二次移行を果たした二人の戦いの結末は如何に?
二次移行を果たした甲龍その名は甲龍天、中国語で空を意味する天を関した新たなる姿である。
その姿は以前よりも大きくまた雄々しく見せていた、胸から腹部までをアーマーが装着され首周りに金の装飾があしらわれた襟の意匠がデザインされている、腹部より下は腰の辺りから前が開くようにマントアーマーと胴体アーマーの下から伸びた前垂れが追加された、腕部は以前よりも延長されて肩に肩章の意匠が施されたショルダーアーマーと腕全体を覆う腕部アーマーが特徴的である、龍咆は丸い形状から中心が平円形の平太鼓の様な形になりブースターユニットはより大型に成っただけでなくに竜の球を思わせるデザインが施されている、脚部も竜の足の様な物に変化して、頭飾りは冠の様に成り竜の角をイメージしたアンテナが後ろに伸びている。
全体的に増加したアーマー類から得られる視覚的情報が、否応なしに威圧されまるで名立たる武将を前にしたかのような錯覚を与える。
客観的に見ても防御力は上がっており、半面下がったと思われる機動力もアーマー各部に小型ブースターが内蔵され見た目以上に機動力も上がっていた。
そして何よりも変化したのは龍咆ユニットであり、以前の様な衝撃砲としては勿論それ以外でも空間に干渉するならば多種多様な事が出来るようになった。
「鈴…⁉その姿は!」
「あんたと同じって事よ。」
鈴音の変化に驚きの表情で聞くラウラに、何時もの様に快活な笑みで答える。
二人の遣り取りの外側では、セシリアとヴィシュヌの両名が目の前で起きた奇跡を沈黙したまま見守っていた。否、正しくは傍観するしかなかったのである。
「私の前でお喋りなんて、随分余裕ですね!」
自分を無視して会話する二人に愚弄されたと思ったのか、サイレント・ゼフィロスの操縦者が声を荒げ再び攻撃を仕掛ける。
「甲龍!龍鱗壁!」
しかし、先程と同じ様にレーザーの光が弾かれた。
「っ!…矢張りですか。空間を固定して防壁を…。」
「その通りよ。でも、それだけじゃ無い!弾けなさい竜爆玉!」
「!くっ…!」
襲撃者の推測を固定した鈴音は更に手を掲げた時、襲撃者の周囲の空間が爆ぜた。
「まさか!圧縮した空間を爆雷に…!」
その様子を見ていたラウラが、驚愕した表情で自分の考えを語る。
「ご明察よ、これが新たな甲龍の力!龍操機構よ!」
高らかに新たな武装の名を宣言した、竜操機構とは龍咆を発展させた武装である。
空間に圧力を加える事が出来る性質を利用して、砲撃・防御・爆雷の三種類の能力を会得した。
「成る程、ですがこれは如何でしょうか?」
爆発に耐えた襲撃者が、今度は離れた所で防衛線を守っていたセシリア達にビットを差し向けた。
「させるか!電雷フェイズ!」
「龍咆!」
ラウラと鈴音が、其々の機体の遠距離攻撃兵装を展開する。
「アハハ。其方ばかり気にしてて良いんですか?」
ビットに狙いを付けようとした時、背後からスターブレイカーの一撃が放たれた。
「くっ!このままでは!」
「ラウラ、アンタは本体を叩きなさい!私は、ビットを押さえるわ!」
「了解した!」
鈴音の提案で襲撃者に接近するラウラ、そして鈴音も自分の役割を果たすべくブースターを最大出力にしてビットを追う。
「行くぞ。轟雷フェイズ!」
再び轟雷フェイズを発動して襲撃者との距離を詰める。
先程と違い、後ろからの攻撃を気にしなくていいがその代わりブースターの機能不全の状態から完全には復旧出来ていない為に十分な速度が出ない。
辛うじて修復が間に合ったブースターを最大限稼働させて、如何にか追いついている状況である。
「遅いですね~。さっきに比べれば、大分スピードが落ちましたよ。」
ラウラの機体状態を知ってか、逆上を誘って煽って来るがラウラは冷静に切り返した。
「ふっ、それは済まなかったな。さぞ退屈だろう、だが私に付き合って貰うぞ。」
「…ふふ、ふふふ、ア~ハハハ、そうで無くては、潰し甲斐がありませんね~。」
誘いに乗らないラウラに、狂った様に笑い猟奇的な笑みを見せると急停止して振り返る。
「逃げてばかりも退屈ですし、少し遊んであげましょうか?」
「これはこれは、態々此方の都合に合わせてもらうとは…光栄な事だ、では私はその誘いに乗らせてもらおう!」
