先日、当然の数馬からの逢引きの誘いを受け、それまでの苦悩は何処へやら妙に心が騒ぎ浮かれる自分自身の心に驚かされるセシリア。
「と、とうとうこの日が来てしまいましたわ……!」
似た感覚は以前にもあった、一夏……アルビノボン太くんとの初試合の後も感じた仄かな熱、その時は微弱であったし何より、亡き両親の心象の誤認や今は関わりを断ったとは言え女性権利主義者との扇動もあって男性へ悪印象が心に蔓延っていた。
「思えばあの時、もう既に心に変化はあったのですわね……最も、その後の関わり方でその対象からは外れましたのですが。」
一夏の年不相応な貫禄と落ち着きがどうしても同じ年頃とは思えず、つい年上の兄の様な感覚を覚えてしまい、そして慣れてしまった今一夏を異性として見ようとは思えないのだ。
「数馬さんは最初の出会いから……でしたわね。」
出会いはボン太くんサマーフェスの会場で一夏と共に熱く語り合う姿を見た時から、見ているだけで伝わってくる情熱……一夏も熱い心は持っているが何処か精神力で抑え常に冷静であろうとしているが、数馬は一切抑えようとしていない寧ろ止めることなく感情を燃やしている、その情熱の熱波がセシリアの心の琴線を揺らした。
「出会った順番は一夏さんより後なのに心に与えた影響はそれ以上……出会いに順番は関係ないのですわね。」
気付けば視線は彼を追う、些細な仕草や一夏と見比べても頻度の多い年相応な子供らしさに胸が高鳴る、自分が精神的にまだ幼いが故に達観した存在より身近に感じてときめく。
「思えばわたくし、今まで一度も年齢に見合った行動を取れてこなかったのですのね。」
恋は相手が上で下でもダメ一夏の言う決闘感と同じ対等だからこそ成り立つ感情なのだ、両親を失い詰め寄る欲塗れの大人と渡り合うには子供らしさは抑えねばならない、これまではそうだっただが日本に来てIS学園の門をくぐってからは同年代の友人や同好の士そして尊敬できる相手と恋慕を寄せる人、思春期の少女らしい充実した日々があった。
「この短い期間に色々ありましたわね……楽しい事悔しい事悲しい事腹立たしい事それと嬉しい事、これまで経験できなかった事が沢山、短期間でこれでしたらこれからはもっと沢山……その為にも、わたくし達がこの学び舎を云え世界を守らねば!」
行き詰って忘れていた、何故そこまでの強さを求めるかを自分が国の代表候補だから?違う、思い出の詰まったこの場所を守りたいからだ、害する者たち個人か組織なんて関係ないここは侵されざる領域心の拠り所でありこれからの出会いと別れの中継地点、多くの未来ある若者が友と出会い少し先の未来では男子生徒も通えるようになるかもしれそしたら恋だって芽生えるかも、その光景を思い浮かべると心が温かくなる……だからさせない、この場所のこれからは奪わせない誰も誰からも!
