眼前を埋め尽くす光が己が身を焼き尽くさんと迫る時、鈴音は誰かの声を聞いた気がした。
それは、とても穏やかで優しい声だった。
『我が操者よ…こちらだ。我の下まで来るのだ…。』
「えっ?」
まだ幼いだが威厳に満ちた声が聞こえた時、鈴音は不思議な光に照らされた洞窟の通路の真ん中に立って居た。
『こっちだ…我は、この先に居る…。』
またも聞こえて来る自分を呼ぶ声に従い、洞窟の奥に続いているであろう方向に歩き出す。
「此処って一体…?」
疑問は尽きない、さっきまで戦闘の最中に居た筈な自分が何故ここまで穏やかで静かな場所に居るのか、そしてこの場所は何処なのか。
やけに居心地がいいのもあり嫌な気はしないが、それでも気にしだしたら止められなかった。
何処まで歩いただろう気付けば、天井に大きな穴の開いた洞窟湖の様な場所に出ていた。
「良く来た、我が操者凰鈴音よ…。」
湖の中心に赤い鱗の竜が佇んでいる、鈴音に語り掛けた竜の声はついさっきまで自分を導いていた声だと気が付いた。
「我が操者って事は、貴女は甲龍?」
鈴音の問い掛けに竜はその長い体を擡げ静かに答えた。
「如何にも、我が其方の愛機甲龍のISコアである…。」
対面した甲龍のコアの姿を見た鈴音は驚いた、まさか自分の愛機のコアが人ではなく竜だったのである流石に面を食らう
「ふむ…この姿では話し辛いか、では…。」
その体を輝かせた甲龍は体積をどんどん縮ませて鈴音と同じ位の背格好にまで小さくなった。
容姿は、鈴音の様にツインテールで耳の少し上辺りから後頭部にまで角が伸び前頭部に冠を着けている、服装は中国の伝統衣装の漢服を纏い色は紅色だった。
「これで、話しやすかろう鈴音よ…。」
優しく微笑むと鈴音の方を向き語り掛ける。
目の前で色々起こり過ぎて、何が何だから分からなくなっていた鈴音は話し掛けられ我に返る。
「あっあの!…。」
「ふむ…鈴音よ、少しわれの話を聞いてくれ。」
何かを語ろうと口を開くが何を話せば良いか分からず口を閉ざしてしまう、その様子を見ていた甲龍は自ら話題を切り出した。
「我はな、こうして会う事を望んでおったのだ…会って汝に一言詫びを入れたかった。」
「え?」
甲龍の口から語られた言葉に疑問符が飛び出した鈴音、茫然とする相方を傍に置き続きを話す。
「口惜しかった、着実に力をつけていく汝に応えられるぬ己が。汝の成長に着いて行けぬ我が恨めしかった…。」
「そんな…!」
甲龍の独白に否定の言葉が飛び出しそうになる鈴音を手で制し更に続ける。
「我は考えた、如何すれば汝の想いに応えられるのか、その方法を…。」
「…思い付いたの?」
「あぁ。しかし、この方法は我一人では達成できない。」
「それで、私を呼んだのね…いいわ、私は何をやれば良いの甲龍?」
「鈴音、我と共にここから天へ昇ってくれ。」
「それだけ…?」
「うむ、それだけで良い。」
「何か、拍子抜けね。」
「そうでも無いわ。この空は、気流の流れが速い上に入り組んでおるただ真っ直ぐ天を昇るだけでも一苦労なのだぞ。」
「そ、そうなのね…取り敢えず、行きましょうか。」
「うむ…。」
竜の姿に戻った甲龍と共に天井の穴から天に昇る。
かなり高い位置まで昇った所で乱気流が二人を襲う。
「くっ!これは確かに、キツイわね!」
「大丈夫か鈴音?」
声を張り上げ強風を凌ぐ為に力を籠める、そんな鈴音を気遣う様に飛ぶ甲龍も苦しそうである。
「大丈夫!でも、このままじゃダメよ。何か打開策を考えなくちゃ!」
「うむ!そうであるな!しかし、この気流をどう打開したものか?」
風に煽られながら、二人で声を出し合いこの状況を脱しようと策を練る。
その時、偶然にも髪を止めていたリボンが解け風の舞った。
「あっ!リボンが!」
「何!直ぐに追うぞ!」
慌てた鈴音の声に反応して甲龍が風の舞うリボンを追いかけ始めた。
「くっ!早いな、追いつけない!」
必死で追いかける甲龍だが、風の勢いが強く中々追いつけない。
気付けば最初の位置よりかなり外れた場所まで来ていた、そして鈴音はある事に気が付いた。
「ねぇ甲龍、ここさっきよりも高度が上がってない?」
「むっ?そう言えば…。」
無我夢中で飛び続けた為に気が付かなかったが、確かにさっきよりも高い所まで昇っていた。
「甲龍、何かあたし打開策が判って来たかも…。」
「我もだ、鈴音…むっ?如何やら、あれも我らを待ってくれているようだぞ。」
荒れ狂う気流の中でそこだけ停滞しているかの様に、鈴音のリボンがその場に留まっていた。
「あれね、転校する前に一夏がくれた物なの…。」
「…リボンに宿った意思が、導いてくれておるのだな。」
「うん。いきましょうか甲龍!」
「承知した!」
二人は再びリボンを追って上昇気流に乗った、そうしている内に気流の向きが読めてきた。
気流の流れを読み上へ上へと昇っていく、そして雲の上に出た時リボンが風に吹かれて鈴音の下に戻った。
「風が穏やかね。」
「あぁ、さっき迄が嘘のようだ。」
さやさやと凪が吹く雲の上で、彼女たちは満足そうに語り合う。
手元のリボンを見て、鈴音が小さく囁く。
「ありがとう一夏。」
「我からも礼を言うぞ。此処まで導いてくれてありがとう。」
その時である、甲龍の体が強く輝きだしたのである。
「これは…?」
「うむ…鈴音よ、ここまで共に来てくれた事嬉しく思うぞ。」
「そっか、ここでお別れか…。」
「違うぞ鈴音、我は常に汝と共に居る。」
「そうだったわね…。」
別れを察して少し感傷的なる相方を、来た時と同じ優しい声音で語り掛ける。
甲龍の言葉に勇気付けられ、意識が現実に帰って行く。
そうして戻って来た現実では自分に向けられたレーザーの群れが眼前まで迫っていた。
しかし、鈴音は手を前に翳すと一言呟いた。
「気功龍鱗壁展開。」
その言葉の後に鈴音にめがけて直進していたレーザーが見えない壁に阻まれた様に屈折した。
「なっ!」
その現象を目にした時、サイレント・ゼフィロスの操縦者は漸く鈴音の纏う甲龍の異変に気が付いた。
「二人目の二次移行者…ですか。」
風を見極め気を御した方を我が物にした甲龍は天竜に覚醒した。
ラウラと鈴音、二人もの人間が二次移行を果たした事で戦況はより複雑になった事をこの場の誰しもが感じていた。
鈴音「私も混ぜてよ…その戦い。」
まだまだ引っ掻き回すぜこの戦い!