彼女と普段から接触を持っている人間が見たら、間違いなくギャップに戸惑うであろう年相応な雰囲気を醸し出す幼い人影。
織斑家の次女、円夏は視線を忙しなく動かし落ち着かない様子を見せていた。
姉の職場であり、兄の学び舎であるここIS学園に編入できた事にいまだに実感を感じらないらしい。
もっとも彼女の年齢から言えば繰り上げ入学といった方が適切かもしれないが。
「ここがIS学園……私、本当に入れたんだ。」
「あぁ、私たちの同志としてな。」
「ッ!誰?」
誰に言った訳でもない独り言に返事が返されて驚き、思わず声を荒げて声の主の方に体を向けた。
「いい気迫だな、流石は織斑家の血筋か。」
そこには片目を眼帯で覆い銀髪の小柄な女生徒とボーイッシュな雰囲気とあどけなさの残る金髪の美しい女生徒の姿があった、その容姿に該当する人物などこの学園においても僅かしかいない。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……さん、それとシャルロット・デュノア。」
「流石に、顔と名前は知っているか……気軽にラウラと呼んでくれ、私も円夏と呼ばせてもらう。」
「僕は、シャルでいいよよろしくね円夏ちゃん。」
「はい……それで、ラウラさんとシャルさんはどうしてここに?」
「さんは、要らないんだがな……まぁいい、用件は隊長からの言伝を伝えに来た。」
「伝言?」
「うん、でもこれは数馬くんに伝えられてる筈だよ。」
円夏の返しに若干不服そうな顔を見せたラウラは、表情を引き締めて向き直る。
「数馬ならびに円夏両名には、急な試合を此方の勝手で組んでしまい申し訳なく思う。しかし、君達二人にはどうしても今日中に全校生徒の前でその実力を示して欲しかった。何故ならばこのIS学園は良くも悪くも実力主義だからだ、それ相応の実力を示した者には誠意を示すが実力が伴わない者には何処まで冷ややかだ、従ってこの試合は両名の学園生活が実り有るものかどうかを決める試合でもある。」
「兄さん、やっぱり私たちを気づかってくれたんですね。」
薄々は気が付いていたが、それでも態々部下を伝言の為だけによこしてくれた兄の気遣いに心が温かくなるを感じた。
やはり会えて良かった、昔のように植え付けられた憎しみだけで対していては今この心情を感じる事が出来なかったのだから。
『真冬……。』
だからこそだろうか、組織を抜ける時に連れて来る事が出来なかった妹の姿が脳裏を過ぎる。
「……今まで気になっていたんだ、この間のサイレント・ゼフィルスの操縦者は妹か何かか?」
「はぇ?」
暗い顔になっていた円夏は、唐突にしかも今考えていたことを質問され驚いて気の抜けた声を出す。
「もっもうラウラ!ダメじゃないか、隊長も気にしても触れなかった事なんだから。」
「む?そうなのか、それはすまなかった。」
「ごめんね、気まずいこと聞いちゃって。」
無神経な質問をしたラウラを、シャルロットが窘めると彼女は無視訳なさそうに謝った。
「いえ、ここに来たのなら何れは知られていたと思いますから。確かに、サイレント・ゼフィルスの操縦者は私の妹です。」
別段隠すつもりもなかったようだ、質問されれば答えるつもりあったらしく素直に白状した。
「やはりか、真冬と言ったな。」
「僕は、直接相対したわけじゃないけど話を聞く感じだと相当強かったらしいね。」
「はい……私達は、幼い頃から組織の施設の中で暮らしていました。そこは、お世辞にも子供がいていい環境ではなかったんです。他者を害する悪意と私生活が同居していて、でも私達はそれをおかしいとは思わなかった。」
「「……。」」
静かに語りだした、円夏の話を黙って聞く二人を前に続きを話す。
「私達にとって、それが当たり前だった人を傷つけることも人から何かを奪うことも……気が付けば、私は心身とも荒み抜身の刃みたく心は空っぽにになっていたんです。妹の存在は、競り合う為の相手で身内という意味では認識できなくなっていました。」
あの頃を思い出したのか、沈痛な面持ちで部屋の隅を見たそこには嘗ての冷酷な自分の姿が見えていた。
「どれだけ奪っても倒して、満たされないどころか空虚になっていました。それでも、自覚はないとしても多少なりとも家族の情はあったのか妹と過ごした時だけは少し満たされたんだと思います。」