「干渉に浸っているところ悪いんだけど、時間は良いのセシリア?」
「……えっ⁉もうこんな時間ですの⁉早く出なくては待ち合わせに遅れてしまいますわ!」
ずっと一人の世界に居たセシリアは空気を呼んで声を掛けなかった同室の鈴音の言葉で意識が現実に戻る、そして意識を外に向け時計を確認すると待ち合わせ時間が迫っていた事に慌てだす。
「ありがとうござます鈴さん!行ってきますわ!」
「うん、楽しんで行ってきなさい。お土産話を期待しているわね~って行っちゃた……やれやれ、すっかり恋する乙女になっちゃって。」
慌てて部屋のドアを開け待ち合わせ場所へと向かったセシリアの背を見送り、鈴音は一人ごちる学園で出会った一番親しい友人達のおそらく人生初の恋路を静かに暖かく見守る、どうかその恋の先が幸多い事を願って。
そんな友人の心持ちを知ってか知らずか待ち合わせ場所の駅前には、いつもより着飾った服装の出で立ちの数馬はここに来て強い緊張感を感じ顔を強張らせていた。
『円夏に言われて何も考えずに誘ったが、これは所謂"デート"では?』
同室の一夏に今日の事を話せば少し待たされ洒落た服を手渡され、途中であったシャルロットには髪を直され、ロランツィーネに出くわして香水を勧められ、終いには布仏姉妹&楯無に持っていけと動植物園の入園券を渡された。
『いや、セシリアさんには出会った頃からイツモとは違うと感じていたが……コレがそうなのか?』
以前に一夏は言っていた恋は偉大だと誰かに焦がれる事は辛い事もあるがその大半は悦びで満ちている、自分は好きな人が居てその人は自分の人生の大半を共にしてきただからこれが恋なのかは今まではっきりとしてこなかったが口にしてみれば簡単だった、その人の事を考えると自分でも面白いと思うぐらい気分は上ずったり落ちたりするのだと、考えてみると自分もセシリアの事を考え感じるだけで多幸感を覚え危機が迫れば焦燥感に駆られ異性と共に居る事を考えれば落ち込んだり或いは平静を保てなかったり、考えれば考える程に自身の心情の変化を世間一般の言う恋をしたと表される精神状態に類似していた。
「まさか、俺が恋煩いなどと面映ゆい経験をするとはな……。」
「恋煩いですの?数馬さんは誰かに思いを寄せておられて?」
これまでの人生、武術一本で生きて来た彼が初めて意識した異性の存在は彼の価値観意に霹靂となって罅を入れ、むさ苦しく険しいだけの世界に一輪の可憐な花となって明るく染めた、それはボン太くんが現れ存在を知った時以来の変化である、こんなことは二度と起こるまいと思っていた先でボン太くんが切っ掛けで起きた二度目の変化に無性に気恥ずかしさを感じて誰ともいない虚空へ投げたつもりで呟くと、誰も居ないはずの虚空から返答が返ってくる。
「あっ!いや……そうなのかとな?っと言う相手が現れたと言うだけですよ、はは……。」
「……そうですか。」
待ち合わせ時間の10分前に現れたセシリアに気が付きさっき迄思い浮かべていた事の気恥ずかしさからついついぼやかした返しをしてしまうが、彼女は数馬からの回答を聞いて少し悲しそうで不機嫌そうな顔を見せた。
「……あのセシリアさん?ここで立話もいいとは風情があって良いとは思いますがその……そろそろ移動しませんか?」
「え?あぁ、そうですわね。目的地はCDショップでしたかしら?」
溢れ出る幸せを押さえられず喜びを讃えたセシリアが急に表情を暗く曇らせたので一瞬言葉が詰まりどう言葉を続ければと内心焦った数馬は、結局気の利いた言葉が思い付かず場を移すことを提案する事でしか空気を変えられなかったが、内向的になりかけたセシリアにはそれでも十分だった。
そんなぎこちない二人を見守る影が複数……。
「何やってんのよ数馬の奴、セシリアを泣かせたらタダじゃ置かないんだから!」
「しぃー!声が大きいよ鈴音お姉ちゃん、二人に気付かれちゃうよ!」
鈴音と乱音の二人が二人して物陰から顔を覗かせ煮え切らない数馬に業を煮やして静かに語気を荒げる。
「二人とも煩い……静かにして。」
「はわわ~かんちゃんがいつになく燃えてるよ~。」
