我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者   作:亜亜亜 無常也 (d16)

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第九節:急転直下

 九校戦2日目。

 この日は「クラウド・ボール」と「アイス・ピラーズ・ブレイク」が行われる。

 前者が本戦、後者が予選。

 

 「クラウド・ボール」で七草が出場。

 加速魔法の〈ダブル・バウンド〉を使用して勝利を重ねる。

 

 そして、達也が補助についていた。

 七草自体に問題はない。

 CADも使いやすそうだった。

 ただ、七草のストレッチを達也が手伝ったりしていたせいで、観客席の一部の温度が下がっていた。

 ……これは後で、達也に頑張ってもらうしかないだろう。

 

 結果は優勝を飾った。

 当然の結果であるのかもしれない。

 

 そして。

 「アイス・ピラーズ・ブレイク」の方はと言えば。

 

 レイナに言わせれば「モンジとキャノンが頑張った」である。

 特に千代田は性格が良くも悪くも表れた試合であった。

 正に「攻撃は最大の防御」もしくは「やられる前にやれ」。

 そのせいか一回戦は最短で勝利を決めた。

 

 「地面」に直下地震にも似た爆裂的な振動を加え、その上に乗っている物体を壊す魔法〈地雷原〉。

 千代田家の代名詞にしてお家芸だそうだ。

 

「正に、キャノン」

 

 レイナのセリフにほとんど全員が頷き、五十里が苦笑いしたのも頷ける。

 

 ところが……。

 

「男子クラウド・ボールの結果が予想外だったので、今後の見通しを立て直しているんです」

 

 作戦本部にて、市原が告げた。

 ……声は何時もと変わらなかったが。

 どうやら桐原が負けてしまったらしい。

 しかも三回戦敗退だそうだ。

 しかもストレート負け。

 

「リンちゃん先輩」

「……その呼び方は止めて欲しいのですけど」

「ハラキリ、弱くない。リッカ、練習付き合ってた。なぜ、負けた?」

 

 レイナの疑問に市原は答える。

 

「強いて言うなら対戦相手が悪かったのですよ。優勝候補とぶつかってフルセットで何とか勝利したのですが……。次の試合の体力が残っていなかったのです」

「実質痛み分けですか……」

 

 立華が呟く。

 

「ええ。まだ貯金が効いてますが……。どうなることやら」

 

 溜息を吐く市原だった。

 

 作戦本部を出て立華とレイナが2人で歩いている。

 

「本当に勝負は何が起こるかわからないけどな」

「……うん」

「どーした?」

「リッカ、練習、付き合ってた。なのに……」

 

 少し悲しそうなレイナを頭を軽く撫でる。

 そんな感じで移動していると。

 

 桐原と壬生に遭遇する。

 まだ落ち込んでいる桐原。

 それを慰めている壬生。

 

 そんな2人に近づいていく2人。

 それに気づいたのか。

 

「……ああ、藤丸と鷹山か。悪いな負けちまった。お前には練習付き合わせたのに。悪いな」

「いえいえ。俺が好きでしたことですので」

 

 そう立華が告げる。

 

「桐原武明」

「……!」

 

 レイナが桐原をフルネームで呼ぶ。

 それに目を見開く桐原と壬生。

 

「相手は優勝候補。それを貴方は破った。それだけでも誇るべきです。少なくともわたしはそう思いますよ」

「「!?」」

 

 豹変したレイナの喋りに絶句するカップル。

 

「お前……普通に喋れるのか?」

「ええ。とは言っても結構疲れるのです。だからこそ滅多に使いません」

 

 ……どこぞの黒髭のようである。

 アレはいつもはふざけているが、真面目な時はシリアスな口調になる。

 一人称も「拙者」から「オレ」になる。

 ドレイクの親友を尋問する時には、怖気が走るような態度で真意について問い質していた。

 

「元気を出しなさい。貴方の負けはわたしや立華が取り返します」

 

 そう言うレイナ。

 それに……。

 

「ククク。アハハハハハハ!」 

 

 笑い始める桐原。

 それにオドオドする壬生。

 暫く笑っていたが。

 

「……はあ。笑った笑った。ありがとうな。お前がそう言うんならそうなんだろうさ」

「……ありがとうね。鷹山さん」

 

 2人の言葉に対してレイナは。

 

「気に、しないで。ハラキリ、ミカン」

「「元に戻っちゃった!?」」

 

 ◆◆◆

 

 九校戦3日目。

 この日は「バトル・ボード」と「ピラーズ・ブレイク」。

 これが終わると翌日からは新人戦である。

 まだ本戦の競技は2つ残っているのに……。

 

「何でだろう?」

「ノリ?」

「なるほど」

「「「「「「そんな訳あるか!?」」」」」」

 

 そんな訳で彼らは「バトル・ボード」を見に行った。

 

 ところがそこで問題が起こった。

 七校選手が急カーブへと差し掛かったタイミングで、減速しなかった。

 そのせいでフェンスに激突しそうになる。

 それを渡辺が受け止めたせいで彼女は怪我を負ってしまった。

 

 「危険走行」をしたとして七校選手は「失格」。

 怪我が理由で渡辺委員長は「棄権」となった。

 

 そして。

 渡辺の病室を出た達也を迎えたのは立華とレイナだった。

 

「ナベ先輩は?」

「肋骨が折れているが、それ以外は元気だ」

「よかった」

 

 レイナがほっと息をつく。

 一方立華は達也に問いかける。

 

「……気づいたか?」

「ああ、アレは人為的な物だ。あの水面は不自然すぎる」

「だよなあ。……悪意も感じたし」

「幹比古が言っていた。準備期間さえあれば可能だそうだ」

「きな臭くなって来やがったなあ……」

 

 溜息を吐く立華。

 そして表情を切り替え。

 

「達也」

「何だ」

「お前は深雪さんから目を放すな。狙われる可能性が高い」

「……ああわかった。お前は?」

「警戒する。それしかないな」

 

 そう言ってレイナを引き寄せる。

 レイナは立華に掴まる。

 そうして達也と別れてレイナと外に出る。

 

「レイナ」

「うん?」

「勝つぞ。絶対に」

「言われるまでもありません」


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