とある斜陽王国における勘違い戦線   作:himeneko

9 / 23
勘違い被害者その四

有能な解説者視点です



別視点 約束された絶望の死亡フラグ

 

異世界転生というワードをご存知だろうか?

 

様々な様態が存在するものの基本的に転生者のサクセスストーリーの場合が多い。

 

強大な力や膨大な知識を付加された状態で始まるのも特徴の一つだ。

 

残酷な運命や宿命に翻弄されても、割とイージーに切り抜けられたりするのがこのジャンルの醍醐味だったりする。

 

だが切り抜けるためのチートや環境がなかった場合はどうだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ

 

 

 

この世に生を受けて最初の感情は戸惑いで、次は絶望でした。

 

 

 

お初にお目にかかります、ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ四歳でございます。

 

わたしには前世の記憶があるの。

ああ、引かないで!?

痛い人じゃないから! 頭もおかしくないから!

 

今でこそおちゃらけてるけれども、転生当初は欝々系主人公も真っ青な絶望ぶりだったのよ!?

 

と、ともかく前世の記憶(笑)があったのよ。

 

前世の記憶といっても大したものではないわ。

日本の普通の家庭に産まれて、普通の高校を出て、普通の短大に進学した普通の女の記憶よ。

二十歳になる直前で記憶が途絶えているから、まあ、そういうことだったんでしょ。

最期の記憶は、推しのキャラソン予約しなくっちゃ……だからね。

大量に買い漁った推しのグッズを形見分けとかしたのかな……。

 

正直死にたい(恥ずか死

 

そんなわけでサブカルの知識はそれなり以上にあるわけでして。

転生した世界がオーバーロードの世界だと強制的に気付かされたの……。

 

嘘でしょ、ラナーって悪魔的頭脳の外道王女じゃない!?

少年騎士に首輪をつけて飼いたいとか(白目

絶対わたしには無理っ!

ハードル上げないでよ!

ていうか王国で王族とか不可避な死亡フラグでしょ!?

 

 

ええ、絶望したわよ。

何か転生特典はないかと色々試したけれど、結果は惨敗よ。

しいて言えば、前世より一兆倍頭がキレることくらいかしら?

 

それがまた苦痛だったの。

良すぎる頭脳が何千何万通りのわたしの破滅をシミュレートしちゃうのよ(レイプ目

もうやめて! ラナーの死亡シーン集なんて見せないで!!

 

はぁはぁ……高いスペックも活かせなきゃ無能にも劣ると知った赤ちゃん時代だったわ。

 

どうあがいても十六歳の年にナザリックが転移してきて死ぬの。

保身のために王国の全てを生贄に捧げるメンタルなんて持ってないもの。

例えお父様以外からお飾りの王女と蔑まれていても、わたしにそんな覚悟は無理、絶対無理。

 

服従が無理なら抵抗?

それこそ死を賜るだけね。

現在の王国最強であるシアルフィ公爵の最大の武勇伝が、単独でのギガントバジリスク三匹撃破。

 

たしかギガントバジリスクの難度は83だったかしら?

ユグドラシル換算でレベル24相当ってこと。

それを三匹同時ってことは、シアルフィ公爵の難度は最低でも113程度はあるのよね。

 

単位としても有名なかの王国戦士長とほぼ互角。

この世界では英雄の領域に届く人材だけれど、ナザリックの戦闘メイドにすら蹴散らされる弱者でしかないわ。

 

評議国のドラゴンロードを頼る?

冗談じゃないわ。

地理的にワイルドマジックとやらと超位魔法の打ち合いで、王国は物理的に滅ぼされてしまう。

 

ではスレイン法国は?

これもNG。法国は神の再臨を熱望しアインズ様は神なのだ。

八欲王の同類と認識した場合でも漆黒聖典の上位二人以外は戦力にすらならないわ。

頼みの綱の傾城傾国と聖者殺しの槍も、アインズ様に効かない時点で無意味よ。

ナザリックへの中途半端な打撃は世界終了フラグと直結、やるならナザリックとアインズ様の両方を同時に仕留めなきゃ。

 

……いくつかアインズ様に洗脳を仕掛ける方法は思いつくけれど、それは限りなく不可能に近く悪手だわ。

 

帝国や聖王国は語るに及ばずよね。

フールーダですらナーベラルに魔法詠唱者として負けるのだから詰んでるわ。

 

 

せめて国内を改革してアインズ様の支配を受け入れやすいようにとも考えたの。

 

でも無理だったわ。

今のわたしは四歳で、原作開始12年前といったところかしら。

改革にはわたしの忠実な手足として動ける、良識ある大貴族の協力が不可欠なのよ。

 

つまりレエブン候。

 

でも彼、今の時代だと油断ならない野心家でお父様と水面下で対立してるのよねぇ。

お父様は気付いてもいないけれど(白目

 

せめて青の薔薇のラキュースとは渡りをつけておきたいけど、お互い子供でどうしようもないわ。

叔父のほうは……まあ有能な冒険者らしいから王族であるわたしとは、一線を引かれる可能性大かな。

 

国王派筆頭のシアルフィ公爵はダンディで渋みが素敵なおじ様よ。

良識もあり保有している騎士団も帝国軍と対等以上に戦える練度らしいわ。

最初に却下しておいて申し訳ないのだけれど、協力を仰ぐなら彼しかいないわ。

 

ただ不確定事項として、シアルフィ公爵がオーバーロード本編に出てこないという一点。

彼ほどの人格者が王国の危機を静観するなんてあるかしら?