「本音、これは備考のとてもいい予行練習です。貴女も確り見届けるのですよ。」
「いや、それはオーバーでしょ⁉実際の尾行はこんな大人数で行動しないわよ?いつもと様子が違うわよ確りして虚ちゃん!」
本音の話を聞き後から合流した簪がいつにない真剣な表情で学園と街を繋ぐモノレールのホームに入っていく数馬とセシリアを観察しながら、近くの物陰で騒ぐ鈴音達に静かに注意を呼びかける。
そんな簪のいつもとは違う様子に驚く本音と彼女にも気を引き締めるよう呼びかける虚、当然その場には楯無も居て普段はツッコマれる側の筈の彼女も従者が普段より冷静でない今回はツッコム側に回っていた。
「あはは……キャノンボールファストの準備期間なのに出場選手がこんな場所で集団ストーカーって、客観的に見ると何とも言えないねぇ……。」
「そう言う君はどうなんだシャルロットさん?」
「それは、この人達だけだと良くない男の人が寄ってきそうだしさ。」
「あぁ!それで君も男装姿な訳だね。」
そう和気藹々と騒がしく忍ぶ一団の後ろを苦笑いを浮かべて見ていていたはシャルロットとロランツィーネの二人、女性ばかりで集まって行動すると今の世界でも軽薄な男は近寄ってきてしまうため今日は二人とも男装して男避けに徹するようだ。
「それにしても、マエストロと妹君は今日は不在かな?」
「うん?あぁ、一夏と円夏の二人か!二人なら朝からミスリルの日本支社に欧州のお偉いさんが来てるから会いに行ってくるってさ。」
ロランツィーネは視線を彷徨わせここにいない人物の姿を探し尋ねる、聞きなれない名称に首を傾げたがすぐに理解したシャルロットは探している当該の人物たちは別件の用でいない事を伝えた。
「う~むそうか……今日こそは僕のこの内から溢れ出る想いを伝えられると思ったのだけどねぇ。」
「えっ⁉溢れ出る想いって⁉」
「何よそれ⁉」
ロランツィーネから飛び出た一言でシャルロットと鈴音が反応、シャルロットは唐突に出て来た発言に動揺し鈴音は物陰から飛び出し詰め寄った。
「おぉう、これは聞いていた以上の反応だね……落ち着いてくれレディ、僕のマエストロへの感情は男女のそれを超越している、謂わばリスペクトの対象と言う意味だ。」
「リスペクト⁉」
鈴音に詰め寄られたロランツィーネは彼女の剣幕に少したじろぎ、間を置いてからゆっくり詳しい事情を語り出し、ロランツィーネの言い分に語気を荒げつつ疑問形で範唱した。
「あぁ、あのお方は僕如き一介の人間が傍に立っていい存在ではないさ。」
「……もしかして、君は?」
鈴音の勢いが落ち着いたと感じたロランツィーネは彼女なりの一夏との位置関係を述べ、その言葉の意味を
汲み取ったシャルロットは訝しみつつも何処か確信めいた視線でロランツィーネに問う。
「お察しの通りさ、僕は知ってしまった圧倒的な存在の前には多くを揃えた所で叶わない事にさ……。」
彼女は語り出したあの日、ロランティーネの取って自己価値観を覆された光の存在、ボン太くんを知った日の事を。
「あれはまだ僕が国で暮らしていた時、いつもの様に99人の彼女達と過ごす事を楽しいと感じていた時期の事だった……。」
「ちょっと待て、99人の彼女って何?」
過去の回想を語るロランティーネの言葉の中に無視できないワードが飛び出し、ついつい会話の腰を折りツッコミを入れるシャルロット。
「うん?あぁ、この国に来る前に付き合っていたレディたちの事さ、その時は彼女達と心の底から愛して会えてると思っていたんだけど……あの方の活躍を見て実際にお会いした後だと、そう思い込んでいただけだった気がするね。」
「「はぁ?」」
事も無し気に語った言葉は思いの外インパクトが有った、同性とは言えロランティーネにそれだけ思いを寄せて貰える人望と人気が有ったらしい、しかし今はその恋人たちはこと切れた様で少し寂しそうにはしても引き摺ってはいないようだ。
それでも人数が人数なだけに、シャルロットと鈴音は同時に間の抜けた相槌を打つ。
「それに気付いた切っ掛けは君達に戦いの記録を見せられた時だったよ、あの今年の春のシルバリオゴスペルの件の記録だ。」
