今まさにアリーナは緊張に包まれていた、両雄並び立たず赤い情熱と黒い信念の対決の時が刻一刻と迫っている。
この場居る者の目は一様に品定めのするように、カタパルトに注がれていた。
その様子を放送室の中から眺める楯無と一夏は、満足気な表情をしていた。
「集まったわね一夏君。」
「えぇ、狙い通りです。」
この試合の仕掛け人である二人は、一般席に居る訳もなくアリーナを一望できるこの放送室に入っていた。
今この時も、アリーナの入場口には人が入ってきているのだから二人への関心が高いことを意味していた。
「さぁ、そろそろ始めますか。」
「ok!一夏君!」
マイクのスイッチを入れて、楯無がアリーナ内に向けて音頭の声を上げた。
「お集りの生徒の皆さん、お待たせしました!これより、防衛部新メンバー二人による模擬試合を始めます!実況は、生徒会長兼防衛部司令の私更識楯無が。」
「解説は、防衛部部長兼隊長の織斑一夏が担当します。」
放送が流れ出すと生徒たちも高揚した様に騒がしくなる。
「さぁ、先ずは本日の主役の二人に登場してもらいましょう!」
そう言うと片側のピットから赤い機体色が鮮やかなボン太くんが勢いよく出撃してきた。
「その身に纏った赤は情熱の色、燃える勇気をその名宿すアルビノ型3号機にして史上初男性対応型ISコア実験機ブレイブボン太くん!操縦者は、織斑一夏が好敵手と呼ぶ男~御手洗数馬だぁ~!」
ブレイブボン太くんの登場で、会場は大いに沸き上がる。
歓声に応えるように腕を全面で交差して力強く腰横に振り下げ片腕を突き出した。
その様は、見る者にこれからの活躍を期待させるに十分だった。
「続けて行きましょう。黒を纏う信念の戦士、運命に反旗を翻すのは同じくアルビノ型2号機リベリオンボン太くん!操縦者は、出自経歴一切不明しかし織斑の血統であることは真実ブリュンヒルデの妹織斑円夏~!」
その口上を聞いていた観客たちは一様に疑問符を頭に並べた、ブリュンヒルデの妹つまり最強のもとい織斑千冬の妹とは一体っという、直ぐには受け入れられない情報がついさっき楯無の声で唐突に聞こえてきたのだから無理もないが。
その会場の空気を余所に、反対側のピットから黒いボン太くんが姿を見せた。
レべリオンボン太くんが登場したことで観客たちは一旦思考を中断する、審議の有無はこの試合の中で決めようと思ったのかもしれない。
「さぁ両者揃いました、これよりルールを発表します。試合時間は30分、それまで決着が付けばそちらの勝利ですが、決着が付かなければエネルギー残量に関係なく引き分けとします。」
楯無の説明では、勝敗を決めるための戦いではなく実力を示すための試合である事が読み取れる。
「では、試合を開始します。両者戦闘態勢に入ってください。」
楯無からの指示に従い、数馬は大楯とバトルアックスを呼び出し円夏は対物ライフルを装備した。
「「ふもっふ。」」『『よろしくお願いします。』』
「はじめ!」
両者が、互いに向き合い礼をしたことを合図に楯無が試合の開始を宣言した。
「ふも!」『仕掛ける!』
先に動いたのはBボン太くんの方だった、楯を全面に出して防御を固めRボン太くんの特攻を仕掛ける。
「ふもっふ!もっふー!」『牽制します!ターゲット!』
それの反応して、牽制射撃を開始するRボン太くんの砲撃を直撃を避けつつ距離を詰めるBボン太くん。
「早速動きがありましたね、接近戦を仕掛けるようですが大楯を装備してるとはいえ対物ライフル相手には分が悪いのでは?」
「そうとも言い切れません、Rボン太くんは特殊戦闘に対して有利になるように調整・制作されましたがBボン太くんは一対一を想定して調整された機体です。それ故に、格闘能力は通常よりも高く設定されています。」
「成程、では敢えて遠方から打ち合いより自分の機体に有利な間合いで戦おうとしていると。」
「はい、ですがそれでも攻撃のリーチと言う面ではやはりRボン太くんに利があいます。これをどう攻略するかが試合の肝でしょう。」
