例年と違い各国より送り込まれた代表候補生たち、この状況を利用して今年のキャノンボールファストが異例の個人ではなくチーム別リレーとなった。
個人競技から団体競技へ変更は学園内外を大いに賑わせ、特に各国に政府やIS関連企業からはどの国の代表候補生とチームを組むのかと言う内容の問い合わせが各々の候補生に送られていた。
「ふぅ……行きなさいブルーティアーズ!」
ここにルアド・ロエサの訓練場にて自主練の精を出すセシリア・オルコットにもそれに順じた内容の連絡が来ており、これに中国の鳳 鈴音と台湾の鳳 乱音とチームを組む予定だと回答していた。
そう言う事で今頃は本国では、彼女の指名した二名の所属国の関係者と打ち合わせの真っ最中と思われ、事実この三国間でのIS関係者を始め各界の要人の接触が増えてきているらしい。
そんな最中にあって、当事者のセシリアはキャノンボールファストに向けての自主練習に興じているかと思えばそうではない。
「そこですわ!曲がって下さいな!」
そう彼女が命じたビットから照射されたレーザーは彼女の願い通りに曲がらず、直線のまま照射されていく。
「やはり……駄目ですの?」
目の見えて分かる程の焦燥感の溢れるセシリア、その原因はやはり学園祭での襲撃犯と対テロ組織の補強要因といして編入してきた一夏の妹円夏二人の存在があった、彼女たちが行使したフレキシブルと称される機能はセシリアの愛機ブルーティアーズにも内蔵され理論上は発動可能とされている、だが飽く迄理論上の話で実際彼女はブルーティアーズを受領してから一度も発動できていなかった。
「焦っていけないと……分かってはいるのですわ、だけどああも目の前で自分が出来ない事をされては……。」
この学園に来てから幾つものカルチャーショックを受け、その都度心境が変化していたセシリアにもこれだけは譲れぬと思っていたものがあった、それがビット兵器の操作練度である。
「一夏隊長もビットを使えると分かってから、これまでずっと前以上に鍛錬には熱を入れて参った自負しておりましたわ、決して操作技術で抜かれない様に……でもその努力でさえ才能の前に無力だと言われた様で、落ち込むなと言う方が無理な話ではないですか。」
ブルーティアーズに備わったビット装備は研究段階だった代物で、強奪されたサイレント・ゼフィロスの方は後発で完成度が高いのだが、そんな事実は今の彼女にとって何の慰めにならない。
「何がいけないのでしょう、わたくしの技術以上に何か決定的に不足している事でも……。」
我武者羅な努力は時間の無駄いかに効率的で的確な方法を早期に見つけ出すか、それさえ出来れば自ずと目指すべき目標を定められるのだが。
「鈴さんもこんな心境だったのでしょうか……そうですわ⁉円夏さんに伺えば何か分かるかもしれません!」
見えない活路への希望を求め思案を続けたセシリアは、つい最近まで焦りの中で足掻いていた親しい友人の事を思い浮かべ不意に妙案を思いつく、なぜ今までそこに至らなかったのか鈴音は自分一人の力だけで殻を破った訳ではない、彼女は一夏に助言を求め見事現状を打破して成長したのではないか、ならば自分もそれに倣い自分より優れた人物の師事を仰ごうと訓練場を離れルアド・ロエサの中で待機しているであろう円夏を探した。
「円夏さん!わたくしにフレキシブルの極意をご教授くださいませ!」
「えっセシリアさん⁉ちょっと、落ち着いて下さいどうしたんですか⁉」
円夏は普段非番の日でも部室として使われてるルアド・ロエサ内の何処かいる、だからセシリアも彼女を見付けるまでに然程時間は懸からず、目的の人物を見付けたセシリアは藁にも縋る想いで懇願しその勢いに驚いた円夏に落ち着くよう宥められ、平静を取り戻すに数十分懸かり。
「あぁ……わたくしとした事が、焦りのあまり取り乱してしまいましたわ。」
「よかった、やっと落ち着いてくれた……それで、どうしてそんなに焦っていたんですか?」
落ち着きを取り戻したセシリアにその焦燥に至る経緯を聞く為、円夏は一呼吸間をおいて話題を切り出す。
「それは……円夏さん、わたくし恥を忍んでお聞きしたい事がありますの聞いていただけますの?」
「……えぇ、いいですよ私でよければ。」
円夏から了承を得て口を開き出来るだけ簡潔に要点を絞りなら自分が抱えた問題と解決しようと行動した結果そして、それらを自覚した上で先だって己の望む技術を見せた円夏の意見を聞きたい事を伝えた。
「ん~成程、質問の内容は理解しました、理解したんですけど……ん゛~。」
大体の内容を理解した円夏は何とも悩まし気に唸り、申し訳なさそうにセシリアに視線を向けた。
「あの……ごめんなさい、その……セシリアさんの仰っているフレキシブルについてはお力に成れないかもしれません。」
「っ!そう……ですの、やっぱりそれはミスリルの独自技術で秘匿事項ですのね。」
本当に残念そうに協力不可の回答を返す円夏に、掴みかけた光明の糸が目の前で途切れた様に表情を暗くするセシリア。
「あっあの!別にそう言う訳じゃないんです!訳じゃないんですけど……なんて言ったらいいのかな?」
『円夏、ここは私が説明を致しましょうか?』