「っ!あれって機密なんじゃ⁉」
あの臨海学校の話は当事者だけの秘密作戦であり、当然国家間でも箝口令がしかれ一般には詳細は伏せられていた、だからロランティーネの発言には驚きと若干の焦りを感じた。
「勿論、大部分はカット編集された切り取り映像だったけど、その映像は今や世界中で無数にアップと拡散がされているし、政府も虱潰しの対応しているけど間に合ってないんだ。それこそ、ソースが何処からなのかは巧妙に隠されているし、映像もアルビノボン太くんの活躍が中心だったからね。」
「それ私も見た!何か日本では公開されてない貴重な映像だって触れ込みだったよね?ウサギと人参のアイコンが共通のヤツ!」
「ウサギと……人参……。」
「あっはははは……。」
ロランティーネは日本では閲覧できないとある動画の話をしだして乱音も見た事があると同調した、乱音が語った投稿主のアイコンの特徴に見覚えは無くとも聞き覚えがある二人は苦笑いで流す他なかった。
「話を戻すけど、僕はその映像を恋人の一人だったレディが見ていた携帯端末から偶々見えたんだ……最初は視線を僕に向けて貰おうとしたんだけどね、結果は僕も引き込まれた僕だけじゃないその場に居た恋人たち全員が映像の中のあのお方の姿に魅了され目を離せくなった、圧倒的だった太陽の様に輝いて見えた同じ映像の中に居た登場人物全員が彼に照らされ存在感を持っていた、それでいてあのお方の邪魔になっていない完璧な調和が映像の中にあって……そんなに長くない動画なのに膝から崩れ落ちる程の感動を覚えたよ、それと同時に僕自身の至らなさも自覚してしまった。」
それは長編映画の山場、最も盛り上がるシーンも目を剥く迫力の場面の連続で見ていた当時の衝撃はロランティーネの人生観を根底から変えた、才ある者は引き立て役を作らずとも自ら輝けるその光は多くの羨望と嫉妬を集める人によって崇拝や信仰の域に達する者すらいる程に。
「僕はそれまでずっと自分をよく見せる事に執着して来たんだ、それこそ恋人たちへ愛を注ぐのも愛して欲しかったからだった……でもあの方の在り方は他者を引き立て自らも輝くそんな在り方は、僕の誰かを引き立て役にしなければ輝けない僕とは違っていた、多くの花を並び立てその中心で一人全く別の咲き方をする僕と皆を照らし光の舞台へ上げらるあの方、比べられる筈もない役者が違ったんだ。」
まるで違う生き方、まるで違う存在意義、まるで違う人間性、太陽を裸眼で見て目を焼かれたように視界が明るさで失われた、自身のなして来た行いの全ては他者の光を奪ってできた虚構でしかないと突き詰めてしまった。
「僕の心はあの方の光で一色に照らされて、これまで築いてきた価値観は砂の様に消えてしまったよ……僕がそうだった様に彼女達の心も変えられていた、お互いを恋愛の対象として認識できな程に魅了されて結局99人全員と話し合って別れ、僕は国に掛け合ってこの国に来た憧れのアルビノボン太くんに会う為にね。」
ロランツィーネは言い切った、自身のIS学園の門を潜った経緯をそれまでの生き方を赤裸々に告白して。
「ロラン……ここに一夏が居たらきっと、君と恋人たちの愛はまやかしじゃないって言うんだろうな。」
「そうね、後は強い光に目が眩んだだけ自分だって憧れを追って突き進んだ来た、その結果が今の自分だって言ってね。」
「うん、確実に言う。それから愛を知るっている君なら、きっと君の信じる未来を描き掴む事が出来る筈って締め括ると思う。」
ロランツィーネはまるでこれまでの自分が偽物であったと言っている様だと感じたシャルロット、鈴音そして簪は其々思い思いにここには居ないでも常に存在感を示す一夏の性格を思い浮かべ、彼が話しそうな内容を口々に語る。
「……すごいな、流石は軍神の眷属だあの方の考えている事が分かるのかな?」
「ううん、全然分かんない!」
「寧ろこっちの考えて来る事は、いつも初見である程度見空いて来るから心読めるのかって考えちゃうわよ?」
「それまで読んで普段の発言と行動である程度は察しが付くって言われてビックリした!」