まだ5分も経ってないが試合は早くも白熱しだす、Bボン太くんの的確な回避でじりじりと距離を詰めたかと思えばRボン太くんは回避を先読みして進路を塞ぐように砲撃を続ける命中させることよりも妨害に徹した動きの中に確実に当てよとした本命が混じっていた、一進一退の攻防が観客を引き込み釘付けにする。
この試合に、勝敗は関係ないだがどうせなら初試合は白星を飾りたいそんな、二人の想いが衝突してチリチリとした火花の幻影が見えるほどの静かな接戦が繰り広げられる。
しかし、的確な弾幕を越え遂にBボン太くんの間合いまで接近されるとRボン太くんの劣勢が明らかになった。
「ふも!」『捉えた!』
大楯を対物ライフルの方針に滑り込ませ銃口を外側に逸らすと、バトルアックスの重い一撃を叩きこむ。
「ふっ!ふもっふ!」『くっ!なんの!』
「ふも?」『何?』
咄嗟に、対物ライフルを話して体と斧の間に閃光弾を挟ませてピンを引き抜いた。
一瞬強い光が発生して、Bボン太くんの視界を塞いだその間にRボン太くんは再び距離を空けて追撃を逃れた。
「上手い!Bボン太くんに取り付かれた時は確実に決まったと思いましたが、咄嗟とはいえ閃光弾を使用したのはいい判断でしたね。」
「はい。距離も話すことが出来ますし、何より追撃を封じることが出来たのは大きいです。ですが、この一瞬でどうに生かさなければ再び窮地に立たされます。」
「では戦況は依然としてBボン太くんの優位のままと言うことですか?」
「そうなりますね。」
実際にRボン太くんは劣勢だった、距離を離せたとはいえ今だにBボン太くんは健在で今は視界保護のためにカメラを停止しているとはいえ、視界が回復すればまた組み付かれる事は明らかなのである。
「ふも……ふもっふふーも!」『仕方ないかな……やるよベータ!』
『了解、準備はできてます。いつでもどうぞ。』
「ふももふーっも!」『黒蜂形態発動!』
『モードノワールアベーユ発動!』
アルビノ型ボン太くんが形態を変える時に放つ、強い発光が始まり観客たちは慣れた様子に遮光レンズで目元を覆う、そして光が収まる頃に遮光レンズを外して変化したRボン太くんはを観察した。
『モードノワールアベーユ、アクティブ!』
「びーもっふ!」『押し返します!』
蜂の意匠が強く全身に黒と灰色の混じった黄色が印象的な姿になったRボン太くんは、手にニードル型の収束ビームキャノンを装備し、背部に羽根の形をしたブースターに何やら六角形を六つ繋ぎ合わせたユニットが二つ懸架していた、臀部からは開閉式の制御ユニットらしき蜂の腹部を思わせる物が追加されている、頭部も例のごとく蜂をイメージしたヘッドギアが装着された。
「遂に来ました、アルビノ型の代名詞形態変化!これがあるからこそ、現在IS業界でもボン太くん型が最強と目される一因ですね。」
「えぇ、ですが様々な戦局に対応できるが故にアルビノ型は総じてピーキーな機体です。これをどううまく扱うが操縦者の技量に反映されます。この形態が吉と出るか凶と出るかは分かりません。」
「ふもっふ。」『来たか。』
この試合中に形態変化が来ると予測を立てていたBボン太くんは特に慌てることはない、しかし警戒は厳にしていた。
「びーびっふ!」『ハニービット!』
『ハニービット展開します。』
背部に懸架されていたユニットが外れ、浮遊しながらRボン太くんの左右に陣取ったそして六角形の部分からミツバチ型のビットが放出される。
Bボン太くんを包囲するように展開して、母体であるRボン太くんの指示を待つ。
「びーっふー!」『攻撃開始ー!』
「ふっも!ふも!」『ビットか!くっ!』
一つのユニットに六機のビットが装備されそれが二つずつで十二機で全機展開しての包囲攻撃が開始された。
逃げ場など無いそれでも躱せるものは躱し、どうしても回避できないものは大楯て防ぎバトルアックスで払い除ける。
