地下への荷物運びを無事に終え、まりなさんへ完了報告をした僕は、日給のバイト代とスポーツドリンクとアイスを受け取り、彼女達がリハ練をしているスタジオへと向かっていた。
「ふう……今日は本当に暑いな、干からびて死んでしまいそうだ。アイスをくれたまりなさんには感謝だな…ん?」
「うーん………」
チョコチップが埋め込まれたバニラバーのアイスを頬張りながら歩いていると、黒髪のロングヘアーの背中に靡かせたまま、微動だにしないスレンダーな女性の姿が目に入ったが、アレは…
「おい、こんなとこで何してるんだ花園。練習は?」
「あ、タッくんだ、こんな所でなにしてるの?バイトは?」
「質問を質問で返すんじゃねぇ、バイトはもう終わりだ。お前らが来てるってまりなさんに聞いてな、ライブ近いしその調整か何かか?」
「うん、そうなんだけど…実はね」
彼女の名前は花園たえ。Poppin'party、通称ポピパでリードギターを担当し、バンド活動をしている花咲川女子学園の1年だ。
1年生とは思えないスタイルと大人っぽい雰囲気をお持ちなのだが、口を開くと世界が変わる、一言で完結させようとするなら"不思議なヤバイやつ"だ。
普段から思い悩むことなんてほとんどないように感じるのだが、今日は歯切れが悪いな。何かあったのか?
「実はね、香澄が……倒れちゃって」
「は?オイ大丈夫なのか?!倒れたって、なんでこんなとこでのんびりしてるんだよ!早くまりなさんにこのこと伝えて救急車を!中、入るぞ!」
「あっ、タッくん、今は……」
なんだ、事故でもあったのか?!戸山が倒れたって……花園に静止された気がするが、そんなことは後回しだ、一刻も早く容体を確認しないと…
考えるよりも身体が先に動き、ドアに手を掛けて声をかける。
「おい開けるぞ!!っ…大丈夫か、とや………ま……?」
「うぅ〜〜暑いよぉ〜〜〜、喉乾いて動けないよぉ〜〜!ありさぁ〜」
「……………」
Tシャツがまくれ上がり、ヘソを出しながらだらーっと横になっている猫耳ヘアーのぐったりした少女がそこにいた。
なんだ…こいつ…確かに倒れてはいるんだが……。明らかに病気といった雰囲気も周りからは感じられない。カーペットでゴロゴロしてるし…。見たところ元気そうではあるのだが。
「あっ、青木さんだ!バイトお疲れ様です!」
「お疲れ様です!じゃねえよ!!!花園からお前が倒れたって聞いたから駆けつけたのにこれはどういうことだ?」
「えへへぇ〜実は……」
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「なるほど、つまりいつもと違う声の出し方を意識しすぎて、それが楽しくなっちゃって考えなしにフルスロットルで1時間歌い続けた、と…」
「えへへぇー」
えへへー。じゃねえんだよ。
なんだこいつは、いつもの考えなしスタイルじゃねえか!
突っ込む気力すら失せ、どう声をかけようか迷っていたところで同情の声が上がる。
「ホント、香澄の暴走列車ぶりにも慣れてきたけど、今回ばかりはなんもいえねー」
「有咲〜、褒めても何も出ないよ?」
「褒めてねえ!ていうかさっきから何飲んでんだよ?!」
「スポドリだよ!そこに置いてあったの!おいしいよ〜有咲もいる?はい」
「いやまず誰の飲み物だよ!お前のじゃねーだろ!まあ、私も喉乾いてるしいただくけど…」
「あ。それタッくんの」
金髪ツインテ少女がペットボトルに口を付けたタイミングで、いつのまにか戻ってきていた花園が爆弾を投下する。
「ブーーー!!!バッ、お前これ拓海のかよー!!!」
紹介が遅れたが、今ドリンクを吹き出した金髪少女はポピパのキーボード担当の市ヶ谷有咲。ツッコミ兼ツンデレのグループには欠かせない大事な役だ。ついつい弄りたくなっちゃうくらいツッコミのキレが鋭い。癖になる。
「あ、有咲ちゃん、大丈夫…?」
こちらのふんわりした雰囲気のおっとり黒髪ショートの少女は、ベース担当の牛込りみちゃん。通称はりみりん。好きな食べ物はチョココロネで、仲間想いのいい子。ポピパの良心枠だ。因みに姉の牛込ゆりさんも、Glitter Greenという名のバンドを組んでいる、バンド姉妹だ。
「はい有咲、これタオル。とりあえず口拭きなよ〜」
タオルを差し出しながらこちらを向き、いつもすみません…と言わんばかりの申し訳ない顔で会釈する、少しパーマのかかった茶色の髪をポニーに纏めている少女は、ドラムス担当の山吹沙綾。さーやちゃん。しっかり者で面倒見のいいお姉さん枠。両親が山吹ベーカリーというパン屋を営んでおり、僕もよくお世話になっている。
「有咲なんでそんなに驚いてるの〜?……あっもしかして…」
最後に、猫耳ヘアーで天真爛漫な少女はポピパのボーカル兼ギターの戸山香澄。キラキラドキドキしたものを探しているらしい。心の底からメンバーとやる音楽が大好きみたいだ。本当に悩みが無さそうだし、疑問はすぐに解決したがる。見ていて気持ちが良い、突っ走りすぎなのは玉に瑕かもしれないが、そこが戸山の魅力でもあると思う。
こんな個性豊かな5人が集まっているバンド、Poppin'party。
演奏技術やパフォーマンスは他には劣るかもしれないが、一生懸命がすごく伝わってくるいいバンドだ。みんな仲良しでいつも楽しませてもらっている。
などと考えていると、市ヶ谷が赤面しながらこちらに顔を覗かせてもじもじしている…が、もしやとは思うが。面白いから少しからかってみるか。
「ああ市ヶ谷、"僕の"ドリンクだったんだが、飲みたければ飲んでもいいぞー」
「いや、これ…お前が口つけたやつ………」
市ヶ谷の頬の赤らみが増していく。正直可愛い。
もう少しいくか…?
「え?いや気にしないでいいよ、"僕の"だったけど飲みたいならあげるよ」
「そうだよ有咲〜私も少し飲んじゃったしこの際貰っちゃいなよ!」
「いやだから、う、あ…これ間接キ、キキキ……」
「それ、タッくんが持ってきたけど、香澄が開けた時は新品だったよ、そうだよね?タッくん」
ああ、花園…そんな残酷な形でネタばらしをしてしまうなんて…
僕は一足先に退散しようとする。が…市ヶ谷家の有咲さんは見逃さない。
「"青木さん"?ちょっとよろしいかしら?」
「あの、市ヶ谷?市ヶ谷さん…様?目が笑ってらっしゃりませんが…」
「正座」
「…はい?」
「正座ぁ〜〜!!!!!今すぐそこに直れ!!!!!あと香澄もだ!!!逃げようとすんじゃねー!!!!!」
「えぇ〜〜私も〜〜〜〜?!?!元はと言えば有咲が勘違いしたんじゃん!」
「うるせ〜〜〜〜〜〜!!!!!」
本当に仲良いな、こいつら。
と傍目で正座しながら、ニコニコしている4人とプンスカしている1人を観察しながら10分近く説教されたのであった。
有咲に突っ込まれながらおちょくりあうデートしたい。