恐らく本編開始前に亡くなるか、激しく対立しているボウロロープ候に破れて没落したかのどちらかよね。

上手く肩入れして生き残っても、最大戦力が2ガゼフになるだけ……。

プレアデス一人が相手ならワンチャンあるかも。

ガゼフはいつ仕官するのかしら?(震え声

 

 

あはは、やっぱり詰んでる。

 

もう何千回シミュレートしたのかすら覚えて……たわ。

正確には10032回目ですの(絶対記憶

 

うがーーーー!!!

 

この無駄にハイスペックな頭脳を少しは戦闘力にも回してよ!!

 

あ、脳の冷静な部分が中途半端より一点特化のほうが現状マシだと訂正してるわ(白目

 

 

もういい!今日はもう寝るもん!

 

バルブロ兄さんなんてコッコドールに調教されてしまえばいいのだわー!!(錯乱

 

 

 

 

 

 

 

ごきげんよう、あれから二年経ちまして六歳になったラナーですわ。

 

ちなみに活路はまだない(絶望

 

 

シアルフィ公とボウロロープ候の関係が一触即発まで悪化中です♪

貴族派の売国が加速してます♪

スレイン法国とバハルス帝国の間諜が王宮まで入り込んで好き勝手してます♪

相変わらずの魔法詠唱者蔑視で国力が伸び悩んでます♪

八本指とかいうゴミクズ組織の勢力拡大中♪

 

 

もうアホかと!!!

 

 

破滅まで10年切ってんのよ!?

もしかして10年待たずして王国崩壊するんじゃないの!?

ボッチのわたしに打てる手なんて、ほぼほぼ無いのにさ!

 

 

…………。

 

 

ラナー、焦りや怒りは敵よ。

冷静になって、あなたはやれば出来る子よ。

 

 

 

…………おーけー、わたしはまだ頑張れる。

 

 

 

 

そうよ、なにも悪いニュースばかりではないのよ。

懐柔した草から入った情報と王宮での噂を精査した結果によると……

 

 

シアルフィ公爵家のシグルド公子、カッツェ平野で三カ月戦い抜き無数のアンデッドを血祭にあげる(驚愕

シアルフィ公爵家のシグルド公子、王国内に蔓延る山賊野盗をすべて血祭りにあげる(恐怖

シアルフィ公爵家のシグルド公子、国境での帝国軍との戦いで三つの騎士団を血祭りにあげる(戦慄

シアルフィ公爵家のシグルド公子、竜王国の要請に応え、侵略してきたビーストマン一万を血祭りにあげる(狂乱

シアルフィ公爵家のシグルド公子、聖剣の一太刀でアゼルリシア山脈を二つに割る(安心

 

 

いやいやいや安心じゃないでしょ!

血祭わっしょいじゃなきゃ平和みたいな流れを作ろうとしないで!

 

というかシグルド公子、血祭好きすぎでしょ(震え声

 

清廉潔白なバイロン卿の子息で、弱冠十二歳なのに男女を問わず英雄視されているのね。

でも血祭りよ?

両手に斧をもって、変な頭巾をかぶったガニ股蛮族のイメージしか湧かないわ(白目

 

容姿は貴公子然とした端正な顔立ちで、貴族の子女から村娘に至るまで夢中にさせるほど。

蛮族なのに?

戦場では凛々しく常に先陣を切る勇猛果敢な名将、と。

不正や理不尽を嫌い、不貞貴族から何度も平民を守る姿を確認される、ね。

 

家臣にも恵まれ、特に剣聖ブレインと大賢者フールーダは、って、はああああーーー!?!?

 

 

ちょっ、フールーダ・パラダインとブレイン・アングラウス!?

原作キャラだけどおかしいでしょ!?

帝国の鮮血帝はどーした!

大好きなデスナイトはいいの? もう卒業したの!?

 

ブレインもガゼフはいいのか!?

剣聖とか明らかに原作より強そうな二つ名持ってるし、この時期はまだ慢心してる頃でしょうが!

 

 

絶対におかしい(確信

 

 

シグルド公子は確実にイレギュラーね。

 

これだけの武勲を立てる公子がボウロロープ候如きに敗北する道理が無いもの。

武力が何より重要なこの世界で明らかに抜きんでてる。

華麗にスルーしちゃってたけど、聖剣で山脈を割るって……プレイヤーじゃないの?

 

でも貴族名鑑には昔から載ってる……。

 

先祖返りの神人の可能性のほうが矛盾は少ないか。

 

ともかく会わねば。

きっとシグルド公子がキーマンだもの。

 

この絶望に満ちた世界から抜け出すための……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シグルド公子についてお父様に探りを入れたら婚約者に内定してたでゴザルの巻(白目

 

 

お待ちになってお父様!?