協力できない理由を説明する為の適切な言葉が浮かばずに困り果てる円夏、そんな彼女を援護するようにベータが語り掛けて来る。
「ベータ……うんお願い、私ってこういう経験がないから勝手が分からなくて。」
『了解しました円夏、セシリア様はフレキシブルの技術的操作法が知りたいのでしたね?』
ベータの提案を受諾した円夏、その回答を聞いたベータはセシリアにそう尋ねた。
「えぇ、わたくし自身学園に来る前から何度も試みて来たのですわ、けれども一度も成功したことが無く……それで、前回の試合の時に目の前で実践された円夏さんからヒントを貰えないかと思い立ちましたの。」
『成程、先ほど円夏にもお話しくださった内容と同様ですね、質問の対しての回答が決まりました。』
セシリアの告白を今一度聞いて、その内容に差異がない事を確認したベータはAIらしく簡潔に答える。
『まず先に言わなければならないのは、セシリア様の仰るフレキシブルと呼ばれる技術はミスリルの研究でそのままでは不可能と判断されています。』
「えっ⁉それは、如何いう理由で出された答えですの⁉」
「わっ!」
ベータが出した返答はセシリアに取って衝撃的な内容で、明らかに動揺した彼女は思わず円夏に詰め寄る。
『落ち着いて下さい、セシリア様の心情はAIの私でも理解は出来ます。理由については、光の速度に対して人の思考速度が追い付かない事や、そもそも大気中の微妙な変化に都度対応しなけらばならず屈折させるのに割けるリソースが圧倒的に不足する等の他にも上げれば幾らでもありますが、一番の理由は我々が使う光線を構築する粒子にあります。』
「粒子?それが何故、フレキシブルは実現不可能と結論付ける要因になりえるのですの?」
興奮したセシリアを窘めつつベータは大まかな理由を述べ最後に決定的とも言われる要素を切り出し、その回答の意味をセシリアは要領を得られず疑問符を頭上に幾つも浮かべた。
『我々が普段使っている光学武器と呼ばれる物は、粒子同士を衝突させて生じたエネルギーを放出する事で攻撃力に変えています、ですが反発し合う粒子は加速器の中では確かに密閉されていますが一旦外に出ると霧散しエネルギーも同時に消失する為、ISコアの絶対防御の技術を応用し反発し合う粒子とエネルギーに見えない管を作りそこを通過させているのです。真っ直ぐなストローを思い浮かべてください直線なら閊える事無く液体は通過できますがそれを無理曲げれば?』
「液体は停滞し曲がるどころか、管から溢れて流出してしまいますわね……。」
ベータは簡潔に事実を伝えその技術が如何に困難であるかを伝える、そして説明を聞いていたセシリアも非常な現実を知り落ち込んだ様に俯いた。
『それで今度は絶対防御以外の方法が検討され、結果粒子の周囲に透過性と反射性の高い素材で形成されたナノマシンを密集させる事で見えない管の中間に挟む技法が候補に上がり実際に検証実験も行われ一定の実験結果を出しリフレインと名づけられました。』
「っ!まさかそれが、この前ビームが曲がった理由ですの⁉」
次いで語られた代案について説明を始めたベータ、その内容を聞いたセシリアはここに至って円夏が言葉を濁した理由を察した。
「ふっ……ふふっ、そうでしたのね……そもそも、使われてる技術が違ったから教える事も出来なかった……そういう理由でしたのね。」
「あわわっ!どうしよう、セシリアさんがどんどん煤けて、大丈夫ですよ今度のキャノンボールファストではイギリス政府のIS関係者も来るみたいですしその時に何か進展がありますよきっと!」
ここまでの会話の内容で十分ショックを受けていたセシリアの姿が白けていくように放心して、それを円夏は如何にか励まそうと声を掛ける。
「ふっ……ふふっ……そうですわね、きっとわたくしのブルーティアーズにもそれに準じた機能が追加されるやもしれませんね……ふふふ。」
「あぁ……どうしよう、さらに真っ白に……。」
だが現状では何も出来ないと現実を突きつける結果となり、蠟燭の先の火程の希望の明かりを蛍の光程に減らしてしまう。
「円夏っとセシリアさん?珍しい組み合わせだな、どうかしたのか?」
風が吹けば今にも散ってしまいそなセシリアにしどろもどろするしていた円夏の下に、偶然ルアド・ロエサに立ち寄っていた数馬が気が付き声を掛けた。
「っ!数馬さんいいところに!あの今度のお休み、何か予定はありますか?」
「ん?今度の休みか、確か駅前のCDショップに予約していたCDを取りに行く予定はあったが……?」
セシリアの落ち込み様に四苦八苦する円夏はその場に現れた数馬に救いを感じ、そのまま駆け寄って休日の寄って意を聞き出す。
「そうですか!だったらセシリアさんも誘ってあげてください!このままだと、自分を追い込み過ぎて自重で潰れちゃいそうなんです!」
「お、おぉ……分かった、セシリアさん?あの、今度の休みなんですが……。」
円夏は必死な様相で数馬に懇願して、その迫力に押された数馬は流される様に白みがかるセシリアを休日の逢瀬に誘いに行った。
「た、助かった……あのままだと、本当にどうなってたか……はぁ、あの様子ならもう大丈夫そう。」
疲労の色を濃くする円夏は、離れた場所で数馬の当然の誘いに赤面しながら嬉しそうに受諾するセシリアを見つめ安堵の溜め息を吐いた。