一夏の言いそうなセリフを予測して言いのける三人にロランツィーネは感服しきって問い掛けるが、当の三人は驚くほど清々しく否定した。
一夏の行動はいつもミスリルや独自の筋から仕入れた情報から幾通りもの推察、相手の経歴や普段の生活姿勢から何手先までもある予測から決定と実行が為される、当然の事ではあるが仲間たちのデータも入っているから初見だろうと会話でも戦闘でも的確に対処されてしまうのだ。
「えぇ~、じゃっじゃあ何で?」
「そんな事、考えなくたって分るよ。」
「一夏はね、誰かを否定する事が嫌いなのよ。」
「特に自分で自分を否定する人は、反省は新たな道を見つけられるかもしれないが卑屈は可能性を潰すって言ったりしてね。」
彼は否定する事を否定する、彼自身が自分を信じ仲間を信じただから仲間も彼を信じまた自分を信じた、その共通の信頼感こそが自分たちの強みであると確信していた、だからこそ自分に悲観的な感情を持つ事は自分だけじゃなく信じてくれた仲間も裏切る事だと共通認識を持っているのだ。
「ははは、敵わないなあなた達には……過度な自己否定は却って未来を閉ざすか、また学ばせて貰ったよ。」
「うんうん、多少は自信を持っていた方が得だよ。特に僕たちは候補生でも国を背負ってるんだから。」
「そうよ、アンタだって実力が有ったから候補生に選ばれたって事を誇りなさい。」
「そうじゃないと、私達を選んでくれた国の人達の面目も立たないしね。」
彼女たちはただの学生じゃない各々の国家の要人の指名を受けて派遣された要人、自信過剰も困るが無さ過ぎるのもそれはそれで問題だ、選ばれた人間には選ばれただけの意味があるのだ。
「……あの~皆さん?当初の目的をお忘れでわ?もうセシリアちゃん達もう行っちゃわよ?」
彼女たちが全く別の空気感を漂わせる中、ずっと蚊帳の外で終わるのを待てった楯無が折を見て話を差し込んだ。
「あっ!すっかり忘れてたわ……行先はCDショップだったわね。」
「うん、確かそうだったはず……じゃあ、レゾナンスの中に入ってる所かな?」
「二人の居場所なら、あなた達がシリアスに話し合っている間に虚ちゃんを先に行かせたわよ。そろそろ連絡が来るかも、どう本音ちゃん?」
「ほいほい、噂をすればだよ楯無さん!二人はレゾナンスには行ってないって、えっとねぇ~学園前の街の最寄り駅から三駅目で降りた街のクラシック関係を専門に扱ってるCDショップに入ったみたい~?」
自分達の話に夢中で今日の目的がすっかり頭から抜け落ちていた楯無と布仏姉妹以外の全員が、慌てて目的の二人の足取りを追う為取り敢えず思い付く場所の検討を付け向かおうとすると、楯無が静止を呼びかける普段の姿どうであれ彼女は学園生の代表者だ仕切る時は仕切る。
何なら彼女の家柄的に言えば今回は専売特許とも言える活躍の機会である、ある意味手慣れた事であり従者を使いに出すのも自然にやっている。
「クラシック?なんだか以外ねぇ、彼の性格ならもっと激しい音楽が好きなのかと思ったのだけど?」
「……そう言えば、祖父と父親の影響でクラシックとかオペラあとジャズが好きって言ってたわねアイツ。」
本音が虚からの報告を伝えるとその内容に意外そうな反応をすると、鈴音は数馬がかつて話した自分の嗜好関係の事柄を話題を思い出した。
その数馬たちはと言うと……。
「まぁ!数馬さんもこのピアニストの方のファンでしたの?」
「えぇ、この人の旋律には、こう心に熱いも込み上げて来るんです。」
本格的に盛り上がっていた、実は数馬の生家の御手洗家は家格的には更識家の同格の旧家であり、彼の祖父は界隈では有名な武道家と名士の顔を併せ持つ人格者だったりする、最も彼の親族は総じてみな格式ばった行いは余りせず質実剛健のものを好む人物ばかり、華美な趣味は余り持たず唯一の例外で音楽関係には強い感心を寄せている。
数馬も例に漏れず、能や雅楽も嗜んでいたがクラシックやオペラを祖父から、ジャズは父からの影響で嗜好する様になった。
「静かだけど大人しくない穏やか情熱、血を沸かせるとは違う内からゆっくり温めらるような熱気を感じるんです。」