普通の機体であれば十分絶望的な状況でも、Bボン太くんにとっては対処可能な程度であった。
「びーもびっふびーふもっふ……びーも。」『やっぱりこの位じゃ落とせないか……ベータ。』
『パターンの照合を完了、ハニービット全機と本機を円夏の脳波とリンクさせます。』
「びっふびーももっふびーももびーっふびびーもっふびーもっふ!」
『攻撃パターン構築完了、射線予測値数確認、全機データリンク完了、オールコントロール!』
暫くの間、攻撃が緩慢になりRボン太くんの動きも止まって謎のコードを入力し始める。
「ふも?ふっもふ……。」『うん?何をするつもりだ……。』
さっきまで激しい弾幕から一転して、急に静かになったレーザーの雨に警戒するBボン太くんは訝しそうにRボン太くんの動向を探っている。
「びーもっふ!」『サイキックフェイズ!』
『サイキックフェイズ、発動を承認します。』
臀部のユニットが展開し、幾つもリングの様なパーツが回転するとハニービットたちがそれに呼応するように忙しなく動き回りだす。
「ふも!」『来るか!』
「びっもふもっふーーーー!」『タクティカルレイドーーーー!』
再度攻撃が来る事を読み防御を固めるBボン太くん、だが今度の攻撃は真っ直ぐに飛んでこなかった。
「も……ふ!」『何……だと!』
防御の隙間を縫うように、ビームが歪曲し躱してもヒットする防御してもすり抜けてまたも当たる、十二機のハニービットが複雑に動き回り、ほぼ一歩的に撃たれ始めた。
「一夏君!これって、一体?」
流石の楯無も同様した様子で隣に座る一夏を見る。
「……あれが、特殊戦闘特化機能か。」
Rボン太くんは、元々はEUミスリルの総合研究所で研究開発が行われていた試験機である、そのためEU各国にある支社からの実戦データを含めた様々な技術のフィードバックを受けて制作され、最後に愛子の手で調整された言うなればEUミスリル全体の最高傑作とも呼べる機体であった。
その為、基本構造こそAボン太くんと共通しているもの機能面は全くと言っていいほどにオリジナルと乖離していたのである。
現在世界各国が開発しているISの独自技術の殆どは、元を辿れば社長自らが所長を務める総合研究所から各国に売却されたものであることもその理由の一つではあった。
「ふも……ふもふーもっふ!」『このままでは……ガンマこちらもやるぞ!』
『了解しました。』
「ふーふーふーもっふーーーー!」『赤獅子形態発動----!』
『モードオラーンアルスラン発動!』
「びーもっふ。」『やはりそう来ますか。』
遂に発動されたBボン太くんの形態変化、眩く輝くBボン太くんは光が収まると鬣が雄々しいライオンの装甲を身に着けていた。
『モードオラーンアルスラン、アクティブ!』
「がおもっふーーーー!」『荒ぶるぞーーーー!』
その前身にAボン太くんの白隼形態時の主力装備であるフェザーシールドと同じ機能を有する装甲で固め、ライオンの頭の意匠が特徴的なヘッドギアの後頭部から背面更には顎下に延びる鬣が勇ましさ醸し出していた、主力装備として大型ブレードシールドが装備されている。
「……っは!おぉっと、ここでBボン太くんも奥の手の形態変化を使用してきた!」
「ふっ、漸くか……どの様な機能を持つにせよ、状況が見えなくなってきました。」
「はい!会場の皆さんも、大変興奮されてるようです。」
「試合時間も20分が過ぎました、そろそろ大詰めでしょう。」
一夏の言葉が示した通り、残り時間は10分をきっていた。
「びーもびーびっふ……びーっふ。」『これで同じ土俵……ですね。』
「がおっふがーおっふ……がーおふーも!」『退屈させたな……全力で行くぞ!』
「びー!びーびもっふ!」『はい!ハニービット!』
両者が形態変化を遂げた事で、試合は最後の盛り上がりを見せる。
双方が動きを止め睨み合うと、今度はRボン太くんが先制した。