明らかな挑発にも動じず逆に煽り返すラウラ、その一瞬の後激しくぶつかり合う両者の戦いが始まった。
ブースターが不調とは言え今のラウラはインファイトでの戦いに優位に成っている、一方のサイレント・ゼフィロスは元々は射撃特化の近距離を不得手としている機体だ、それでもラウラと互角に渡り合っているのは偏に操縦者の技術がそれだけ高度である事を意味している。
迫るラウラの右拳をスターブレイカーの強度に優れた部分で受け反対側からレーザーナイフを奔らせる、それを左腕で防ぎ左拳で弾くとがら空きの胴体に打ち込む、しかし当たる直前に体を後ろに逃がして直撃を回避して間を開けた、それの隙を突く様に左右に浮遊する複合ユニットをプラズマカノンモードに変えて打ち出す。
一瞬でも気を抜けばそれが致命的なミスに繋がる息の詰まりそうな攻防、互いが互いを仕留める為に繰り出され続ける一撃は二人の間に割り込む隙すら与えない程に威烈で圧倒的だった。
「楽しいですね!此処でこれ程の戦いが出来るとは思いませんでした!」
本当に心の底から戦いを楽しむ戦闘狂の様な発言にラウラも心の中でたじろいだ。
顔の半分を仮面で隠している為、口元しか確認出来ないがその口は見事に三日月の様に吊り上がっている。
戦いに魅せられ狂気に取り憑かれた様に両腕を振るい次第にラウラを追い詰める。
『不味い、このままでは…。』
『やあ、お困りのようだねマスター。』
勢いがました襲撃者の攻め手にじりじりと押され始めた事で内心で焦るラウラの意識の中で唐突に愛機のコア人格が語り掛けて来る。
『シュヴァルツェア・レーゲン⁉何だこんな時に!』
『薄情だな~。まぁいいや、ねぇこの状況が不味いって思ってるんだよね。』
見た目に似合わず剽軽な性格の相方に、何を当然な事をと苛立つ。
『どうどう。落ち着いて、この状況を打開出来るかも知れない方法が有るんだけど聞きたい?』
『!どんな方法だ、教えろ!』
相方の衝撃的な問いに、藁をも縋る思いで聞き返す。
『あぁ、良いよ。だけど先ずは落ち着いて。』
『…分かった。これで良いのか?』
『うん。まだ少し慌ててる様だけど、その状態で聞いて。』
『うむ、それでその方法とは何だ?』
『単一能力って知ってる?』
『あぁ…まさか…⁉』
『うん、使えるよ条件を満たしたらだけど。』
『条件?』
『そっ。二つ満たさなきゃならない条件が有るんだ、一つは冷静である事で二つが人機一体である事。』
『それならもう、満たしているだろう?』
『いや、私達はまだ完全に一つには成り切れてない。』
相方の発言を聞いて反論しそうな成るが、その前に続きを語られる。
『君はまだ私を受け入れきれてない、それどころか恐れてすらいる。』
後に続いた言葉はラウラを黙らせた。
『VTシステムの時の事を引き摺っているのは判ってる、あの時は私にも如何にも出来なかった。』
沈痛な感情が語られる声から流れ込んでくる。
『でも今は違う、君も以前より格段に強くなった体だけじゃない心も…だから、もう一度だけもう一度だけで良い。私を信じて心を開いて欲しい!』
共に在りたい、今度こそ本当の意味で共に強くなりたいと心に訴えかけ来る思いにラウラの心が揺れ動く。
『…本当に、信じて良いのか?』
『勿論!今度こそは大丈夫!』
『判った、私の全てをお前に託す!』
『ありがとうラウラ…。』
ラウラが心身ともに愛機に身をゆだねた時、脳内にある情報が流れ込んで来た。
「単一能力【アウゲンブリック】…刹那か、成る程な。」
ラウラは目の前の情景を見て一人、単一能力の効果に納得した。
先まで流れる様に見えた相手の動きが、今はスローモーションを見ている様にとてもゆっくりと視覚出来ていた。
実際はそうでは無いが、それでもラウラの感覚からしたら止まって見える程ゆっくりと動いてる様に見えている。
だからこそ受け止められるし受け流せる、相手が動くより先に攻め手を潰せる。
さっき迄とは全然違うラウラの感覚が鋭い動きを可能にして、反撃に移る余裕すら与えていた。
今の彼女は雷だ、闇を討ち悪を蹴散らす電光だった。
ラウラ「見える…見えるぞ!」
ラウラの単一能力は飽く迄も動体視力を上げるだけです。