「はぁ、はぁ……危ねえ、本当に、はぁ、ギリギリじゃないか」
「だらしないなぁ、たーくんは〜」
やまぶきベーカリーで偶然にも遭遇したモカと話し込んでいた所為で、学校にはホームルームが始まるギリギリの時間の到着になってしまった。
それにしてもモカのやつ、あれだけ食って走ったくせに息のひとつすら乱してないな…ていうか、まだパン食ってるし。
「やっぱりやまぶきベーカリーのパンは最高ですな〜」
「おう…ていうか、いつまでも食ってないでさっさと教室に向かえよ」
「ううう、たーくん、こんな可愛いモカちゃんと、お話するのはイヤなの〜?しくしく」
本当にお調子者だな…モカは。まあそれがこいつの良いところでもあるんだが、周りの存在があってこそ更に引き立つ感じがあるんだよな。
……ちょいとふざけすぎだとは思うんだが。
「たーくん、本当に遅刻しちゃうよ〜」
「元はと言えばお前が引き止めたんだろうが!」
「わ〜、怒った〜〜逃げろ〜〜」
散々からかった挙句、そそくさと教室の方へ逃げ込むモカ。
まあ、学校についてるのに遅刻してはシャレにならんし、俺もさっさと教室へ向かうとするか。
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ふう、やっと着いた。
今日はもう走ったし、誰かさんのせいで階段上るのにも一苦労だ…
教室に入り、いつも座っている窓際からふたつ隣の最後列にある席へと向かう。
と、すぐ隣の窓際最後列の女子生徒と目が合う。
横目でジロッと値踏みするような目線を向けるのは、黒髪のショートボブに赤メッシュの入った端正な顔立ちで、それでいて何か威圧感のあるオーラを放っている…そう、こいつがAfterglowのギターボーカル、美竹蘭だ。
「今日は遅いじゃん。なんでそんな汗かいてるわけ?」
「蘭……これには海よりも深〜い事情があるんだよ」
「はぁ…どうせ寝坊して走ってきたんでしょ」
バレたか、と笑いながら席に腰掛ける僕。蘭は少し笑っている。
と、落ち着く暇もないまますぐに話しかけられる。
「今日、練習あるから。拓海も来て」
「お前…また急なこと言いやがって」
「どうせヒマでしょ」
まあ、その通りなんだが…なんだかこのまま蘭に乗せられて予定を決められるのはシャクだし、からかってみるか。
「そういえば、僕がギターの大会で入賞したからみんなプレゼントをくれたんだけど、蘭は何もくれないのか?Afterglowのみんなはちゃんと祝ってくれたんだが」
「え…?」
「いやぁ、いくら幼馴染だからって酷くないか?巴もつぐもひまりも、あのモカですら祝ってくれたのに。俺は"蘭に一番祝ってほしかった"のに…ショック大きいわ」
わざとらしく大きくうなだれて、悲しんでる風に視線を蘭へと向けるとゆでダコさんになりそうに顔を赤らめている蘭が押し黙っていたので、更に畳み掛ける。
「昔から幼馴染の中でも一番に蘭を異性として認識してたし、こうやって話せてるだけでも嬉しいけどさ。…はぁ……」
「ちょ、拓海、何言って……」
さらに顔が赤くなり、目線すら合わせてくれなくなってきた。
これ以上やると反動がヤバそうだし、そろそろやめておくか…
そう思い、ネタばらしで口を開こうとする。
「その…ごめん……拓海。代わりにじゃないけど…今日は父さんが遅くなるから、ウチ…来て。ご飯作る、から…」
まずい。
蘭さん、本気で反省してるのか…既に涙目である。
どう収拾をつけよう、やらかしてしまったかもしれない。ここは男らしく、堂々と嘘だと告げよう。
「あの、蘭…」
「ホント、ごめん…拓海、こんなんじゃお祝いにならないかもだけど」
「…ウソだよ、さっきのは冗談」
言った。
「……は?」
「昨日はずっとバイトしてて、その後家に帰っただけだよ」
「……………」
みるみるうちに赤くなる顔、そして先程とは違い眉間にシワが寄っている美竹さん。見たところ、完全におこである。
「……サイッテー…」
「ごめんって、蘭。俺が悪かったよ、でも…そんな罪悪感を感じてくれるなんて嬉しかったよ、ありがとう」
「うるさい、もうアンタとは口利かない」
「ほんと悪かったって、ごめん…蘭。ほら、これからグリンピースは俺が食べてやるから、機嫌直せって。な?」
♪〜♪〜♪〜♪〜
…タイミング悪くチャイムが鳴ってしまい、話すタイミングが失われてしまう。
これは、まずいな…昼休みにはなんとかしなければ……
と、どうしようか考えていると蘭の方から小さく丸めた紙が飛んでくる。
【異性として見てるなら、誠意見せてよね。
昼休み、早めに屋上きて】
予想外の言葉が書かれており、少しを面食らってしまう。
蘭の方を見ると、普段とは変わらない様子ではあるが口元が少し悪戯心に満ちた曲がり方をしているような気もする。
これは…蘭の機嫌を戻すチャンスかもしれないが、逆に俺が弄ばれてしまう可能性もある。
しかし誠意とは…どうしたらいいんだ?
授業の合間に隣のクラスへ相談しに行ってみるか…
蘭ちゃんでした。
少々キャラを可愛く見せるために話題作りが強引なところがあるかもしれませんが、極力原作に寄せて作れるように頑張ります。
美竹さんは気の許している相手には冗談やからかいなどを普通に使ってくるタイプだと思ってます。