とある斜陽王国における勘違い戦線   作:himeneko

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勘違い被害者その六

みんな大好きニグン=サン視点です


別視点 再臨の時来たれり、其は人類を救済するもの

 

信仰する神はすでに身罷られた

 

その事実を認めることから人類の救済は始まる

 

確信をもって、陽光聖典隊長は激動の時代を友と駆け抜ける

 

 

 

Side ニグン・グリッド・ルーイン

 

 

八年前、我がスレイン法国は神の再臨を確認した。

 

雄大なるアゼルリシア山脈が割れたのだ。

それは聖なる極光によってもたらされた奇跡だった。

しかもその極光は、山脈を根城にする邪悪なる竜王の一族を一撃で殲滅した。

当時の水の巫女姫による《プレイナーアイ/次元の目》での情報なので信頼できるものだ。

 

齢10を越したばかりの少年が放った光の斬撃、それが極光の正体だった。

 

法国は沸いた。

 

リ・エスティーゼ王国が筆頭貴族シアルフィ公爵家嫡男シグルド。

弱きを助け強きを挫く、清廉潔白な武人。

神の遺産を凌駕する究極の聖剣の担い手。

腐った果実と揶揄される王国の闇を払った光の公子。

ビーストマンの脅威に晒された竜王国を救った人類の守護聖騎士。

家畜同然だった王国民を、誇り高い正義の使徒へと導いた人類の統率者。

 

法国ではあらゆる美辞麗句がシグルド公子に向けられた。

上層部は彼こそが待ち望んでいた第七柱の神であると盲信している。

彼が王国貴族であることなど些事だ。

彼の公子が圧倒的武威を持ち、私心無く人類救済にその全能を傾けている事実が重要なのだ。

 

私とて、そうであった。

 

人類の黄昏。

この世界は人類にとって過酷に過ぎた。

救済者たる六柱の神は地上を去り、八欲王が荒らしまわった人類の生存圏は最早砂上の楼閣である。

ビーストマンを始めとする異形の者共に、日夜削り取られていく。

竜王共が幅を利かせ、帝国や王国などの人類国家は私利私欲に走るばかり。

団結する事すら出来ない人類に、滅亡の足音が刻一刻と近づいている。

 

そんな絶望の只中に舞い降りた希望、光り輝く聖騎士に傾倒するのを誰が責められようか。

 

 

 

 

 

シグルド公子、竜王国救済のため義勇軍を興す。

 

当時の法国は喜び勇んで参陣すると決めた。

憎きビーストマンを駆逐する、光の公子による人類救済の幕開けだと判断したからだ。

若き公子に合わせて、法国の次代を担うエリートが選抜された。

 

その中の一人に私、ニグン・グリッド・ルーインはいた。

 

まさに我が世の春だった。

物心ついた時から神へ信仰を捧げてきた自分が神の尖兵として戦えるのだ。

神の目に留まれば栄達も思いのままだ。

そのような小人の考えを恥ずかしげもなく抱えていた。

 

 

今にして思う、我がことながらなんと愚かしい。

 

 

シグルド公子率いる義勇軍とビーストマンの戦いは、まさに神話の再現だったのだ。

 

公子の神としての権能なのか、彼が聖剣を掲げ号令を発すると力が溢れてきた。

比喩などではない。

手にしたメイスの一振りで、汚らわしいビーストマンが爆散する。

私は信仰系魔法詠唱者なのだ、断じて戦士ではない。

なのに今この身に宿る力は、信じ難いことに英雄の領域を軽く凌駕しているのだ。

数千の軍勢の全てが英雄の領域に引き上げられた。

 

勝てる……!

 

そう確信した私たち義勇軍はビーストマンの軍勢を半日とかからず叩き潰した。

 

 

 

 

 

 

 

ひとまず竜王国は救われ、私は法国へ帰還し陽光聖典の隊長に抜擢された。

 

精鋭中の精鋭。

選ばれたエリートのみで編成された特殊部隊。

そこへ若くして抜擢された私は確かに栄達したのだろう。

 

だがそんな些事には興味すら湧かなかった。

心を占めるのは、あの苛烈な戦場を越えてシグルド公子にかけられた言葉だった。

 

「君が法国の魔法詠唱者のニグン殿かな?」

 

「は、はい!」

 

「君の魔法のおかげで多くの兵が救われたと聞いている。本当にありがとう」

 

「れ、礼など不要でございます。私は法国の人間として当然の行いをしたまでです」

 

「謙虚なのだな。だが礼は必要だろう?」

 

「ですから私如きに……」

 

「如きなんて卑下するのはやめてくれ」

 

「……は?」

 

「共に戦場を駆けた戦友を馬鹿にすることは、私が許さない」

 

「せん……ゆう……?」

 

「私が友では不満かい?」

 

 

不満などあろうはずもなかった。

彼の力を考えろ。

もっと傲慢でもいいはずだ。もっと不遜でしかるべきだ。

だが目の前の彼は、私を戦友と、対等な人間として認めてくれた。

そうだ対等なのだ。

彼は盲信を欲しておらず、自ら思考し共に邁進する仲間を欲しておられるのだ!