すぐ近くにいた時は気付かなかったが、こうして離れ離れになると自分がどれだけ真冬に助けられていたかと思い返される。
時にぶつかり合い、怪我をすれば心配もした千冬と一夏に出会えた今はさらにその思いが強くなっている。
「ボン太くんと出会って、いろんな価値観に触れてそこには他人から奪ったものは無くて、全部が全部じゃないけど好きなものを共有して影響を受けてそこから自分で創造して、それまでの私からしたら未知との遭遇でした。」
自分が暮らしている世界とは違う、そんな世界を目の当たりにして当時は困惑したものだと懐かしむ。
「けど、不思議と拒否感はありませんでした。それまでとは全く違うのに、その時はただただ心地よくて暖かかくて……。」
そしてその価値観に触れた後で今度はそれまで自分を鑑みた時、己の中には自ら生み出したものがただ一つを残して何もない事に気が付いてしまったのである。
姉と兄を恨む憎しみも奪わなければ保てなかった己の価値観も傷を負わせなければ持てなかった自己価値も、結局は他人に刷り込まれただけの紛い物だった、では唯一自分のものだと主張できるものは何かと問うとそれ妹への否家族へ向けた思いだった。
それを自覚した時、円夏のそれまで築いていたと思って来たものは脆く崩れ代わりにその土台に隠されていた信念が姿を見せた。
「それを見出した時にはもう、あの場に留まりたいなんて思えなくなっていました。だから、抜けようって考えたんです。こんな私だから、ここを出て行き場所なんてないってわかっていましたでも一瞬たりも居たくなかったんです。」
そして、スコールとオータムと共に逃亡したあの日、真冬も一緒に連れ出そうとした円夏の想いは届かず妹は今も組織の中にいる。
「あはは、因果応報ですよね。これまで散々家族扱いしてこなかった私が急にお姉ちゃんぶるなんて上手く行くわけなかったんです。」
自嘲気味に、己の浅はかさを嘲笑する円夏。
「……円夏、私には生き別れの姉が居るんだ。」
「えっ?」
さっきまで無言だった、ラウラが徐に自分の生い立ちを話す。
「安否は分かっていないがもし再開できたなら私は嬉しい、だがそれが出来なくとも生きていると分かるだけいい。家族っていうのはそう言う者じゃないのか?」
「僕は兄弟はいないけど両親はいるよ、とは言っても最近まで意思疎通なんてまるでやってこなかった。今のお母さんは、僕とは血縁が無くてね所謂妾の子みたいなものだったんだ、恨まれているの憎まれているのそれとも妬まれているのかってどうしても悪い方向に考えてしまったんだ。実際は、真逆でずっと心配もされてたし愛されてもいた。」
「はぁ。」
ラウラに続きシャルロットも身の内を明かす、それを呆然と聞いたいた円夏は生返事を返す。
「円夏ちゃん、僕は家族だからって無条件に信頼し合える訳ではないと思う、でも心から思いを伝えられたらきっと伝わると確信できるのも家族なんだ。一回ダメだったから諦めるの?諦められるの、その大事な妹さんの事を。」
「っ!」
シャルロットに問いかけられ息を呑む円夏、確かに諦めきれていない今もこうして残してきた妹を思うと張り裂けそうな自分が居る。
「諦め……きれません、だって真冬は大事な妹だから姉さんや兄さんと同じくらい愛してる家族だから……!」
「そうか、なら諦めなければいい。」
「うん、これから幾らでもチャンスはある筈だよ。何せ、君は彼女と相対する立場に立ったんだから。」
「……はい!」
迷いを振り切り諦めを捨てた瞳は、もう自嘲的な意思はなかった。
やがて試合時間が近づくと二人は何も言わずにピットを後にした、今円夏の胸の中には願いがあるどんな妨害でも壁でも阻めない願いが。
「ベータ、私決めたよ真冬を必ず私たちの元に連れてくる。もう、あんな場所には置いてきぼりには出来ない。」
『そうですか。では、私はパートナーとして円夏のサポートをします。』
「ありがとうベータ。じゃあ先ずは、この試合を全力で戦おう!」
『了解です。』
「リベリオン!」
決意の籠った声で愛機を呼び出した、円夏は静かにカタパルトの外に居るBボン太くんを見据えた。
「ふもっふ!」『行きます!』
気合の籠った声で勢いよくアリーナ―へと躍り出るのであった。
円夏「待っていて真冬、私は絶対に諦めないから!」
次は、遂に模擬戦です。