とある斜陽王国における勘違い戦線   作:himeneko

11 / 23
勘違い被害者その五

ガゼフ・ストロノーフ視点です


別視点、王道を往く

 

貴族とは常に先頭に立ち誰よりも先に血を流すことを誉とした。

 

王とは貴族たちを束ね、遍く民草に繁栄と安寧をもたらすもの。

 

そんな王侯貴族を支え、国家の礎となるのが民である。

 

 

それこそが王道であると、ガゼフ・ストロノーフは確信している。

 

 

 

 

Side ガゼフ・ストロノーフ

 

 

俺には絶対の忠誠を捧げる主君がいる。

 

我が終生の主との出会いは、竜王国救援のために義勇兵として参加した時だった。

そのころの俺は傭兵として身を立てていた。

貴族に雇われることもあったが、正直なところあまり貴族を好きにはなれなかったな。

人を人とすら思わない仕打ちに何度も出くわしもした。

 

だから貴族が他国の危機に私財を投じて義勇兵を募ったのは衝撃的だったよ。

そんなことがあるのか?

何か黒い思惑があるのではないか?

経験上、疑わざるを得なかった。

 

しかし義勇軍に参加したい欲求には抗えなかった。

他国とはいえ、困っている民草へ手を差し伸べる行為は何より尊いものに感じたのだ。

民の信頼篤いシグルド公子が発起人だという噂にも後押しされ、俺は義勇軍に参加した。

そしてその判断は間違いでなかった。

 

竜王国のとある都市で行われていたのは戦争などではなかった。

 

それは一方的な虐殺で、蹂躙で、遊戯で、捕食だった。

誇りも慈悲もなく人間を喰らい尽くす野獣の群れに、自分の心が憤怒に染まるのを抑えられなかった。

傭兵としてあるまじき拙さだったよ。

シグルド公子の号令の下、都市へ雪崩れ込んだ俺たちは、視界に映るビーストマンどもを蹴散らした。

惜しみなく武技を使い、まだ救える命があると信じて剣を振るったんだ。

 

だがそれは己の命を顧みない無謀と同義でもあったのだ。

 

ビーストマンは屈強な種族で、雑兵ですら人間をはるかに上回る力がある。

それに引き換え義勇軍は数ですら劣っていた。

最初こそ士気の高さに任せて圧倒していたが、次第に俺たちは劣勢に追い込まれていった。

市街戦では乱戦になり易く、乱戦では個々の戦闘力が重要になる。

けが人が増え、一時後退を考えねばならなくなった時、あの御方の声が戦場に響いたんだ。

 

 

「戦線を再構築する! 敵には二人一組で当たれ! 戦友を死なせるな!」

 

 

その勇壮な声に、俺の心は湖面のように落ち着いた。

隣で戦っていた男と顔を見合わせ一つ頷く。

俺たちは背中合わせになり、お互いをカバーする。

 

 

「この身に流れる血は悪しきものを滅ぼす定めの証。聖剣よ、我らに力を!!<聖剣の加護>」

 

 

そこからの逆転劇は英雄譚の一幕のようだった。

シグルド公子の激は、その言葉通りに俺たちに力を与えたんだ。

体は羽のように軽くなり、振るった剣はビーストマンを両断し、疲労を全く感じない。

何より勇気が体の奥底から湧いてくるのだ。

それはまるで尽きぬ水瓶のように際限なく、無辜の民を救えと吠えたてる。

 

俺は夢中で剣を振るい続けた。

 

 

戦いが終わったのは、市街地のビーストマンを粗方掃討し終えた頃だった。

激しい戦いだった。

味方の被害は?

無辜の民を救えたのか?

俺は息を整え周囲を見回した。

 

するとどうだろう、傷つき負傷した兵や民に回復魔法を唱えているシグルド公子がいるではないか……!

 

俺は嬉しくなった。

貴族なのに前線に立ち、兵と共に戦い、傷ついたものを癒し、労いの言葉をかけている。

そんな貴族が存在したのか!

まだ少年だろうに、ここまで平民に寄り添える貴族に俺は年甲斐もなく感動したんだ。

 

その後、竜王国の王城で開かれた戦勝会でも俺は度肝を抜かれたのだ。

 

都市を防衛した義勇兵や冒険者に、女王からの心尽くしのパーティーだった。

王侯貴族向けの場ではなかったから俺も気負わず参加したんだ。

上手いメシを食い、酒を飲み、互いの健闘を称え合う楽しいひと時だ。

そこで背を任せ共に戦った男と再会したんだっけな。

 

「よう、飲んでるか?」

 

「ああ、君は……」

 

「俺はブレイン・アングラウス。あんたは?」

 

「俺の名はガゼフ・ストロノーフ。しがない傭兵をしている」

 

「へぇ、あんたがあの……あの戦場での戦いぶり、噂は伊達じゃないようだな」

 

「それはこちらの台詞だアングラウス。君のような高名な剣士と肩を並べて戦えたとは光栄だ」

 