ならば私はその先駆けとなろう。

 

それから私は公子と多くの言葉を交わした。

 

この世界には救いを求める事すら出来ない者たちで溢れている。

彼はそれらを救いたいと仰った。

神と目される男のひたすらに純粋な祈りだった。

 

支えねばならない、いや支えるのだ! 支えたいのだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生涯の友を得たあの良き日から数年が経った。

 

私は陽光聖典の隊長として日々力無き者の為に戦っている。

本音を言えば、すぐに彼の下へ馳せ参じたい。

その思いはとめどなく、上層部に掛け合っているのだが……

 

「なに!? 漆黒聖典第五席次が光の公子の下へ向かっただと!」

 

「部屋に書置きが。『我が信仰心は何人にも阻めません。我が神はシアルフィにあり』だそうです」

 

「……そうか」

 

「妹の方からもメッセージが。『微力を尽くしてシグルド様にお仕えしたく存じます。勝手をお許しください』だそうです」

 

「最近姿が見えぬと思うておったら神の下にいたのか!?」

 

「漆黒聖典に内定していたのですが……」

 

「こう言っては不敬だが、あの娘はシグルド様への憧れを隠しきれていなかったからな」

 

「あの兄妹なら人格も実力も申し分ない」

 

「だがその穴埋めは容易でないぞ、特に一人師団の殲滅力は法国随一だった故」

 

「集団戦に特化した陽光聖典には負担をかけることになるだろう」

 

「すまぬなニグンよ。おぬしの出向の件は保留にせざるを得んようだ」

 

あの人外兄妹め、抜け駆けしおってからに!!

 

 

 

 

 

 

 

更に数年が経ち

 

「ニグンよ、ようやくお前を光の公子の下へと……」

 

「大変です神官長!」

 

「何事だ騒々しい」

 

「番外席次が出奔しました。行先は光の公子の下と推測されます」

 

「な、なんだと!?」

 

「警備に当たっていた漆黒聖典隊長は馬小屋で気絶しています」

 

「なんという……評議国のドラゴンロードが黙っていないぞ」

 

「水の神殿より伝令、アゼルリシア山付近で番外席次が何者かと交戦状態に突入!」

 

「まさか評議国の刺客か……!」

 

「続報です。現場に光の公子が参戦! 番外席次を一撃で沈め、評議国の刺客と思われる敵を光の斬撃で山ごと消し去りました!」

 

「なんたることだ……」

 

 

この事態を収拾するために上層部は奔走し、私は法国に留められることとなった。

漆黒聖典は疫病神か……!

 

 

 

 

 

 

 

 

番外席次の暴挙から数か月

 

「実に喜ばしい! 全人類救済のため王国から同盟の打診とは望外の僥倖だ!」

 

「こちらからというのは不遜ですからな。神が法国へ目を向けて下さるまで長かった……」

 

「番外席次……彼女の境遇にシグルド様は酷く憤慨なさったそうだ」

 

「『世界の管理者と驕る竜王よ、人の心までは管理できぬと知るがいい』そう白金の竜王に啖呵を切ったらしい」

 

「……耳が痛い言葉であるな」

 

「はい、我ら法国も変わらねばならぬ時期なのやもしれませぬ」

 

「奴隷制度の廃止に異形種への弾圧か」

 

「王国はすでに異形種の受け入れを活発に行っているとか」

 

「黄金と称される姫だな」

 

「シグルド様は異形種であっても差別を嫌う。外見ではなく内面こそ彼の光の公子は見抜くのだ」

 

「リザードマンとは友誼を結び、ビーストマンは拒絶された。この意味を考えねばならん」

 

「我らも意識改革を推進するべきです。神に失望されるなど耐えられません!」

 

「と、いうわけだニグンよ」

 

「風花聖典と協力し国内の意識改革、啓蒙に勤めよ」

 

どういうわけだ!

私たち陽光聖典の本分は集団戦と殲滅戦だぞ!?

もう十分私は法国に貢献しただろう!

抜け駆けした馬鹿者共の穴埋めに、どれだけ苦労を重ねたと思っている!

若干私の髪が薄くなったと陽光聖典内で噂されていることだって知っているのだぞ!?

 

そういって土の神官長に退職願を叩きつけた私は悪くないと思う。

 

……当然受理されなかったが。

 

 

 

 

 

 

その後、私が陽光聖典を率いシグルド公子と合流したのは、のちに聖魔戦争と呼ばれる動乱の最中だった。

 

 

 




むしろ法国全体が勘違い被害者(白目
聖騎士が好き放題やったせいで法国が比較的イージーモードになったせい

なおこの後、エルフ王は聖騎士たちに去勢された模様

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