「えぇえぇ分かりますわ、一見閑静で清らかな泉を思わせておいてその下には沸々湧いて来る地熱の様な温かさが癖なりますの。」
二人の話題にしているのは最近名が売れ始めた少女ピアニスト、何でも海外の著名なコンクールで優秀な成績を残すまで一切が知られておらず、出身地や経歴が出て来ないすべてが謎の少女だが彼女が奏でる音楽は静かに人々を熱狂させていた。
「御手洗の坊ちゃんが女連れで来たから珍しいと思えば、随分仲良さそうじゃない?恋人でもできたのかい?」
「なっ!違いますよ彼女は友人ですよ店長!」
「そっ!そうですわね……わたくしはお友達、タダのお友達……。」
盛り上がる二人に温かい視線を向けていた男性店主が冷やかしの言葉を掛け、それに過剰に反応したのは数馬で慌ててセシリアと関係性を訂正するが、その言葉に静かに傷つき気を落としていく。
「えっ?えっ?ど、どうしたんですかセシリアさん⁉」
「あ~ああ~あダメだね坊ちゃん、女心が分かってない。」
目の見えて落ち込んでいるセシリアに如何していいか分からずオロオロして、店主はそんな二人の反応を面白がる様に揶揄い楽しんでいる。
「まぁ、お若い二人の初々しい反応を見るのもいいんだけどね~坊ちゃん、この後予定はあるの?」
「だから!って予定?……特には無かったかと。」
若い二人があたふたふる様子を眺めていた店長も流石に揶揄い過ぎたと感じたのか、表情を正しこの後に事を聞く。
放心状態のセシリアの介抱に手を焼く数馬はまた揶揄われたと思い反論しようとして虚を突かれ、店長からの問い掛けに少し悩み予定はない事を告げる。
「じゃあ、この先の動植物園で坊ちゃんが好きそうなイベントやってるぞ。折角だ二人で行ってきな。」
「俺が好きそうなイベント?」
「まぁ!数馬さんには他にも、お嗜みの事がありますの⁉」
御手洗家の一家には家族ぐるみの付き合いがある店長なので数馬の趣味も把握していて、彼がボン太くんと音楽以外で好きな事柄も理解している。
セシリアの数馬へ向ける想いを察した店長は、彼女にそれと無く数馬の趣味嗜好を教えるよう話すと、翳った顔を上げて興奮気味に店長に問い掛けた。
「嗜む……っと言えるレベルかは分かるませんが、祖母が活け花の師範を母がフラワーデザイナーをしておりますから、幼い頃から園芸を少し。」
「まぁ!わたくし、母国の屋敷の庭では多種多様の花木が植樹されていますのよ。特にローズガーデンの美しさには自信がありますの!」
彼の生家には広い庭が有りそこの一画の小さな花壇で花を育てている、その話を聞いたセシリアは自身の住む屋敷の庭園の事を嬉しそうに話す。
「薔薇かぁ~!私の一番好きな花です!いいですよね、可憐でありながら力強い!」
「えぇ、眺めているだけで力を貰えるようで、辛い事がある時はいつもそこで勇気を貰っていたんですの。」
「そうそう、その薔薇のイベント。何でも何処かの企業が、これまでに無い凄い品種を作ったんだと。」
また話題に花を咲かせる二人を今度は呆れながら、店長は人から聞いたイベントの内容を明かし勧める。
「これまでに無い新しい品種?気なるな、セシリアさん行ってみますか?来る前に布仏さん達と会長から二人分チケットを貰ったので。」
「えぇ勿論、ご一緒させて下さいまし数馬さん。」
好きな花の新たな品種の話に興味を惹かれた彼はセシリアを誘い、彼女は数馬からお誘いされた事が嬉しく穏やかに笑いながら了承の意を返し店を後にした。
「若いねぇ~見てるコッチが恥ずかしくなる、うまくやれよ坊ちゃん。」
二人の背中を見送った店長は、温和な表情で一人数馬に声援を送った。
「開花過程で花弁の色が変化する薔薇?これが今向かってるイベントの目玉ですかね?」
「開催場所を見てもそのようですわね?それにして成長する度に色が変わるななんて不思議ですわね?」
CDショップを出たその足で大通りへ出て二人並んで歩く道すがら、通り沿いの店舗の入り口付近に件の新品種の薔薇の催しを思われるポスターを見つけ足を止める。
