我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者 作:亜亜亜 無常也 (d16)
試合終了のブザーが鳴る。
拍手が鳴り響く中、一校選手達が合流する。
「ふう……」
一息入れる立華に近づいて来た達也が尋ねる。
「隠れて何しているかと思えば、ゴーレムの準備だったか……。美味しい所持って行ったな」
「うん。少し時間がかかるんだ。悪かったね2人共」
「……まあ勝ったからいいけどさ」
同じく近づいて来た幹比古。
彼は少し不満そうだった。
「そんな顔するな。言っておくけど、時間稼ぎなかったらできなかったぞ?」
「それはわかるけど……」
「なあ、立華」
「うん?」
「ふと思ったんだが、岩場ステージでも出来たのか?」
達也の疑問に立華は答える。
「まあね。岩場だったらもうちょっと頑丈なのが作れた。因みに雪だと集積と維持が難しい。だから雪原ステージでは使えなかったね」
「そんなステージないよ!?」
「あらあらまあまあ」
幹比古のツッコミにケラケラ笑う立華だった。
一方観客席では。
「いやあ。凄い試合じゃったのう。準備とはこのことだったんじゃな」
「うん」
四十九院の感嘆に答えるレイナ。
「……雫は少し不満そうだね」
「うん。何か戦いって感じがしない」
「確かにそうね。前半は魔法戦だったけど、……後半は蹂躙だったわね」
ほのかが長い付き合いなおかげか雫の不満そうな顔に気づく。
深雪も同様にコメント。
一方、一色と十七夜だけは顔が曇っていた。
「これ不味いんじゃないのかしら」
「ええ。一条君が負けるなんて」
「?」
2人のコメントにレイナの頭上に疑問符が浮かぶ。
それに対して十七夜が説明する。
「一条君は十師族。”十師族はこの国の魔法師の頂点に立つ存在。十師族の名前を背負う魔法師は、この国の魔法師の中で、最強の存在でなければならない”という理念があります。だからこそ師族会議で何か言ってくる可能性がありますよ」
「エリート、見栄、くだらない」
「そうですね」
レイナの断言に一色も同意する。
「エクレア、いい事、言う」
「エ・ク・レ・ー・ル!いい加減に覚えなさい!」
咆える一色に全員くすりと笑ってしまった。
そんな中で。
「エイミィ?どうしたの?」
「……うん?何でもないよ!」
「……そう?」
里美がエイミィの様子がおかしい事に気づく。
先程から何も喋っていなかった。
だが、それに何でもないと笑うエイミィ。
だが、彼女の内面は少し混乱していた。
(「立華君の使ってた、あの折紙……タスラムに似てた」)
〈魔弾タスラム〉。
イギリス・イングランドにおける現代魔法の名門ゴールディ家の秘術。
物体に条件発動型の遅延術式を掛けて持ち歩き、使用する際にサイオンを流し込むだけ移動魔法を発動し、物体を対象へ飛ばす射撃魔法。
これが使えなければ本家の一員として認められない。
エイミィはこれを祖母から習っているため使える。
彼女はカードを弾丸替わりにするのだ。
立華の使った折紙を飛ばす技がそれに似ていたのだ。
(「後で聞いてみよう……。教えてくれるかな?」)
そんな事を思うエイミィだった。
一方別の観客席では。
「本当に凄いな!!」
テンションが上がりっぱなしの同僚……山中に響子は辟易していた。
立華がゴーレムを展開した時には、もっと酷かった。
「試合も終わったんですから、落ち着いてはどうですか?」
呆れ返っている響子を見て居心地が悪くなった山中は咳払いをする。
そして、話題の転換を図った。
「それにしても彼は何者なんだ?」
「……さぁ」
山中の質問に答える響子。
だが、響子が知らないはずがない。
立華のPDは彼女自身が作ったモノである。
それも目立たないように、矛盾がないように家族構成も細部まで作り込んだ。
因みに響子と山中が「モノリス・コード」の会場に来た理由は遊びに来たからではない。
自身らの同僚である達也の機密がバレないようにである。
もしもバレてしまったら、それ相応の対応をしなければならないのだが、今回はその心配はなかった。
「〈精霊の目(エレメンタル・サイト)〉は使ったが、アレならまだ誤魔化しは効くし、傍目ではわからんだろうしな。だが、それにしても藤丸立華……何者なんだ?」
山中が首を捻る。
そんな中。
(「立華君大丈夫かしら?確かにアレなら誤魔化しは効く。でも確実に貴方は注目されるわよ……」)
彼の心配をしていた。
確かにあのゴーレム戦法なら古式魔法と言えば誤魔化せる。
だが、十師族の次期当主をほぼ完封してしまった事から彼は注目されるだろう。
だからこそ。
(「私はやれることをやって、助けになろう」)
そう思う響子だった。