とある斜陽王国における勘違い戦線   作:himeneko

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聖騎士シグルド

それはどんな事態でも変わらない

ただひとつの聖騎士ムーブ


聖騎士、真なる破滅の竜王と相対す

猛烈な勢いで過去の清算に励むシグルド二十歳です。

 

カルネ村を焼いたのが身内のNPCだった件(白目

ローブル聖王国を滅ぼしたのがその一味だった件(白目

 

ここ現実よ?

何ゲームの中からこんにちはしちゃってるの?

何好き勝手に悪事の限りを尽くしちゃってるの?

僕らが築き上げた騎士の栄光ともいうべきギルドを汚すとかふざけるなよ(半ギレ

 

かつて僕と友人たちとで作り上げた、騎士や剣士、魔法使いで構成されたギルド『炎の紋章』。

キュアン、エルトシャン、レックス、アゼル、ベオウルフ、トラバント、フィン……

他にも多くの仲間がいた。

 

最高の仲間たちだった。

絶望的な現実を忘れ、共にユグドラシルを駆け抜けた。

弱小からトップギルドの一角までのし上がっていた。

多くの武器防具を鍛え上げた。

ワールドアイテムすら複数所持するほどやり込んだ。

ワールドエネミーの撃破を成し遂げた。

十二聖戦士をモチーフにしたNPCを作って装備品も最高のものを揃えた。

愛着があった。

執着もあった。

人生の全てだったと言っても過言じゃなかった。

 

だがあの十二魔将ゼクス、いや、魔法騎士トード、あのざまはなんだ?

清廉な騎士であれと産み出されたはずなのにクソ雑魚悪党ムーブだと!?

遺憾にもほどがある!

産みの親であるティルテュさんも草葉の陰で泣いているぞ!(死んでない

 

法国を襲ったという十二魔将アインス、おそらく黒騎士ヘズル。

残された装備品に魔剣ミストルティンがあったから間違いない。

クリティカル判定と魔法防御に絶大な補正がかかる神器級の魔剣。

エルトさん入魂の一振りだというのに情けない。

勿体ないからガゼフに与えて再利用してるけど(外道

 

残りの十二魔将もうちのNPCなんだろどうせ(不満

 

自らの意思にせよ誰かに操られているにせよ、僕が討つしかないだろう。

身内の不始末は元ギルマスの責任だし。

無辜の民を傷つけるものを許すほど僕の聖騎士ムーブは耄碌しちゃいない。

騎士ならばお互い覚悟があって当然、信念信条は自分の命より重いんだ。

 

そうだろう剣聖オード。

 

十二魔将ノインだかなんだか知らないが、ここで会ったが百年目。

元ギルマスの情けだ、アイラさんに代わって僕が討つ。

せめて安らかに眠るがいい。

ブレイン用に神剣バルムンクも回収してやるから安心して逝け(鬼畜

 

 

そんなわけで一年近く国内国外を駆け回り十二魔将を捜索中なんだ。

 

しかし一回しか遭遇しない。

せっかく単独で襲いやすい状況を作ってるのに情けない。

同じレベル100のはずだけど現実だとあまり基準として機能しないのかな?

僕自身、自分のステータスを完全に把握してるわけじゃない。

それでも十二魔将の残り全てと同時に戦って圧倒する自信はある。

ユグドラシル基準でいえばワールドエネミー以外なら割とどうにでもなるだろう。

油断さえしなければ(慢心

 

しかしもう好き勝手は出来ないよなぁ。

ブレインとガゼフは自分たちも連れていけと圧をかけてくるし(圧力

ラナーは露骨に不安そうな視線を向けてくるし(罪悪感

番外ちゃんはたまについてくるし(白目

アルシェは寂しいのかベッドに潜り込んでくるし(癒し

 

そろそろ敵の本拠地、もしくは目的くらいは……なんだいアルシェ?

 

お願いがある?

 

言ってごらん、僕に出来る事なら何でも聞いてあげるから。

 

私の故郷を助けてほしい?

 

う、う~ん、帝国は介入不可だと陛下やパパンに釘を刺されてるからなぁ。

すまない、孤児院の援助が限界だよ。

 

今の帝国は子供狩りや何の罪もない民が処刑されてる?

王国から逃げ出した八本指とズーラーノーンを母体にした暗黒教団が主導してる?