見出しに大々的に載せられた宣伝文句には新品種は成長する毎に色に変化があると書かれていた、一緒に添付された写真には蕾の時は白で五分咲きで赤満開で青の色に変化した薔薇が見えた。
「別の苗を撮った写真じゃない……のか?」
「葉のつき方や房の位置的には同じ物の株の様にも見えますわね?」
「誰だ誰だ店先を立ち塞いでるのはって御手洗の坊ちゃん!随分ご無沙汰ですね、お隣の別嬪さんは彼女さんですかい?」
二人してポスターを注意深く凝視するので、冷やかしかと出て来たのは花屋の店主は数馬の姿を見て声を掛けた。
「なっ!違いますよ!セシリアさんは……!」
「お友達……でしたわね、考えてみれば出会ってまだ半年も一月も経ってない間柄でしたわ、ですから少しづつ意識して変えさせてみせますの覚悟してくださいな数馬さん。」
流石に三回目、数馬の反応にも耐性が出来たセシリアは後に続く言葉を奪い、改めて数馬に向き合い認識を友人から変えてみせると宣言する。
「は、はぁ?」
「それでは、お花屋さんお邪魔しましたの行きましょう?」
「え!あのセシリアさん⁉手が……!」
「おぉ~、楽しんでこいよ~……随分強気なお嬢さんだったな、テッサさんを思い出すな。」
急に狩人の目で挑発的めいたセリフを告げられた数馬は頭の上に幾つもクエスチョンマークを浮かべ気の抜けた返答を返し、気分を切り替え覚悟を決めたセシリアは勝気な笑顔で花屋の店主に一言侘びの言葉を掛けて数馬の手を引き目的地へ歩き出した。
それから雰囲気をがガラリと変わったセシリアに驚きつつも、触れ合う手から伝わるお互いの体温にドギマギする数馬とセシリアは緊張から何も言えず動植物園へ道を並んで進み辿り着いた。
「つ、着きましたよ……セシリアさん、その……手を、チケットが渡したので。」
「え?あっあぁ~はい……りょ、了解ですわ。」
入園ゲートの前で二人して心ここにあらずな様子で固まっていたが、数馬がゆっくりと意識を取り戻しセシリアに語り掛け、セシリアも自分の起こした行動で止まった思考が回り出してポツリポツリと回答を返す。
ぎこちないながらもチケットを受け取り二人でゲートを抜け園の中へ、中は家族連れとカップルで賑わいごった返すと言える程では無いにしてそれなりに賑わっていた。
「……………。」
チケットを受け取る為とは言え一度離した手をもう一度取ろうと延ばし途中で引っ込めてしまう、最初はその場の勢いで手を取れたが二回目ともなると相手を意識し気恥ずかしさで遠ざかる。
「……っ!セシリアさん、その……私は何度か来たことが有りますが、あっ貴女は今日が初めてですよね⁉」
「は、はい!」
そんなもどかしさに耐え切れなかった数馬が捲し立てる様に口早に聞くと、ずっと手を宙で彷徨わせるセシリアは急に大声かつ早口で話しかけられ驚きながらも頷く。
「じゃ、じゃあ……その、はぐれない様に手を。」
「え?えぇ……では、お願いしますの。」
緊張で顔を強張らせつつも如何にか笑顔を作ろうとして表情を引き攣らせながらセシリアに手を差し出し、まださっき余波が残ってはいたが大分落ち着いてきた彼女は出された手に自分の手を重ねた。
『数馬さんから手を伸ばしていただけるなんて……ふふふ、さっきの勢い任せの時はまるで違う感触ですわね。』
自分から奪うように繫いだ手の感触とは違う、意中の相手から差し出され結んだ手のひらの優しい暖かさに自然と笑みが零れた。
幸福に満たされたのはセシリアだけではない、目的の展示会場までの道を案内図と看板に従い進む間、数馬も頬を紅潮させながらも僅かに口角が上がっていた。
周りに人が居るにも拘らず二人はお互いの存在だけがそこにある感覚を覚えて、並び歩く道程ですら短く思える程だった。
「温室ドーム……ここですね。」
「えぇ、わたくし今から見るが楽しみですわ。」
ドーム状の天幕の中に多種多様な植物が植生している事を売りにしている施設の正面、イベントロゴが印刷された特設ゲートが置かれた入り口、来園者が今も入っていく中に混じり二人もドームへと入っていく。
