とある斜陽王国における勘違い戦線   作:himeneko

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勘違い被害者その三
爪切りさん視点です


別視点 剣士が見た流星

 

リ・エスティーゼ王国に、天才と評される剣士がいる。

 

農民の子として産まれ、誰に師事することなく我流で剣を振っていただけの少年だった。

未だ十代半ばというのに、大人の冒険者ですら見切れない程の剣技の冴え。

冷徹に戦場を俯瞰し、的確に敵を惨殺していく姿は羅刹の如く。

葬ったモンスターや野盗の数は、もはや本人すら把握できないほど。

 

故に天才剣士。

冒険者として身を立てる訳でなく、ただ己が才を振り回すだけの狂犬。

 

ブレイン・アングラウスの名が知れ渡るのに時間はかからなかった。

 

 

「あんたがブレイン・アングラウスか?」

 

たまたま立ち寄った村の宿屋で、村長らしき男から探るような目で話しかけられた。

 

 

 

 

Side ブレイン・アングラウス

 

 

村長のオッサンの話はシンプルなものだった。

何のことはない、近隣の森からあふれ出たゴブリンの群れの討伐だ。

領主への報告はしたらしいが、領軍を動員するには時間がかかる。

そこで村に立ち寄った俺に白羽の矢が立ったらしい。

 

一対一ならアダマンタイト級冒険者にだって勝てると自負している俺だ。

正直物足りない依頼だった。

ゴブリンなど何匹斬ろうが変わらない。

俺の糧にすらならん依頼など億劫だったが、路銀の足しにはなるかと引き受けた。

 

まあクソッタレな貴族の面子を潰してやりたいなんて、下らん考えもあったんだがな。

 

 

森から少し離れた場所に奴等はいた。

 

生意気にも集落を形成しつつあるらしい。

数自体は大したことないが、群れを統率する上位個体の存在が気がかりだ。

逃がせばまた群れを作るからな。

 

面倒は一度で十分だ。

さっさと終わらせるとしよう。

そう思った瞬間、一陣の風が吹き抜けた。

 

ハッとして視線を向けた先に、俺の理想が存在した。

 

俺と同じ髪の色をした子供がゴブリンどもを次々に葬っている。

ただ殺すのではない。

一度の斬撃で五匹は仕留めている。

剣閃すら目で追えない、閃いた瞬間に五匹死んでいる。

何だあれは、あんな絶技……俺は知らない……。

 

ふらふらと鉄火場へと向かうが、心は千々に乱れていた。

 

そんな俺の心のうちなど知らぬとばかりに、子供は必殺の剣技を放ち続ける。

あぁ、なんて……なんて……

 

 

「これで最後だ。武技<流星>!!」

 

 

子供の闘気が爆発的に高まり、銀閃が奔る。

抵抗すら許されず最後まで残っていた五匹の首が宙を舞う。

あっという間だった、厠で用を足すより早くゴブリンどもは殲滅された。

 

熱病にうなされる様な心地で見ていると、子供は一目見て業物とわかる剣を掲げ叫んだ。

 

 

「我らの勝利だ! 勝鬨を上げよ!」

 

「うおおおーーー!!!」

 

「シグルド公子万歳! シアルフィ公爵家万歳!!」

 

 

気付けば小隊規模の騎士たちが、子供に随伴している。

戦場の程近くに居たってのに、なんて迂闊。

あの騎士たちが敵だったらと思うとゾッとするが、あんな光景を目にしたら誰でもこうなると独り言ちる。

俺は腹の底からせり上がる衝動を抑えきれず、騎士の一人に声をかけた。

 

 

「あ、あの子供と話をさせてくれ!」

 

「なんだ貴様は? なぜこの場所にいる?」

 

「お、俺の名はブレイン。ブレイン・アングラウスだ。近くの村で依頼を受けてゴブリンを狩りに来てた」

 

「おお、噂に名高い天才剣士殿か!」

 

「いや……俺は……」

 

「先ほどは失礼した、私はシアルフィ家に仕える騎士アーダンだ。すぐにシグルド様へ取り次ごう」

 

 

ずいぶんと気さくな騎士だったな。

シアルフィ家といえば泣く子も黙る大貴族のはずだが……。

それにしても天才剣士か……ははっ、アレを見た後だと嫌味を言われてる気分だぜ。

 

そんな鬱屈とした俺の感情とは裏腹に例の子供、たしかシグルド公子だったか、が軽やかに近づいてきた。

 

 

 

「初めましてアングラウスさん。私はシアルフィ公爵家のシグルドです」

 

 

 

優雅に騎士の礼をとるシグルド公子に俺は圧倒された。

 

違う、何もかもが違いすぎる。

立ち居振る舞いだけで解ってしまう、戦闘者としての格の違い。

傲慢な貴族にはあり得ない真摯で優し気な雰囲気。

そして何より目だ。

あの目を俺は知っている。あれは強さをひたすらに追い求めている、現状に何一つ満足していない修羅の目だ!