そうラナーが言っていた?

 

な、なんてことだ……!

皇帝は一体何をしているんだ!

 

皇子の傀儡に成り下がってる?

その皇子こそ暗黒神の依り代? 十二魔将を統べる世界の宿敵?

だから帝国の平民たちを守ってくれる存在はいない……だって?

 

 

縋るような眼差しでアルシェが見つめてくる。

酷い目に遭わされても故郷を心配することのできる自慢の義妹。

その切なる願いに応えてやれなくて何が兄だ、聖騎士だ!

いいだろう。

王命に反するなど騎士にあるまじき行為だ。

だがそれで救われる多くの命を見殺しにするなど我が聖騎士ムーブに対する冒涜に等しい。

たとえ反逆者の汚名を背負うことになっても構わない。

心優しい義妹の祈りを背負っているんだ。

それだけで僕は聖騎士として胸を張って戦える!

 

分かったよアルシェ。

誰も救えないというのなら僕が帝国の民を助けよう。

今この時も無辜の民が危機に晒されているのなら時間が惜しい。

僕は皇帝と皇子に問い質してくる。

アルシェは陛下とパパンにこの事を伝え……なにをしてるんだい?

 

私も一緒に行く?

 

それはできない。

僕一人なら強引に突破できるけどアルシェがいては……

 

この装備があれば役に立てる?

 

んんっ? そのどこかで見たチャイナドレスはまさか……

 

ラナーに借りてきた?

 

……アルシェ、嘘はよくないぞ。

それは強力な洗脳効果がある危険なアイテムだとラナーから聞いているんだ。

彼女がアルシェにそんなものを貸すはずがない。

 

兄様だけに背負わせたくなかった?

私も故郷を救う手助けをしたくてつい……?

 

アルシェ……

 

…………。

 

はぁ、わかったよ。

全部終わらせたら兄妹そろって罰を受けよう。

パパンとママンには申し訳ないけど、こうなった以上仕方ないさ。

 

じゃあ二人だけの戦争を始めようか。

 

 

 

 

 

聖騎士と少女を乗せた白皇号が疾風となって駆ける。

 

目指すはバハルス帝国、帝都アーウィンタール。

 

国境を越え、休息のため村へ立ち寄り、二人は帝国民の絶望を目の当たりにする。

 

子供を奪われた両親の嘆き。

 

親兄弟を殺された者の怨嗟の声。

 

縋る王も神もいない民衆の絶望に満ちた瞳。

 

聖騎士は決意を新たにする。

 

闇の皇子討つべし、帝国を覆う暗雲払うべし、と。

 

駆ける駆ける、遮るものは聖剣の錆にして突き進む。

 

幾百幾千幾万が立ち塞がろうが聖騎士は怯むことなく突き進む。

 

暗黒魔導士を切り払い、心ある帝国騎士は聖騎士の背に続く。

 

 

 

 

やって参りました帝都アーウィンタール。

 

たった二人で始めた戦争。

目的地に着くころには10000もの軍勢に膨れ上がってる不思議。

5000倍に膨れ上がっとる(白目

みんな鬱憤が溜まってたんだろうね。

憎き王国の聖騎士に協力したいと申し出るなんて普通じゃないよ。

まあそれより問題なのが……

 

「人類の守護聖騎士様が俺たちを救いに来てくださったぞ!!」

 

「これで救われる! もう怯えて暮らさずに済むのよ!」

 

「ああ……敵国の民にまで手を差し伸べてくれるなんて……」

 

「なんでも公子様の義理の妹が元帝国人らしい」

 

「その子が帝国の救済を嘆願してくれたそうよ」

 

「おお、なんと慈悲深い……」

 

「あの方だ! あの方がシグルド公子の義妹らしいぞ!」

 

「あ、あの子、知ってる。たしかフルト家の……」

 

「アルシェお嬢様!? ご無事だったのですね……」

 

「聖女……」

 

「そうだ! 聖女アルシェばんざい!」

 

「聖女アルシェばんざーい!!」

 

「聖騎士シグルドばんざーい!!」

 

 

帝都の住民に熱烈歓迎を受けている件(白目

 

えぇー、一応僕ら侵略者ですよ?

どんだけ弾圧してるんだよ皇帝と皇子は。

それにアルシェが聖女って……

その通りだとも!