ハニービットと本体のビームキャノンによる弾幕で牽制して見せると、それをBボン太くんはもう避けることもせずに受け止めビームを吸収してエネルギーを蓄えると鬣パーツが金色に光り輝く。
「びーもっふ……びーふもっふ!」『ビームはダメ……じゃあこれなら!』
『ワスプスティンガー、ネストビットに換装しました。』
「びーふー!」『ファイヤー!』
ハニービットを収容していたネストビットから、今度は誘導式ミサイルが打ち出される。
「がおっふ⁉がーおもふー!」『実弾も打てるのか⁉だがそれでも!』
『エネルギーチャージが完了しました。』
「がおーもっふー!」『バーストフェイズ!』
『バーストフェイズ発動、フォースフィールド展開。』
Bボン太くんの本体から球状になるとように、エネルギーフィールドが発生しワスプスティンガーの直撃を阻む。
「一夏君、もしかしてあれも?」
「お察しの通りです。とは言っても、Bボン太くん自体はモンゴルにある第二総合研究所の出ですが。」
「……ねぇ、ミスリルって一体幾つ研究施設を持ってるの?」
「正確に把握しているわけではありませんが、大型施設だけで約500でしょうか?IS以外の事業もやっていますから。」
「あぁ、そうなんだ……。」
巨大企業なのは知っていたが、まさかここまで規模が大きいとは思わなかった楯無は呆然とした。
「そろそろ試合も終わりですね。」
「……えぇ、そうね。」
表情を変えずアリーナに視線を送り続ける一夏の横顔を見て、楯無は末恐ろしさを感じつつ返した。
試合時間は残り五分を切った、行きつく暇もない怒涛の応酬もそろそろ決着を着けなければならなくなってきた。
『口惜しい、これが公式の試合なら。』
『ここまで、気分が上がる試合は久方ぶりです。』
ここまで戦ってきた二人にも、名残惜しいと感じる感情が生まれ始めていた。
『だが試合の終わりも近い、ならば責めて最高の一撃で勝負がしたい!』
『私の全力を、ぶつけてみたい!』
思うことは同じだった、この試合の最後に互いのすべてを出し切った攻撃を仕掛ける事が互いへの敬意であると理解した二人は最後の一撃を放つ準備を始める。
「びーもっふ!」『ベータ!』
『ネストビット、パワーゲートモード。』
ハニービットを格納したネストビットが、六つに分離してRボン太くんの目の前でビーム増幅フィールドを展開した。
「びーもっふふーもびーもっふ!」『ビームスピア展開良し、行くよベータ!』
『エクストラアタックコード、[ホーネットスクリュースピアー]発動!』
ヘッドギアを下ろしネストビットが展開しているフィールドを、ビームスピアーを構えて突き抜け螺旋状の光を纏ってBボン太くんに突貫する。
「がおっふがーお!」『ガンマ俺達も!』
『了解!エクストラアタックコード、[ライオネルパニッシャー]発動!』
Bボン太くんを包むフォースフィールドが獅子の形に変化し、ブレードシールドをバスターセイバーモードに換装して此方も突撃する。
それから衝突すまで、それほど時間を要しなかった。
「びーーーーーーもっふーーーーー!」『ホーネットスクリュースピアーーーーー!』
「がーーーーおっふーーーーー!」『ライオネルパニッシャーーーーー!』
互いの力と維持がぶつかり合い凄まじい衝撃が会場を揺らした、強者同士の試合が見応え有る物だと認識では知っていた、しかし体感で感じる衝撃は想像をはるかに超え闘争本能を否応なく駆り立てられる、疼くのだ心がそして体が熱を持って暴れだしたくなるのだ。
そして、その熱の中心にいる二つの衝撃は互いの力を受け止め合い静かに収まっていった。
全身全霊の一撃を受けて尚、二人は健常であった。
「試合時間終了、現時点を持って両者のエネルギーが残ってる事により引き分けとします。」
「「ふもっふ!」」『『ありがとうございました!』』
深い礼の後、この試合を両者の健闘を称える声はしばらく間止む事は無かった。
「山場は越えたか……。」
長い!只々長い!