 

ラナーは蛮族の花嫁なんて嫌ですの!!

これでは生き残っても凌辱エロゲのヒロインへクラスチェンジするだけじゃない!

わたしは騙されないわ。

血祭が三度のご飯より好きな蛮族なのよ!?

 

良縁だから喜べですって?

 

ぐぬぬ、そう言われたら言い返せないツライ(血涙

 

 

……待って、さてはお父様、以前からこの縁談を進めていましたね?

なるほど、バルブロ兄さんとザナック兄さんに王位は渡せないと決断したのですか。

声望ある公子とわたしを結婚させ、公子を立太子させる腹積もりですね。

公爵家の直系には王位継承権が認められているから血筋の問題もありませんし。

 

そうなれば貴族派の反発は免れない、いいえ、むしろ暴発させてシグルド公子に粛清させる。

これで内患は取り除ける。

外患はすでに無いも同然、王国はかつてない繁栄を約束される……これがお父様とバイロン卿の筋書きね。

 

 

ナザリックの転移を考慮しなければ、たしかに最高の一手だわ。

お父様のくせに生意気よ(理不尽

 

 

……いいでしょう、わたしも王族ですので弁えますわ(憤怒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シグルド公子を王国聖騎士に叙任ね。

 

国威発揚とその功績がわたしとの婚約の大義名分になるわけだ。

一連の流れにフールーダの影が見えてしまう。

魔導狂いとはいえ、彼は実績あるキングメイカーなのも事実。

 

シグルド公子も被害者の可能性が微レ存?

 

今日ここからは慎重に行動しないといけないわ。

シグルド公子もフールーダも隔絶した戦闘力の持ち主だもの。

賢しいだけの小娘に過ぎないわたしでは、決して対等には渡り合えない。

 

原作ラナーがデミウルゴスにしたように、弱者の戦術で立ち向かうしかない。

 

さあお呼びがかかれば、シグルド公子とご対面よ。

覚悟を決めなさいラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ。

せっかく得た二度目の人生、生き残ってしあわせを掴んでみせるのよ!

 

 

 

「ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ王女殿下、ご入来~」

 

 

 

ここが正念場、いざ戦場へ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えっ

 

 

ラナーあれ蛮族ちゃう、王子さまや(混乱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お初にお目にかかります。シアルフィ公爵家嫡子、シグルドでございます」

 

 

わたしは運命と出会ってしまった(スイーツ

十二歳とは思えない、完璧な王子さまがそこにいた!

シグルド様すごいかっこいい(小並感

ゆっくり二人でお話したいと部屋に連れて来ちゃったわたしえらい、よくやった!

完全に王子さまじゃん。バルブロとかいう筋肉ダルマと交換してよ。

あ、交換しなくてもわたしの旦那様になるのよね。なるのよね!(重要

ここまで絶望しかなかったのは、今日の日を迎えるための試練だったのね!(超スイーツ

 

 

「恐れ多くも婚約の件、謹んでお受けしたく存じます」

 

 

恐れ多いのはこちらのほうですとも!

不束者ですが末永くお願いします!

ああ、シグルド様の甘いマスクが尊い……(恍惚

 

 

「……緊張しているのかな? わたし達はすでに婚約者なんだ。遠慮はいらないよ」

 

 

ぐっはぁ!? ここでそう来るの!?

年下の婚約者を気遣ってあえて砕けた口調にするなんて、なんて……!(鼻血

イケメンは内面もイケメンってほんとうだったんだぁ……(朦朧

 

 

「堅苦しいのは苦手でね。公子なんて他人行儀はいらないから、シグルドと呼んでくれないかい?」

 

 

ごめんなさい、心の中ではそう呼んでいました!

わたしのこともラナーと呼び捨ててくださいまし!!(迫真

こここ、婚約者なのですから!(裏声

 

 

「ではラナー。……フフッ、照れくさいな。女性を呼び捨てるのはラナーが初めてだよ」

 

 

はうあー!? シグルド様のテレ顔の尊みときたら全わたしが感涙した!

六歳の小娘を一人前のレディ扱いするシグルド様まじ紳士(ヘブン状態

乙女ゲーに嵌ってた親友のみぃちゃんの気持ちがわかったよ。

喜びのあまりけけけ痙攣しそうです、はい(超振動

 

 

「どうしたんだいこんなに震えて。大丈夫だよ、私はラナーの味方だ。傷つけたりしないと誓うよ」

 

 

あばばばばば、手の甲に口づけとかとかとかぁぁーーー!?!?

お父様ホントありがとうございます!

フールーダの筋書きでも何でもいいです!

このままシグルド様と結婚させてください、何でもしますからーー!(失神

 

 

「疲れてしまったのかい? だったらこのまま膝を貸すから休むといい」

 

 

ふぁい、末永くよろしくおながいしまふ……(完全敗北

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、肝心な事なにも聞けないままだ(白目

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。