戸山と一緒に市ヶ谷からこっぴどく叱られた後、練習を再開した彼女たちの様子を端に座りながら様子を見ている。
戸山は本当に、いつでもどこでも楽しそうだ。
そんな彼女に引っ張られる形で残りの4人も、そして僕までニコニコしてしまう。
市ヶ谷も、初めはイヤイヤ参加しているのかと思うような節もあったが、今となっては彼女がいないとグループとして成り立たないだろう。楽器隊みんなのことをよく見てプレイするようになった気がする。
りみちゃんも、おどおどした性格を感じさせないリズム隊として、しっかり連携が取れているように思える、お兄さんは嬉しい。勝手にお兄さんヅラしてごめんなさい。
花園はいつものびのびと、自由にギターを弾いている。技術もそうだし、自分の音をしっかり見つけたみたいな、自信に満ち溢れている。それがポピパのみんなの音としっかりマッチしている。
山吹はいつもブレない。周りに気を配り、いつもみんなの後ろに立ちながらしっかりと支える土台作りが出来ているように感じる。
本当に、好きなバンドだ、いい音楽だ。
練習を見ているだけでこんな気持ちになるのだから、ライブを見るともっと高揚してしまいそうだ。
物思いに耽っていると、練習がひと段落ついたようだ。
戸山がこちらに向かってくる。
「青木さん!」
「おう、どうした?」
「ずーっと気になってたんですけど、どうしてりみりんだけ名前呼びなんですか?!」
「あ、それ、私も気になるなぁ。ポピパのみんなは基本的に名前で呼んでるから、こういう場所でりみりんだけ名前呼びで、私達は名字だと妙に違和感があるんですよね。」
む、それは確かに。
でも一応僕らって男女だし、名前で呼び合うのって特別な感じで気が引けちゃうというか、割って入れなさそうな雰囲気ってあるじゃん。思春期特有の。
「私だけ名前呼びなのって、たぶんお姉ちゃんの影響ですよね…?」
「りみ、そうなの?ゆりさんとコイツに何の関係があるんだよ」
「歳上にコイツって、市ヶ谷、それはないんじゃないか?」
「……」
「いえ、なんでもありません。申し訳ありません。なんでも致します。どうかお許しを」
最上級の目が笑っていない笑顔で威圧されてしまったので、先の一件の影響で平伏してしまう。情けない僕、負けるな僕。
「まあ話を戻すが、僕の家と牛込さん家の親同士で少し交流があってな。その時にゆりさんからややこしくなるし名前で呼んでって頼み込まれたんだよ。だからりみちゃんだけ名前呼びで定着してるんだ」
「へぇー。そうだったんだ。私のこともたえって呼んでいいよ、タッくんにならそう呼ばれたいし」
ギターの弦を緩めて、ケースにしまいながら恥ずかしげもなく名前で呼んでくれという花園。
それに続き戸山、山吹も続いて名前呼びを提案してくる。
「じゃあじゃあ、タッくんって呼んでもいいですか?!あと、私のことも香澄って呼んでほしいです!」
「みんな名前呼びのなか私だけ名字ってのも変だし、私のことも沙綾でいいですよ」
「うーーん、それもそうだな…ポピパのみんなが嫌じゃなければ名前で呼ばせてもらうけど、それでもいいか?」
各々3人が二つ返事で了承し、少しほっとする僕。
3人に向けて良かったねとニコニコするりみちゃん。
ふとそこでキーボードを拭いている市ヶ谷に目をやってみると、一瞬だけ目が合い、すぐにプイと逸らされてしまった。
これは、感じるぞ……ラブコメの波動を…
青木くんの市ヶ谷いじりへのスイッチがONになってしまう。
「市ヶ谷は、いいのか?名前で呼ばなくて」
「はぁ、か、勝手にすれば…?」
「じゃあ試しに呼んでみるぞ、……"有咲ちゃん"」
「っっ!!!」
途端に赤面する市ヶ谷。いやいや、本当に楽しい、名前を呼んだだけでこの反応なんだからな…思わずにやけてしまいそうになるのを我慢し、畳み掛ける。
「どうした、"有咲ちゃん"。顔赤いけど、熱でもあるのか?ちょっとおでこ出してみ」
「う、うるせぇ……熱なんてねぇから…。あと、ちゃん付けすんな…普通に有咲でいいから……」
うわぁ、思った以上に良い反応だ……
すごいぞポピパ、すごいぞ有咲!!!
「有咲、乙女の顔になってる」
「ふふ、有咲って本当に可愛いですよね。」
「有咲ちゃん、照れてるのかな…?ふふ」
「有咲は照れ屋さんだからなぁ〜。素直に名前で呼んでって言えば良かったのに〜」
「う、うるせぇな…お前らみたいにグイグイいける方がおかしいんだよ!!」
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ポピパの練習が終わり、外に出た僕と彼女たち。
帰る方角は彼女達全員と違う方向なので、ここで解散という形になる。
それぞれが帰路にたつ中、沙綾から呼び止められる。
「拓海さん!」
「うお、ってなんだ沙綾か…お疲れ様。みんなもう帰ってるけど、どうした?」
「うちの店に来た時に、ポイントカード、落としていきませんでしたか?2枚あるんですけど…」
そういわれてから無くしたような記憶が蘇り、財布の中を確認してみるがやはりなかった。ので恐らく沙綾が持っているのは俺の使っているポイントカードだろう…だが2枚とはどういうことだ?
「やっぱり僕のものがあると思う、1枚しか使ってないからたぶんどちらかが僕のポイントカードの筈だし、回収させてもらうよ」
「やっぱり拓海さんのですよね!もしかしたらと思って、リハ練に来るときに聞いてみようかと思って持ってきてたんです、良かった」
なんや…ええ子だ……
しっかり沙綾からポイントカードを受け取った僕は、今度こそ帰ろうとする。するとまた後ろから沙綾が叫ぶ。
「またウチにきてくださいねー!おまけしますから!」
「あぁ!ありがとな!」
薄暗くなる前の夕方の時間帯、送って行こうかと提案したがみんながいるから大丈夫、と断られてしまった。
「みんながいるから大丈夫、か…
本当に羨ましいな。さっきのはそういう意味ではないだろうけど」
バンドって本当にすごい。
ポピパもそうだけど、みんな楽しそうで、一丸となってる様子を見ているだけで本当に眩しい。眩しすぎる。
ライブのスタッフとして、少しでも彼女達を支えられる役目を果たせると嬉しいな…なんせ僕は陰なんだから。
それはそうと、回収したポイントカードに目をやってみると、少し違和感がある。こんなにスタンプ貯まってたかな……まあいいか。
明日も楽しくなりますように。
次回からAfterglowの面々と絡んでいきます。