「ブレインでいいよ、鉄火場を乗り越えた仲だろ?」

 

「フッ、では俺の事もガゼフでいい」

 

剣聖ブレイン・アングラウス。

傭兵でその名を知らないものはいない。

カタナという南方の剣の使い手で、神速の剣技は見切れるものなしらしい。

戦場で見た限り決して誇張ではないだろう。

 

「それにしてもビーストマンの侵攻は年を追うごとに苛烈になるな」

 

「どういうことだ? 義勇軍が派兵されたのは今回が初めてじゃないのか?」

 

「義勇軍はな。去年までは領軍として参戦してたのさ」

 

「領軍だと!? そんな貴族がどこに……まさか」

 

「ああ、うちの大将だよ」

 

「ブレインお前……シグルド公子に仕えているのか?」

 

「ははっ、シアルフィ公爵家にとは聞かないんだな」

 

「茶化すな」

 

驚愕だった、目の前の男は貴族になど仕える性質ではないと思うのだが……。

だがシグルド公子なら納得もできる。

 

「しかし何故今年は領軍を派兵しなかったのだ?」

 

「剣士の俺には詳しくは分からんが、なんでも健全じゃないからってことらしい」

 

「健全?」

 

「貴族として竜王国に貸しを作りたくないんだろ」

 

「それはどういう……竜王国は相応の対価を支払っているのだろう?」

 

「あいつは困ってるヤツから対価なんざ取らねえよ。けどそれじゃあ竜王国の女王様は安心できん」

 

「……確かに不気味に映るだろうな」

 

「だから義勇軍なんだろ。これなら俺たち全員の善意だ」

 

「善意……」

 

「呆れるほどお人よしだろ? ま、だからこそ仕えがいがあるってもんさ」

 

そう言って笑うブレインの顔は、とても誇らしげだった。

ああ、この男はシグルド公子のためなら喜んで死地にすら飛び込める、そう思わせる信頼が見てとれたのだ。

 

それが堪らなく羨ましかったのを覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからいくらか年月が流れた頃、俺は変わらず傭兵稼業を続けていた。

 

変わったこともあるにはある。

あの時の縁で今年の義勇軍にも参加したんだ。

そこでシグルド公子と話す機会を得たのは幸運だった。

正直緊張して話した内容のほとんどを覚えていないのだが……。

それでも彼の御仁の人柄は、無骨者の俺にも好ましかったと覚えている。

 

俺はどうしたいのだろうか?

 

最近、傭兵稼業にどうしようもない虚しさを感じてしまうのだ。

冒険者に転身しようとも考えたが、俺には戦う事しかできん。

それに数は少ないとはいえ、俺に付いてきてくれている傭兵仲間もいる。

こいつらも俺と同じ戦う事しか知らない無頼漢だ。

まともな職には就けまい。

 

王国は住みやすい国になった。

治安は数年前とは比べ物にならないほど向上し、商人たちが精力的に街々を巡っているのを見かけるからな。

街角に笑い声が響き、子供たちは笑顔で遊んでいる。

こんな風になるなんて誰も想像だにしなかっただろう。

 

だから俺も変わりたいんだ。

 

柄にもなく考え込んでしまったのが不味かったのか、街道を歩いていると子供とぶつかってしまった。

慌ててケガをさせていないか確認しているのだが、どうにも様子がおかしい。

野盗など久しく見なくなったとはいえ、ここは街道、子供が一人で歩くには不自然だ。

何があったのか子供に尋ねると……

 

 

「……お姉ちゃんがり、領主さまに……連れていかれちゃって……たったひとりの、か、家族なのに……ッ」

 

 

胸糞悪い話だった。

器量よしの姉が領主の慰み者にされる。

本当に胸糞の悪い、だがこの国ではありふれた悲劇でもあった。

平民だから仕方ない、誰だって泣き寝入りするしかない。

 

だが、その時の俺は我慢ならなかった。

 

同じ貴族なのにこうも違うのか!

あの方は誰よりも民を想い、自らの血を流すことも厭わぬというのに!

なんだこれは!

何故このような無法を平然と行えるのだ!

自分の民だろう!?

何故いたずらに傷つけることができる!?

 

「だ、だから行かなくちゃ……シグルド公子様なら……き、きっと、おねえ……ちゃ……を……」

 

そう言い残し俺の腕の中で子供は気を失った。

そうだ、あの方ならあるいは……。

 

藁をも縋る心境で、俺はシアルフィ公爵領へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

驚くほどすんなりシグルド公子と会うことが出来たのは僥倖だった。

 

状況を説明するなり僅かな手勢を連れ、件の領主の館へ乗り込んだのには驚かされた。

屋敷の正面口を魔法で粉砕し、領主を引きずり出した公子は静かに怒っていた。

 

「こんなことをしてタダで済むと思っているのか! 私は……」

 

「王国聖騎士のシグルドだ。昨日村から連れ去ったという娘を返してもらいに来た」

 

