキロプテル。発動。』
リベリオンボン太くんは、アルビノ型と称される幾つかあるボン太くんのタイプの最新のバージョンの二番機である。
それ故に、アルビノボン太くんに有った形態変化機能も搭載しているし、そのプロセスも同じである。
一言で言えば、変化する前は必ず強い光を発するのだ。
『モードノワールキロプテル。アクティブ。』
「きゃーもっふ。」『探索を開始します。』
この光は、偏に武装を粒子から外装に変換するする際に発生する余剰エネルギーではあるが、形態変化が完了するまでの間、無防備になる本体を守る目晦ましとして意味もある。
光が収まると、彼女の姿は変わっていた。
頭部は蝙蝠の顔のヘッドギア、このギアには音波発生装置が組み込めれており蝙蝠の耳の部分で発せられた音波を背後の被膜をイメージした受信アンテナでキャッチして対象の居場所を探るのである。
そうして探索を続けていると、ある地点から音波が大きく乱れている事が判った。
そこに一夏が居ると確信した円夏の行動は早かった、所々に激しい戦闘の痕が見える廊下を進み目的地に着くと、そこには壁に空いた大きな穴が有った。
穴から中は見渡し難く辛うじて室内の内装を確認できる程度だった。
「きゃっふ。」『ベータ。』
『音波探知を室内に限定します。』
耳のスピーカーを室内に向け音波を送る。
『アルビノボン太くん及びアラクネの反応を室内に確認できました。』
ベータの報告を聞くと、目の前の穴から部屋の中に侵入した。
「きゃーもっふ!きゃきゃっふ!」『兄さん!やっと見つけました!』
室内に入った円夏の目に写った光景は、捕縛され身動きの取れないアルビノボン太くんと彼に近づくアラクネを纏った女性であった。
「今度は、何ですか⁉」
突然登場したリベリオンボン太くんに動揺して声を荒げるアラクネを纏った女性、円夏は彼女に目覚えが有った。
「きゃっふ⁉きゃーもっふ⁉」『ガーベラさん⁉何故、貴女がここに⁉』
「そう言う貴女は、もしやM⁉」
「きゃふー。きゃーきゃきゃっふ!」『その名は捨てました。今は、ただの円夏です!』
バイオレットと呼ばれた女性に対して、円夏は今の己の名を言い切った。
「くぁーも…くーくぁーくっふ?」『ちょっ…良いだろうか?』
一夏が、状況に着いて行けず待ったを掛ける。
「きゃーきゃっふ。きゃきゃきゃっふ?」『あぁ、ごめんなさい。何ですか兄さん?』
「くぁーく…くーくーっふ?」『その…兄さんと言うのは?』
「きゃーきゃきゃも…きゃーっふ?」『そ、それは…後でも良いですか?』
「くぁ~くーくぁもっふ。」『ん~まぁ、ちゃんと説明してくれるなら。』
「きゃっふ!」『ありがとうございます!』
目の前で繰り返される、傍から見たら謎の言語で交わされる兄妹のすれ違う会話を煤けた顔で見つめるガーベラ。
何にしても、二人は同じ型のボン太くんを纏いめぐり逢いを果たした。
ガーベラ「ホントに…何ですかこれは…?」
さて、ガーベラと呼ばれた彼女は一体誰でしょう?
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