我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者 作:亜亜亜 無常也 (d16)
そして、この日の夜。
立華は自身の部屋にいた。
机と椅子とベット、タンスくらいしかない自身の部屋。
かつての「マイルーム」を参考にリフォームした。
彼は机の上で作業をしていた。
因みにレイナはいない。
自身の部屋にいる。
しょっちゅうくっついているこの2人だが、四六時中一緒にいる訳ではない。
偶に離れるのも大事である。
立華は毎日行っている「内職」をしていたのだが。
「御館様。よろしいでしょうか?」
声がどこからともなく響く。
「ん?ああいいよ。丁度ひと段落した所だし」
そう言って立華が椅子ごと後ろを向く。
するとそこに突然人影が出現した。
それは巫女装束を纏った黒い髪の少女。
頭飾りには「九曜紋」が描かれている。
「どうわかった?パライソちゃん」
「はっ」
パライソ……アサシン・パライソが調べてきたことを話す。
それを相槌を打ちながら聞いている立華。
「そっか。ありがとう」
「いえ、拙者にはこれくらいしかできませんので」
恐縮するパライソに立華は微笑む。
座っていた椅子から立ち上がり。
「えい!」
「!?」
立華がパライソを持ち上げる。
そのままベットに座り、彼女を膝に座らせる。
「なあ、千代ちゃん」
「……はい」
立華はかつてはサーヴァント達を真名で呼んでいた。
だが、この世界に来てからは専らクラス名+色々で呼んでいた。
「新宿の~」や「オケアノスの~」、「赤の~」という感じである。
真名がバレたら対策をされてしまうからだ。
まあ一部のサーヴァントはバレたからと言ってもどうってことなかったが。
あの辺は真名知っていても、対策不可能であろう。
なぜあんな攻撃をしているのか多分わからないだろうし。
更にバレたら不味い弱点があってもそれを突くのが難しいのもいる。
韋駄天小僧とか、すまないとか、大英雄とか。
あんなのと接近戦できるのは今の時代数える程もいない。
弱点が明確にわかっていても恐らく突けるのは一握りしかいないだろうし。
閑話休題。
とは言っても2人きりの時とかには名前や愛称で呼ぶ事がある。
今回はそれだった。
「オレはさ、1人じゃ何にもできない」
「……そ、そんな事は」
「あるよ。確かに今のオレは結構強くなった。皆のおかげでね」
そう言って笑う。
「でも万能じゃないからな。皆の力を借りなきゃならない」
「……あの時だって」
「皆の力でどうにかなった」
彼が思い出したのは2年前に起こった事件。
彼がレイナに召喚されるきっかけになった事件。
……今は語らない。これはいずれ語るべき時が来るだろう。
「いつもありがとう。本当にありがとう」
「いえ。拙者は……いえ、拙者達はできることをしているだけでござりまするので」
立華はしばらくパライソを抱きしめていた。
◆◆◆
そして、討論会当日。
それが始まるまでの間は特に何もなかった。
エリカやレオ、美月達が色々勧誘を受けた位である。
ちゃんと断ったが、しつこかったそうだ。
そして、この日の立華は朝早くからゴソゴソと何かをやっていた。
(「何か起こる気がするなあ……。準備しておくか」)
そういう訳であちらこちらから自身の装備を引っ張り出していた。
「ん……?」
その中で彼が出したのは一本の刀だった。
定寸の日本刀と呼ばれるタイプである。
彼と契約していたとあるサーヴァントが作った物の1つだった。
「行きたいのか?」
言葉を話すはずのない刀に尋ねる。
そして、彼は。
「じゃあ行こう」
そう言って鞄に仕舞う。
そういう感じで暫く準備を進めていた。
すると。
「リッカ。へいよーかるでらっくす」
起きてきたのはレイナ。
まだ起きたばかりらしく、寝間着に着ている薄い青のベビードール姿であった。
「へいよーかるでらっくす」
そんな彼女に挨拶を返す立華。
そして、思い出したように言った。
「そうだ」
「?」
「今日は別行動する。一応影武者は付ける」
一見意味の分からない言葉。
レイナには意味がわかる。
「誰にする?」
「……」
立華の言葉にレイナは思考する。
(「候補……3人」)
1人目。連続猟奇殺人鬼。正体不明の狂戦士(バーサーカー)。
2人目。上級AIの1人。純潔の別側面(アルターエゴ)。
3人目。梁山泊百八傑。変幻自在の暗殺者(アサシン)。
この3人は変装が上手い……と言うよりバレない。
そして、3人共かなり強いため、ボディーガードにもなる。
なのでよく召喚される。
そのため、レイナとも面識はある。
どちらも悪い印象はない。
レイナが選んだのは。
「新シン」
「わかった」
新シン……新宿のアサシンと呼ばれた男の愛称だった。
彼はとある理由から他者の外見を投影できる。
立華が出したのは1枚のカード。
そこには仮面に短刀を持った暗殺者が描かれていた。
それを地面に置くと。
「告げる」
言葉を唱える。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」
今の魔法師達はほとんど使わぬ詠唱。
「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
カードを中心に魔法陣が出現。
「誓いを此処に」
魔法陣が回る回る。
「我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
光輝く魔法陣。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
そして、光が溢れた。