目玉の新品種の薔薇の展示スペースまでの通路を挟むように植えられた様々な植物を見物していたら、いつの間にか緊張も解け二人の間にも他愛のない会話のできる程度の空気が戻っていた、ドームの天井から降り注ぐ太陽光に照らされ光満ちる風景の中、通路の終わり半屋外より屋根の覆う施設へ。
「見えてきましたね、あの一角がそうかな?」
「ふふ、沢山の方が集まっていますわね。」
施設の中の奥にあるウインドウの前に人が集まっていて、その人だかりの方へ向かえば写真に写っていたあの薔薇と同じ品種の株が展示されていた、横には成長過程を撮影した記録映像が早送りで再生され成長過程で色が変わっているのがよく分かった。
「……不思議ですわね。」
「えぇ、こうしてみると本当に色が変わるんですね。」
名前も決まってないただ新品種と書かれた周りの装飾から見ればとても質素な名札が付けられた今は青い薔薇、しかし開花までに二度も色彩を変えて今の姿にあるその一株は人の熱意が作り出した必然の奇跡である。
その姿に何を思浮かべたのか物憂げな表情で見つめ感慨深く呟いた、その言葉が如何なる真意で紡がれた言葉であるかは測りかねるが数馬は敢えて目の前の薔薇の感想で返す。
「くす、数馬さん。今、態と話題を逸らしましたわね?」
「……バレましたか。」
さっきまでの雰囲気が少し薄れしたり顔で僅かに数馬に顔を向けると、数馬も惚け様子でセシリアに顔を合わせる。
「又聞きではありますが、最初の頃のセシリアさんの印象は聞いていますから。」
「鼻持ちならない、驕り高ぶりの激しい女権主義者のイメージそのままの人間ですわね……今は、周りの人たちに諭されボン太くんに魅せられ変わりましたのよ?」
最初の彼女のイメージは何かと自分の立場を持ち出し他者に挑発を繰り返して、気に入らなければヒステリックに騒ぎ出す我が儘の子供そのものだった。
今の落ち着いた大人の女性像とは正反対と言っていいが、そこは一夏を初めてした級友と学園内に多く居たボン太くんファンの同志たちが変えてくれたもの、あのまま行けば最悪今でも自分こそが正しいのだと心から思う勘違い女となっていたと彼女は思っていた。
だからこそ……。
「今こうして、出会って日の浅い殿方と逢引きをしている自分にビックリしていましたの。」
「セシリアさん、私は過去の貴方を知りません、貴女がどんな幼少期を過ごしどんな過程を経て傲慢な人になったのかも……でもこれだけは言える、今の貴方を作ったのは貴女自身だ貴女がそうありたいと望んで変わるよう努力した、それこれも過去の貴女から今に続く貴女のヒストリーがあるから、恥ずべきと思う時代があるから今をより大事に出来る、最初から整た人間はいません。それこそこの薔薇の様に、関わった多くの人間の夢や熱意が合ったから、良い出会いも悪い出会いあったから今は私が隣に立てるんです。誇ってください今までの貴女も含めて、私はセシリアさんと出会えて良かった。」
セシリアの過去、両親への不信感と誤解そして行き成りの死別から始まり、強欲な大人たちから家を守るために精一杯強がり戦った日々、そんな日々で知らず溜まった年相応の鬱憤を不甲斐ないと断じた異性にぶつける様になった期間であり、今の友人に囲まれ充実した日々から縁遠い所にある。
だがそれでも、そんな過去する認めて傍に居てくれる人を望んでいたのかもしれない、そしてそれが……。
「貴方だったんですのね……数馬さん?」
セシリアは思う天国の両親に私はもう大丈夫と、この人が傍に居てくれるなら自分は望んだ存在になれると、だから願って欲しいこの人がこの先も自分の傍で支え合ってくると人になる事を、その努力は惜しまないからと。
そんな切なる願いを天の両親に送る頃、一夏と円夏はミスリル日本支社の社屋内会議室にてとある人物と対峙していた、それはヨーロッパミスリルラボの最高責任者であり。
「では、リフレクションの基本理論開示と技術提供の許可を頂けるんですね?」
「えぇ、他なるぬアイコ・サガラとテッサが認めた貴方がたが認めた潜在能力、私も見たくなりました。」
張り詰めた空気感の中で淡々と物事が決まり、事態は次の段階へ進もうとしていた。