我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者 作:亜亜亜 無常也 (d16)
そして日と場所が変わって。
ある日の休日。
場所は藤丸邸(鷹山邸とも言う)。
「ふあ……」
珍しく遅くまで寝ていたレイナが起きて、リビングへ向かう。
そこには立華ともう1人。
青いマントとボディスーツ、無貌の仮面で身を隠した男がいた。
立華と一緒にお茶を飲んでいた。
レイナに気づくと挨拶をする。
「やあ久しいね」
「アヴさん!」
「……その言い方では別の人にならないかね?」
彼は魔術師(キャスター)。通称「黒のキャスター」。
真名アヴィケブロン。正式な名前はソロモン・ベン・ユダ・イブン・ガビーロール。
……ソロモンでは「彼」と混ざる。
立華と契約していた自他ともに認めるゴーレムマスターである。
この家のゴーレムは彼の作品であった。
防衛用から、警備用、掃除用、家事用まで存在する。
レイナとの仲も良好であった。
「今日、どうしたの?」
「実は先頃ほぼ完成したのだよ」
「もしかして……」
「ああ。アダムがね」
アダム。
それはアヴィケブロンの宝具の略称だった。
正式名称は【王冠:叡智の光(ゴーレム・ケテルマルクト)】。
宝具には色々な種類がある。
「アイテム系」、「特殊能力系」、「自分の結末系」。
「真名解放」、「常時発動」、「仮想宝具」。
それとは別に、現世で実際に制作する必要のある宝具が存在する。
そういった宝具は「単体の英霊が所有するには、余りに巨大な物」、「未完成であるが故に、伝説に刻まれた代物」のどちらかに属する。
アヴィケブロンのは後者である。
立華は召喚されて以来、そういう宝具をいくつもコツコツ作って来た。
時に国外に渡り、時に貴重な素材を買い、時に宝具を解放し、時に烈の力を借りた。
それでほとんど完成したのである。
だが……。
「肝心な”炉心”がね……」
「ああ……」
だが足りない物があった。
それが「炉心」だった。
一度宝具として召喚してしまうと、無尽蔵に魔力を求め続ける生粋の大喰らいであるため、「一級品の魔術回路を持つ人体」が必要となる。
つまり「この世界」では「優秀な魔法師」の生贄がいるのである。
「”前”と”前々”の手段は論外だし」
「前」は異聞帯で使った荒技。アヴィケブロン自身を炉心にする。
これのおかげで立華達は「雷帝」を倒せたのだが、アレは論外。
「前々」は聖杯大戦でアヴィケブロンが使った方法。マスターを炉心にする。
だが、この行いは未だにアヴィケブロンを苛んでいる。
どちらも使えない。
「適当な犯罪者……まあ凄く外道魔法師がいれば使うんだけど」
「手頃なのがいなくてね」
「「はあ……」」
「……納得」
2人揃って溜息を吐く。
ここが「藤丸立華」と「藤丸立香」の相違点。
その1つ。
彼は人の命を大事に思っているが、鬼畜外道には容赦はしない。
一般人を犠牲にはしないが、かつて「新宿」で生きたまま人形に改造された「コロラトゥーラ」を使ってバーサーカーをおびき寄せるのにはためらわなかった。
「まあとりあえず保留か……」
「それしかないだろうね」
そういう訳で2人は席を立つ。
「レイナ何か食べる?確かベーグルが残っていたと思うけど」
「食べる!」
「アヴィケブロンは?」
「僕は遠慮しよう」
一度はそう言うが。
「……いや、置いておいてくれ。ゴーレムの整備が終わったら食べる」
人間嫌いな彼だが、立華に召喚されてからは「周囲と会話し続け、理解し合わなければならない」と決意させるほどの成長をしている。
それに軽く笑う立華だった。
◆◆◆
その日の夜。
立華はとある人物と話をしていた。
秘匿回線の映像電話であり、それを知っているのは3人だけ。
そのうちの1人である……。
「久しぶりね、立華君」
「響子さん!」
藤林響子。
烈の孫娘であり、国防陸軍第101旅団所属、独立魔装大隊の幹部。
立華とレイナの秘密を知っている3人の内の1人。
元々彼らが生活するために接触した人でもあり、2人の偽のPD、戸籍を作ったのは彼女である。
電子・電波魔法による高度なハッキングスキルを得意とし、「電子の魔女(エレクトロン・ソーサリス)」という二つ名で呼ばれている。
……とあるサーヴァントにプライドをズタボロにされたこともあるが。
因みに達也(大黒竜也と偽名を名乗る)とは同僚であり、風間玄信の副官(秘書)をしている。
が、立華とレイナの事は彼らに伝えていない。
……だからこそ達也は立華を知らなかった。
その理由はいくつかある。
1つ目。伝えた際に何がどうなるか予測不能であること。
2つ目。彼らのおかげでいとこである光宣が元気になった事への恩。
3つ目。彼が放っておけなかったから。
そのことを立華とレイナも感謝している。
そのためか、彼女は結構立華から「道具」を融通して貰ってもいた。
「ええ、久しぶりですね。何かありました?」
「富士の辺りで、香港系の犯罪集団、
「何時から日本はテロが日常茶飯事になったんです?」
「まだテロと決まったわけじゃないわ」
溜息を吐く立華にフォローする響子。
「まあ軍も動いているから大丈夫よ」
「そうですか……」
「そういえば祖父が来るのは知ってる?」
「はい。懇親会の後、食事をする事になってます」
「それに私も参加するし、光宣君も来るわ」
「なるほど。久しぶりに揃うのですねえ」
フフフと笑い合う両者。
そういう感じで軽い雑談をして。
「じゃあそろそろ切るわね」
「はい。また」
「ええ、またね」