我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者   作:亜亜亜 無常也 (d16)

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第三十節:対話 中編

「さて」

 

 そう言ってお茶を一口飲む。

 

「じゃあ話をする前の確認いいか?」

 

 立華の問いに頷く一同。

 

「この間のサーヴァントの説明は覚えてる?」

 

 その問いに頷く司波兄妹。

 

「じゃあ2年前の事件はどこまで知ってる?」

 

 その言葉には顔を見合わせた。

 この2人は家系が家系なので結構知っている。

 なので。

 

「それなりに。とは言っても十師族が知っている程度だが」

「そうか……」

 

 その言葉に立華は少し考えて。

 

「じゃあ順序を立てて話そう」

 

 そう言って彼は話を始めた。

 

「そもそものきっかけは……とある数字落ちが結託した事から始まった」

 

 数字落ち……元はナンバーを持ちながら剥奪された者達。

 2075年頃までは数字落ちに対して忌避、蔑視が見受けられ、魔法師のコミュニティで厳しい孤立を味わった。

 

「今でこそそういう差別は落ち着いた。でも……今の数字持ちと比べれば扱いは……な」

「「……」」

 

 立華が告げたその言葉に無言になる司波兄妹。

 

「彼らは思っていた。どうして元は同じはずなのにここまで差が付いた?とね。ずっと不満がくすぶっていた」

 

 お茶を一口飲む立華。

 そして、本題に入った。

 

「そんな時、とある人物……亡霊とでも言うべきか?そいつらが彼らに接触したんだ」

「亡霊?」

「うん。とは言っても本当のじゃなくてあくまでも比喩だけど」

 

 アレは「とある一族」の妄執の残りとでも言うべきだろうか?

 

「そして、彼らに提案したんだ。自分達の栄華を取り戻したくないか?と」

「……どうやって?」

「ある儀式に彼らを誘ったのさ」

 

 そう言って立華は司波兄妹と八雲を見る。

 そして、レイナに軽く視線をやってから続けた。

 

「それが聖杯戦争だ」

「聖杯戦争?」

「聖杯とはレリックの聖杯か?」

 

 その言葉に深雪は首を捻り、達也が疑問を呈した。

 

「達也の疑問にはYesともNoとも言える」

「?」

「ある人に言わせれば本物の聖杯は”あの人”の血を受けた物だけらしいからね」

 

 はっ!なめんなっての!

 byただのドラゴンスレイヤー

 

「まあ今回指すのは……一応人工物の聖杯だ。でも……」

 

 すっと目を細めて立華は続けた。

 

「願いを叶える力は持っている」

「「!?」」

 

 それに驚く司波兄妹。

 

「とは言ってもただ杯だけあっても意味がない。”使う”か”完全にする”ために儀式がいる。それが……」

「聖杯戦争という訳か」

「ああ」

 

 「士木崎」「鹿合」「矢代」の三家の当主。

 ある一族の「亡霊」。

 とある男の残留思念……のような「ナニカ」。

 その他2名程。

 合計7名集まった。

 ……手伝いやサポート、雑用含めば更に多いが。

 

「それでサーヴァントが召喚された」

 

 とある世界線で「亜種聖杯戦争」と言う物がある。

 それの場合7騎揃う事はなかったそうだ。

 多くても5騎だったらしい。

 だが、今回の聖杯は出来が良かった。

 だから7騎揃った。

 揃ってしまった。

 

「それで儀式をする事にしたんだが……。邪魔されちゃ困ると彼らは思った。それに少し舞い上がっていたんだろうな……」

 

 英雄を使い魔に出来たのだ。

 それは舞い上がるだろう。

 だからこそ魔法協会や十師族に通知をした。

 

「最初は警告だけにするつもりだったんだが……」

「だが?」

「アサシンが暴走した」

 

 国防軍と十山全滅はそのせいである。

 そもそも「あんなもの」をサーヴァントとして呼ぶのが悪い。

 

「そのせいで十師族も本腰を上げた。それで戦いになったが、……勝てるわけなかった」

「「……」」

「そのうち鬱陶しくなったアイツらは作戦を切り替えた。子女誘拐に着手したんだ」

 

 命が惜しかったら手を出すなと言うやつである。

 

「それで儀式に着手する事にした。だが誤算があった」

「誤算?」

「……なあ達也。英雄をそう簡単に使い魔に出来ると思うか?」

「思わない」

 

 立華の問いに即答する達也。

 

「その通り。言う事聞かない奴の為に鎖があるが……、それは今は置いておく。使い魔の維持には魔力が必要なんだがな……、魔力不足で本来の力を発揮できない場合が結構ある。特にサーヴァントでも皆知っているクラスの大英雄なんてただ維持するだけでも大変だし、宝具使わせたら……」

「いくらあっても足りないという訳か」

「うん。だからこそ、マスターから魔力供給を肩代わりさせる燃料タンクとして……生きた魔法師が使われた」

「「!?」」

 

 立華のその言葉に凍り付く司波兄妹。

 深雪が思わず達也に身を寄せる。

 それを抱きしめる達也。

 この2人にとってそんな扱いは絶対認められない。

 

「レイナはその1人だったんだ」

「……うん」

 

 立華の言葉に頷くレイナ。

 

「しかも、それだけじゃなくて、アサシンの食事代わりになる奴もいた」

「わたし、そこで、死ぬはず、だった」

 

 レイナは覚えている。

 供給槽でサイオンが吸われていくのを。

 手慰みに何人も殺されるところを。

 アサシンに食われていくところを。

 

「だが、レイナは死ななくて済んだ。その後、同士討ちと粛清が起こったんだ」

「「え!?」」

「そして……ゴタゴタが起こって、まあ助かったわけだ」

「……何か後半の説明雑じゃないか?」

「それしかいいようないから」

 

 そう言って立華はお茶を飲む。

 この話題はこれでおしまいという合図だった。


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