「王国聖騎士! シアルフィ公爵家の!?」

 

「二度は言わない。さっさと娘を連れてこい」

 

「……それは出来ない相談ですなァ。いかに公爵家とはいえ、私はボウロロープ候の縁者ですぞ?」

 

「それがどうした?」

 

「は……?」

 

「聞こえなかったのか? それがどうしたと言っている」

 

「しょ、正気か貴様!? 私の一声で国を割る内乱になると言っておるのだぞ!?」

 

「私は正気だとも」

 

「狂ってる……たかが村娘ひとりのために我ら貴族派閥と戦争をする気か!?」

 

「たかがではない。これは唯一の肉親を理不尽に奪われた少女の怒りだ」

 

「な、なにを言って……」

 

「この怒りを阻むというなら、騎士の名に懸けて私が相手になろう!」

 

 

そこからはあっという間だったよ。

 

軍を起こしたボウロロープ候は民衆によって倒された。

シグルド公子と同じように民衆も怒っていたのだ。

 

今こそ恩を返す時だ! シアルフィ公爵家を、シグルド公子様を守るんだ!

 

親を、夫を、妻を、子供を、友を、恋人を貴族の無法から守ってもらったのだろう。

領主に見捨てられた村を、野盗の脅威から守ってもらったのだろう。

民衆は口々に公子への恩を叫び槍を取った。

 

その数は千を越え、万を超え、大きなうねりとなって貴族派閥の軍を飲み込んだ。

元々民兵が大半だったのだ。

精強な私兵を揃えていたボウロロープ候とて抗えるはずもない。

 

こうして不貞貴族たちは民衆によって断頭台へ送られることになった。

 

 

そうか、これが答えだったのだな。

理不尽な現実が変わるよう願っているだけでは何も変わらなかった。

国が、王が、貴族が、そんな他力本願な発想ではダメだったのだ。

 

困っている人がいれば助ける。

国境や人種など関係なく、ただ人々の安寧のために剣を振るう。

その姿に感謝し、感動し、憧れる。

彼の鮮烈な生き様に王国民は続いたのだ。

 

弱者として守られるだけではない。

シグルド公子と共に歩む道こそ、理不尽な現実を覆す未来へ続いているのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後にその後の事を話そう。

 

連れ去られた娘は無事保護され、その身柄は姉妹ともどもシアルフィ家が預かることになった。

女の子だったとはな……。

その妹の方は魔法詠唱者の才能があるらしく、フールーダ老に魔導を師事している。

 

姉の方は公爵家で侍女見習いとして働いている。

シグルド公子に恩返しがしたいと話していたが、あれは……いや、野暮なことは言うまい。

彼のことだ、悪いようにはしないだろう。

 

そして俺はというと……

 

 

「ブレイン、合わせろ! 武技<六光連斬>!!」

 

「命令すんじゃねえよ! 武技<流星>!!」

 

十一の斬撃が敵を屠らんと迫る。絶好のタイミング、回避は不可能に思えたのだが

 

「武技<月光>」

 

蒼い光を纏った聖剣の一振りで、すべて迎撃されてしまう。

理不尽だ。

 

「クソっ、<即応反射><流水加速><能力超向上><剣殺し><鬼神飛燕の一撃>」

 

「態勢を立て直すぞ! 無茶をするな!」

 

「無茶しないで大将から一本取れるかよ! これが俺の最高の技だ! 秘剣<蒼の流星>!!!」

 

速い……!

一体どれほどの修練の果てに辿り着いた境地か、剣聖の名に恥じぬ神域の武技だ。

これならば流石に

 

「撃ち落とす! 武技<天空>!!」

 

「なにィ!? ぐわああああーーーーー!!!」

 

ダメだったか……。

二人がかりで手も足も出んとは、この御方の強さは底が知れない。

 

「ガゼフ、ブレインに回復魔法をかけておいた。あとで部屋に放り込んでおいてくれ」

 

「承知致しました」

 

「まだ硬いな。ブレインほど崩せとは言わないが、もっと気楽にしてもらっていい」

 

「は、はぁ」

 

「君もブレインも強くなっている。油断していると、そのうち一本取られそうだな」

 

そういいながら屋敷に入っていく我が主君。

シアルフィ公爵家嫡子、シグルド公子その人だ。

 

俺は正式にシグルド公子に仕官した。

傭兵という気楽な身分を捨て、シアルフィ公爵家の騎士となり日々研鑽に勤めている。

領内の警備に気の置けない同僚との訓練という名の死闘。

騎士など柄ではないと思っていたが存外性に合っているようだ。

 

……定期的に行われる敬愛する主君との模擬戦が、毎度命がけなのは慣れないが。

 

俺はこの道を進む。

その先に何が待っていようと、決して後悔だけはしない確信を胸に。

 

 

 




上級職爺さん
ニヒルな剣士
質実剛健な傭兵

いけない、聖騎士がヒーラーを兼任してるからヒーラー(美少女)が加入できない(白目
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。