うちの義妹は心優しい聖属性、まさに聖女(兄馬鹿

ようやく帝国人も気付いたようだね。

あんなに兄想いで健気な義妹なんて世界に三人くらいしかいないよ。

 

もちろんその中で一番はアルシェだけどね!!(病気

 

 

そんなこんなで皇帝の居城へ進撃。

途中で合流した帝国騎士のロックブルズさんに先導してもらう。

彼女は僕の不用意な行動でレベルダウン中だから心苦しいよ

カースドナイトなのに呪いを解呪してしまって本当にすまない。

泣くほど辛いんですよね……。

弱くなったんだ、騎士であるなら当然か。

 

アルシェ、盛大にため息を吐くのはやめてくれ(涙目

 

 

特に抵抗もなく玉座の間に到着。

 

さあ、皇帝に悪逆の真意を問い質す時だ!

 

ってあれ?

玉座に座ってるのいつぞやのバイ皇子じゃないですか!?

 

「よく来たな、忌まわしきバルドの末裔よ」

 

あー、うん、君にとっては忌まわしいよね。

爺的な意味で(白目

 

「敵国の民の為に単身乗り込んでくるとは恐れ入ったぞ」

 

命令違反は僕たち兄妹だけで十分だからね。

 

「しかしそれは慢心が過ぎるというもの。我がロプトウスの魔導書に聖剣ティルフィングは通じぬ」

 

え、バイ皇子が暗黒神の依り代なの!?

爺を失った心の隙を暗黒神に突かれたの!?

ないわー。

お宅どんだけフールーダ好きやったん(ドン引き

いい加減ジジ離れしろよ。

 

「貴様の居ない王国も同様よ。今ごろ我が配下の十二魔将が王国を蹂躙しているぞ」

 

それは聞き捨てならんね。

それじゃあジジ離れできない寂しんボーイにお仕置きしてさっさと帰らないと。

 

「フハハハハ! バルドの末裔如きが余を倒すだと!?」

 

その慢心ごと切り伏せる!!

 

 

 

 

 

 

Side レイナース・ロックブルズ

 

 

シグルド公子とジルクニフ皇子の一騎打ちは苛烈を極めた。

皇子が放つ暗黒魔法を公子は聖剣で打ち払う。

公子が放つ神域の武技を皇子はその身一つで受け止める。

 

戦況はシグルド公子に傾いている。

視認すら叶わぬ斬撃の豪雨にジルクニフ皇子は晒されているのだ。

これで帝国は救われるだろう。

私を救って下さった尊き御方がお救いになる。

 

だがこの言い知れぬ不安はなんだろうか?

 

「クハハハ! いいぞ、想像以上の腕前だ!」

 

「戦いの最中にお喋りとは余裕があるじゃないか」

 

「余裕だとも。確かに貴様の力はバルドを大きく上回っている。だがロプトウスと相対するには足りぬわ!」

 

「攻撃が……通っていない?」

 

「その通りよ。ロプトウスの魔導書は相手の攻撃を半減する加護が備わっているのだ」

 

「ならば<能力向上><能力超向上><獅子奮迅>、これならどうだ! 武技<月光>!!」

 

「無駄だと言ってぐるぶふぉっ!?!?」

 

 

シグルド様の絶技を受けた皇子が壁を突き抜けて城外へと落ちていった。

……ドラゴンの突進を半減したところで即死は免れないのではないか?

そう考えた私は正常だと思いたい。

 

まあジルクニフ皇子の生死になど興味はない。

シグルド様の勝利を称えるべく近づこうとすると

 

「まだだ、まだ終わっていない!」

 

シグルド様が声を張り上げた。

 

「城内に居る者は急ぎ退去せよ! ここに居ては危険だ!」

 

その言葉を遮るようにアレは現れた。

皇子が突き破った壁の穴から覗く、巨大な紅玉。

玉座の間の天井を壊しながら振り下ろされる地獄の鉤爪。

城の崩壊とともに露わになっていく醜悪で邪悪の化身とも思える巨体。

 

 

「遊びは終わりだ。我が1000年の恨みを思い知れ、バルドの末裔よ!!」

 

 

神話よりなお古い邪竜、暗黒神ロプトウスが顕現した。

 

 




次回は齧歯類(極悪)視点(白目

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