 

は、はははッ!!!

 

あれだけの剣の冴えを魅せておいて、まだ満足してないってのかよ!!

 

しかも俺以上に強さへの渇望があるってのか!!

 

こりゃ最高だ。

こいつについて行けば、俺はもっと強くなれるに違いない。

 

いや、この機会を逃せば絶対に後悔すると本能が叫んでやがる!

普通なら不敬だと手打ちにされそうなもんだが、不思議とそうならない確信があった。

だから飛び込むとしよう。

貴族の犬なんざ死んでも御免だがコイツの、シグルド公子は別だ。

権力じゃなく剣力で負かされたんだからな。

 

 

「あんたの剣に惚れた! 馬番でも何でもいい、是非俺をあんたの部下に加えてくれ!」

 

 

そう懇願する俺をシグルド公子は年相応に驚いた顔で見ていた。

 

まあその後、シグルド公子の側近のジジイに酷い目に遭わされたんだが詳しくは言いたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの二年間は毎日が濃密で、日々自分が強くなっていく実感に溢れていたな。

 

他の貴族の領地内の問題に首を突っ込んだり、カッツェ平野へアンデッドの間引きに向かったり。

見捨てられた開拓村を救うために奔走したりと忙しく動き回った。

帝国軍四万を相手に、たったの三百の手勢で突っ込まされた時は笑いが止まらなかったぜ。

 

およそ大貴族の嫡子として相応しくない行為は、粗方やり尽くしたと言っていいだろう。

良い意味でかどうかは知らんが。

 

まあうちの大将は普通じゃ測れないヤツだから問題ないんだろう。

 

最近はボウロロープ候との対立が酷いことになってるけど、明らかにフールーダとシアルフィ公が煽ってるんだよなぁ。

大儀はこちらにあるし俺としては、ムカつく貴族との決戦は望むところだ。

 

 

「ブレイン! このまま一気に戦線を押し上げよう!」

 

「っと、了解だ大将」

 

 

いけねぇ、今は竜王国に蔓延っているビーストマンを国境まで押し返してる最中だった。

ビーストマン自体は驚異じゃないが、数の暴力ってのは案外馬鹿にならない。

つーかこの前帝国軍とやりあった時より状況酷くねえか?

 

「大将、いくらなんでも数が多すぎる」

 

「弱気とはらしくないじゃないか。騎士団の切り込み隊長の発言とは思えないな」

 

「全身に重りを付けて戦ってるんだぜ? 弱音のひとつも出るだろ」

 

「強くなるには最適の修行法だから我慢してくれ」

 

「聞いたことないんだが……」

 

「古い文献に書いてあったから間違いないさ」

 

「ふぅん、武技<神閃>!」

 

軽口をたたき合いながらビーストマンを斬って斬って斬りまくる。

常に間合いに5~6人のビーストマンがいるんだぜ?

剣を振れば当たる入れ食い状態だ。

 

流石の大将も辟易しているみたいだな。

うん? あの構えは……

 

「ちょっ、大将まさかアンタ」

 

「大技で一掃する! 騎士団各位は巻き込まれるなよ!」

 

「傍で戦ってる俺への配慮は!?」

 

「信頼してるからな。ブレインなら簡単に避けられるさ」

 

「天然か! 大将の武技はマジで洒落にならんって、オイ! ちょっと待て!?」

 

 

「武技<爆光>!!!」

 

 

大将の咆哮と共に放たれる暴威の嵐が周辺すべてを無慈悲に薙ぎ払う。

数百単位でビーストマンが空を舞い、当然暴威は俺にも迫ってるわけで……。

 

うおおおおっ!?!? <超回避><流水加速><疾風走破>!!!

 

あっ、あっぶねえぇ……!

俺じゃなけりゃ普通に死んでたぞ!?

 

「よし、狙い通りだ」

 

「よしじゃねえよ!? あと一歩対応が遅れたら俺まで巻き込まれてたわ!!」

 

「?」

 

「不思議そうなツラすんな! もっと慎重に――」

 

「ブレインだからこそ無茶が出来るんだ。肩を並べて戦えるのは君だけだからな」

 

「ッ!」

 

 

この人たらしが! 嬉しいこと素面でいうんじゃねえっての!!

……大将と足並みを合わせられるのが俺だけなのは事実だけどな!

 

ったく、困った野郎だぜ。

付いていけてる俺も大概だと思うがね。

 

まあそこは――

 

 

 

「侵略者め、これ以上の進軍は不可能と知れ! 武技<流星>!!」

 

 

 

あの日 魅せられた流星。

 

極みへ至った剣戟を知る剣士の弱みってことにしておいてくれ。

 

 

 

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